はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
本日のテーマは、「米ドル債券ポートフォリオの『残存期間』が短くならない方法」です。「今は、このような米ドル債券に投資してポートフォリオを作りましょう」というように、投資実行時のお話が多いと思いますが、今回は、米ドル債券ポートフォリオを作った、投資後のお話が中心になります。
富裕層の方から、債券ポートフォリオの残存期間についてよくご質問をいただきます。今は、ある程度、残存期間を長めにした方がよいのですが、この平均残存期間は、時間の経過とともに短くなります。例えば、最初にポートフォリオを組んで、平均残存年数が15年だとします。1年経てば14年、2年経てば13年というように、時の経過とともに残存期間は当然短くなっていきます。
債券ポートフォリオには、ある程度残存期間を長くしておいた方がいい理由があります。今回は、その理由と、残存期間を短くしないための方法がありますので、それについてお話しさせていただきます。
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米ドル債券ポートフォリオの「残存期間」を短くしないほうがいい理由
米ドル円と米ドル債券価格の逆相関
残存期間が短くならない方法の前に、なぜ残存期間を短くしない方がいいのか、その理由からご説明します。こちらのイラストをご覧ください。
為替の米ドル円と米ドル債券の価格、この価格の逆相関を成立させるためというのが理由です。つまり、米ドル円がドル高円安で値上がったとすると米ドル債券の価格は下がり、米ドル円がドル安円高で値下がると米ドル債券価格は上昇します。この逆相関を成立させる、価格が逆の動きになる関係を成立させるために、米ドル債券ポートフォリオの残存期間を短くしない方がいい、当初の状態を保った方がいい、ある程度長いままにした方がいいという理屈が成立します。こちらは、米ドル円と米ドル債券の価格のチャートです。過去3年の動きを見ていきましょう。
青色のチャートが米ドル円のレートです。オレンジ色のチャートが期間が長い米ドル社債(期間10年超)のETFの価格の推移を表しています。3年前はかなりドル安円高の水準で110円ほどでしたが、そこから2022年以降かなりドル高円安で推移し、上下していますが、基本的には上がり基調で推移しています。
オレンジ色の米ドル社債の価格は、かなり逆の動きをして推移しているのが、この過去3年のチャートでわかると思います。ですから、米ドル円が値上がると社債の価格が下がり、逆に米ドル円が下がると債券価格が上がるというチャートになっており、米ドル円の推移と米ドル債券価格の推移は逆相関の状態になっているわけです。
このような逆相関が成立していれば、期間が長い米ドル債券に投資をしておけば、ドル高円安になれば債券価格は下がり、逆にドルが下がれば債券価格が上がるという関係になります。今は、ドル安円高になるリスクを恐れている方がいると思いますが、そのときは債券価格が上昇するので、債券の円評価ベースで見ると、プラスマイナス0の状態になっていることが多いです。そのような関係を成立させることによって、純粋に債券ポートフォリオから利益収入=インカムゲインを得られ、債券価格や為替の円評価ベースではプラスマイナス0の状態が成立します。これが残存期間を短くしない方がいい理由となっています。
これには一つ重要なポイントがあります。オレンジ色のチャートがどういうものかということに関係しているのですが、期間が長くないとダメなのです。債券の期間がオレンジのチャートは10年超の債券ETFですので、平均の残存期間は10年~20年の債券の価格の動きになっています。この期間が短いとこれほど連動はしません。これほど逆相関になっていないわけです。
仮に、期間が2年~3年の債券ばかりのETFだったとすると、米ドル円が上がるときにこれほど下がらず、逆に米ドル円が下がるときに上がらないです。少しは連動しますが、連動性がすごく下がるというイメージになります。
ですから、この米ドル円と逆の動きをするためには、期間がある程度長い、少なくとも10年~20年くらいの残存期間が必要になりますので、そのような債券を持った方がよいでしょう。債券のポートフォリオを組むときも、平均残存期間を10年~20年に設定して、米ドル円の動きと逆相関を価格ベースでできるようにするというのが、残存期間を短くしない方がいい理由になっています。
残存期間が長いほど金利変動の債券価格への影響が大きい
残存期間を短くしない方がいい理由としては、米ドル円と債券価格の逆相関を成立させるためとお伝えしました。こちらは、期間が長い債券ほど金利変動の債券価格への影響が大きいということをわかりやすく表したイラストです。
