当社は富裕層の方の資産運用をお手伝いしています。その中でよくいただくのが「ベストな資産運用方法を教えてください」というざっくりとした質問です。
ベストな資産運用は、
- その富裕層の方の目標
- リスクを許容できる範囲
などによって変わってきますので、その質問に対する答えは「ありません」となります。
ただ、あえて富裕層の方に一番多いスタンスがありますので、そのスタンスを前提とした資産運用の戦略をお伝えすることは可能です。
この記事では3億円の資産運用を例に、富裕層の方に一番多い資産運用戦略についてご紹介します。
なお、この記事の事例はあくまでモデルケースのひとつです。モデルケースの最適な運用であると考えて読んでいただければと思います。
仮に「もっと攻めたい」と考えるなら株式を増やす。「もっと守りたい」ということであれば債券を増やす。モデルケースの資産配分をベースにカスタマイズしていって、自分好みで完全オリジナルな資産運用戦略にしていく、そのベースだと考えていただければと思います。
目次
富裕層3億円の資産運用戦略|資産配分(当初)
では、資産配分戦略について事例で説明していきたいと思います。
まずは当初の資産配分です。
左側が金融資産になっています。金融資産は3.2億円の円の現金預金だけになっています。実物資産は右上の国内不動産1.3億円(ご自宅)と、それに伴う住宅ローン5,000万円です。シンプルな資産状況になっています。
この資産の中の3億円の現金預金を使って資産運用していくというのが今回の記事のテーマであり、ご説明したい内容になっています。
この3億円の資産運用事例の大前提(スタンス)は冒頭でお話ししたように、富裕層の方に一番多い投資スタンスです。具体的には「守りを重視しているが、成長やリスク分散にも配慮したい」という投資スタイルを前提にして資産の配分を最適化していると考えていただければと思います。
さらにその資産をどのように最適化していくかと言うと、資産配分の5大重要指標がありますので、その指標を今回の投資スタンスにとって最適な数値に近づけていくという考えで最適化し、ベストな資産運用に近づけていきたいと思います。
資産配分の5大重要指標の現状
まずは現預金の比率ですが、こちらは71.1%になっています。これは明らかに多過ぎるわけです。現預金が多すぎて明らかに投資効率が悪くなっている状況です。この現預金比率は基本的に5%以内に止めるというのが資産運用の効率上は良いかと思います。そのように直していく必要があります。
現預金比率の下が借入比率です。
借入比率とは純資産比率に対してどれだけ借入をしているか、どれくらい借入をして総資産を大きくして運用しているのかという借入の大きさを表しています。その数値が112.5%になっています。
借入比率の最適な数値は百数十%から100%台後半くらいだと考えられますので、その数値に近づけるよう、現在の数値を高めていきます。
その下が金融資産と実物資産の比率で、現状、金融資産が71.1%で現物資産が28.9%なので、かなり金融資産過多の資産配分です。金融を減らして実物を増やすという調整が必要になります。
その下が外貨比率です。これは0%なので、明らかに低いです。円高円安のニュートラルな水準は外貨比率50%なので、そこを目標に資産配分を最適化します。
さらにその下が株式と債券の比率です。現状は株式と債券は共に0%と低すぎるわけです。なので、ここをどちらも増やしていきます。
今回は3億円のベストな資産運用戦略ですが、この3億円をいろいろな資産に再配分していくことによって5大重要指標の比率を最適な数値に近づけていくことを意識して行います。
富裕層3億円の資産運用戦略|資産配分(再配分後)
こちらは資産を再配分した後の資産配分シートになります。
シートの右側が減少させる資産と増加させる資産です。
今回のテーマは資産3億円での資産配分事例なので、減少させる資産は現預金3億円になっています。増加させる資産(再配分した資産)は次の通りです。
- 日本株式:1,000万円
- 先進国株式:3,500万円
- 新興国株式:1,000万円
