会社売却後の資産運用戦略:元経営者が後悔しないための資産管理の考え方

はじめに:会社売却で得た資産の「次の一手」が重要

会社の売却は、経営者人生の集大成です。新たな人生のスタートでもあり、売却で得た数億円〜数十億円規模の資金は、まさに人生を変える規模の資産です。その資産をどのように活用し、守っていくのか、新たな人生設計を行う上で、極めて重要なテーマになるでしょう。

元経営者の多くは、リスクを取ってリターンを得るビジネスの世界で成功を収めています。資産運用においても、積極的にリターンを追求する傾向があります。しかし、人生100年時代では、資産を「使いながら減らさない」戦略が必要です。

本記事では、会社売却後に資産運用を始める、あるいは見直したいと考える元経営者に向けて、戦略的な資産設計の考え方を解説します。

資産運用の前に考えるべきこと

ライフスタイルと人生設計を見直す

最初に必要なのは、資産の運用方法を考える前に「どのような人生を送りたいか」を明確にすることです。自分自身に次のような質問を投げかけてみましょう。

  • 今後の生活で、どのようなことにお金を使いたいのか?
  • 子どもや孫に、どれくらいの資産を残したいと考えているのか?
  • 趣味や旅行、寄付などに資金を使う予定はあるのか?
  • 事業に再び挑戦する可能性はあるのか?

このような問いを通すことで、「自分は何のために資産を持ち、どのように活用したいのか」という軸が明確になります。この大きな軸が、資産運用を考える上での出発点になるのです。

経営者マインドから投資家マインドへ

経営者としての成功体験がある方は、リスクを取ることに慣れているかもしれません。ハイリスク・ハイリターンの考え方が身に付いている可能性があります。しかし、資産運用は経営とは異なり、失敗が「生活水準の低下」や「相続資産の減少」に直結するのです。

投資家として大切なのは、「リスクの適切な管理」「資産の分散」「長期的な視点」です。経営や事業では、直感やスピードが求められる場面もあります。一方で、資産運用においては、冷静な判断力と計画的な行動が重要です。

ポートフォリオ設計の基本

資産配分(アセットアロケーション)の考え方

資産運用の基本は、複数の「資産クラス」に分散することです。一般的には以下のように資産を分けていきます。

  • 現金・預金:生活資金、当面の支出用
  • 債券(国内・海外):安定収益を生む資産
  • 株式(国内・海外):成長リターンを狙う資産
  • 不動産:安定収入・インフレ対策・相続対策に有効
  • オルタナティブ資産(ヘッジファンド・金・暗号資産など):分散効果を狙う

 

ポートフォリオ設計の概要
資産の種類 用途・目的 メリット 気をつける点
現金・預金 生活費やすぐに使うお金 安全で使いやすい 価値下落の可能性がある
債券 安定した収入を得る 安定している 利回りが低い
株式 お金を増やす 資産増の可能性がある 値動きが大きい
不動産 家賃収入や資産にする 安定した収入になる 売却に時間がかかる
オルタナティブ リスク分散になる 他と異なる動きになる リスクが高い

元経営者の場合、「資産全体でのリスク管理」が特に重要になります。例えば、以下のような資産の分散が検討できるでしょう。

資産クラス 割合例(参考)
現金・預金 15%
債券 40%
株式 25%
不動産 15%
オルタナティブ 5%

この割合例は、年齢、生活コスト、再投資の意欲、家族構成などで調整が必要です。

リスク許容度と期待リターンのバランス

投資には必ずリスクが伴います。問題は「どの程度の下落まで耐えられるか」です。例えば、資産を1億円保有しており、年率3%のリターンが欲しい場合、債券とインデックス株式を組み合わせた戦略が現実的でしょう。一方で、年率10%以上を狙う場合、ハイリスクな手法やレバレッジ運用が前提となり、資産の毀損リスクも跳ね上がります。

期待リターンを追うあまり、過剰なリスクを取らないことが資産防衛の要です。

目標

リターン

主な戦略・商品例 リスク

水準

特徴・備考
年率3% 債券、インデックスファンド、60/40型 低~中 安定成長を重視。

大きな下落には比較的強い。

年率7~10% グローバル株式、新興国株式、REIT 中~高 長期での値動き許容が必要。

短期的な下落リスクがある。

年率10%以上 レバレッジETF、FX、先物、暗号資産など 高~極めて高い 元本より下落するリスクが高い。

資産クラス別の戦略的活用法

現金・預金:生活防衛と流動性の確保

  • 少なくとも「3年分の生活費」を確保
  • 医療・介護、家族イベントなどの突発的支出に備える
  • インフレリスクへの対応としては過剰保有に注意

現金や預金は、生活を守るための資金として、大切な役割を果たします。予期せぬ支出が発生した場合でも、安心して対応できます。生活費の3年分をまかなう現金の確保が理想です。例えば、月々の生活費が20万円の場合は、約720万円を手元に用意しておきましょう。このような対策によって、何かあったときでも慌てずに済みます。

