目次
はじめに
富裕層は「資産を築く」より「資産を守る」立場に立たされています。資産を保全しながら着実に増やしていくためには、安定した収益を生む投資先の選定と適正なリスク管理が求められます。その意味で、不動産は長期的な収益を狙えるだけでなく、インフレ対策や税金対策としても非常に有効な資産クラスです。
本記事では、富裕層が不動産投資を始めるべき理由を掘り下げるとともに、2025年の市場動向を踏まえた戦略や注意点について解説します。
富裕層が不動産投資を始めたほうが良い理由
不動産投資は、富裕層にとって単なる資産運用の手段を超え、さまざまなメリットを提供するものになっています。ここでは、富裕層にとっての不動産投資のメリットを解説します。
安定したインカムゲイン
不動産投資のもっとも大きな魅力は、賃貸収入による安定したインカムゲインです。特に賃貸需要が高いエリアに物件を所有すれば、長期的に高い入居率を維持しやすく、安定した収益が期待できます。
安定したインカムゲインを得るためには、地域の賃貸需要の分析や物件の管理体制構築が重要です。安定した賃貸需要が見込まれるエリアに投資することで、空室リスクを低減できます。また、物件の維持管理を適切に行うことで、賃料収入の継続性を確保できます。
キャピタルゲインのチャンス
近年の不動産価格の上昇により、売却益(キャピタルゲイン)を得られる可能性も不動産投資の大きな魅力です。特に都市部では再開発やインフラ整備が進む地域が多く、物件価値の上昇が期待できます。
キャピタルゲインを最大化するには、物件購入時の価格交渉や市場調査が重要です。特に再開発が進むエリアや、今後の需要が高まると予想される地域を見極めることが、成功の鍵となります。
レバレッジ効果を活用できる
不動産投資の大きな特徴として、金融機関からの融資を活用して比較的少ない自己資金で大きな資産を運用できる点が挙げられます。例えば、1億円の物件を購入する際に、自己資金1,000万円と銀行融資9,000万円を組み合わせれば、1/10の自己資金の用意で1億円の資産が運用できるのです。
富裕層であれば手持ちの資金が十分にあるため、融資を使わない選択肢もあります。ただ、レバレッジによって自己資金に余裕をもたせれば、投資の機会損失を防ぐことにもつながります。
また、富裕層であれば金融機関の属性評価も高くなり、低金利・長期間の融資条件を引き出せる点も強みになるでしょう。
インフレ対策になる
不動産はインフレに強い資産です。インフレが進むと現金や債券の実質的な価値が下がる一方で、不動産は価格が上昇しやすい傾向にあります。このため、資産価値を保つ手段として不動産の所有は非常に有効です。
インフレ局面では「債務者利得」というメリットも享受できます。債務者利得とは、インフレによって債務者が負担する負債の価値が減少して得られる利益を指します。不動産投資は融資を活用して行われるため、債務者が借入金を返済する際に返済額の実質的な価値が目減りします。
不動産は、インフレ時における資産保全と効率的な債務活用を可能にする投資先といえるのです。
税金対策になる
不動産投資は減価償却という会計処理によって、所得税や住民税を軽減する手段としても有効です。減価償却とは固定資産を取得した際の費用を、その資産の耐用年数にわたって分割して経費として計上する会計処理を指します。この会計処理によって、現実にはキャッシュアウトしなくても不動産所得を帳簿上赤字とすることができ、損益通算によって課税所得を圧縮できます。
例えば、年間賃料収入1,000万円の物件で減価償却費(とその他の経費)1,200万円を計上すれば、不動産所得は200万円の赤字となり、他の所得と合算して税負担を大幅に軽減できます。
節税効果を高めるためには、築年数の古い収益物件を取得する方法が有効ですが、空室リスク・修繕リスクなどを意識する点も重要です。
相続対策としても有効
富裕層・資産家にとっては、相続や事業承継も意識されるところです。不動産は、現金や金融資産に比べて相続税評価額を圧縮できるため、相続対策として有効です。
例えば、時価1億円の金融資産を賃貸不動産に組み換えれば、相続税評価額を3,000万円程度に抑えられるケースがあります。この手法を活用すれば、相続税の負担を軽減しつつ、次世代への資産の引き継ぎを効率的に進められます。
富裕層が意識すべき分散投資
一定規模の資産を保有する富裕層にとっては、資産を守り、増やすために分散投資を意識する必要があります。経済の変動や市場の不確実性に備えるためには、特定の資産クラスや投資対象に依存せず、リスクを分散させなければいけません。
不動産は、この分散投資戦略において特に重要な役割を果たします。その理由を、分散投資の基本的な考え方や具体的な手法を通じて解説します。
分散投資とは
