2026
05/15
会社オーナー 資産管理会社 会社売却 会社売却後の資産運用

富裕層に対する課税強化の流れが明確になるなかで、会社オーナーにとって「いつ売却するか」は、これまで以上に重要な経営判断となっています。特に2026年は、税制改正の動向や市場環境の変化が重なる節目の年です。

仮に今後、譲渡所得税率が実効ベースで30%程度へ引き上げられた場合、手取り額は数千万円から数億円単位で変わる可能性があります。

さらに、M&Aは検討開始から成約・着金まで半年から一年程度を要するのが一般的です。現行税制での売却を視野に入れるのであれば、すでに「逆算で動くべきタイミング」に入っているといえるでしょう。

ただし、焦りによる安値売却は本末転倒です。限られた時間のなかで、「自社はいくらで売れるのか」「短期間で高値がつく条件とは何か」を見極めることが不可欠です。

本記事では、2026年中に売却を決断すべきオーナーの具体的な基準から、判断のためのチェックリスト、さらには売却後の資産運用に向けた考え方を解説します。

なぜ「2026年中の会社売却」が重要なのか

2026年中の売却が重要視される理由は、単に税制改正の影響だけではありません。「税率」「企業価値」「時間」という3つの要素が、同時に意思決定に影響を与える局面にあるためです。

【税制改正の影響】

2027年以降、富裕層に対する課税強化の方向性はすでに明確に示されており、会社売却における税負担にも影響が及ぶ可能性があります。現行制度では、株式譲渡益に対する税率や約20%であり、売却後の手取り額は比較的読みやすい状況にあります。

しかし今後は、仮に税率そのものが変わらなかったとしても、ミニマムタックスの強化などを通じて、結果としての税負担水準は引き上げられる可能性が高いと考えられます。

【企業価値の観点】

現在は、ファンドや大手企業による買収意欲が依然として強く、売り手にとって比較的有利な市場環境が続いています。しかし、金利上昇やコスト増加、景気減速といった要因が重なれば、今後は企業価値評価が下がる可能性も否定できません。

重要なのは、こうした変化が業績に表れる前から評価に織り込まれる点です。つまり、「まだ問題が顕在化していない段階」こそが、最も高く売却できるタイミングである可能性があります。

【時間の制約】

会社売却は、検討開始から最終的な着金まで半年から一年程度を要するのが一般的です。そのため、2027年以降の税制変更を回避するのであれば、2026年中の着金を前提に、今の時点から具体的に動き出す必要があります。

このように、「税負担上昇の可能性」「企業価値下落のリスク」「売却完了までの時間的制約」といった3つが同時に存在することで、2026年は単なる通過点ではなく、資産最大化の観点から見た「意思決定の期限」に近い意味合いを持つ年といえるかもしれません。

2026年中に売却を決断すべきオーナーの基準

では、どのようなオーナーが「今、決断すべき状態」にあるのでしょうか。ここでは、実務上重要な5つの観点から決断基準を確認します。

1.企業価値がピーク圏にある場合

直近の業績が好調である場合、それは売却における最大のチャンスでもあります。企業価値は、将来性も考慮されるものの、評価ベースはあくまで「足元の実績」に置かれます。特需や外部環境による追い風がある場合、その持続性には限界があります。

人件費の上昇や人材不足、金利上昇による需要減退など、経営環境の変化は徐々に企業価値に影響を与えます。重要なのは、これらのリスクが業績に表れる前に動くことです。買い手は将来リスクを織り込んで評価を行うため、「まだ問題が顕在化していない状態」こそが、最も有利な売却タイミングといえるでしょう。

2.「増税」という不可避なコストを回避したい場合

経営において「税金」はコントロールすべき最大のコストです。2027年以降、合計所得が高い層への課税強化(実効税率30%超の可能性)が現実味を帯びるなか、2026年内の決済は「確実な資産防衛」を意味します。加えて、株式譲渡益が一定額(目安は3.5億円程度)を超える場合、2027年以降は従来よりも税負担が増える可能性があります。

