目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
今回は、「上場会社オーナーの相続はマジで大変って話」というテーマをお届けいたします。
上場会社オーナーの方の「相続はマジで大変」なのです。上場会社オーナーの方ですので、上場株式を含めて数十億や人によっては数百億円の資産をお持ちの方々に対して「『かわいそう』だなんて言葉を発するのはどういう事だ」と思われるかもしれませんが、それくらい上場会社オーナーの相続は本当に大変なケースが多いです。
もちろん、相続税や相続争いなどいろいろな問題があるのですが、今回は上場会社オーナーの相続がどのように大変か、というお話をさせていただき、その対策を紹介させていただきます。
会社オーナーで上場するか考えていらっしゃる方や、すでに上場されている会社オーナー様は早い段階で対策を打つ参考にしていただければと思います。
相続3重苦
それでは早速、上場オーナーの方の相続の大変さをお伝えしていきたいと思います。
私は勝手に「相続3重苦」といっていますが、これを説明していきます。
多額の相続税(累進課税で最高税率55%)
1つ目は、多額の相続税です。これは日本の方、すべての方に共通の話ですが、とりわけ上場会社オーナーの方は資産の大半が自社株で、さらに上場したことにより、評価が未上場株の数倍や数十倍になっています。評価は毎日株式市場でついているので、その株価がそのまま相続税評価になっています。万が一、業績が良くて株価が急上昇しているときにお亡くなりになってしまうと、本当に多額の相続税になったりします。
日本の相続税の税率は累進課税になっていて、資産額が増えれば増えるほど税率が高くなるのです。
相続財産が6億円超ある場合、控除などを除いて考えると税率は最高の55%までいくので、多くの上場会社オーナーの方が相続税で最高税率に達しています。配偶者の控除等を除くと、資産の半分を相続税で納税しなければいけませんので、圧倒的な相続税額に苦しむというのが1つです。
納税資金不足(自社株式の流動性が低い)
2つ目です。相続税が高いというのはわかりました。次はそれを納める納税です。「多額の相続税を納められません」と納税資金不足に悩むというのが2つ目の苦しみです。多くの資産を相続された相続富裕層の方は、もちろん相続税がかかるのですが、相続した資産の一部を売却することで納税資金を捻出するわけです。
こういう話をすると、「上場会社オーナーの方も、そうしたらよいでは?」と思われるかもしれませんが、そんなに簡単ではありません。
上場会社の株式は、時価総額が数千億円や1兆円あるような会社であれば流動性が非常に高く、何10億円や100億円を相続したとしても市場で売却して、それをキャッシュにして納税することができると思いますが、時価総額が1,000億円に満たないとか、数100億円位や100億円位の上場会社の株は、ほとんどといってよいほど流動性がありません。
したがって、市場で売却することができないわけです。仮に売却したとすると、ご自身の売却によって株価を下げてしまうことになるので、簡単に売却はできません。
ご自身がなくなった時で、相続税を「これくらい納税しなければいけません」とフィックスされているのに、相続した資産のほとんどが上場株式で「その株式を売却できないです」というのは最悪なのです。
また、人によりますが、多くの上場会社オーナーの方で、上場して5年や10年以内だと、今までそれほど自社株式を売却していなくて、「自社株以外の流動資産」がないという方が本当に多いです。自社株以外の流動資産がないということは、自社株式を売却しないと納税資金に当てられないことになります。そういった意味でも、納税資金というのは不足しやすいです。
まとめると、上場会社オーナーの方は納税資金が不足しやすいといえます。理由は自社株式の流動性が低いからです。
なお、相続税は、基本的に「相続が起こってから10か月以内」に納税しなければいけません。こういった問題が起こるので、少し余談になる話をします。
上場会社の大株主に財務大臣と書いてあることがあると思います。財務大臣が上場会社の大株主で、株式の10%とか20%を持っているケースがあると思うのですが、これは、たいていの場合、上場会社オーナーの方や創業社長などが亡くなられて納税資金を払えないので(売却してキャッシュで納税できない)、自社の上場株式を物納(株を納税資金に充てる)して相続税を納税しているのです。
つまり、相続税の物納によって、その株を譲り受けた財務省(国)が株主として入っている形になっています。
そのような会社があるくらい、「上場会社オーナーの方の納税資金は不足しがちになる」というのが2つ目の苦しみになります。
相続後の株価下落(創業者長を失うイメージ)
最後、3つ目です。基本的に、相続後に株価が下落する可能性が高いです。これは、亡くなられた方が上場会社の経営に携わっているケースが一般的です。創業社長の方の場合、自社株を10%から50%くらい持っていて、その方が現役の社長でワンマン経営で、その方の経営力で会社の業績が支えられているというケースが一番よくないです。
1つ目のマイナスは経営面です。 「その社長に業績が支えられている」「会社がカリスマでもっている」とすると、今後業績が悪くなっていく予想が立てられるので、それが株価にとってマイナスに影響する可能性が高いです。
