目次
はじめに
一部の富裕層など、より高い利回りを追求する方々に人気の債券が、CoCo債と呼ばれる債券です。
しかし、スイス大手金融機関クレディ・スイスのCoCo債が全損になったという話を聞いて、単に「CoCo債は怖い物」と感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事ではCoCo債の基礎知識と投資戦略について詳しく解説します。
債券投資において、「CoCo債に興味がある」「より高い利回りを目指したい」という方は、ぜひ参考にしてください。
CoCo債券とは?基本的な特徴を解説
CoCo債(Contingent convertible bonds)は偶発転換社債と呼ばれるハイブリッド証券の一種です。
国債や普通社債、劣後債、永久劣後債よりもリスクが高い反面、高い利回りが得られます。
ここで、債券の種類とリスク・リターンの関係をみてみましょう。
上記債券のうち、国債・普通社債・劣後債は満期がありますが、永久劣後債とCoCo債は満期がありません。
しかし、満期がないとはいっても「繰り上げ償還条項」が定められています。
繰り上げ償還条項とは、発行体が「繰上償還日に債券を償還させるか、償還を先送りするか決められる」という条項です。
このため、永久劣後債とCoCo債は繰り上げ償還日に償還しない(コールスキップ)こともあるため、資金使途の決まっていない余裕資金で投資することが重要です。
CoCo債の定義とは
CoCo債は、上記債券の中でもっともリスクが高く、もっとも利回りの高い債券です。永久劣後債のリスクにCET1トリガーリスクが上乗せされている点が特徴です。
CET1トリガーリスクとは、自己資本比率(CET1比率)が定められた水準を下回った場合に、元本の一部またはすべてが削減される、または株式に転換されるリスクのことです。
CET1比率とは
CoCo債を知るうえで重要なCET1比率について詳しくみていきましょう。
CET1とは、CoCo債発行体(金融機関)の自己資本の中で最も質の高い資本、つまり株式で調達した資本や、内部留保など純粋な資本のことです。
CET1比率とは、このCET1をリスクアセット(※)で除した数値を指します。
※リスクアセット : 貸出金や有価証券などリスクのある資産を、リスク度合いに応じた割合をかけて算出したもの
つまり、CET1比率が高いほど金融機関の健全性は高いということになります。
CET1トリガーについて
先述の通り、CET1トリガーとは自己資本比率(CET1比率)が定められた水準を下回った場合に元本の一部またはすべてが削減される、または株式に転換されるというトリガー(発動条件)のことを指します。
金融機関が発行するCoCo債の多くのCET1トリガーは、5.125%か7%です。
つまり、CET1比率が5.125%または7%を下回った場合に元本の一部または全部が削減される、または強制的に株式に転換されるということになります。
ただし、ここまでCET1比率が低下するのは、とても財務状況が悪化している場合に限られます。
では、実際に金融機関のCET1比率はどの程度の水準なのでしょうか?