左側の縦軸が債券価格で、横軸は債券期間です。あくまでイメージですが、残存期間が10年、20年、30年のときに、金利が0.5%、1%上下した場合にどれぐらい債券価格に影響を与える可能性があるのかを、過去の経験則で端的に表しています。
期間が10年の債券の場合、金利が0.5%下がると+3.5%値上がる可能性が高く、金利1%低下するとプラス7%くらい上昇します。逆に金利が0.5%上昇すると−3.5%債券価格が値下がり、1%上昇すると−7%値下がるという可能性が高いことを示しています。
期間が20年になると、単純に倍程度、金利変動が債券価格に与える影響が大きくなっています。0.5%金利が下がると+7%上昇し、金利が1%低下すると+14%になる可能性が高いです。金利が上がると、-7%、−14%と値下がりする可能性が高くなります。
さらに期間が長い30年ほどの債券に投資される方が最近は特に多いですが、この程度の債券はさらに影響が大きくなります。金利が0.5%下がると債券価格が10%値上がり、金利が1%低下すると20%値上がる可能性が高いです。このように、金利が上昇すると逆の動きになるわけです。
ですから、先ほどお伝えしたように、米ドル円と債券価格を逆相関、逆の動きをさせるためには、ある程度残存期間が長い債券を組み込まなければなりません。
では、どれぐらいの残存期間がよいのでしょうか。これも過去数年の、あくまでトラックレコードによる経験則でお伝えします。金利が1%上下することによって、ドル円のレートがどれぐらい影響を受けているかというと、アメリカの金利が1%上がると、大体ドル円が10%ほどドル高円安になり、逆にアメリカの金利が1%下がるとドル円が10%円高にいくことが多いです。
そう考えると、同じような相関連動率にする、逆の動きをさせるためには、残存期間は15年くらいが丁度いい可能性が高いと思います。15年は10年~20年の間になりますので、金利が0.5%下がると+5%債券価格が上がり、金利が1%下がると+10%上がるというイメージになっているわけです。
ですから、最近私たちが米ドル債券ポートフォリオをご提案するときは、平均残存期間が15年程度になることが基本的に多くなっています。ここで、今回のタイトルの本題に入ります。
債券ポートフォリオ15年で組んだものの、1年、2年、3年と時間が経てば、残存期間は短くなってきます。短くなると、金利が下がったときや上がったときの債券価格の影響が小さくなり、「米ドル円の為替と債券価格の逆の動きをする連動性が下がるのではないか?」「平均残存期間がどんどん短くなっていくけど、大丈夫ですか?」というご質問いただくことが多いわけです。もちろん相場観によりますが、今の場合、平均残存期間15年くらいをキープし続けるのが一番理想的かと思います。しかし、時間の経過とともに短くなっていく場合、どうすればいいのかというのが今回のテーマになっているわけです。
米ドル債券ポートフォリオの『残存期間』が短くならない方法
米ドル債券ポートフォリオ(当初→3年後)
ここから、いよいよ本題の「米ドル債券ポートフォリオの『残存期間』が短くならない方法」について具体的にお話ししていきます。こちらは、米ドル債券ポートフォリオを当初組んだ状態から3年後のイメージです。
今回は、わかりやすくするために、ポートフォリオをシンプルにしました。1債券3,000万円、10債券全て米国債で合計3億円、残存期間は、1年未満を切り捨て、3年~30年の残存期間にします。平均の残存期間は16年です。利回りは、米国債の場合このようなイメージになります。
平均残存期間は、最初は16年ですが、3年経つとNo. 1の残存期間3年の米国債が償還し、3,000万円程度のドルでお金が返ってきます。そのときに、右側のイラストのように、返ってきた米国債の元本を期間が長い債券に投資するというのが、残存期間を短くしないための方法になるのです。
では、どの程度期間が長いものかというと、当初債券ポートフォリオ組んだなかで一番長い残存期間が30年でしたので、その程度の期間の債券に投資するのがよいと思います。当初の債券ポートフォリオのNo.1の債券が償還され元本が返ってきますので、右側のポートフォリオの一番下の、期間が一番長い債券に投資する、つまり、No.1の債券が3年後には30年の期間の債券になるわけです。
他の債券は3年ずつ残存期間が短くなっています。そしてまた3年経つと、平均残存期間も基本的に3年短くなりますが、30年の債券がポートフォリオに加わりましたので、平均残存期間を見ていただくと16年になっています。ですから、3年経った後も30年の債券を組み直す、再投資することによって、平均残存期間は当初と同じ16年で変わっていないのです。これが、残存期間を短くしないための方法です。
米ドル債券ポートフォリオ(3年後→5年後)
さらにもう1債券償還したイメージをお伝えします。
