はじめに
2013年4月から、日本では日本銀行による異次元金融緩和(量的・質的金融緩和)が始まり、主に長期金利の低下とETF等の資産買い入れを推進してきました。
その目的は物価を押し上げるためだったのですが、7年目になった今でも目標の物価水準は達成されていません。
しかし11月22日、外国人投資家の出資規制を強化する改正外為法(以下、外資規制)が参院本議会で可決されました。つまり、外資規制が強化されたのです。
これにより、外国人投資家は日本の企業に投資する際に届け出が必要となり、その基準が厳格化しました。
外資規制強化を受けて、特に国内証券会社から反対意見が多く出て、米大手投資銀行ゴールドマンサックスは「有害である」とまで言っています。
そこで今回は、「外資規制とは何か」や「なぜ強化されるのか」、「強化されると株式市場に影響はあるのか」といった点を解説していきます。
外資規制とは?
そもそも、外資規制とは宇宙開発や原子力開発など公共性の高い事業について、外国資本の支配によって技術や情報が漏洩することを防ぐための規制です。
今まで、特に東アジアでは(シンガポールやカンボジアを除いて)外資規制が強かったのですが近年では規制が緩和されつつありました。
しかし現在は、米中の貿易問題が激化する中、世界的に外資規制が強まりつつあります。
今までの国内外資規制の内容は、外国人投資家や投資法人が特定業種の日本株を購入する際、発行済み株式数の10%を超えて取得しようとすると事前に届け出が必要であったのです。
しかし今回の規制強化で、取得株式数の基準が「10%以上」から「1%以上」まで強化され、また、「発行済み株式数ベース」ではなく「議決権ベース」へと強化されたのです。
なぜ強化されたのか
そもそもなぜ外資規制が強化されたのでしょうか?
それは、世界的な規制強化の流れを汲んだからです。
というのは、現在アメリカが中国を対象に、国内の情報や技術の漏洩を防ぐため外資規制強化を進めており欧州もそれに追随する形をとっていました。
日本はGSOMIAの問題を筆頭にアメリカと政治的に対立するわけにはいかず、今回の外資規制強化も米トランプ大統領へのアピールなのか、議会であっという間に可決・成立しました。
つまり、今回の外資規制はアメリカへのアピールのために行われた側面が強いと言われています。
これに対し、識者からアメリカに追随しすぎる国内政治に対しての批判や、株式市場の落ち込みを懸念する見方が広がっています。
また、今回の外資規制強化について報じているメディアも「日本株離れ」と解釈しているところもあります。
規制強化されると株式市場に影響はあるの?
政治的に外資規制の強化が決定されましたが、経済的にはかなりの懸念が残ると考えられます。
というのも、日本の株式市場は売買高の内約6割が外国人投資家で、かつ残り4割の大部分は日銀が買い込んだETFが占めていると言われています。
現在、日銀は買ったETFを売るタイミングを模索しているようですが、その前に外資規制強化で外国人投資家が日本の株式市場から離れていくと相場は落ち込み、日銀はさらにETFを買い込むことになり、株式市場が自律性を失うことになりかねません。
そのような背景から、米投資銀行大手ゴールドマンサックスは「今まで約7年行ってきた政策(ETFの買い付け)が無駄になる」との見方を示しています。
さらに、最近ではNISAの恒久化が見送られるなど投資促進のための政策が手薄になっており、国内・海外投資家がともに日本の株式市場に参加する誘因を失いつつあります。
株価が下がれば、国内の企業には評価損が発生することで財務体質の弱い企業は株価がさらに落ち込むでしょう。
ただ、外資規制の対象業企業はまだ公開されておらず、対象が限定的であれば影響は小さく済むかもしれません。
まとめ
株式投資の側面から見ると、今後の投資は控える人が多くなるかもしれません。
今回の外資規制でも外国人投資家がどのような投資判断をするのかにかかっていますが、金融政策でも日銀がETFを大量に買って現在の株式市場が作られているので、それに対する不安(リスクプレミアム)が高まっているのでしょう。
また、株式相場が落ち込めばより一層、下落相場が続くので外資規制対象業種のチェックや、外国人投資家の反応を注視する必要があります。
政府側も早期に対象業種リストを公開しないと国内外投資家からの混乱や不安が高まり、一時的に相場が落ち込む可能性があります。
いずれにしても、日本の株式市場は少し不安な部分がありますので、慎重に投資判断を行いましょう。