分散投資とは、資産を複数の異なる種類に分けて投資し、リスクを軽減する手法を指します。分散投資の考え方の根底には、「すべての卵を一つのかごに入れない」という資産防衛の基本原則があります。
投資の世界では、国内株式・国内債券・外国株式・外国債券が「伝統的資産」とされており、例えばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)はこの4種に25%ずつ投資しています。
【GPIFの基本ポートフォリオ】
国内債券 | 外国債券 | 国内株式 | 外国株式 | |
資産構成割合 | 25% | 25% | 25% | 25% |
乖離許容幅(各資産) | ±7% | ±6% | ±8% | ±7% |
乖離許容幅(債券・株式) | ±11% | ±11% |
出典:年金積立金管理運用独立行政法人 基本ポートフォリオの考え方
不動産は株式・債券とは異なる値動きをする特徴があるため、アセットに組み込むことで全体のリスクを分散させる効果があります。
例えば、株式市場が暴落しても、賃貸収入が安定していれば、不動産からのキャッシュフローで収益を確保できます。異なる資産クラスを組み合わせることで、一つの市場や経済要因に依存しない安定したアセットを構築できます。
アセット・アロケーション
分散投資を実現する上で重要なのが、資産配分(アセット・アロケーション)の戦略です。アセット・アロケーションとは、保有資産を複数の資産クラス(株式、不動産、債券、現金など)にどのような割合で配分するかを決める戦略です。この配分比率は、投資家のリスク許容度や目標に応じて最適化されます。
例えば、株式市場が不安定な時期でも、不動産は相対的に安定した収益確保ができるとされています。不動産は長期的な収益源としてだけでなく、インフレ耐性を持つ資産としても有効です。一例として、株式50%、不動産30%、債券20%といったバランスを取る方法があります。この資産配分により、株式市場が低迷しても他の資産クラスからの収益でアセット全体の安定性を維持できます。
ポートフォリオの具体化
ポートフォリオとは、アセット・アロケーションの戦略にもとづいて実際にどの投資商品を選ぶかを決める具体的な設計図です。このプロセスでは、投資の目的や目標に応じて、個別の資産や銘柄を選定します。
例えば、株式部分ではS&P500指数連動の投資信託や全世界株式インデックスファンドを選び、債券部分では米国国債や優良企業の社債を組み合わせるなどが考えられます。不動産においては、安定した賃貸収入を得られる一棟アパートや価格上昇が見込まれる再開発エリアの区分マンションを選ぶなどです。
ポートフォリオを具体化する際には、資産配分の枠組みを守りながら、それぞれの投資対象の特性や市場動向を踏まえて最適な選択を行う必要があります。適切なポートフォリオの設計により、資産全体の成長を目指すと同時に、大きな損失の回避が可能になります。
分散投資は、富裕層が資産を長期的に維持・成長させるための鍵となる戦略です。不動産はその中で特に重要な役割を果たし、安定性と収益性の両面からポートフォリオを支えます。
2025年の不動産市場予測とリスク要因
2025年の不動産市場は、都市部の再開発や外国人投資家の動向、さらには金利や為替の変動など、さまざまな要因によって影響を受けると予想されます。本章では、これらの市場動向とリスク要因について詳しく解説します。
近年の不動産市場のトレンド
2025年の市場を理解するには、近年の不動産市場トレンドの分析が欠かせません。都市部では、高級マンションの需要が引き続き高まっています。東京や大阪といった主要都市では、再開発プロジェクトやインフラ整備が進行中であり、これが物件価格の上昇を後押ししています。外国人投資家の参入も市場を活性化させており、特に東京都心部ではこの傾向が顕著です。
一方、地方の不動産市場では異なる課題が見られます。人口減少が進む地方では賃貸需要の低下が見られ、これが物件価格の下落を生んでいます。都市部と地方の間で二極化が進む中、投資家はエリアごとの特性を慎重に見極める必要があります。
ドル円相場の変動
為替レートの変動も、2025年の不動産市場に大きな影響を与える要因の一つです。特に円安が進行すると、日本の不動産は海外投資家にとって魅力的な投資先となります。最近の円安の影響で、中国の富裕層が東京・大阪などの高級マンションを大量購入するケースが目立っています。
一方、円安の進行は国内投資家にとって必ずしも有利ではありません。建築資材の輸入コストが上昇し、建設費用が高騰する可能性があります。海外不動産投資を検討している場合には、円安が投資負担を増大させるリスクを考慮する必要があるでしょう。為替レートの変動は、不動産市場全体に複雑な影響を与えるため、投資家はこれを慎重に見極める必要があります。
金利の引き上げ水準
【基準割引率および基準貸付利率の公表データ(2001年以降)】
実施年月日 | 基準割引率および基準貸付利率(%) |