金融機関のCET1比率
2022年時点における各国金融機関のCET1比率を表したのが次の図です。
右側の「普通株式等Tier1比率」がCET1比率になります。
画像出典 : https://finance-gfp.com/?p=5602
このように、どの金融機関もCET1トリガー抵触までは、まだまだ余裕があるといえます。
おそらく数兆円規模の損失が何度か発生しない限り、CET1トリガーに抵触する可能性は低いのではと考えられます。
ただし、金融機関によっては一部例外もあるので、続けて解説します。
一部の例外とは
クレディ・スイスやUBSなどスイス圏の金融機関が発行するCoCo債には、CET1トリガーリスクに加えて、「政府から実質的に破綻認定された場合に元本を強制的に削減する条項」が付されています。
つまり、CET1トリガーに抵触していなくても、スイス政府が破綻認定すれば元本が削減されるということです。クレディ・スイスがUBSと救済合併したのに、CoCo債が全損となったのはこのためです。
CoCo債のメリットとリスクを他の債券と比較
続いて、CoCo債のメリットとリスクを他の債券と比較してみましょう。
下の図の通り債券には、国債、普通社債、劣後債、永久劣後債、CoCo債があり、右側へ行くほどリスク・リターンともに高くなります。
最もリスクが低くてリターンも低い債券が一番左の国債で、利回りも全ての債券の基準になります。
普通社債は文字通り、企業が発行する債券です。国債の利回りに企業の信用リスク、つまり企業が倒産するリスクが上乗せされる分、利回り・リターンが高くなります。
そして、右の3つの債券が劣後債と呼ばれる債券です。
中央の劣後債は、会社が倒産したときに弁済される順番が、普通社債よりも遅い、つまり倒産時の返済順位が遅いというリスクを追っており、その分利回りが普通社債よりも高くなっています。
永久劣後債は満期がなく、代わりに繰上償還日が設定されていますが、発行体の判断により繰上償還しない可能性がある債券です。この繰上償還しないリスクがあるために、劣後債よりも利回りが高くなっています。
そして最後が今回紹介しているCoCo債です。ここまで解説してきた通り、CoCo債には自己資本比率が一定の基準よりも低くなると、元本が削減されるリスクがあり、その分利回りが高くなっています。
CoCo債投資の注意点
すでに解説したとおり、CoCo債にはCET1トリガーリスクがあり、発行体の自己資本比率が一定の条件を下回ると元本が削減されるという注意点があります。
しかしCoCo債投資には、他にも注意点があるので紹介します。
利払い停止条項がある
債券には年2回の利払日が設定されており、利払いが行われなかった場合や利払いが遅れた場合はデフォルト(債務不履行)となります。
しかし、CoCo債は発行体の判断によって利払いの一部またはすべてを停止させることができる「利払い停止条項」が付されています。
通常の債券の場合、利払いが停止されると、発行体は利払いが開始された時点で支払われなかった利息を累積して支払う必要があります。
一方、CoCo債は非累積型のため、発行体は利払いが開始された場合でも、支払わなかった利息を投資家へ支払う必要がありません。
このため、投資家は利払いが停止した期間の利息を受け取ることができない点に注意が必要です。
最低購入金額が大きい
CoCo債は最低購入金額が大きい点にも注意が必要です。一般的な外国債券の最低購入単位は100,000米ドル(およそ1,600万円)の場合が多いですが、CoCo債の最低購入金額は200,000米ドル(およそ3,200万円)の場合が多いです。
このため、資産額が十分でない場合はポートフォリオにおけるCoCo債の割合が高くなり、リスクも増してしまうというデメリットがあります。
なお、現在ではCoCo債を投資対象にした投資信託も販売されているので、運用資金に限りがある方は、CoCo債ファンドへの投資を検討するのもよいでしょう。
投資信託であれば少額から投資できるうえ、プロのファンドマネージャーに運用を任せられるというメリットがあります。
CoCo債券投資へのアドバイス
紹介してきた通り、CoCo債は高い利回りが得られる反面、リスクの高い債券です。
平均利回りを引き上げる目的で、ポートフォリオの一部に組み入れるなど、慎重な投資姿勢が必要でしょう。
また、万が一の場合には、損失金額を他の債券の利金で回収するなど、ポートフォリオ設計にも十分な配慮が必要です。
ただし、CoCo債を含めたポートフォリオ設計には、債券の知識と投資経験が必要です。
不安であれば、IFA(資産運用アドバイザー)など、プロに相談するのも良いでしょう。
CoCo債など債券投資を検討されている方は、ぜひウェルス・パートナーの無料相談をご利用ください。
実績豊富なアドバイザーがアドバイスを承りますので、気軽にご用命いただければ幸いです。
株式会社ウェルス・パートナー
ポートフォリオマネージャー
早稲田大学商学部卒業後、SMBC日興証券株式会社へ入社。富裕層、会社経営者向け資産運用コンサルティング業務に従事。証券会社では顧客に寄り添った提案ができないと思っていたときに代表の世古口と出会いウェルスパートナーの創業に参画。資産1億円以上の富裕層向けに資産保全・管理、相続・事業承継対策等のアドバイスを行っている。富裕層や資産形成層向けのセミナー講師としても活動中。