はじめに
12月に入り、主にネット証券を中心として、各社が手数料無料化についてのプレスリリースを連日発表しています。
個人投資家にとっては有難いニュースであり、もっと手数料無料化の対象が広がっていくことが期待されますが、一方で証券会社がどのように収益を確保して事業を継続させるか等にも興味をひかれるのも、また事実です。
この一連の流れにより、将来的には業界再編が加速する可能性もありますが、今回はこれからの日本の資産運用業界について考えていきます。
今回は米国に時差もなく追随した
10月1日の米国株式市場でネット証券企業の株価が軒並み急落しました。業界大手のチャールズ・シュワブが株式とETF(上場投資信託)、オプションの手数料を撤廃する計画を発表したことで、業界内における価格競争が激化するとの見方が広がったからでした。
昨年半ばからフィデリティ・インベストメンツやバンガード・グループ、JPモルガン・チェースが手数料の撤廃を発表していましたが、チャールズ・シュワブの発表を受けてその他の大手であるインタラクティブ・ブローカーズ、TDアメリトレード・ホールディング、Eトレード・ファイナンシャルも連想売りが出たかたちになります。
その後、11月下旬にチャールズ・シュワブがTDアメリトレード・ホールディングを買収することが発表され、業界再編が進みました。そもそも、この流れを主導したのはフィンテック企業のロビンフッドが手数料無料の株取引サービスを発表し、顧客を次々に奪っていったことでした。
12月に入ってから同社の口座開設数が1,000万件を突破したというニュースをみると、その勢いが競合他社に焦りを感じさせるには十分だったことが分かるでしょう。
日本ではネット証券最大手SBI証券を傘下に持つSBIホールディングスが10月30日に行われた第2四半期の決算発表会で「3年以内の手数料完全無料化」という構想を発表してから、一気に各社が動き始めました。
プラットフォーム化する証券会社
今後も日本では手数料無料化の対象はどんどん進んでいくでしょう。そうなると、将来的には個人投資家からみると、どの証券会社で株式や投資信託を買ってもいいことになります。
これまでは手数料が安い証券会社が顧客を集めるという流れでしたが、手数料がなくなってしまえば、あとは商品のラインナップの豊富さや、ウェブサイトの見やすさ、ツールの使いやすさなど、ある意味各自の好みによって、利用する証券会社を決めることになります。
このような世界になると、もはや証券会社はプラットフォーマーとなります。私たちは日常生活の中で、Googleで検索し、Amazonで本を買い、YouTubeで動画を見て、FacebookやTwitterで情報収集をしたり、情報を発信していますが、これらの運営企業に対して1円も払っていない人がほとんどでしょう。まさに、証券会社もこれらの企業の仲間入りになる訳です。
これから求められる人達とは?
それでは、証券会社がプラットフォーム化し、手数料がなくなると、投資と縁のなかった日本人は積極的に投資をするようになるのでしょうか。「貯蓄から投資へ」を掲げるもほとんど変化を起せなかった日本にも遂に大きな変化が生じるのでしょうか。
筆者はそれだけでは何も変わらないと考えています。なぜなら、日本人が投資をしない理由は「手数料がかかるから」ではないからです。日本で投資文化を根付かせるのに必要な人達は二種類いると考えます。
まず1つ目は私もそのうちの1人ですが、金融教育をする人の存在です。何も分からないまま投資にお金を使うということは考えにくく、実際に投資にお金を使う前にある程度の知識が必要になるからです。
3,700社近くの企業が証券取引所に上場し、公募投資信託は6,000本以上あり、どれにどれだけ投資をすればいいのか。何も知識がないままでは自分で判断できないでしょう。そもそも、なぜ自分は投資をしなくてはいけないのか。こういうことを知識として教えてくれる人の存在が必要になります。
そして、2つ目はずっと伴走してくれるアドバイザーの存在です。対面証券会社の営業員のように、売りたいものを営業してくるような人ではなく、顧客の資産形成を真剣に考えてくれる中立的なアドバイザーが求められるでしょう。
矛盾していると思う人もいるかもしれません。金融教育を受けて知識がつけばアドバイザーなんていらないじゃないか、と思うかもしれません。しかし、ほとんどの人にはアドバイザーが必要になるでしょう。
その理由を少し説明してみます。ある程度知識をつけて投資経験を積むと、多くの人がノーロードのインデックスファンドを積み立てる方針を取ります。日本でもこの数年で一気に増えたと思います。
しかし、相場が急落したり、ジワジワと下降トレンドに入ると、積立投資をやめてしまう人が相当数います。金融機関の人と話をしていても、だいたい2~3年でやめてしまう人が多いといいますが、この2~3年というのは相場で大きな下落が生じる頻度とも一致していると思います。
つまり、そのような時に伴走してくれていて、持っている商品は素晴らしいものですよなどと言ってくれる冷静なアドバイザーが必要なのです。人間はどうしても一人で投資をしていると、資産が評価損で目減りしていくと弱気になってしまいます。
筆者がボストンでIFAやRIAと呼ばれる人達と話をしたときに、彼らは全員がこのようなことを言っていました。相場の予想やおすすめの商品を与えるのではなく、常に顧客に寄り添って、相場が荒れている時に安心感を与えるのが我々の仕事だと。
まとめ
これから日本でも証券会社のプラットフォーム化が進んでいくでしょう。そこで求められるのは優良で上質なアドバイザー達です。
これまでは富裕層だけがプライベートバンクで資産管理をプロに任せていましたが、これからは一般の個人投資家もアドバイザーと付き合って資産形成をする時代が来るでしょう。
単に手数料稼ぎだけを目的としたアドバイザーではなく、顧客から適切な対価をもらいながら、真摯に顧客との関係を築くアドバイザーが増えることを期待しています。