はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
今回のテーマは、「高利回り×長期運用で円高リスクと戦うのが今の米ドル債券投資の本質」です。2024年8月9日に、私は『富裕層のための米ドル債券投資戦略』という新著を出版させていただきました。
今回は、米ドル債券の今の投資環境やマーケット、今であればこのような投資の仕方をした方がよいという内容でお話しします。
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米10年国債利回りの推移(過去20年)
米ドル債券投資の投資環境を確認する上で大事な指標が2つあります。
米ドル債券投資の投資環境を確認する上で大事な指標①アメリカの金利
その1つがアメリカの金利です。当然米ドル建ての債券なので、利益はアメリカの金利に依存することになっているので、アメリカの金利が1番大事な指標になっています。
米ドル債券投資の投資環境を確認する上で大事な指標②ドル円の水準
2つ目に大事な指標は為替、ドル円の水準です。私たちは日本人で、米ドル債券はドル建てですので、それを交換するタイミングや為替の状況によって最終的な利益は変わってきます。ですから、アメリカの金利と米ドル円の為替、この2つが米ドル債券投資において最も大事な投資環境、マーケットの指標になっているわけです。アメリカの金利を確認してから為替を見ていただき、高利回り×長期運用でどのように円高リスクと戦うのかという本題に入っていければと思います。
米10年国債利回りの推移(過去20年)
まずはアメリカの金利から見ていきましょう。こちらは米10年国債利回りの過去20年の推移です。今の水準は右側になっていまして、2024年の点線の右側が最新の利回りで、今現在は4.1%です。2024年は、利回りとしては4.7%くらいまで高まったのですが、そこから一時的に落ち着いて今は4.1%になっています。
2020年や2021年と比べると、利回りはかなり高まっています。2020年は1%を切っているタイミングがありました。その頃から、2022年のアメリカのインフレの高まりで金利を上昇させたため、それに伴って米10年国債利回りも右肩上がりに上昇してきた、というのがここ数年の動きになっています。
今の4.1%の水準はいつぶりかというと、青い点線を辿っていくとわかります。2008年6月、つまり16年ぶりのアメリカの高金利です。米10年国債利回りの水準は、全ての米ドル建て債券の利回りの根源になっているので、この利回りが高ければ、あらゆるドル建て債券の利回りが高いですし、低ければ低いということになっています。
私が新卒で証券会社に入社したのが2005年なので、このチャートそのもので、一番左端が入社時です。その当時は米10年国債利回りは高い時代でした。米ドル建ての社債に投資するだけで5%~5%以上の利回りが取れたのですが、その後2008年にリーマンショックがあり、そこからかなりの低金利が続きました。それによって米10年国債利回りも過去のように高くはなく低い状態で推移することになったので、米ドル建て債券も利回りが寂しい状況が続いていたわけです。
2007年までは、例えば米ドル建ての普通社債に投資すると、5%~6%の利回りでしたが、それ以降は2%~4%という状況がかなり長い間続いていました。2022年にアメリカのインフレが高まって一気に利回りが上がり、久しぶりに高利回りになったということです。
過去20年の推移を見てきて、アメリカの経済成長や経済の足元の状況、私が個人的に考えたイメージですが、米10年国債利回りの相場は、おそらく2%~3%くらいではないかと考えています。このチャートの赤い網のところが2%~3%を表しています。過去20年の平均の利回りも大体それぐらいになると思います。現在は、一時的なインフレを止めるための政策金利高によって押し上げられている利回りの状況と考えることができます。
多くの専門家の方、富裕層の方、投資家の方は、今後アメリカの金利は下がっていく可能性が高いのではないかと考えています。実際にアメリカの政策金利に関しては、2024年9月に1回利下げが行われ、その後数ヶ月に1回利下げが行われて、1年後には政策金利は今よりも1%低い状態になっている可能性が高いというのが大方の見方です。それに伴い、米10年国際利回りも下がっていく可能性が高いと思われています。今は4.1%ですが、おそらく今後1年~3年かけて、今の平均利回りと同程度の2%~3%の利回りに追いついていく可能性が高いのではないかという見方になっています。しかし現状はまだ4%以上の利回りですので、まだ高利回りの状況であるといえると思います。
米ドル円の推移(過去35年)
投資環境を確認する上で2つ目に大事な指標は為替です。こちらは、米ドル円の過去35年の推移です。
