はじめに
資産運用において、債券投資は安定した収益を得られる魅力的な存在です。しかし、より効率的な運用を目指す投資家にとって、債券投資による資産管理会社の設立は魅力的な選択肢となるかもしれません。資産管理会社を立ち上げることには、税制上の利点、専門的な資産運用の確立など、多くのメリットがあります。本記事では、債券投資を中心とした資産管理会社の設立の利点と、その方法を初心者にも分かりやすく解説します。これから資産管理会社の設立を検討される方が、スムーズに設立を進められるよう、必要な手順を具体的に解説します。
資産管理会社とは
資産管理会社は、資産の運用・管理を目的として設立する会社です。資産管理会社が一般の会社と異なるのは、資産運用・管理以外の業務を行わないことです。
このため、資産管理会社のおもな収益源は、運用資産から得られるインカムゲインとキャピタルゲインとなります。
資産管理会社は債券投資のみでも必要なのか
資産管理会社の設立には、税制面や資産承継などでメリットがありますが、果たして債券投資のみの場合でも必要なのでしょうか?
これは一概にいえませんが、「債券の運用額」や「債券運用の目的」によって異なります。
個人で債券運用を行う場合には、「税率が低い」「コストや手間がかからない」というメリットがありますが、「所得分散」や「資産承継」が運用目的に含まれる場合は、資産管理会社による運用にメリットがあります。
個人と法人の税務比較
個人と資産管理会社(法人)の税務上の取扱いを比較してみましょう。
税率の違い
個人の場合、利益額に関わらず税率は20.315%です(債券など金融運用の場合)。
法人の場合は利益額によって異なり、利益額800万円以上の実効税率は約33%です。
このため、税率面だけ考えると個人の方が有利となりますが、他の項目では法人の方が有利となります。詳しくみていきましょう。
所得分散
債券の利息収入は、債券の所有者が受け取ります。つまり、親が債券保有者の場合、子供が利息を受け取ることはできません。
この点、債券の所有者が資産管理会社であれば、子供を役員とすることで利息収入を役員報酬として支払い、所得分散を図ることが可能となります。
また、債券の利息は決まったタイミングで支払われるため、収入として計画が立てやすいことも強みです。
経費
法人の場合、接待交際費や車両費、家賃などを経費に計上できますが、個人の場合はこれらを経費算入することはできません。
したがって、経費算入できる金額が大きいほど資産管理会社の方が有利となりますが、法人の運営に必要のない経費は認められないので注意が必要です。
なお、資産管理会社の場合は定款に「有価証券の保有、運用、投資及び管理」や、不動産投資を検討する場合は「不動産の保有、賃貸及び管理」などを入れることが一般的です。
損益通算
資産運用で損失が出た場合、個人は金融資産の中でのみ損益通算が可能です。しかし、債券運用で発行体が倒産した場合は100%損益通算できないということもあります。(クレディスイスのAT1債は個人のみ損益通算できないという判断もありました。)
一方、法人の場合はいわゆる「どんぶり勘定」のため、損失は債券の利息や不動産の収益、経費などと損益通算することが可能です。
さらに、法人の場合は外国債券担保ローン(証券担保ローン)の金利と債券の利息が損益通算可能です。
このため、外国債券担保ローンを利用して「運用効率を上げたい」「債券でレバレッジ運用をしたい」という場合は、資産管理会社の方が有利となります。
証券担保ローンの活用方法とメリットについては、次の記事をご覧下さい
損失繰越
個人は、資産運用で生じた赤字を3年間繰り越すことができます。
一方、法人の場合は、資産運用だけでなく、全ての損失を10年間繰り越すことが可能です。
「債券投資のみでも資産管理会社は必要か」については、これらを総合的に判断していくことが必要となります。
資産管理会社を設立した方がいい人とは
ここまでは、「債券投資のみでも資産管理会社は必要か」について解説してきました。
続いて、債券投資以外の資産運用を行っている方について、「資産管理会社を設立した方がよい場合」を解説します。
課税所得1000万円以上の人
課税所得が1,000万円以上の人は、資産管理会社の設立を検討した方がよいでしょう。
課税所得とは、所得税の課税対象となる個人所得のことです。
具体的には、給与所得や不動産所得などから必要経費を除いた「所得」から、基礎控除や配偶者控除など、各種所得控除を引いた金額のことです。
所得税は、この課税所得金額に所得税率をかけて算出します。
以下の表は、課税所得金額ごとの所得税と住民税率です。
個人は、「累進課税」といって年収が上がるほど税率も上がる仕組みになっています。
ここで注目すべきなのは、課税所得金額900万円以上の場合の所得税と住民税を合わせた税率が43%となっている点です(所得税33%+住民税10%)。
法人は、800万円以上の利益が出ると法人税率が23.2%ですが、その他の税金を加味した実効税率が約33%となっています(2024年6月現在)。
したがって、課税所得金額900万円を超える場合は、法人税の方が実行税率が低くなるため、資産管理会社の設立を検討した方がよいといえます。
ただし、資産管理会社の設立にはコストがかかるため、実質的には課税所得金額1,000万円を超える場合に設立を検討するとよいのではないでしょうか。
キャッシュフロー目的で不動産投資をする人
キャッシュフロー目的で不動産投資する人も資産管理会社の設立を検討すべきです。