- 先進国債券:1.1億円
- 外国REIT:1,000万円
- オルタナティブ:2,000万円
- 国内不動産:2.5億円
- 国内ローン:1.6億円
- コモディティ金:1,000万円
- コモディティその他:500万円
株式資産は合計5,500万円になります。債券は1.1億円ですので、株式の倍くらい投資しているという結果です。これは守り重視だからです。
オルタナティブはヘッジファンドや暗号資産への投資になります。
シートのその下が国内不動産への投資です。国内不動産が2.5億円で、国内ローン1.6億円になっています。その他はコモディティ金に1,000万円、他のコモディティに500万円配分しています。
これが私の考えている、今回のスタンスに沿ったベストな資産運用戦略です。
資産配分の5大重要比率の変化
現金比率はもともと71.1%でしたが、それが3.3%になりました。再配分によって5%以内になりましたので、投資の効率は高まっていると言えます。だぶついた資金がなくなっているということです。
次に借入比率がどうなっているかと言うと、元々112.5%でしたが40%くらい高まっていて、152.5%になりました。主に国内不動産投資によるローンが増えましたので、それによって借入比率が高まっているわけです。
この152.5%という比率は低過ぎず、高過ぎず(リスクを取り過ぎず)という中間ぐらいの借入比率かなと思います。ミドルリターンミドルリスクくらいの投資効率になっています。
その次は金融資産と実物資産の比率で、元々金融資産71.1%で実物資産28.9%と金融過多でしたが、それが金融資産35.2%、実物資産64.8%という比率になりましたので、実物資産の方が割合が高くなりました。
個人的にベストな比率は金融資産40%、実物資産60%ぐらいだと思いますので、その前後くらいの金融資産と実物資産の比率に近づきました。
外貨の比率は元々0%でしたが、ちょうど50%になっています。円半分、外貨半分という、円高円安どちらにもニュートラルな比率になっているのではないかと思います。
その下が金融資産に占める株式や債券の比率です。
債券と株式も元々0%でしたが、株式が約25%、債券が約51%になりました。株式に対して債券が2倍くらいある計算です。株式1に対して債券2の配分です。
投資のスタンスとしては守り重視ですが攻めにも配慮(資産成長にも配慮)が前提になっていますので、それを考えると株式1に対して債券2くらいの割合であればバランスが良いのではないかと思います。
資産運用の結果は資産配分で決まる
資産運用の結果の9割は資産配分で決まると言われています。
資産の配分を投資される富裕層の方の投資スタンスや考え、リスクの許容度に最適な数値に変えていく。資産配分の重要比率を中心に最適な状態にしていくことを意識して再配分していくこと。これがベストな資産運用への近道ではないかと思います。
資産クラスごとの投資対象・通貨・金額
資産配分についてお伝えしましたので、次に資産クラスごとの具体的な投資対象、通貨、金額なども簡単に説明します。
配分している資産クラスがシートの左側で、その右側が具体的な投資対象です。さらに右側が投資の通貨と金額になっています。
日本株式
シンプルにインデックスファンドに投資しています。日本株に分散して投資でき、運用も低コストです。
通貨は当然ですが円になっています。
先進国株式
海外の先進国の株式です。
どのような株式になっているかと言うと、2つに分かれていました、ひとつは外国ETFになります。海外の株式市場に上場しているETF(インデックスファンドのようなもの)です。米国株式に投資している外国ETF、この割合が一番多くて2,500万円になっています。通貨は米ドルです。
もうひとつ1,000万円投資しているのがユーロ圏の株式のETFです。
先進国の株式と言うと米国株のイメージがあるかもしれません。先進国はアメリカだけでなく、ユーロ圏の株式などもありますので、米国中心にその他の国にも投資するということでこのような配分になっています。
新興国株式
新興国のインデックスファンドに投資しています。金額は1,000万円で通貨は米ドルです。