今から動けば、年末までに売却を完遂させることが可能です。数億円単位の譲渡益が出るケースでは、税率10%の差が数千万円の手取り額の差として現れます。この「不可避なコスト」を最小化できるラストチャンスが2026年といえるでしょう。

3.オーナー依存・年齢リスクが高まっている場合

中小企業においては、経営の重要な要素がオーナーに集中しているケースが少なくありません。年齢が上がるにつれて、引き継ぎリスクや不確実性は高まり、企業価値の評価にも影響します。「まだ続けられるかどうか」ではなく、「第三者に引き継げる状態かどうか」という視点で判断することが重要です。

4.資産が自社株に集中している場合

多くの会社オーナーは、資産の大半を自社株という形で保有しています。しかし、自社株は流動性が低く、リスク分散が難しい資産です。売却によって現金化することで、外貨建て債券や不動産などへの分散投資が可能となり、資産全体の安定性を高めることができます。

5.相続・資産承継の課題を抱えている場合

自社株は分割が難しく、相続時にトラブルの原因となることも少なくありません。また、企業価値が高いほど相続税負担も大きくなります。売却によって資産をシンプルな形に変えることで、相続設計の自由度は大きく高まります。

2026年中に会社売却を検討すべきか?チェックリスト

「自社はどの段階にあるのか」を客観的に把握するために、以下のチェックリストをご活用ください。当てはまる項目の数が多いほど、2026年中の売却を前提に動く合理性が高い状態といえるでしょう。

◎外部環境・市場環境

□ 金利上昇の影響を受けやすいビジネス(不動産・設備投資型)である

□ 業界内でM&Aや再編の動きが活発化している

□ 規制・制度変更によって事業環境が変わる可能性がある

□ 金利上昇による買い手の意欲減退を懸念している

□ 同業他社で売却事例が増えている

□ ファンドや大手企業による買収ニーズが高まっていると感じる

◎会社の状態

□ 直近の業績が過去最高、またはそれに近い水準である

□ 利益が一時的な要因(特需・円安など)に支えられている

□ 売上や利益が特定の顧客・商品・人材に依存している

□ 設備更新や人材投資など、大きな投資が今後必要になる

□ オーナー自身に経営が大きく依存している

□ 廃業を検討している

◎オーナー個人の状況

□ 年齢が60代後半〜70代に差しかかっている

□ 後継者がいない、または承継に不安がある

□ 健康状態や気力の衰えをわずかでも感じ始めている

□ 今後は資産の安定運用を重視したいと考えている

□ 個人保証や借入に心理的な負担を感じている

□ 売却益が3.5億円を超える見込みがある(税制改正の影響)

◎資産・税務の観点

□ 純資産の大半を自社株が占めている

□ 相続対策を本格的に考え始めている

□ 相続対策として「資産管理会社」の設立や活用を本格的に検討したい

□ 将来的な増税リスクを意識している

□ 自社株を売却し、分散投資への切り替えが必要と感じている

□ 売却後の資産運用の方向性(インカムゲイン確保など)がある程度見えている

自社の価値を知る―「バリュエーション(企業価値評価)」とは

「具体的にいくらの値がつくのか」という客観的な算定根拠を知ることも重要です。M&Aにおける価格交渉は、単なる「希望価格」ではなく、財務データに基づいた合理的な数式からスタートします。

【コストアプローチ】中小企業の基本「時価純資産法」

コストアプローチは、会社の「純資産(資産-負債)」に着目する手法です。日本の中小企業M&Aで最も頻繁に用いられる「年買法(ねんがいほう)」のベースとなります。

算定方法:時価純資産+(実質的な営業利益 × 2〜5年分)

