はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
本日のテーマは、「外資系プライベートバンクが日本から撤退していく理由」です。プライベートバンクに関するご質問も結構いただくことがあります。私も、元々はスイスが本国のプライベートバンクの日本拠点でプライベートバンカーとして働いていました。日本には外資系のプライベートバンクは定着しづらく、参入しても撤退してしまうことが非常に多いです。それによって富裕層の方々が右往左往し、「一度預けた資産をどうすればよいか」「なぜ、外資系プライベートバンクは日本からすぐ撤退するのか」というご質問やご相談を最近多くいただきます。今回は、なぜ外資系プライベートバンクが日本からすぐに撤退するのかを解説します。ご興味のある方は参考にしていただければと思います。
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外資系プライベートバンクの日本での営業の経緯や現状経緯・現状
まずは、外資系プライベートバンクの日本での営業の経緯や現状についてお伝えします。4つにまとめました。
1つ目)2000年以降、参入と撤退を繰り返してきた
日本の金融ビックバン、金融の規制緩和が行われて以降、非常に外資が参入しやすくなりました。2000年以降、外資系(アメリカやスイスなど)のプライベートバンクが、日本への参入と撤退を繰り返してきたという経緯があります。
クレディ・スイスは2008年に参入してきましたが、それ以前にも参入しています。このように一度撤退してまた参入することを、クレディ・スイスに限らず、他のプライベートバンクなども何度も繰り返しているという歴史があるのです。
2つ目)現状はUBS・ロンバーオディエ・LGTの3社のみ
参入と撤退を繰り返してきて、現状は、UBSというスイスの最大手の銀行、ロンバーオディエというスイスの未上場のオーナー系のプライベートバンク、リヒテンシュタイン公国の公爵家がオーナーをやっているLGT、実質的に外資系のプライベートバンクとしては、日本にはこの3社しかないのではないかと思います。
2000年代後半や2010年代の前半などの一時期は、外資系プライベートバンクだけでおそらく10社前後はありました。しかし、撤退や合併などを繰り返しており、現在は、UBS・ロンバーオディエ・LGTの3社だけになったということです。昨年までは、クレディ・スイスもありましたが、UBSと合併したので、実質3社だけになったという現状です。
3つ目)スイス最大手のUBSは半分撤退したような状態
この3社のなかで一番勢力を持っているのは、一番長く営業しているUBSです。2000年代から日本で営業活動しているので、規模もプライベートバンカーもプロダクトも一番揃っているかと思います。
UBSは最大手ですが、今、自社のみで100%やっているわけではありません。三井住友信託銀行と一緒に出資して証券会社を作り、富裕層の資産を運用している形になっているので、正直、半分は撤退しているような状態といえるかもしれません。日本の銀行と半々でやっているので、片足は日本で片足は海外に置き、いつでも撤退できる状態にしていると思われます。社内にいる人からは、かなり日本の証券会社や日系の銀行のようになってきているという話を耳にします。
4つ目)富裕層は裏切られ続けきたいんも運用もしなくなった
その結果、富裕層の方々は、外資系プライベートバンクに資産を預けても、クレディ・スイスがUBSになったように、すぐに撤退したり合併したりして、他社に移さなければならないので、結構大変な目に遭っています。そのように裏切られ続けてきた日本の富裕層の方は、外資系のプライベートバンクに期待も運用もしなくなり、少し残念な結果になってしまった、というのが結論ではないかと思います。
外資系プライベートバンクが日本から撤退していく理由
今回のテーマである「外資系プライベートバンクが日本から撤退していく理由」を4つにまとめてお伝えします。私なりの個人的な意見になりますが、私も7年ぐらい外資系のプライベートバンクにいて、日系も合わせると11年ほどおりましたので、的を射ているところもあるのではないかと思います。
理由1)規模を相当大きくしないと利益が出ない構造
日本に参入しても、規模を相当大きくしないと利益が出ないというのが、日本で営業するプライベートバンクが持つ構造的な問題かと思っています。銀行や証券会社はコンプライアンスコストが非常に高いです。一つの金融商品を導入する際に、日本はコンプライアンスや規制が厳しいので、ものすごくコストがかかりますし、コンプライアンスに関わる人材も雇わなければなりません。
私が元々働いていた外資系の金融機関も、1営業員に対して1人、バックオフィスやミドルにそのようなコンプライアンスの人を入れる状態でした。つまり、営業マン1人の利益で1人の非営業員を養わなければいけないわけです。ですから、営業2人に対してコンプライアンス1人、3人に対して1人でやるためには、組織をかなり大きくしないと利益を出すには難しい可能性が高いのです。ここが海外との違いかと思っています。