3年後の状態が左側です。さらにそこから2年経ち、債券ポートフォリオを組んでから5年後どうなったかを見ていきましょう。
残りの残存期間2年のNo.2の債券が償還し元本が返ってきたとします。そのとき、また期間が30年の債券に投資します。そうすると、5年後は右側のポートフォリオのようになり、一番長い債券30年が加わって、残りの債券は2年ずつ残存期間が短くなっています。平均残存期間は一旦短くなりますが、30年の債券が加わることで、平均は17年になっているわけです。
このように期間が短い債券が償還してくるごとに、期間が長い債券に組み直し再投資することによって、債券ポートフォリオ全体の平均残存期間の長さを保ち、短くしないということができれば、最初にお伝えした、米ドル債券の為替と価格の逆相関の動きをすることが可能になります。それにより、ドル安にいってもドル高にいっても、債券価格が逆の動きをすることによって、債券の価格自体は、債券の円ベースの評価自体はあまり変えないようにするというのが、残存期間を短くしないための方法になっているのです。
まとめ
本日のテーマである「米ドル債券ポートフォリオの『残存期間』が短くならない方法」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)米ドル円と債券価格の逆相関を成立させるため
なぜ残存期間を短くしない方がいいのかというと、米ドル円と債券価格の逆の動きをする関係を成立させるためです。それによって、米ドル債券の円ベースの評価の価格を維持する、すごく上がったり下がったりしないようにするのが理由になっています。
ポイント2)当初設計時に残存期間を十分に分散させておく
当初、債券ポートフォリオを組むときは、債券を複数組み合わせると思いますが、十分に残存期間を分散させることが大事です。今回の債券ポートフォリオを見ていただいたように、数年に1回程度債券が償還してくることにして、期間が短いものから20年や30年と長いものまでを大体均等に償還してくるようにしておく、十分に残存期間を分散させておくことが、債券ポートフォリオの設計上、必要です。
ポイント3)償還した元本は残存期間が特に長い債券に投資
期間が短い債券が数年に1度償還して元本が戻ってきますが、その償還した元本を、当初組んだ特に長い債券に投資することによって、債券ポートフォリオ全体の平均残存期間が短くならないようにするというのが、今回のテーマの答えになります。残存期間を短くしないための方法です。
ポイント4)相場観ある場合は残存期間にバイアスかけてもいい
今回お話ししている残存期間が短くならない方法は、債券投資でいうと、セオリーの投資方法になります。セオリーというのは、特に相場観を持って投資するものではなく、金利に対してニュートラルな戦略で、一番多くの方が取られる戦法です。金利が上がっても下がってもどちらに動いてもいいように、期間を細かく分散して、等間隔くらいにして組むことになっています。
ただし、強い相場観がある場合は、この通りにしないといけないわけではありません。例えば、金利がすごく高い水準であったとしましょう。この高金利の状態は、ここ10年や20年絶対に来ないので、期間が長い債券だけに残存期間を寄せたいと思ったとした場合、そのような強い相場観がある場合は、そうした方がいいと思います。
強い相場観があるのに、このようなニュートラルの戦略を取る必要はなく、そのように金利が高くて二度と来ないチャンスだと思った場合は、期間が10年以上の債券だけに固めてしまうことや、20年以上の米ドル債券だけにしてしまうというのもアリではないかと思います。そのようなポートフォリオの残存期間で債券に投資する方も、実際にいらっしゃいます。
ただし、メリットもあればデメリットもあります。デメリットとしては、10年以上の債券だけで組んだとすると、10年間は債券が償還してこないので、債券ポートフォリオの平均残存期間は、10年間は短くなり続けることになります。20年以上の債券で組んだ場合も、20年間は債券ポートフォリオの残存期間が短くなり続けるわけです。ですから、今回のお話のように、期間が短い債券が償還してきて、長い債券に組み直すことによって、平均残存期間を保つという戦法は取れなくなります。
そのような金利の相場観があり、それを強く信じている場合は、デメリットも飲み込めるのであれば、期間が長い債券だけに固めてしまってもよいと思います。今はアメリカの金利が特に高い状態であると考えている方が多いので、10年以内だけの債券に投資される方は少なく、10年や20年だけの債券に投資される方が多いと思います。
本日は「米ドル債券ポートフォリオの『残存期間』が短くならない方法」という内容でお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中