帳簿上の資産を時価に引き直し、そこから負債を引いた「時価純資産」に、数年分の「営業権(のれん代)」を加算します。この際、オーナーの役員報酬が相場より高い場合の調整や、一過性の費用を足し戻した「実質的な稼ぐ力」で計算するのがポイントです。

2026年の視点: 保有不動産や有価証券の含み益が大きい会社にとって、最も確実な「最低ライン」を提示できます。短期間の交渉でも客観的な資産背景が盾となるため、買い手からの買い叩きを防ぐ効果があります。

【インカムアプローチ】将来の収益性を評価する「DCF法」

インカムアプローチは、会社が将来生み出すであろう「キャッシュフロー(FCF)」に着目し、それを現在価値に割り引いて算出する手法です。

算定方法:FCFを予測→割引率を決定→現在価値に換算して合計

向こう3〜5年程度の事業計画に基づき、将来の収益力を評価します。

2026年の視点: 独自の技術や特許、あるいはITサービスのように「将来の成長」が約束されている企業に有効です。「現在の資産」よりも「将来の稼ぐ力」を高く評価させるため、プレミアム(上乗せ価格)を引き出しやすい手法ですが、精緻な事業計画書が不可欠なため、3月末の今から資料準備を急ぐ必要があります。

【マーケットアプローチ】市場相場を反映する「マルチプル法」

マーケットアプローチは、上場している類似企業の評価倍率を参考に算出する、最も「市場の体温」を反映した手法です。

算定方法:EBITDA(営業利益+減価償却費)×業種別倍率

借入金の利息や税金、会計上の減価償却費を差し引く前の「キャッシュを生み出す力」に、業種ごとの「倍率」を掛けて算出します。

2026年の視点: 業界再編が加速している建設、物流、ITなどの業種では、買い手同士の競争によりこの「倍率」が跳ね上がる傾向にあります。今の市場で「自社と同じような会社が何倍で売れているか」という外部データを用いるため、買い手への強い交渉カードとなります。

主なバリュエーション手法の比較表

アプローチ 概要 主な手法 特徴・強み 留意点
コストアプローチ 会社の純資産(貸借対照表)をベースに価値を算定 簿価純資産法、時価純資産法 客観性が高く、安定した基準となる 収益力や成長性が反映されにくい
インカムアプローチ 将来の収益やキャッシュフローをもとに現在価値を算定 DCF法、収益還元法 将来の成長性を反映できる 前提条件(成長率・割引率)により評価が大きく変動
マーケットアプローチ 類似企業や過去の取引事例をもとに価値を算定 類似会社比較法、EBITDA倍率法 市場実勢に基づいた現実的な評価が可能 比較対象の選定によりブレが生じる

 

主要業種別・EBITDA倍率(マルチプル)の相場一覧(2026年予測)

会社売却において重要な指標の一つが、EBITDA倍率(マルチプル)です。これは、企業の収益力に対してどの程度の評価がつくかを示すものであり、業種や事業の特性によって大きく異なります。

以下は、公開データやM&A市場の動向を踏まえ、中堅・中小企業の実務における取引水準をもとに整理した業種別の目安です。実際の取引では個別要因によって変動しますが、自社の評価水準を把握するうえでの参考となります。

 

業種カテゴリ 想定倍率(EBITDA) 高く評価されるポイント
IT・ソフトウェア 6.0倍 〜 12.0倍 ストック収益比率、独自技術、優秀なエンジニア層
製造業(技術型) 4.0倍 〜 7.0倍 特殊特許、ニッチトップのシェア、安定した取引基盤
建設・設備工事 3.0倍 〜 5.0倍 施工管理技士の数、公共工事のランク、地域密着度
物流・運送 3.0倍 〜 6.0倍 配走ルートの効率性、ドライバーの定着率、倉庫保有
調剤薬局・介護 4.0倍 〜 8.0倍 立地条件、加算の取得状況、近隣病院との連携
小売(EC含む) 3.0倍 〜 6.0倍 自社ブランド、EC比率、リピート率、在庫回転率
飲食業 2.0倍 〜 5.0倍 立地、ブランド力、店舗オペレーションの再現性
人材サービス 3.0倍 〜 7.0倍 ストック売上、登録者数、マッチング精度
広告・マーケティング 4.0倍 〜 8.0倍 継続契約比率、デジタル領域の強み、顧客基盤
教育・スクール 3.0倍 〜 6.0倍 ブランド、継続率、講師依存度の低さ
不動産(管理・仲介) 4.0倍 〜 8.0倍 管理戸数、ストック収益、エリア優位性
食品製造 4.0倍 〜 7.0倍 商品ブランド、販路、OEM依存度の低さ