医療費や介護費、家族の進学や結婚など、まとまったお金が必要になる場面にも備えておかなければなりません。一方で、現金や預金はインフレによって、価値が目減りするリスクがあります。必要以上に現金を持ちすぎると、資産全体の価値が下がる可能性があるのです。3年を超える分は、投資など他の資産で運用することも検討してください。

債券:インカムゲインの主力

  • 米ドル建て優良債券(A格以上)で利回り4%〜5%台も狙える
  • 満期保有による元本回収の見込み
  • 分散投資(期間、通貨、発行体)で安定性を高める

債券は、安定した利息収入(インカムゲイン)を得るための代表的な投資先です。株式のように、大きな値上がり益を狙いません。定期的に利子を受け取ることで、資産運用に安定性をもたらします。債券は満期まで保有すれば、額面通りの元本が返ってくる可能性が高いのです。

途中で価格が変動しても、満期まで持ち続ければ、元本と利子を安定して受け取れます。そのため、長期的な資産運用に向いています。しかし、債券投資でも分散は欠かせないでしょう。満期までの期間が異なる債券を組み合わせることで、金利変動リスクの軽減が行えます。米ドルだけでなく、他の通貨建て債券も取り入れることで、為替変動リスクの分散が図れるのです。

株式:成長資産としての役割

  • 世界分散型インデックス投資(例:VT、S&P500)を活用
  • 個別株は業種や地政学リスクに注意
  • 時間分散(ドルコスト平均法)で購入タイミングのリスクを抑える

世界分散型インデックス投資を活用することで、世界中の様々な企業に幅広く投資できます。特定の国や業種への依存を抑えつつ、資産の増加が狙えるのです。たとえば、バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)や、S&P500連動型ETFなどは、これ一本で世界経済全体に分散投資できます。

一方で、個別株は、景気変動や地政学的なリスクの影響を受けやすいです。そのため、業種の偏りや国際情勢の変化などに、十分注意する必要があります。

株式投資においては、購入のタイミングも重要になるでしょう。そこで有効なのが、時間分散(ドルコスト平均法)です。一定額を定期的に投資していくことで、価格変動の影響を平準化します。相場の動きを予測する必要がなく、長期的に安定した資産形成が目指せます。

不動産:収益性と相続対策の両立

  • 国内の一棟マンション投資や賃貸戸建などが人気
  • 減価償却による節税メリット
  • 相続時の評価額圧縮に活用可能

不動産は、安定した収益を得ながら、相続対策も行える資産です。国内の一棟マンション投資や賃貸戸建てへの投資は人気が高く、空室リスクや収益の変動も分散できます。

また、不動産投資には、減価償却を利用した節税効果があるのです。建物部分の価値を、耐用年数に応じて、毎年の経費として計上できます。築年数の古い物件や木造物件は、減価償却費が大きくなるため、節税効果も高まるでしょう。

相続時の評価額を、現金や有価証券より低く抑えられるのも大きな魅力です。現金はそのままの金額で評価されます。一方で、不動産は路線価や固定資産税評価額を基準に評価されるため、時価よりも低い金額で、相続税の計算が行われるのです。賃貸している物件であれば、小規模宅地等の特例などの活用で、さらに評価額を下げられます。

オルタナティブ投資:分散とヘッジの役割

  • ゴールド:インフレヘッジ
  • ヘッジファンド:市場と連動しない運用が魅力
  • 暗号資産:少額での実験的導入を推奨

オルタナティブ投資は、伝統的な株式や債券とは異なる資産を組み入れて、ポートフォリオ全体のリスク分散を図ります。ゴールド(⾦)、ヘッジファンド、暗号資産などが主な例です。特に、ゴールドは長年注目されている資産になります。世界経済が不安定な局面では、金の価値が相対的に上昇しやすく、資産全体の安定化につながります。現物でもETFでも保有できるのが魅力でしょう。

ヘッジファンドは、株式や債券など、伝統的な市場と連動しない独自の運用戦略を活用しています。多種多様な投資手法で、リスクを抑えつつ、安定したリターンを狙えるのが特徴です。

近年注目されている暗号資産(仮想通貨)は、値動きが大きくリスクも高いです。しかし、ポートフォリオに少額を組み入れることで、新たな分散効果が期待できます。暗号資産は少額から投資できるため、リスクを踏まえた上で、実験として導入してみるのも良いでしょう。

元経営者が抱えやすい資産運用の誤解と対策

「また事業で稼げばいい」という思い込み

会社を売却し、まとまった資金を得ると「次のビジネスでまた増やせばいい」と考える方もいるかもしれません。しかし、自分の年齢や健康面、社会の変化を考慮すると、全額を再び投資するのは危険が伴います。

「知人からの紹介案件」に注意

事業売却後、多くの人が投資話を持ちかけてくる可能性があります。本当に優れた案件もあるかもしれませんが、様々なリスクや契約条件を十分に確認しないまま、出資してしまう例も後を絶たないのです。

