目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
本日のテーマは、「米ドル債券に投資した人がどれだけ円高になっても気に病む必要がない理由」です。本日は2024年7月26日(撮影日)ですが、今の為替は1米ドル153円から154円あたりを行き来している状態です。
7月の上旬から中旬までは、1米ドル160円と歴史的にドル高円安の水準だったところから考えると、短期的な要因によって一時的に円高に動いている状況です。一時期よりは円高になっていますが、1米ドル160円台で米ドル債券に投資している方は為替だけで考えると5%から6%ほどマイナスになっている方もいらっしゃると思います。ですが、米ドル債券に投資した方にとっては円高(現在の水準)であっても、さらに1米ドル150円を切って140円、130円になったとしても、正直なところそこまで気に病む必要はないと私は思っています。
私自身も1米ドル160円、161円、162円の時に米ドル債券に自分の中の投資金額としては、まあまあの割合を投資しています。投資した時から5%程度が円高によって減少していますが、正直なところほとんど気になりません。自分でももう少し気になるかと思いましたが、今の所全く気にしていません。恐らく、円相場が140円、130円になったとしても、ほとんど気にならないと言っても過言ではありません。ですので、当社のお客様や私の周りの富裕層の方々も、円高になったからといって気にして騒ぐことは全くありません。
世の中では米ドルと円の為替に関心が高まっていますが、米ドル債券のような長期投資をされている方にとっては、短期的な円高にはそんなに気に病む必要がないと私自身が考えている理由について、今回はまとめてお話が出来ればと思います。
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米ドル債券に投資した人がどれだけ円高になっても気に病む必要がない理由
長期投資でいちいち短期的な動きを気にしない
1つ目の理由は、米ドル債券投資というのは長期投資になります。これは1年や2年の短期で売買する投資ではなく、米ドル債券投資の平均残存期間は10年、15年、長い方だと20年といった未来を見据えた長期投資です。
したがって、仮に投資して1ヶ月や2ヶ月で円高が進み、為替が少しマイナスになって1米ドル130円や140円、仮に為替が10%、20%になったとしても、それはたった半年や1年の中で起こっただけの話です。ただ、米ドル債券の投資期間は基本的にはもっと長いです。10年、15年、20年、30年先を見据えて投資するのが米ドル債券投資ですので、そういう長期投資の中でいちいち短期的な動きを気にしない方が良いのです。10年、20年といった長いスパンで考えると、色々と世の中には様々な出来事が起こります。
トランプ大統領になったり、円高の時期もあれば円安の時期もあります。色々と動きがある世の中になりますが、ただそういうことを気にせず安心して資産を運用する為にこの米ドル債券投資をしているのです。世界で一番安心できる通貨である米ドルで、安定した金融資産である債券、それを合わせたドル建て債券に短期的な動きを気にしないで済むために投資しているのです。ですから、気にしてはいけません。気になってしまう人は気を付けてください。短期的な為替の動きや値上がり・値下がりが気になる人は、思考が投機的になっている、あるいはギャンブル的になっている可能性があります。そのため、少し思考を改めることが必要です。これは株やFXをやっている方の思考になっている可能性があり、数%の円高になった際に「もうこれ以上円高になるのが怖いから売却しよう」「もっと円安になるかな?」などと考えることや、「もっと買っておいたほうが良いのかな?」と考えることは、少し投機的な思考になっています。これは米ドル債券投資の考え方ではありません。
債券投資をしているにもかかわらずそのような思考になっている人は、思考を改めたほうが良い可能性が高いと思います。1つ目は未来を見据えた長期投資なので、どれだけ円高になり1米ドル140円や130円、120円になっても一時的である可能性も高いので、10年、20年、30年と腰を据えて運用すると思って短期的な動きを気にしないというのが、非常に大事で気に病む必要はないという理由の1つになっています。
利息獲得、円安回避という本来の目的を思い出す
2つ目は、米ドル債券投資の本来の目的を思い出してください。本来の債券投資の目的は、為替が投資時よりも5%、10%、20%円安になるのが本来の目的で、円安で為替の利益を得ることが目的ではありません。これはFX投資とは異なります。