※本表は公開データおよびM&A市場の実務動向をもとに、中堅・中小企業の取引レンジを参考として再構成した目安値です。個別案件により大きく変動する点にご留意ください。

 

会社売却後の資産戦略

会社売却によって数億円規模の現預金を手にした瞬間、オーナーの役割は「経営者」から「資産家」へと大きく変わります。重要なのは、売却で得た資産をいかに守り、増やし、次世代へ引き継ぐかという視点です。

「集中投資」から「分散」への転換

これまでの資産は自社株という一点に集中していました。売却後は、この集中リスクから解放し、株式・債券・不動産などへの分散投資へと移行することが基本となります。

特にインフレや金利動向を踏まえると、現金のまま保有し続けることはリスクとなり得ます。事業リスクを手放した後は、市場リスクを適切にコントロールしながら、安定したインカム収益を確保するポートフォリオ構築が求められます。

<参考記事>

資産管理会社による「守り」と「承継」の設計

売却益は個人で保有するだけでなく、資産管理会社を活用することで、より戦略的な運用が可能となります。

  • 相続対策:法人化により評価コントロールが可能
  • 所得分散:家族への給与分配による税負担の最適化
  • 継続性:法人を通じた世代を超えた資産管理 

2027年以降の課税強化を見据えると、2026年中にこの「運用の器」を整えておくことは、長期的な資産防衛において大きな意味を持ちます。

<参考記事>
富裕層が実践する資産管理会社の王道活用戦略

子どもにトラブルを残さないための相続対策と資産管理会社の作り方

まとめ

2026年は税制の転換点であると同時に、市場環境やオーナー自身の状況を踏まえた意思決定の分岐点でもあります。会社売却は単なる出口ではなく、資産を守り、次の成長につなげるための戦略です。だからこそ、「いつか売る」ではなく、「いつ売るのが最も合理的か」という視点で判断することが求められます。

M&Aは売却で完結しますが、資産運用はその後が本番です。そこで重要となるのが、資産全体を俯瞰して助言できるIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)の存在です。売却資金をどのように配分し、どのような形で次世代へ承継していくのか。その設計を専門家とともに描き、実行していくことで、初めて会社売却は「資産戦略として成功した」といえます。

私たちウェルス・パートナーでは、IFAとして中立的な立場から、会社売却後の運用・承継までを見据えたサポートを行っています。ぜひお気軽にご相談ください。

本記事の著者

藤村大星
藤村大星 プライベートバンキング本部
ポートフォリオマネージャー
プロフィール
成蹊大学法学部卒業後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券へ入社。 富裕層と会社経営者を中心とした資産運用のコンサルティング業務に従事。 証券会社では金融資産に対しての提案しかできないことに違和感を感じ、金融資産だけでなく実物資産や相続対策を含めた資産全体の最適化提案がしたいと思い株式会社ウェルスパートナーに入社。 現在は債券投資に関する記事の寄稿や富裕層の資産運用に関するnoteを毎週執筆し積極的に発信を行なっている。 noteはこちらから
当社での役割
富裕層、会社経営者の資産配分最適化。 具体的な金融資産の投資実行サポート。 資産管理会社設立から相続対策など税務最適化。 超富裕層のインターネット企業創業メンバーに特化した新規顧客開拓。
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