事業譲渡とは
M&Aには、株式譲渡、第三者割当増資、株式交換・移転、事業譲渡、吸収合併などさまざまな手法があります。
事業譲渡は、企業が保有する事業の全てまたは一部を売却するM&A手法の一つで、株式譲渡と並びよく採用されている方法です。株式譲渡は企業の全てを売却しますが、事業譲渡は企業自体を丸々売却するのではなく、譲渡対象の事業の範囲を選択して売買できます。
本記事では、事業譲渡の手続き方法や流れ、メリット・デメリット、譲渡額の算出方法や税について解説します。
事業譲渡の種類
事業譲渡には、「全部譲渡」と「一部譲渡」の2種類の手法があります。全部譲渡とは、売り手企業の事業を全て売却することで、一部譲渡とは、売り手企業の事業を一部だけ売却する方法です。
一部譲渡は、特定の事業だけを切り離して売却できることから、企業の経営戦略として不採算事業を譲渡し、既存事業に経営資源を集中させることができます。
事業譲渡の手続き方法・流れ
事業譲渡の流れは、主に以下のとおりです。
1.M&Aアドバイザーとの契約
2.相手先の選定
3.秘密保持契約の締結
4.トップ面談
5.意向表明・基本合意書の締結
6.デューデリジェンスの実施
7.取締役会決議
8.事業譲渡契約の締結
9.株主への通知・公告
10.クロージング
上記の流れは、一般的なM&Aの手法と変わりありません。デューデリジェンスとは、買い手企業による売り手企業の徹底調査を指します。税務・財務・法務・人事・ITなどさまざまな視点から、売り手企業に重大なリスクが隠れていないかどうか調査し、評価を行います。
かなり専門的な内容となるため、M&Aの専門家などに依頼するのが一般的です。
事業譲渡の手続きには非常に手間が掛かるため、事業譲渡の効力発生となるまでに早くても3ヶ月、長ければ半年~1年ほどの期間を要します。詳細なスケジュールに関しては、M&Aアドバイザーと相談しながら進めると良いでしょう。
事業譲渡のメリット
【売り手企業側】
・特定の事業だけを売却できる
・会社が存続できる
・経営資源を集中できる など
【買い手企業側】
・取得する事業を選定できる
・負債を引き継ぐ必要がない
・節税が期待できる など
事業譲渡のデメリット
【売り手企業側】
・手続きが煩雑で時間を要する
・競業避止義務を負う
・売却益に法人税が課税される など
競業避止義務とは、会社法の規定により定められている禁止事項です。売り手企業は、20年間にわたり同一区市町村や隣接する区市町村で、譲渡対象事業と同一の事業を行うことができません。
【買い手企業側】
・譲渡完了まで手間が掛かる
・事業買収の資金調達が必要
・譲渡代金に消費税が課税される など
譲渡額の算出方法
事業譲渡の譲渡額を算出するには、「事業時価純資産+営業権(のれん代)」という計算方法が一般的です。営業権は、対象事業が生み出す利益の3~5年分を算定します。営業権(のれん代)とは、企業が有する無形固定資産のことで、ブランド力や技術力、ノウハウなどを指します。
事業譲渡の税金
【売り手企業側】
事業譲渡の際に売り手企業に課せられる税金には、法人税があります。譲渡益に対して課せられます。
【買い手企業側】
事業譲渡の際に買い手企業に課せられる税金には、消費税・不動産取得税・登録免許税があります。消費税の対象となる資産が含まれている場合には、消費税分を加算した額を売り手企業に支払う仕組みです。
譲渡対象に不動産が含まれる場合は、不動産取得税と所有権を登記する際の登録免許税が課せられます。
事業譲渡の注意点
事業譲渡と株式譲渡は混同されがちですが、譲渡対象が大きく異なります。株式譲渡は経営権を売却しますが、事業譲渡は会社が有する事業の売却となります。そのため、どの事業を譲渡対象とするのか事前に整理しておくことが大切です。また、事業譲渡契約書には、譲渡範囲を明確に記載しましょう。
それ以外にも、従業員の転籍や配置転換、解雇などの処遇を適切に行わなければなりません。特に解雇に至るケースでは、従業員との話し合いを慎重に進め、後でトラブルに発展することのないよう、労働法に準じて対応しましょう。事業譲渡の検討は、早めに準備を始めることをおすすめします。
まとめ
事業譲渡は、特定の事業のみを売却するM&A手法の一つです。会社を存続できる点や、不採算事業のみを譲渡できることなどが特徴です。株式譲渡よりも手続きが煩雑になり、時間を要する点などを考慮し、早期に準備を始めると良いでしょう。
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