この為替のFXで投資をする方は、円安になることが目的かもしれませんが、債券投資はそうではありません。いろいろな目的の方がいますが、本来の目的は主に2つあります。1つ目は、利息を獲得することです。利金収入を得ること、安定したインカムゲインを得ることがそもそもの目的であり、これが一番多い目的です。
その次に、円資産ばかりを保有しているため、円安に進む可能性や日本に何かあったときの心配から、円安のリスクを回避して外貨比率を上昇させることを目的に米ドル債券に投資をする方もいます。
この2つが主な目的だと思いますが、この本来の目的をしっかりと思い出してほしいのです。これらの目的は、米ドル債券に投資した時点でほとんど達成されています。投資した時点で円相場が5%、10%、15%の円高になったとしても、円ベースで見た場合、利息収入は減少するかもしれませんが、それでもその分だけ円高になっているだけです。基本的には、利息はしっかりと入ってきます。利息は確実にもらえるのです。さらに、外貨分散は円安リスクを回避する保険的な役割を持っています。ただ、それが円高になり、その保険の効果が一時的に出なかっただけです。今後円安になる可能性もあるため、その保険効果は継続しています。
本来の目的は達成されていることを忘れてはいけません。大事なことはできているので、円高になったからといって気に病む必要はありません。本来の目的を思い出してほしいということです。これが2つ目の理由です。
日本が長期的に円高を維持できるか現実を考える
3つ目の理由は、確かに短期的に円高になっていることです。どれくらい続くか、どの程度円高になるのか分かりませんが、一時的にドル安円高になったからといって、日本が長期的に円高を維持し続けられるかをよく考えてほしいのです。
これは非常に先を見据えた話かもしれませんが、米ドル債券投資は10年、20年、30年先を見据えた長期投資です。その未来の中には、日本の国力や為替の強さも含まれています。長期的な視点でドル建て債券に投資をしているため、仮に円が一時的に強くなったとしても、中長期的に日本がこの円高の状態を維持できるかどうかをよく考える必要があります。その理由は2つあります。1つ目は財政です。現在の段階では日本の財政に関する懸念はそれほどフォーカスされていませんが、5年後、10年後には状況が変わる可能性が高いと思います。現時点で、日本のGDP(会社でいう売り上げ)に対する債務残高(借入の残高の合計)は先進国の中で最も大きいと言われています。
さらに、この借金は基本的に増えていく未来しか見込めません。なぜなら、社会保障制度が破綻しているからです。少子化の影響で、少ない若者がたくさんの高齢者の年金を支えるという構図があり、これは一度財政破綻をしない限り、変えることができません。このままでは行くところまで行くしかなく、社会保障費を税金だけで賄うことができず、国債をどんどん発行してその資金を社会保障に充てていくしかありません。その結果、日本国民の借金は基本的にどんどん増えていくのです。今の段階で、投資家からはそこまで悪い意味で見られてはいませんが、借金を重ねていけば重ねていくほど、会社で言えば借金が雪だるま式に増えていき、いつ会社が潰れてもおかしくないという状態になる可能性が高いです。今は分からないけれども、5年後、10年後にそのような状況が投資家の目に留まり、日本は危ないと判断された時には、やはり円高を維持し続けることは難しく、基本的には円安の方向に進むと考えられます。それに加えて、経済の成長も重要です。基本的には人口は減少していきます。
最近、Yahoo!ニュースなどで100年後には人口が1500万人になるという記事がありました。今年か去年の人口減少が80万人だからといって、80万人×100年という単純な計算ではないと思います。しかし、総務省が正式に発表している36年後の2060年の人口予測では、現在の1億2500万人から3500万人減少し、約9000万人になるとされています。このように、約3割の人口減少が見込まれています。人口が減少すると、生産性が上がらない限りGDPも必ず減少します。例えば、現在のGDPが500兆円だとすると、人口減少により350兆円程度に減少する可能性があります。そうなると、先ほどお伝えしたGDP対比の債務残高が先進国で最も高い日本において、分母が減るとさらに割合は大きくなります。これは、会社で言えば、借金の額は変わらず増え続ける一方で、売り上げが減少する状態と同じです。このような状況はもう終わっていると思います。
そのため、日本の将来に不安を感じる投資家が、ドル建て債券に分散して投資をする方が多くなると思います。ですから、日本が本当に5年後、10年後、15年後も財政や経済がしっかりしていて円高を維持し続けられるのかをよく考えたほうが良いということです。現在、一時的に1米ドル150円強くらいの円高になっています。たとえ140円、130円、120円になったとしても、日本が5年後、10年後も本当に1米ドル120円や130円を維持し続けられるのかと、普通に考えるとそうではないと思います。現実をよく見て、円高で不安になっている方は慎重に考えていただいたほうが良いと思います。こちらが、3つ目の理由です。
