目次
はじめに
投資資産が多様化する中、為替リスクを正しく理解することはとても重要です。特に、円安や円高が話題に上るなか、米ドル建て債券に注目する投資家が増えており、ドル円の動向には注意が必要です。このため、米ドル建て債券へ投資する際、為替について正しい知識を持つことが求められます。本記事では、米ドル建て債券の基礎知識を押さえつつ、円安・円高が債券投資にどのような影響を及ぼすのかについて解説します。リスクを避ける「安定型重視」の米ドル建て債券ポートフォリオについても解説しますので、ぜひお役立てください。
米ドル建て債券の魅力とは
米ドル建て債券は、信用力と流動性、そして高い利回りから、魅力的な投資対象です。米ドルは世界で最も取引されている通貨であり、米ドル建て債券は世界中のマーケットで安定した取引が可能であり、流動性が高いという特徴があります。
また、米国経済の強さから、長期にわたる安定的なリターンが期待できるため、「資産運用に手間をかけたくない」という方に有利な運用資産です。加えて、円高の時に投資すれば、円安時の通貨差益を狙うことも可能です。このように、米ドル建て債券の大きな魅力は、安定運用と高いリターンを両立できる点といえるでしょう。
債券投資における金利の役割
債券投資におけるおもな収益は、金利による利息収入です。
米ドル建て債券では、あらかじめドル建てで得られる利息が確定しているため、安定した収益が得られます。
為替の動きが債券投資に与える影響
為替変動は米ドル建て債券の価値とリターンに大きく影響します。円安へ進んだ場合、米ドル建ての債券の円換算価値が上昇し、売却または償還時に実質的なリターンが増加します。
逆に、円高に進んだ場合は、円換算価値が低下し、売却時に実質的な元本割れが発生するリスクがあります。同様に、円ベースで受け取る利息も為替変動によって上下する点に注意が必要です。このため、投資戦略には為替リスクの管理が不可欠です。
なお、為替ヘッジ手法としては、通貨スワップ契約や為替オプションを利用することが一般的です。しかし、為替ヘッジでは日米の金利差がヘッジコストとしてかかるため、「高い金利の恩恵を享受できなくなる」というデメリットがあります。
画像引用元 : https://www.nomura-am.co.jp/sodateru/stepup/foreign-investment/foreign-investment04.html
為替変動とは?円安・円高の基礎知識
為替変動とは、ある通貨の価値が他の通貨に対して変動することです。具体的には、1ドルが何円で交換できるかというレートが変動することを指します。
画像引用元 : https://www.jtg-sec.co.jp/bond/beginner/intro_bond_09.htm
円安とは、円の価値が下がることで、米ドル建て債券投資では「(円ベースの)利息受取額が増える」「債券売却時(償還時)の受取額が増える」といったメリットがあります。
逆に円高とは、円の価値が上がることで、米ドル建て債券投資では「(円ベースの)利息受取額が減る」「債券売却時(償還時)の受取額が減る」といったデメリットがあります。
円安時の米ドル建て債券への投資戦略
円安時には、米ドル建て債券の投資戦略に注意する必要があります。今後、円高へ触れた場合に為替リスクが生じるためです。
ただし、債券投資では為替だけでなく金利(利息)による収益も発生するため、仮に円高へ進んだとしても「金利によるクッション効果」が得られます。このため、為替と金利が収益にどの程度影響を与えるかを見極める必要があります。
次の表は米ドル円が150円の時に、利回り5%の米ドル債券で複利運用した場合の損益分岐為替(※)を表したものです。(※円高へ進んだ場合に、どこまで損失が発生しないかの水準)
債券保有期間が長くなるほど利息収入が増えるため、徐々に損益分岐為替が切り下がり、5年後に118.1円、10年後に91.4円、20年後に55.3円まで円高に進まない限り損失は発生しないことが分かります。
このため、金利水準にもよりますが、長期で債券運用を行う場合は、あまり「為替水準に固執する必要はない」といえるでしょう。
この債券投資における「損益分岐為替」については、次の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧下さい。
米ドル建て債券投資のリスクとリターン
米ドル建て債券には、次の通りリスクとリターンがあります。
【米ドル建て債券のリスク】
・為替変動リスク
・信用リスク
・価格変動リスク
【米ドル建て債券のリターン】
・利息収入
・為替差益