株式資産は個別に銘柄に投資するとリスクが高いので、中心はインデックスファンドや外国ETFで、長期的にコストが低い運用を目指していくことが基本的によろしいのではないかと思います。
先進国債券
先進国債券は米ドル建てと豪ドル建てに分かれています。
割合としては米ドル債券が圧倒的に多く1億円、豪ドルが1,000万円という配分です。
外国REIT
外国REITは米国の不動産に投資しているETFです。
通貨は米ドルになっています。
オルタナティブ
オルタナティブの投資対象は2つに分かれています。
ひとつはヘッジファンドで、もうひとつは暗号資産です。
ひとつ目のヘッジファンドAはマルチ戦略を取っているヘッジファンドに投資しています。通貨はユーロ建てで投資金額は1,500万円です。
もうひとつのオルタナティブ資産は暗号資産です。ビットコイン中心で500万円投資しています。暗号資産の通貨は円でもドルでもなく、暗号資産です。
国内不動産・国内ローン
国内不動産は都内一棟鉄骨造マンションで、円建てで金額は2.5億円です。
それに伴う大手銀行のプロパーローン(個別に交渉して融資を受けるローンのこと)が、1.6億円になっています。
コモディティその他
コモディティ金は金連動の外国ETFで、通貨は米ドル、投資金額は1,000万円です。
その他は銀連動の外国ETFで、こちらも米ドルになっています。投資金額は500万円です。
富裕層3億円のベストな資産運用戦略|まとめ
今回の記事をまとめます。
ポイントは4つです。
ポイント①資産配分の5大重要比率を最適な数値に近づける
資産運用の結果の9割が資産配分で決まると言われていますので、資産の配分を最適なかたちにすることがベストな資産運用になるわけです。
では、ベストな資産配分とは何かと言うと、記事の最初の方でお伝えした通り、「5つの重要比率を本人の目標にとって最適なかたちに近づけること」がベストな資産運用で、資産配分ではないかと思います。
ポイント②株式・債券・不動産を中心にその他資産に分散
基本的な戦略は、株式や債券、不動産を中心にして、後はその他の資産にリスク分散することです。
株式や債券、不動産はコア資産と呼ばれる資産の中核になる資産クラスです。
こうした資産を中心にして、コア資産に資産の7割〜8割を割いて、その他の資産に2割〜3割を割く(リスク分散する)ことが基本的な資産配分になります。
ポイント③円・米ドルを軸にユーロ・豪ドル・暗号資産に分散
円と外貨は50%と50%がニュートラルな状態だとお伝えしました。
外貨は米ドルだけではありません。米ドルを中心にして豪ドルやユーロなどその他の通貨にも分散することが基本的な考えで良いのではないかと思います。
今回の事例でも日本円が大体50%で米ドルが40%、その他の外貨・暗号資産が大体10%になっていました。円と米ドルを基軸に各通貨に分散しているわけです。
ポイント④同資産配分をベースに自分好みにカスタマイズ
お伝えしたベストな資産運用の事例をもとに自分好みにカスタマイズしていくのが良いのではないかと思います。
もっと守りを重視したいなら株式を減らして債券を増やす。借入比率を減らすことも方法のひとつです。
もっと攻めた資産運用をしたいなら、逆のことをすればいいわけです。
インフレや相続対策を重視したいということであれば実物資産を増やすという方法が考えられます。
相場観として今後円安ドル高になると考えているなら、外貨比率をもう少し上げるというカスタマイズ方法もあるわけです。
何も土台がないまま最適な配分を考えてもなかなか思いつかないはずです。お伝えした資産配分モデルをベースにしてカスタマイズすれば、完全オリジナルな自分だけの資産配分を作ることが可能です。これがベストな資産運用戦略に辿り着く近道ではないかと思います。
当社ウェルス・パートナーは富裕層の方の資産運用をお手伝いしています。
ご自身に合った資産運用戦略・資産配分にお悩みなら、ぜひ当社へご相談ください。

株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中