もう1つは業績ではないですが、その方が大株主で20%とか40%など株を持っていて、その方に相続が起こると「その株を相続人の方が売却しますよね」という予想になります
これは当然です。先ほどの話のとおり、相続税を納税しなければいけないので、基本的に売却するという選択肢になる可能性が高いと思います。これを皆さんがわかるわけです。相続が起こったので、「持ち株は市場で売却される可能性が高いのではないか」と思うわけです。そうすると、その会社の株価にとって負のアナウンスメント効果になってきます。
要するに、需給が悪化するわけです。「売りが増えて株価が下落するのではないか」、といえば、株主(特に個人株主の方の場合)は、「売却して現金にしておいた方が良いのでは?」という発想になりますので、そういった経営面と需給面、この2つの面で株価にとってはマイナスで、相続発生後に株価が下落する可能性があることになります。
これが3つ目の苦しみになります
多額の相続税が発生して、自社株式の流動性が低いので売却できなくて、納税資金が不足して、なおかつ、創業社長がなくなると、その株価が下落する可能性が高い。これを聞くだけで、上場会社オーナーの相続は大変なわけです。
これが「相続3重苦」ということです。
相続に対する4つの備え
お話した通り、上場会社オーナーの方の相続は本当に大変です。しかし、嘆いても仕方がないので、対策を考えてやっていかなければいけません。
上場オーナーの方の相続に対する備えが4つありますので、紹介していきたいと思います。
生前に自社株式を売却し流動資産を確保
1つ目です。生前にある程度自社株式を売却して、流動資産を確保しておくのが一番大事なのだと思います。
お伝えしたように、「亡くなった後に考えて、株を売却して納税すればよい」ということではダメです、遅いのです。あなた(現在の企業オーナー)に会社が支えられているので、あなたが亡くなったら当然株価は下がりますという話です。したがって、基本的には生前の会社の状態が良い時に一部の株を売却しておいて、相続の納税資金に充てられるようにしておくことが大事だと思います。全ての株を売却するわけではありません。一部だけでも売却して、流動資産を確保していく必要性が高いと思います。
しかし、これは上場会社オーナーの方の年齢にもよります。若くて30代・40代の方であれば、死亡率はそれほど高くないので、たくさん自社株式を売却して行く必要があるわけではありません。
これが、60代・70代になってくると、それなりに死亡確率が高くなりますので、ある程度自社株式を売却して、キャッシュにしておく、いざというときの納税資金に備えておくということが大事になってきます。つまり、年齢に応じて対応が変わってくるということです。
銀行融資・証券担保ローンによる資金調達
2つ目です、納税資金を捻出するために、銀行から相続税の納税資金という名目で、融資をしてもらうという方法があります。また、証券担保ローンという方法もあります。株価が下がっていたり、流動性が低く自社株式を売却できないという場合に、その自社株式を担保にして証券担保ローンを組むことができます。
このように、銀行融資や証券担保ローンで資金調達を行って、それを納税資金に充てるという手法も考えられると思います。そして、実際にこういった形で納税資金を調達して、納税されている相続人の方は結構いらっしゃいます。
しかし、こちらも実際に相続が起こってから、相続人の方が「こういう資金を調達できないか」「納税資金を捻出できないか」と考えて銀行や証券会社と交渉するのではいけません。やはり、生前に上場会社オーナーの方が、銀行と交渉したり、証券担保ローンの条件を確認して、しっかり渡りをつけておく。そして、自分に万が一のことがあったときに、相続人の方がそのロードマップに従って資金調達する方が良いと思うので、生前に準備しておくということが大事になってきます。
生命保険でまとまった納税資金を準備
3つ目です。こちらも納税資金になるのですが、生命保険でまとまった資金を準備しておくというのも方法としてあると思います。
やはり、相続税納税にはキャッシュが必要となってくるわけです。不動産などの流動性が低い資産をたくさん持っていても、なかなか納税に当てられず、(ご自身が)亡くなった時にまとめて入ってくることが大事なので、そう考えると生命保険はある程度有効だと思います。
資産額が多くなりすぎると、日本の生命保険だけでは金額的に対応しきれないですが(保険金額の上限があるため)、ある程度の資産額までの相続税であれば、日本の生命保険で対応可能だと思います。
国内不動産を保有し相続税負担を軽減
最後の4つ目です。これは「相続の3重苦」の1番初めにお話しした、相続税の負担額がとにかく高いので負担額自体を軽減するという施策です。国内不動産を保有してある程度資産に占める割合を高めておいて、相続税の負担を減らすという方法は1つの方法(セオリー)としてあると思います。
本日は「上場オーナー会社の相続はマジで大変って話」というテーマお届けしました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中