このため、投資にあたってはリスクとリターンのバランスを考慮することが重要です。
米ドル建て債券のリスクを詳しく解説
米ドル建て債券のおもなリスクについて解説します。
為替変動リスク
米ドル建て債券には、円高に振れた場合に為替差損が生じる為替リスクもあるので注意が必要です。
このため、投資対象国や通貨選びを慎重に行い、為替動向にも注視していくことが必要です。
信用リスク
債券発行体の財務状況によって、利息や償還金の一部またはすべてが支払い不能(デフォルト)となるリスクのことです。
債券の信用リスクを判断する目安としては、信用格付けを参考にするのが一般的です。
価格変動リスク
米ドル建て債券は、市場金利が上昇すると高い金利で新たに発行される債券が有利となるため、既存の債券は価格が下がります。
通常、債券は満期まで保有すると額面額で償還されますが、中途で手放す場合は時価での売却となるため、金利上昇時には元本割れとなる可能性があります。
米ドル建て債券のリターンを最大化するコツ
米ドル建て債券投資では、利息収入・為替差益という2つのリターンが得られます。
利息収入を最大化するには、「利回りの高い時期に投資する」「劣後債など利回りの高い債券に投資する」という2つの方法があります。
記事執筆時点(2024年6月7日)では、米国10年国債の利回りが4%を超える高い水準にあります。このため、劣後債などリスクの高い債券に投資しなくても高い利回りが得られるタイミングといえるでしょう。
一方、為替差益を最大化するには、「円高の時期に投資する」「長期的な円安が見込まれる時期に投資する」という2つの方法があります。
記事執筆時点(2024年6月7日)では、米ドル円が155円台という、やや円安傾向にあるため、為替差益を最大化するには、投資時期の見極めが必要といえるかもしれません。
おすすめの米ドル建て債券選び方
実際の投資事例から学ぶ〜「安定重視型」の米ドル建て債券ポートフォリオ〜
米ドル建て債券ポートフォリオには、「安定重視型」「リターンを重視型」「ミドルリターン・リスク型」など、さまざまな分類があります。
ここでは、リスクを抑えながら比較的高い利回りが得られる「安定重視型」のポートフォリオについて解説します。
次の表は、実際にウェルス・パートナーがお客様に提案した「安定重視型」の米ドル建て債券ポートフォリオです。
このポートフォリオには、次の通り4つの大きなポイントがあります。
1.米国債と高格付け社債のみで構成
2.10債券に分散投資
3.債券の平均格付けがAA+と非常に高い
4.平均利回り4.3%と高格付けの割に高い
まず、このポートフォリオは、米国債と高格付け社債のみで構成(①)し、安定性を最重要視しています。
また、安定性の高い債券で構成しながらも、10債券に分散投資(②)を行いリスクヘッジを行っています。
債券の平均格付けはAA+(③)と非常に高く、安定的に長期運用できるよう配慮を行っています。
また、これだけ高格付け債券で構成しているにもかかわらず、平均利回りは4.3%(④)と高い点も大きなポイントとなっています。
このポートフォリオの特徴は、「安定重視型」として高格付け債券で固めたにもかかわらず、平均4.3%と高い利回りを実現できている点でしょう。
これは、2024年の年初から米ドル債券の利回りが高止まりしていることが大きな要因です。
アメリカでは、早ければ年内にも利下げが開始されるといわれており、利下げが開始された場合、同等の利回りでポートフォリオを組むのであれば、やや債券の格付けを下げる必要が出てくるかもしれません。
このため、利回りが高止まりしている現在は、米ドル建て債券投資を行うのによいタイミングといえるかもしれません。
なお、この「安定重視型」ポートフォリオを含めた「2024年最新米ドル債券投資戦略」は、次の記事で紹介しております。ぜひ、併せてご覧下さい。
まとめ:円安・円高を理解して賢く債券投資
本記事では、米ドル建て債券の基礎知識として「円高・円安が与える影響」について解説してきました。
米ドル債券投資において円高・円安は収益性とリスクを考えるうえで大きなポイントです。
しかし、記事中で触れた通り、「金利によるクッション効果」が働くため、長期投資によって一定のリスクを避けられるのも事実です。
また、「安定重視型」ポートフォリオを構築することで、安定的に高い利回りを得ることも可能です。
なお、ウェルス・パートナーでは、実績が豊富なプロのアドバイザーが、無料で債券運用の相談を承っております。
米ドル債券投資に興味をお持ちの方は、ぜひ気軽にご連絡ください。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中