はじめに
一棟マンション投資は、多くの投資家が資産形成の一環として注目する投資手法です。その成功の鍵を握るのが「内見」と「事前調査」。内見時に適切なポイントを押さえられるかどうかで、投資の成否が大きく変わることも少なくありません。
本記事では、一棟マンション投資の基礎から、内見時に見るべき具体的なポイント、さらに購入手続きの流れまでを網羅的に解説します。このガイドを活用し、失敗を防ぎながら賢明な投資判断を下せるようになりましょう。
一棟マンション投資とは
出典:健美家 収益物件 市場動向 マンスリーレポート 2024年11月期
そもそも一棟マンション投資とはどのようなものなのか、概要を解説します。
一棟マンション投資の概要
一棟マンション投資は、賃貸マンションを一棟丸ごと購入して入居者に賃貸して、安定的な家賃収入を得る投資方法です。
マンション投資には、一棟マンション投資と区分マンション投資があります。区分マンション投資は、マンションの一室を所有しそれを賃貸する投資方法です。
一棟マンション投資のメリット
一棟マンション投資の最大のメリットは、物件の選定を間違えなければ長期にわたって安定した家賃収入を得られる点です。部屋数が多いため空室リスクを分散でき、いくつかの空室が発生しても収益がゼロにはなりません。建物全体を所有するため、賃貸管理などマンション経営の自由度が高い点も魅力です。
一棟マンション投資のデメリット
一棟マンション投資のデメリットには、高額な初期投資が必要な点が挙げられます。物件価格が高いため、数千万円から数億円の資金が必要です。金融機関による融資を活用するならば、審査はかなり厳しくなります。修繕が発生した場合の費用も高額になる傾向にあるため、その準備も考慮しなければなりません。
一棟マンション購入申し込みまでの手順
一棟マンション投資において、内見が極めて重要な工程である点は冒頭述べましたが、内見も含めて物件の購入までにやるべきプロセスがあります。
ここでは、中古一棟マンションの購入申し込みに至るまでの具体的な手順を簡潔に解説します。
投資目的の設定
投資目的の明確化は、物件選びや運用計画の基盤です。目的が不明瞭だと一棟マンション投資は失敗に陥る可能性があります。長期的な資産形成を目指す場合、多少利回りが低くなっても築浅や好立地物件が有利です。
一方、高利回りを追求するなら、築古物件などを検討します。ただし、築古物件では修繕費が課題となるため、事前の調査が必要です。投資目的を文書化し、キャッシュフローをシミュレーションすることで、目標達成の可能性を検証します。
不動産会社への相談
信頼できる不動産会社の選定は、成功の鍵です。取引実績が豊富で評判の良い会社を選びましょう。一棟マンションに特化した専門スタッフがいる会社は、より適切なアドバイスを提供してくれます。
不動産会社にはエリアや予算、物件規模など具体的な希望条件を伝えることで、ニーズに合った物件情報を得られます。複数の会社に相談し、条件を比較することで最適な選択が可能になります。
物件情報の取り寄せ
希望条件にもとづく物件情報を収集する段階です。不動産会社が加入しているレインズ(指定流通機構)や不動産ポータルサイトを活用し、エリア、築年数、物件価格などを条件に候補を絞ります。
目ぼしい候補が見つかったら、不動産会社に依頼して、物件概要書やレントロール(賃貸借条件一覧表)などを取り寄せます。空室率は収益の安定性に直結するため、詳細にチェックが必要です。複数の物件情報をリスト化し、利回りや将来性を比較することで、効率的な判断が可能です。Excelなどのツールを使った整理が役立ちます。
物件の内見前に確認すべき書類については、次章で詳しく解説します。
内見と現地調査
内見は物件の現状を把握する絶好の機会です。事前に物件概要書やレントロールを確認し、チェックリストを準備しておきましょう。現地では、外観の劣化状況や共用部の管理状態を調査し、周辺環境の治安や騒音も確認します。写真や資料ではわからない要素を実際に確認することで、物件の価値を正確に評価できます。
この部分については、後ほど詳述します。
買付証明書の提出
目当ての物件が決まったら、売主に買付証明書を提出します。買付証明書の提出は、購入意思を正式に伝える重要なプロセスです。