海外の場合、自己責任の意識が強く、規制などもかなり緩和されているので、コンプライアンスコストを安くできます。それほど規模を大きくしなくても利益を出しやすい体質です。しかし日本の場合は、そのように組織を維持することや商品導入に対するコンプライアンスコストが高いので、組織をかなり大きくしないと利益が出せないわけです。
そこまでいける外資系のプライベートバンクはなかなかありません。そこまでいき切ったのが、唯一UBSということでしょうか。ロンバーオディエは長い間やっていますが、正直利益が出ているか出ていないのか、上場していない会社なのでわかりません。おそらく出ていないのではないでしょうか。LGTは参入して数年ほどですから、基本的にはまだ赤字かと思います。
ですから、相当規模を大きくしてUBSくらいにならないと難しいかもしれません。バンカー何百人や、全組織で数百人規模にならないと厳しいのではないかと思います。
理由2)日本のポテンシャルに対する本国の期待が低い
規模を大きくしないと利益が出ないにもかかわらず、日本のポテンシャルに対する本国の期待度が低いのかもしれません。今、日本よりも富裕層が増えている「東南アジアや中国のマーケットに投資した方がよいのではないか」「お金を使った方がよいのではないか」と思っているわけです。日本のマーケットポテンシャルはあるけれど、これを得るために規模を大きくしなければいけないと途中で気づき、怯んでしまい撤退するということが基本的に多いと思います。
UBSがよい例ではないでしょうか。日本の外資系では最大のプライベートバンクに成長しましたが、あれだけの規模になっても半分は売却しようと判断するわけですから、本国が日本のマーケットに期待してないことがうかがえます。
理由3)プライベートバンカーのコントロールが難しい
これは個人的な感覚ですが、プライベートバンカーのコントロールが難しいのではないかと思います。普通の会社の営業マンとお客様の関係よりもより近い関係です。プライベートバンカーというからには、会社の社員として看板を持っているというよりは、バンカー個人としてお客様とかなり密な関係になることが多いのです。
私もバンカー時代は、ほぼ毎日会ったり、毎日飲みに行ったり、一緒に旅行に行ったりしていました。他の営業の仕事では、あまり聞かないことではないでしょうか。プライベートバンカーはそこまでのことをしてお客様を掌握していることが多いです。
そうすると、他社に移籍してお客様の資産をそのまま持っていくことが割と簡単にできてしまいます。会社ではなくプライベートバンカーにお客様がついているので、会社としての経営が難しくなってしまうわけです。そのようにバンカーが力を持っていると、「報酬上げろ」などいろいろと強く要求してくることもあります。私がプライベートバンクにいるときから、コントロールするのは難しそうだと思っていました。
そのようにプライベートバンカーにお客様が依存しないように、プライベートバンクは、他社に移管できないような一任運用などの金融商品を増やしています。また、借入や証券担保ローンも他社には持っていけないので、そのようなものでうまくお客様の資産を固めておいて、プライベートバンカーが移籍しても持っていけないような工夫をしています。しかし、限界はあるのではないかという印象です。
理由4)富裕層が「どこで運用しても同じ」ことに気づいた
「どこで運用しても同じ」ということに富裕層の方が気づいてしまった、これがプライベートバンクの営業に与える影響が最も大きかったのかもしれません。「UBSで一任運用しても、クレディ・スイスで一任運用しても、どこも一緒!」「インデックスファンドとパフォーマンスが変わらないではないか!「これなら、ネット証券でインデックスファンドを買っておけばいい」となってしまいます。そのことに富裕層の方が気づいてしまったのです。
唯一、プライベートバンクに残ったのは「私はプライベートバンクで運用しているのだ」というステータスでしょうか。そのようなことを求めている方は、プライベートバンクで今もまだ運用されています。
どこも一緒であれば、ネット証券でいいと思う若い富裕層の方が、最近特に増えています。高齢の方はまだプライベートバンクに何か思うところがあるのかもしれませんが、40代~50代までの若い富裕層の方はあまり気にならないようです。プライベートバンクで運用しても意味がないということで、ネット証券や弊社のようなIFAで運用される方が増えてきています。このような流れは営業にはマイナスですから、収益が減っていき、最終的には日本から撤退というところまでつながっていった可能性はあるのではないでしょうか。
本日は「外資系プライベートバンクが日本から撤退していく理由」という内容でお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー 代表取締役 世古口 俊介 2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。 メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。