アメリカの高金利は16年ぶりとお伝えしましたが、米ドル円はさらに昔に遡ります。現在は154円、これは1990年以来、34年ぶりのドル高円安の水準です。今の水準が相場であるという人もいますが、過去35年の為替の推移を見て、平均の為替はどれぐらいなのでしょうか。
平均為替レートを見ると、大体105円~125円というのが平均の動きになっています。ですから、通常の状態であればこの中に落ち着くのが普通の為替の状況と考えることができます。もちろんその通りになるかどうかは分かりませんが、過去の推移を見るとそのようなことがいえます。
ですから、今は154円と一時的にドル高円安になっていますが、今から米ドル債券に投資する方にとってはここがリスクになるわけです。今の150円台で投資して、ドル安円高に向かって収斂されていき、米ドル安円高になって評価損が出るというのが、今の米ドル債券投資の最大のリスクです。これは今回のテーマにつながる円高リスクといえます。
では、この円高リスクと戦うためにはどうすればよいのでしょうか?それが冒頭でお話しした高利回りです。今は米ドル高円安ですが、高利回りであることで、その利回りの高さで円高リスクと戦うということです。ただ、この高利回りだけでは実はちょっと弱いです。ドル安円高になってしまったときのマイナスに勝てない、高利回りだけでは勝てないリスクがあります。
円高になると、一瞬で為替が動く可能性があるので、ここ数年で一気に数十%ドル高円安になったのと逆のことが起きる可能性もあります。ですから、この円高リスクに対抗するためには高利回りだけでは足りなくて、「高利回り×長期運用」がセットで必要なってきます。高利回りの状態で長期運用して、トータルで高利益で運用することによって、円高リスクと戦うのが、今の米ドル債券投資の本質、本当に考えなければいけないことになっているのです。
米ドル債券の損益分岐為替(利回り5%・複利運用)
「円高リスクと戦うといわれても…」と思われるかもしれません。では、どのように戦えばよいのでしょうか。もう少し具体的にご説明しましょう。円高リスクと高利回り×長期運用で戦う方法を考える上で一番大事な考え方は、米ドル債券の損益分岐為替です。
米ドル債券の利益は利回りです。利回りによって利息を含めた債券の資産価値が増えていきます。円高にいくとマイナスになりますが、米ドル債券の場合、確定利回りですから、5年の債券だったら5年持ち切れば、その利回り分は米ドルベースで増えていきます。10年の債券であれば、10年間その利回りで増えていくのです。
仮に投資した当初から米ドル安円高にいったとしても、一定の為替水準よりも円高になっていなければ、マイナスではなくプラスである、その水準よりも円安であれば、基本的にプラスになっている、この水準が損益分岐為替です。
米ドル債券の場合は確定利回りなので、投資期間が長いほど、その米ドル債券の損益分岐為替は円高の方に切り下がっていきます。それを表したのがこのイラストです。この米ドル債券投資は、利回り5%で複利運用する、入ってくる利息などを再投資する前提で考えていきます。左側の軸が米ドル円の為替です。下の横軸が投資期間です。
利回り5%で複利運用していくと、毎年少しずつドル安円高に損益分岐為替が切り下がっていきます。5年後の損益分岐為替は117.5円です。117.5円よりも円安であればトータルで利益が出て、それを割って円高になれば損失になります。10年後は92円、15年後は72.1円、20年後は56.5円、25年後は44.2円、30年後は34.7円になっています。
こちらの損益分岐為替を見て、皆さんはどうお考えになるでしょうか。5年後の117.5円から考えてみましょう。皆さんそれぞれ違うと思いますが、過去35年のチャートを見ていただき、平均の為替レートが105円~125円で、数年前まで110円や110円を割る円高の水準であったので、117円より円高にいく可能性はあると思われるかもしれません。
では、10年後はどうでしょう。10年後は92円、100円を割った円高なので、現状の日本の国力や経済力、通貨のパワーなどを考えると、100円を割ることはあまりないのではないかと考えられるかもしれません。ただし、リーマンショックのとき、2008年や2009年などは実際に70円台まで一瞬いったので、「いや、100円を割ることもあるかもしれない」と思われるかもしれません。
15年、5%で複利運用すると損益為替分岐は72円です。「72円はさすがにないのでは?!」と思われるかもしれません。リーマンショック時のようなことは基本的には過去になかったので、ここまではいくことはないのではないかと考えられます。ただし心配性の方は、「アメリカに何があるかわからないし、日本が国力を取り戻す可能性もあるので、もっと円高にいくかもしれない」と思われるかもしれません。
