TLAC債とは?メリットとデメリットについて解説

はじめに

債券には様々な種類がありますが、その中でもTLAC債という特殊な債券が存在します。TLAC債は、巨大金融機関が破綻した際に金融市場への影響を最小限に抑えるために設けられた規制であり、その重要性が高まっています。本記事では、TLAC債の基本的な仕組みや特徴、そして投資家にとってのメリットやデメリットについて詳細に解説していきます。

TLAC債の基本的な仕組み

TLACとは何か?

TLAC(Total Loss-Absorbing Capacity、総損失吸収力)は、世界の巨大銀行(G-SIBs, Global Systemically Important Banks)が経営難に陥って破綻すると金融市場への影響が大きいため、そのような際に公的資金を使って救済しなくても済むように、日米欧などの金融当局からなる金融安定理事会(FSB)により制定された規制です。

TLACの目的は何か?

TLAC規制においては、G-SIBsは破綻時に納税者負担を伴わずに秩序だった処理を行うことができるように、処理に際して元本削減や株式転換により損失を吸収できる資本・負債(TLAC)を積み増すことが求められています。

このTLAC規制に対応するため、当該規制の対象である大手金融機関が発行するシニア債をTLAC債と呼びます。日本における3メガグループのように銀行持株会社が存在する場合には、持株会社発行のシニア債がTLAC債となり、一部ユーロ圏の国などのように持株会社が存在しない場合には、銀行本体が発行する非上位シニア債がTLAC債となります。これらの規制は、金融市場の安定を保つために重要な役割を果たしています。

TLAC債の特徴

TLAC債の発行主体

TLAC債の発行主体は、主にグローバルでシステム上重要な銀行(G-SIBs)などの大手金融機関の持株会社です。日本では、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3つのメガバンクグループと野村ホールディングスがこの対象に含まれます。TLAC債の償還条件
TLAC債の償還条件は以下の通りです。

・長期の要件として、TLAC債の償還期限までの期間が1年以上でなければなりません。
・一般的な社債とは異なり、金融機関が破綻するなど特定のイベントが発生した場合、株主や他の債権者よりも先に損失を吸収するために、元本の削減や免除が行われる可能性があります。
・早期償還条項が存在する場合でも、その実行には一定の制限があります。例えば、規制当局の事前承認が必要です。
・ステップアップ金利(利率が一定期間経過後に上昇する条項)は、TLAC債の損失吸収能力を低下させないために、特定の制限が設けられています。

TLAC債の償還には、通常の社債とは異なる特別な条件が設けられており、これは金融機関の健全性確保を目的としています。

TLAC債の投資家にとってのメリット

リスク分散の観点からのメリット

TLAC債は、投資ポートフォリオの分散投資に役立ちます。TLAC債の価格変動要因は、発行体の信用力や金利変動などに影響を受けますが、これらの要因は株式市場や他の債券市場とは異なる動きを示す傾向があります。そのため、TLAC債を投資ポートフォリオに組み入れることで、他の資産クラスとの相関が低くなり、ポートフォリオ全体のリスク分散効果が期待できます。ただし、TLAC債自体のリスクについても十分に理解し、投資目的や市場環境に応じて適切な投資判断を行うことが重要です。

利回りの面でのメリット

TLAC債は、通常の社債と比べて高い利回りが期待できます。これは、金融機関が経営破綻した際に、元本の削減や免除のリスクを投資家が負担する代わりに、発行体である金融機関が投資家に対して高い利息を支払うためです。この高い利息は、投資家がTLAC債に内在するリスクを引き受ける対価として機能しています。

TLAC債の投資家にとってのデメリット

TLAC債は、金融機関が経営破綻した場合に、元本の削減や損失の吸収を通じて預金者や普通社債の保有者を保護する役割を担っています。TLAC債の弁済順位は、普通社債(シニア債)と劣後債の中間に位置づけられます。つまり、金融機関が破綻した際には、普通社債よりも弁済順位が劣るものの、劣後債よりは優先されるという特徴があります。


出典:PIMCO「資本性有価証券とは」

TLAC債の投資家にとってのデメリットは、以下の通りです。

1.償還リスク

金融機関の破綻時など特定のイベントが発生した場合、TLAC債は元本の削減や免除の対象となる可能性があります。これにより、投資家は償還を受けられないリスクがあるのです。

2.金利変動リスク

TLAC債は長期の償還期間を有するため、金利変動の影響を受けやすくなります。金利上昇局面では、TLAC債の価格が下落し、投資家が損失を被るリスクがあります。

3.流動性リスク

市場環境の悪化等により、TLAC債の売却が困難になるリスクがあります。特に、金融危機時には流動性が低下し、投資家が換金できなくなる可能性があるので注意が必要です。

4.信用リスク

TLAC債の発行体である金融機関の信用力が低下した場合、TLAC債の価値が下落するリスクがあります。金融機関の財務状況悪化により、元本や利息の支払いが滞るリスクもあります。

まとめ

以上のように、TLAC債は高い利回りと分散投資効果が期待できる一方で、償還リスクや金利変動リスクなどのデメリットもあります。投資家は、TLAC債の特性とリスクを十分に理解した上で、自身の投資目的やリスク許容度に合わせて投資判断を行うことが重要です。

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