個人で得た賃料収入は所得税・住民税の対象ですが、「累進課税」という仕組みであるため収入が上がるほど税率が高くなり、年収の高い人が不動産投資をすると税負担が重く、税引き後キャッシュフローが少なくなるためです。
これに対して、資産管理会社で不動産を保有した場合は「どんぶり勘定」となり、幅広く損益通算が可能であるため、税引き後キャッシュフローを確保しやすくなります。
また、前述の通り法人は個人で不動産投資する場合よりも、経費を幅広く計上できるため、利益を圧縮できるというのもメリットです。
相続争いを避けたい富裕層
相続争いを避けたい富裕層の方も資産管理会社の設立を検討すべきでしょう。ただし、資産管理会社の設立にはコストと手間がかかるため、一定額以上の資産がある場合に限られます。
例えば、ご本人様が多額の資産を持ち、お子様が複数いる場合は相続争いが起こる可能性が高くなります。
この場合、奥様に資産管理会社A、長男に資産管理会社B、長女に資産管理会社Cなど、お子様の数だけ資産管理会社を作ることで、資産承継プランが明確になり、相続争いを回避することが可能となります。
また、不動産を保有している場合、相続時の遺産分割や登記変更など、何かと面倒な手続きが発生し、トラブルのもとになることがあります。
この点、資産管理会社で不動産を保有している場合は、資産管理会社の株式を相続人に渡すことで相続手続きが完了するため、相続争いを避けることができます。
資産管理会社を設立する流れ・必要書類
資産管理会社を設立する流れと必要書類をみていきましょう。
資産管理会社を設立する流れは次の通りです。
・会社の基本情報決定
・法人用の実印作成
・定款を作成・認証を得る
・資本金の払込み
・登記書類の作成・法務局への提出
・税務関係書類の作成・税務署への提出
設立の必要性があるか検討する
前述の通り、債券投資のみを行う場合、資産管理会社を設立すべきかどうかは「債券の運用額」や「債券運用の目的」によって異なります。
このため、「本当に資産管理会社設立の必要性があるか」を検討することが必要です。
また、将来的に不動産投資を行う可能性があるかどうかも、検討する際の大きなポイントになります。
会社の基本情報決定
資産管理会社の設立が決まったら、事業内容(債券の運用・管理など)や会社名、事業年度、役員、本店所在地(自宅とすることも可能)など、会社の基本情報の決定を行います。
法人用の実印作成
資産管理会社を設立する場合、個人の実印とは別に法人の実印(代表者印)を作成する必要があります。
また、実印の他に銀行取引印や角印、社名や住所の入ったゴム印を作成するとよいでしょう。
これは、通常の業務や書類でむやみに実印を用いると、印影から実印を偽造される懸念があるからです。
定款を作成・認証を得る
会社の基本情報をもとに、法人の目的や商号、本店の所在地、設立時の出資額を記した定款を作成し、公証人役場で認証を受けます。
なお、定款の記載内容は、会社の決まり事として法的拘束力を持つので注意が必要です。不安であれば、司法書士や行政書士などに作成を依頼するのもよいでしょう。
資本金の払込み
定款の作成・認証が終わった段階で、銀行に資本金の払込み手続きを行います。
なお、この際に発行される「払込証明書」は法人設立登記で必要な書類となります。
登記書類の作成・法務局への提出
法人設立登記のため登記書類を作成します。定款のほかに登記申請書、代表取締役の就任承諾書、出資金払込証明書など、いくつかの書類が必要になります。
登記書類がすべて準備できたら法務局へ提出します。登記書類の作成を司法書士に依頼した場合は、司法書士から法務局へ提出することが一般的です。
税務関係書類の作成・税務署への提出
登記書類の提出を行い、法人設立手続きが済んだら会社の所在地を管轄する税務署へ届出を行います。
必ず提出が必要な書類は、「法人設立届出書」「源泉所得税関係の届出書」「消費税関係の届出書」などです。
他に必要な書類は、税務署や税理士に相談しましょう。
資産管理会社の設立や維持にかかる費用
資産管理会社の設立には、「定款の認証手数料」「定款の謄本手数料」「定款用の収入印紙代」「登録免許税」など、さまざまな費用がかかります。
必要な費用は株式会社と合同会社で異なりますが、概ね10万円〜30万円ほどです。
また、資産管理会社の維持には、「法人住民税」「役員変更登記費用」「税理士への報酬」などの費用がかかります。
まとめ
資産管理会社には、さまざまなメリットがありますが、債券運用で設立すべきかどうかは、「債券の運用額」や「債券運用の目的」からみて総合的に判断する必要があります。
このため、自分で判断できない場合は、IFA(独立系金融アドバイザー)などプロに相談するとよいでしょう。
私たちウェルス・パートナーでは、これまで多くの富裕層の方々へ資産管理会社設立のアドバイスや設立のサポートを行ってきました。
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株式会社ウェルス・パートナー
ポートフォリオマネージャー
成蹊大学法学部卒業後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券へ入社。富裕層と会社経営者を中心とした資産運用のコンサルティング業務に従事。 証券会社では金融資産に対しての提案しかできないことに違和感を感じ、金融資産だけでなく実物資産や相続対策を含めた資産全体の最適化提案がしたいと思い株式会社ウェルスパートナーに入社。富裕層、会社経営者の資産配分最適化。 具体的な金融資産の投資実行サポート。 資産管理会社設立から相続対策など税務最適化。 超富裕層のインターネット企業創業メンバーに特化した新規顧客開拓。