平成13(2001)年 1月 4日 | 0.50 |
平成13(2001)年 2月13日 | 0.35 |
平成13(2001)年 3月 1日 | 0.25 |
平成13(2001)年 9月19日 | 0.10 |
平成18(2006)年 7月14日 | 0.40 |
平成19(2007)年 2月21日 | 0.75 |
平成20(2008)年10月31日 | 0.50 |
平成20(2008)年12月19日 | 0.30 |
令和 6(2024)年 8月 1日 | 0.50 |
出典:日本銀行 基準割引率および基準貸付利率(従来「公定歩合」として掲載されていたもの)の推移公表データ一覧
金利動向は、不動産市場に直接的な影響を与える要因です。2025年には、日本銀行が金融緩和政策を縮小し、金利を引き上げる可能性が高いとされています。金利が上昇すればローンのコストが増加するため、不動産取引自体が縮小する可能性があります。
金利上昇局面では、変動金利よりも固定金利ローンが安定性を提供するため、富裕層にとってリスクヘッジの手段として有効です。キャッシュフローや投資目的に応じたローン商品を選定することで、長期的な資産運用の安定性を確保できます。
2025年の不動産市場は、多くの成長機会を提供する一方で、不確定要素も存在します。都市部と地方の市場動向の違い、為替レートや金利の影響を総合的に判断した投資戦略の立案が成功への鍵となります。
富裕層が不動産投資で注意すべきポイント
不動産投資は、富裕層にとって資産を増やし保全するための有力な方法ですが、特有のリスクもあります。投資を成功させるには、十分な準備と綿密な計画が必要です。
本章では、富裕層が不動産投資を始める際に特に注意すべきポイントについて解説します。
リスクマネジメントを徹底する
不動産投資には、空室リスク、賃料滞納リスク、価格下落リスク、修繕リスク、災害リスクなどのさまざまなリスクがつきものです。リスクマネジメントは、これらのリスクを特定・評価し、対策を講じるプロセスを指します。
需要が低いエリアで物件を購入した場合、長期間空室が続きキャッシュフローを悪化させる可能性があります。空室リスクや価格下落リスクを最小限に抑えるには、市場分析の徹底化が重要です。賃貸需要の市場分析は、地域の経済状況や人口動態、賃貸住宅の成約件数・供給戸数・成約賃料の動向、社会的なトレンドを考慮しながら行います。
災害リスクについては、火災保険・地震保険の加入で対処します。賃料滞納リスクには家賃保証会社への加入を促し、入居審査を徹底する方策を採用します。
富裕層を狙った詐欺案件に注意する
詐欺案件を警戒する姿勢は常に必要ですが、富裕層であればなおのこと重要です。富裕層をターゲットにした詐欺案件は後を絶ちません。富裕層は資産拡大の局面というよりも資産防衛の局面にあるので、この意識が必須のものとなります。
高利回りや未公開案件を謳う話には注意が必要です。このような案件は、一見魅力的に見えるかもしれませんが、詳細を確認すると法外なリスクや不透明な条件が含まれていることが多々あります。
詐欺を回避するためには、物件や売主の背景調査が重要です。例えば、売主や不動産会社の信頼性を調査し、物件の権利関係や管理状況の確認でリスクを低減できます。契約内容が曖昧な場合は、専門家の意見を求め、内容を明確にするように求めます。
投資判断を下す際には、感情に流されず冷静な視点が必要です。特に、短期間で大きな利益を約束する案件や、即決を求められる場合は慎重に対応しましょう。
信頼できる不動産会社とパートナーを組む
不動産投資の成功の鍵は、信頼できるパートナーとの連携にあります。不動産会社、税理士、弁護士などの専門家との協力体制を築き、情報の正確性や契約の透明性を確保できます。
不動産会社を選ぶ際には、過去の実績を確認します。過去に取り扱った物件のパフォーマンスや顧客からの評価を調査し、会社の信頼度を測ります。契約内容が明確で透明性があるか、購入後のアフターサービスが充実しているかも重要なポイントです。
不動産投資は物件購入後が本番です。賃貸管理を首尾よく実施するには、信頼できる管理会社との協力が重要となります。定型的な管理業務だけでなく、賃貸経営のサポートと助言をしてくれる管理会社とのパートナーシップが極めて重要になるのです。
まとめ
資産をしっかりと守り、さらに増やしたいと願う富裕層にとって、不動産投資は最適な方法の一つです。2025年の不動産市場は、魅力的な投資機会を提供するのではないかと予想されます。
アセット・アロケーションを意識して、保有資産に不動産を組み入れることで、盤石の資産防衛が可能になります。慎重な計画と準備で、不動産投資を資産形成の強力な柱としましょう。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中