「金利は為替よりも強い」を肝に銘じる
最後に、気に病む必要がない理由の4つ目は、私が勝手に作った格言とも言える「金利は為替よりも強い」という考えです。これは米ドル債券のモットーであり、肝に銘じていただきたいと思います。
米ドル債券に投資をした後、円高になって不安になっている人や気に病んでいる人がいたとしても、為替が1米ドル130円、120円、110円になったとしても、金利は時間をかければ莫大な利益になります。ですから、為替のマイナスを取り返す可能性が高いというのが「金利は為替よりも強い」という格言の意味です。こちらをよく覚えておいてほしいと思います。
例えば、1米ドル160円の時に米ドル債券に投資し、複利で5%の利回りを得たとします。この場合、米ドル債券投資の損益分岐為替というのがありますが、5年後や10年後にこの水準よりも円高にいかなければ、米ドル債券のトータルの利益、つまり為替や債券価格などを含めて、この水準よりも円安であれば利益が出るということです。これを損益分岐為替といいますが、1米ドル160円、複利5%という前提で、損益分岐為替は10年後に1米ドル99円になります。これよりも円安であれば、トータルで利益が出ることになります。20年後にはもっと円高になり、1米ドル61円、30年後は僕も生きているか分かりませんが、1米ドル37円になると予測されます。1米ドル37円よりも円安であれば利益が出ているということです。複利5%は高すぎると感じるかもしれませんが、現在の一時的な利回り上昇により、ここで5%が適用されています。しかし、今後の運用では状況が変わるかもしれません。複利4%で計算すると、1米ドル160円からスタートし、米国債の利回りは4%です。この条件でシュミレーションするのも良いと思います。複利4%で計算すると、10年後の損益分岐為替は1米ドル109円、20年後は73円、30年後は50円になります。つまり、30年後に1米ドルが50円よりも円安であれば、4%の複利シミュレーションでもトータルで利益が出ることになります。一方で、5%で計算すると1米ドル99円になります。
一方で、リーマンショックのような経済危機が発生し、アメリカ経済が崩壊した場合、1米ドル80円や90円といった円高が再び起こる可能性もあります。その場合、10年後にはそのような為替水準に達するかもしれません。しかし、10年後を見ると、現実的な水準の可能性もあります。
為替水準に達しない可能性の方が高いと思いますが、タイミングが悪ければ損益分岐為替を超えて円高になっている可能性もあります。では、20年後はどうかというと、5%の複利では1米ドル61円、4%では73円と予測されますが、ここまでの円高は想定しづらいと思います。1米ドル61円や73円はなかなか想定しづらいと思います。30年後には「どんな世界なのだろう」と思います。正直なところ1米ドル37円や50円を切る円高というのは、アメリカがほぼ形を成してないような状態になっていたらあり得るかもしれませんが、引き続きアメリカが先進国の一つという状態が続いている限り、1米ドル50円を切る円高はあり得ないと思います。このような損益分岐為替のシミュレーションが示すように、金利は為替よりも強いのです。為替が一時的に10%や20%、30%の円高になったとしても、米ドル債券投資は長期的に金利を得てトータルで利益を出す投資です。したがって、短期的な円高を気にする必要は全くありません。これが4つ目の理由です。
やはり、理由をご説明させていただくと、今後、一時的にドル安、円高になる可能性があります。世の中がどうなるか分かりませんし、為替は最も予測が難しいものです。しかし、それはノイズの可能性が高いです。短期的な円高によって不安になり、「やめたほうが良いのでは」とか「売却しよう」と考えるのは、正直なところ、米ドル債券投資においてはもったいないことです。なぜなら、米ドル債券投資は15年後、20年後、30年後の未来を見据え、長い時間をかけて金利を得て、為替などを含めたトータルで利益を出すという発想の投資だからです。そのため、短期的な円高に惑わされるのは非常にもったいないことです。仮に投資を始めた直後に円高になったとしても、その投資自体をやめたり、気に病んだり、慌てたりしないことが基本的に良いと思います。
本日は、「米ドル債券に投資した人がどれだけ円高になっても気に病む必要がない理由」についてお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中