内容 注意事項
出資額 ポートフォリオの10%以内にとどめる
契約内容確認 専門家によるチェックを忘れない

 

  • 出資額はポートフォリオの10%以内にとどめる
  • 契約内容の専門家チェックを忘れない

「相続はまだ先」の落とし穴

多くの方が「まだ元気だから、相続対策は後回しでいい」と考えがちです。しかし、相続対策は早ければ早いほど、資産運用戦略においては、有利になります。生前贈与や法人の活用、信託の導入などを計画的に進めることで、税金面で大きなメリットが生まれるのです。

例えば、生前贈与の活用によって、毎年の基礎控除を利用しながら、徐々に財産を移転できます。つまり、将来の相続税負担が抑えられるのです。信託を利用すれば、資産の管理や承継も柔軟に設計できます。

実例紹介から学ぶ成功と失敗

ケース①:製造業売却 55歳・売却益15億円

  • 再投資に慎重、保守的ポートフォリオを構築
  • 【構成】外債40%、国内不動産30%、現金20%、株式10%
  • 家族信託を活用し、相続対策も万全

55歳で製造業を売却し、15億円という大きな売却益を得ました。今後の資産運用においては、慎重かつ保守的な姿勢を貫いたのです。

資産の再投資先としては、外貨建て債券を40%、国内不動産を30%、現金を20%、株式を10%と、バランスの取れたポートフォリオを構築しています。突発的な支出や新たな投資機会に備え、流動性を確保するための現金を、全体の2割保有しています。株式を全体の1割に抑えているのも、今回のケースの特徴です。

元経営者は、相続や資産承継の観点から、家族信託を活用しました。家族信託を利用することで、認知症などで判断能力を失った場合でも、家族が資産を管理・運用できます。この対策によって、資産の凍結リスクを回避しつつ、家族への円滑な承継が可能になりました。

ケース②:ITスタートアップ創業者 48歳・売却益30億円

  • 成長性を重視し、株式・ベンチャー出資を積極活用
  • 【構成】グローバルETF40%、VCファンド15%、不動産20%、現金25%
  • 自社株売却後の税金対策として法人スキーム導入

48歳で会社を売却し、30億円の売却益を得ました。今後の資産運用においては、成長性を重視した積極的な戦略を取りました。資産の配分は、グローバルETFに40%、ベンチャーキャピタル(VC)ファンドに15%、不動産に20%、現金に25%です。

グローバルETFは、世界中の株式市場に分散投資できます。そのため、経済成長の恩恵を受けやすく、長期的なリターンが見込めるのです。

VCファンドへの出資は、新興企業の成長を取り込むための「攻め」の投資です。リスクは高いものの、大きなリターンが狙える可能性があります。自社株売却による多額の利益に対しては、税負担を軽減するために、法人スキームを導入しました。法人を活用することで、様々な節税策が検討できるのです。

ケース③:不動産管理会社創業者 62歳・売却益10億円

  • 安定収益を重視、配当性商品と賃貸収入中心の構成
  • 【構成】国内債券40%、不動産30%、オルタナティブ10%、現金20%
  • 生前贈与と法人活用で3世代にわたる資産設計を行う

今回の事例の元経営者は、62歳で不動産管理会社を売却しました。売却益の10億円を活用して、安定した収益確保を目指したのです。資産配分は、国内債券40%、不動産30%、オルタナティブ投資10%、現金20%の構成です。

国内債券は、元本の安全性が高く、安定した収入が狙えます。つまり、資産全体のリスクを抑える役割を果たしているのです。不動産は、賃貸収入を中心としたインカムゲインを確保できます。オルタナティブ投資の活用によって、収益の多様性とリスク分散を図っているのも特徴です。

元経営者は、子や孫の世代まで、資産を引き継ぐことを目指しました。そのため、生前贈与と法人スキームを積極的に活用しています。不動産の生前贈与は、評価額が時価よりも低くなりやすいため、相続税対策としても有効と判断しました。

資産を「守る」ことは自由を増やす

会社を売却して得た資産は、単なる通帳の数字ではありません。様々な選択肢と時間的な余裕を生み出す「可能性に満ちた手段」になります。

その可能性を活かすためには、感情的な判断ではなく、合理的で戦略的な資産設計が必要でしょう。「資産を活用しながら減らすことなく、家族が引き継ぎやすい形へと変えていく」これが、資産家に求められる新たな資産運用です。

資産設計に迷ったら「ウェルス・パートナー」へ

私たちウェルス・パートナーは、会社売却を経験された経営者の方々に対して、独立した立場からの資産設計アドバイスを提供しています。

  • 外国債券・不動産・再投資の最適配分
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大切な資産を「守る・育てる・遺す」ための最適な戦略をご提案します。個別のご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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・当社の所属金融商品取引業者等は株式会社SBI証券、東海東京証券株式会社、エアーズシー証券株式会社です。
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商号等:エアーズシー証券株式会社 
金融商品取引業者 登録番号:関東財務局長(金商)第33号
加入協会:日本証券業協会

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