20年運用した場合、損益分岐為替は56円、25年後は40円、本当に心配な方は30年、ここまでの円高はないと考える方は多いでしょう。このように運用期間に応じて損益分岐為替が切り下がっていきます。債券の運用利益は利回りに依存しているので、期間が短いと効果が少ないです。2年や3年の場合は、損益分岐為替はそれほど円高にいきません。円高の抵抗力が少ないわけです。
ですから、高利回りだけでは足りないのです。高利回りといっても5%くらいですから、高利回り×長期運用することで、損益分岐為替をぐっと円高に押し下げることによって、仮に為替が投資したときから円高にいったとしても、トータルの利益でプラスになります。そのような状態にすることが大事なのです。これが、高利回り×長期運用で円高リスクと戦うことになっているわけです。以上が、今の歴史的な米ドル高円安かつアメリカの高金利状態での米ドル債券投資の本質と私は考えています。
まとめ
今回のテーマである「高利回り×長期運用で円高リスクと戦うのが今の米ドル債券投資の本質」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)今の米ドル債券投資の最大引き算要素は円高リスク
債券投資は引き算の投資であると前回お伝えしました。利回りの利益の上限は決まっているので、それからリスクを引くことになっています。このリスク要因は、2024年の今の状況では、やはり円高リスクです。ですから、このリスクをどのように抑えるのかが一番考えなければいけない、今の米ドル債券投資の課題といえます。
ポイント2)高利回り×長期運用で損益分岐為替を切り下げる
その課題を解決するために考えなければいけないことです。今回のテーマの、高利回り×長期運用で米ドル円の損益分岐為替をドル安円高に切り下げる必要があるということです。高利回りだけでは足りません。高利回りといっても4%や5%ですので、1年や2年の運用では足りないわけです。
やはり5年~10年、理想をいえば15年や20年投資することによって、損益分岐為替を90円、80円、70円と、これより円高にいくことはないという水準に切り下げるのです。債券は確定利回りですから、投資した瞬間に満期まで持ち切れば未来が予想できます。ですから、今の米ドル債券投資をする際は、そのような投資を考えなければならないわけです。
ポイント3)安心できる損益分岐為替から債券の残存期間を逆算
では、どのような債券に投資すればよいのでしょうか。債券の残存期間、お金が返ってくるまでの期間を選ぶ考え方です。
「あなたが安心できる米ドル円の為替の水準はいくらでしょうか?」
例えば、100円が安心ラインの方は、先ほどの損益分岐為替でご説明したように、残存期間10年を選べばいいでしょう。10年で利回り5%の複利運用の場合の損益分岐為替は92円です。10年後に92円よりも円安であれば、基本的にトータルで利益が出ていることになります。
まだまだ円高にいくと考え、80円が安心ラインの方は、15年を選べばよいでしょう。15年の債券を持っている場合は、72円が損益分岐為替ですので、それよりもトータルで円安であれば利益になっているので、15年の残業期間の債券をずっと持っていれば安心です。
60円が安心ラインの方は、損益分岐為替が56円の20年の債券、さらに40円が安心ラインの方は30年の債券を持ってください。30年の債券であれば、損益分岐為替は34円ですから大丈夫でしょう。
このように安心できる米ドル円の損益分岐為替の水準から、債券の残存期間を逆算して選ぶことができます。ですから、長ければ長い残存期間の債券ほど、その期間の利回りは持ちきれば確定しているので、損益分岐為替の観点からはやはり安心ができるわけです。
ポイント4)中長期で今より円安になる未来を信じれるかどうか
ずっと円高にいく話をしていますが、それは未来のことなので実際には誰にもわかりません。ですから、外貨に分散したり、米ドル債券に投資したりする方の場合は、根本的な考え方として、5年~10年以上の中長期で見たときに、今よりも米ドル高円安になっている未来を信じられるかどうかが大事です。
本質的に絶対100%円高にいく未来しか信じられない方であれば、米ドル債券に投資しなくていいでしょう。その場合は日本円で持っていた方がいいと思います。そこまで信じているのであれば、日本株や日本のREIT、日本の円預金で持つ方がいいです。
一方で、「為替がドル高にいくか円安にいくかわからない方」「中長期で考えると円安にいく可能性の方が高いと考える方」「日本は人口減で経済も不透明、一方でアメリカは成長し続け、アメリカは強く日本は弱いという未来を信じている方」、このようなフラットな考え方の方が、米ドル債券投資や外貨投資は向いているのではないでしょうか。ですから、そもそも根本的な考え方が米ドル債券投資に合っているかどうかを考えた方がよいと思います。
本日は「高利回り×長期運用で円高リスクと戦うのが今の米ドル債券投資の本質」という内容でお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中