この書類を通じて、売主と価格や条件の交渉が始まります。価格や引き渡し時期など希望条件を明記しつつ、交渉に柔軟性を持たせることでスムーズな進行が期待できます。提出のタイミングも重要で、他の購入希望者より早く行動することで交渉の優先権を得られます。
なお、買付証明書の提出時にいくらかの申込証拠金を支払う場合もありますが、手付金は違うので契約不成立の際は返金されます。
実際の不動産取得と賃貸経営開始に進むには、この後、金融機関の仮審査、不動産売買契約と手付金支払い、金融機関の本審査、物件引き渡しと残額の決済、管理・運用開始のプロセスがあります。
物件の内見前に確認すべき書類
内見前に必要な情報を把握することで、効率的かつ効果的に物件を評価できます。ここでは、内見前に確認すべき主要な書類について詳しく解説します。
物件概要書
物件概要書は、物件の基本情報が網羅された資料です。概要書には、建物の構造や築年数、専有面積、間取図などが記載されています。建物構造や築年数は、耐震性や劣化状況を推測する手がかりとなります。築年数が古い物件の場合、耐震基準を満たしているか、過去に改修が行われているかなどの情報を確認します。
専有面積や間取りは、入居者ニーズとの適合性を判断するポイントです。例えば、単身者向けであればコンパクトな1Kや1LDKが適している一方、ファミリー層をターゲットにする場合は広めの2LDK以上が求められます。物件概要書を通じて、ターゲット層の需要を見極められるのです。
レントロール(賃貸借条件一覧表)
レントロールは、物件の収益性を判断するために欠かせない資料です。この書類には、各入居者からの家賃収入や賃貸状況が記載されています。現在の家賃水準を把握することで、収益の安定性を評価できます。
空室率の確認も重要です。高い空室率は、そのエリアでの需要不足や物件の魅力不足を示している可能性があります。空室率が低い場合は安定した需要を示しており、投資対象として魅力的です。この情報をもとに、将来的な収益の見通しを立てることができます。
入居者の属性もチェックしておくべき項目です。レントロールによっては、あまり詳しい情報は掲載していない場合もありますが、売主に確認するなどして集められる情報は集めておきましょう。
マンション管理規約
マンション管理規約は、その物件を運営する上で守るべきルールが明記された資料です。例えば、ペットの飼育可否はターゲット層に大きな影響を与える要素です。ペット飼育可能な物件であれば、ペットを飼いたい層からの需要が期待できます。
修繕履歴
修繕履歴とは、物件に対して行われた修繕や改修の詳細を記録したもので、具体的には修繕の内容、実施日、費用などが含まれます。修繕履歴から見るべき情報は、次のものです。
・修繕の種類(例:外壁塗装、給湯器の交換、シロアリ駆除など)
・実施日
・修繕にかかった費用
・施工会社の情報
これらの情報から、物件の原状を把握できるため、将来の修繕計画が立てやすくなります。修繕履歴は物件の価値を維持し、将来的な売却時に有利に働く重要な情報になるので、物件取得後も記録するようにします。
固定資産税の納税通知書
固定資産税の納税通知書は、物件を所有する上で発生する年間コストを把握するための資料です。この書類には、固定資産税や都市計画税などの詳細が記載されています。これらの情報を基に、予算計画を立てることができます。
固定資産税額が高い物件は、毎年の維持費用が大きな負担となる可能性があります。そのため、収益性とコストのバランスを検討する際に重要な指標となります。納税通知書を確認することで、予算に合った物件選びが可能になります。
物件の内見時に見落としてはならないポイント
物件の内見は、購入の最終判断に直結する重要なプロセスです。ここでは、内見時に重点的に確認すべきポイントを具体的に解説します。
物件の外観
物件の第一印象は外観から始まります。外壁の状態は、建物の維持管理状況を把握するための重要な手がかりです。例えば、ヒビ割れや汚れが目立つ場合、修繕が必要になる可能性が高く、将来的な追加費用が発生する可能性があります。
駐車場や敷地内設備も確認しましょう。地方都市や郊外の物件の場合、駐車場の存在がポイントとなるケースがあります。スペースの広さや整備状況は、車を所有する入居者にとって大きな利便性を提供します。
