2021年下半期の株式市場は、次の2つのテーマが話題になっています。1つは新型コロナウイルスの感染拡大がどうなるのか。そして2つ目は、米連邦準備理事会 (FRB)が、量的緩和の縮小(テーパリング)を行うかどうかです。
この記事では、テーパリングと、株式市場に与える影響について解説します。
テーパリングとは
テーパリングとは英語の”tapering”のことで、”taper”は先細りを意味します。政策金利が実質ゼロ水準で、これ以上の引き下げ余地がない状態における金融緩和策として、量的緩和があります。
量的緩和は、住宅ローン担保証券や国債などの金融資産を中央銀行が買い入れることで、市中への資金供給量を増やし、景気刺激を狙います。一方のテーパリングとは、量的緩和の金融資産の買い入れ額を順次減らしていくことをいうのです。
テーパータントラムへの警戒
マーケットが警戒しているのは、2013年の「テーパータントラム(量的緩和縮小を巡る市場の混乱)」です。テーパータントラムとは、2013年5月に、当時のバーナンキFRB議長がテーパリングの可能性に言及したことで、金融市場が大きく混乱した現象のことです。
米国株式市場は下落して長期金利は上昇。米ドルも対円で大きく下落しました。さらに大きな痛手を受けたのが新興市場の株式です。米国を中心に金融引き締めが行われれば、投資リスクの高い新興国からお金が流出すると考えられたからです。
そして、今年6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、2023年末までの利上げ開始が示唆されました。しかし、マーケットでは2013年のような大きな混乱は起きていません。
前回の2013年には、FRBがテーパリングを示唆してマーケットは混乱しましたが、実際にテーパリングが開始されてからは、株式市場は上昇を始めたからです。短期的には大きな混乱をもたらしましたが、時間をかけて長期的な上昇相場となったのです。
前回のテーパリング局面である2013年5月から2014年10月まで、米国株は約24%上昇しました。1ヶ月あたりの平均上昇率は1.3%なので、緩やかな株価上昇が続いたことがわかります。
ある一定の期間で成果を求められる機関投資家と異なり、個人投資家には時間の制約はほとんどありません。中長期の視点で考えれば、今後テーパリングを懸念して株式市場が一時的に下落しても、保有株を売却するのは得策ではありません。
それでは、2014年に株価が上昇した要因は何だったのでしょうか。まず、テーパリングが行われても、FRBの資産購入自体は続くので、金融緩和が続くとの見方があります。ただ、それよりもテーパリング実施自体が株価に織り込まれていた可能性が高かったと考えています。
また、景気を判断する重要な指標であるISM製造業景況指数が、2014年は好不況の分かれ目である50を上回っていました。好調なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が、株価を下支えしていたのです。
リスクを抑えるために分散投資をする
FRBがテーパリングを行うということは、景気が上向いている証拠でもあります。景気回復は、基本的に株価の上昇要因になります。ですから、テーパリング開始によって一時的に株価が下落しても、長期的な景気回復が見込めるのであれば、株価はいずれ回復する可能性が高いのです。
ただし、米国株だけを保有していると、一時的とはいえテーパリングによる株価下落が直撃するリスクは高くなります。ですから、ほかの先進国や日本株などに分散投資したほうがよりリスクを抑えた運用が可能になるのでオススメです。
今後、FRBがテーパリングを開始しても株価の上昇は続く可能性は高い
今後、FRBはテーパリングの議論を本格化させていくでしょう。しかし、パウエル FRB議長は、「資産買い入れ額縮小の際は、前もってその計画を知らせる」と述べており、市場との対話をきちんと行なっていく姿勢を示しています。
ですから、前回のテーパリング局面と同じように、企業の業績や景気回復によって、株価の上昇基調が続く可能性は高いと考えています。
景気を判断するISM製造業指数は、2020年4月を底に上昇し、2021年は60前後と高い水準を維持しています。景気回復期にあるからこそ、FRBはテーパリングについての本格的な議論を開始したのです。米国株は好調なファンダメンタルズによって、テーパリングが行われても株価が大きく下がる心配は少ないと見ています。