また、敷地内に防犯カメラや24時間使用可能なゴミステーションなどが設置されている場合、入居者の満足度向上につながる要素となります。
共用部
共用部は、建物全体の管理状態を判断する上で欠かせないポイントです。廊下やエントランスの清掃状況が良好であれば、管理会社の運営がしっかりしているを判断できます。逆にゴミが散乱しているような場合は、管理会社の管理が悪く、入居者の民度も低い可能性があります。
防犯設備も重要です。オートロックの有無や防犯カメラの設置状況を確認することで、入居者の安全性に配慮した物件かどうかを見極められます。
室内の状態
室内の確認では、壁や床の傷み具合をチェックし、修繕が必要な箇所がないか確認しましょう。水回りは、築年数が経過するとどうしても劣化してきます。キッチンや浴室、トイレなどの設備が劣化していないか、水漏れの痕跡がないかを確認しておけば、修繕費用の見通しも立てられます。
設備
物件内に設置されている設備の稼働状況も確認します。エアコンや給湯器が正常に動作するか確認します。古い設備の場合、交換が必要になる可能性があります。防災設備の設置状況も見逃せません。非常口の案内が適切に行われているか、火災報知器が設置されているかを確認し、安全性を評価します。
周辺環境
物件周辺の環境は、住みやすさや入居者需要に大きな影響を与えます。
交通アクセス
最寄り駅やバス停までの距離は、通勤・通学の利便性に直結します。徒歩圏内に交通手段が整っている物件は、多くの人にとって魅力的です。
商業施設・公共施設
近隣にスーパーや病院、郵便局などの商業施設や公共施設がある場合、日常生活の利便性が高まります。ファミリー層をターゲットにする場合は、学校や公園の存在もポイントになります。
治安の状況
物件周辺の治安も重要な要素です。過去の犯罪データや周辺住民の評判を参考にし、安全性を確認しましょう。夜間の雰囲気など、実際に現地を訪れることで得られる情報もあります。
嫌悪施設の有無
物件周辺に騒音を発生させる工場やゴミ処理施設、反社会的勢力の事務所などの嫌悪施設がないかも確認します。これらの施設が近隣にあると、入居者の満足度や物件の価値に悪影響を与える可能性があります。
入居者の状況
既存の入居者がいる場合、その契約内容や物件の使用状況を確認します。違法な用途で使用されていないか、物件の管理会社や売主にも確認しておきましょう。
過去に事故や事件があった場合、その履歴も確認しましょう。事故物件であることが判明した場合、入居者需要や物件価値に影響を及ぼす可能性があります。
法令上の制限
法令上の制限についても確認しておきましょう。特にチェックしておきたいのは、次の2つです。
再建築不可物件…建築基準法の接道義務を満たしておらず、建物を建て替えることができない
既存不適格建築物…建築時は正当だったものの、その後の法令改正によって不適合になっている
リフォームや建て替えを検討する際、これらの制限が計画に影響を与えます。投資の出口である売却が非常に困難になることも予想されます。
これらの調査は、不動産会社に依頼すれば代行してもらえます。
まとめ
一棟マンション投資において、内見は成功のカギを握る重要なプロセスです。書類や資料だけでは把握しきれない物件の実態や、周辺環境の詳細を確認できる貴重な機会です。外観や共用部、室内の状態を丁寧にチェックすることで、修繕の必要性や収益性の課題を事前に把握し、リスクを大幅に軽減できます。
現地調査では治安や交通アクセスなど、入居者需要に直結するポイントを直接確認できるため、購入後の満足度を高める決断につながります。内見を徹底し、見逃しがちな点を確認することで、安心して投資を進められる基盤が整います。
まさに、「百聞は一見にしかず」。内見をしっかり行い、一棟マンション投資を成功に導いてください。
株式会社ウェルス・パートナー
リアルアセットマネージャー
早稲田大学商学部卒業後、大和ハウス工業株式会社へ入社。
富裕層・地主に賃貸住宅での土地活用ソリューション提案に従事。東急リバブル株式会社にて投資用不動産の売買仲介を経験後、株式会社ウェルスパートナーに入社。マネー現代など大手メディアでの記事執筆も行う。