目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
今回のテーマは、「富裕層がヘッジファンドに投資する本当の理由を超わかりやすく説明します」です。
多くの富裕層の方がヘッジファンドに投資しているケースが非常に多く見られますが、このヘッジファンドとは、通常のファンドのように株を購入して保有するだけでなく、頻繁に銘柄を入れ替えたり、空売りを行って株価が下がった時にも利益を得られるような運用をしたり、その他にも高度な運用手法を駆使して毎年利益を上げることを目指しているものです。ただ、このヘッジファンドが具体的にどのようなものなのか、あるいはどのような仕組みで利益を上げているのかについて十分に理解されていない富裕層の方も多いのではないかと感じています。そこで今回は、ヘッジファンドとはどのようなものかを分かりやすくご説明し、さらに富裕層の方がヘッジファンドに投資する本当の理由について掘り下げて解説します。皆様の投資判断の参考にしていただければ幸いです。
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富裕層がヘッジファンドに投資する4つの理由
さっそく富裕層がヘッジファンドに投資する本当の理由についてお伝えします。理由は4つあります。
ポイント1)指数を超える実績リターン
指数とは、例えば日経平均やS&P500といった、株式市場全体の基準となる数値を指します。ヘッジファンドでは、このような指数を参考にしつつ、それを上回るリターンを過去の実績として示しています。ただ予測だけでなく、過去5年、10年、あるいは20年にわたる実績を基にしているため、信頼性が高く、富裕層が投資する理由の1つとなっています。単なる予測に基づいた利益では意味がなく、実績に裏打ちされたリターンこそが投資判断の基準となるわけです。
この指数を超えるリターンには2つの側面があります。1つ目は、参考にしている指数として日経平均、S&P500、MSCIワールドなどがありますが、例えば日経平均が5%成長した際にヘッジファンドが7%のリターンを出すように、明確なベンチマークと比較して優れた成績を上げている点が挙げられます。このようなアルファ(超過収益)が重要視されており、富裕層がヘッジファンドに投資する大きな理由となっています。日本のファンドでは、参考にする指数が曖昧だったり、そもそも明確なベンチマークがない場合も多いですが、ヘッジファンドでは明確な指数に基づいて運用し、その指数を上回る成果を示しています。これにより、インデックスファンド以上の価値があると判断されているのです。
もう1つの側面は、指数に関係なく、毎年安定してプラスのリターンを出している点です。通常、指数は市場環境によってプラスやマイナスに変動しますが、ヘッジファンドは市場全体が不調でも安定的に利益を出すことが可能です。例えば、過去10年や20年にわたり、毎年プラスのリターンを継続的に実現しているファンドも存在します。このように、明確な指数を超える実績を持つヘッジファンドが存在します。そのため、そうしたファンドに投資する選択肢が取られるわけです。一方で、もしそのファンドが指数を超える成果を出せていないのであれば、正直なところインデックスファンドに投資すれば十分と言えます。インデックスファンドであれば、世界株や米国株の指数に連動したパフォーマンスを得ることができます。しかし、このように指数を上回る成果を示しているファンドがあるため、多くの方がそうしたヘッジファンドへの投資を選択しているのです。
ポイント2)安定した価格推移
実績リターンとは少し異なり、ここでは価格の値動きの安定性が重要視されます。例えば、価格が大きく上下しながら10年後に資産が2倍になるケースと、価格変動が比較的小さく安定した推移で10年後に2倍になるケースを比べた場合、多くの人が後者を選ぶのではないでしょうか。激しい値動きを伴う資産運用は、不安を感じやすく「たまたま結果的に上がっただけ」と見なされることもあります。一方で、安定した推移で資産を増やす運用であれば、運用期間中も安心して保有を続けられるため、富裕層はこの安定性を重視する傾向にあります。
多くのヘッジファンドは、この安定性を実現することを目的としています。一般的な株式市場、例えば日本株や世界株式市場の指数では、年間の値動きの幅を示す変動率が20%弱とされています。この数値は市場の変動の激しさを表しており、相当大きな値動きがあることを意味します。一方、ヘッジファンドでは変動率が10%前後のものが多く、中には数%という非常に安定したファンドも存在します。これにより、世界の株式指数やインデックスファンドと比べて、ヘッジファンドは安定した価格推移を提供できるのです。
さらに、過去の実績を比較すると、例えば、MSCIワールドのような世界株式の指数に連動する実績リターンは、過去10年から20年の平均でおおよそ年間6%程度です。その一方で、このリターンに対する変動率は約20%となっており、値動きは比較的激しいといえます。一方、ヘッジファンドの中には、実績リターンが例えば年間8%で、変動率が10%程度のものがあります。この場合、実績リターンが高く、変動率が低い方が優れていることは明白であり、この2つを比較すればヘッジファンドが選ばれることが多いです。このような実績を持つヘッジファンドは世の中に多数存在するため、世界株のインデックスファンドではなく、こうしたヘッジファンドに投資するという結論に至る方が多いのです。
ポイント3)資産分散効果が高い
資産分散効果という言葉を耳にしたことがある方も多いかと思いますが、通常、株式や債券、不動産といった一般的な資産は、ある程度連動して動く傾向があります。例えば、株が上昇するときには債券が逆の動きをする場合もありますが、全体として景気が良いときには多くの資産が上昇し、逆に景気が悪いときには多くの資産が下落する、という連動性が見られます。そのため、良いときはすべて良い反面、悪いときはすべて悪くなるという状況が起こりやすいのです。
一方で、ヘッジファンドはこれらの資産とあまり連動しない特徴を持つものが多く存在します。例えば、株式や債券が不調なときに、ヘッジファンドが逆に良いパフォーマンスを示すことで、ポートフォリオ全体の安定化に寄与します。富裕層はすでに株式や債券、不動産など多くの資産を保有していることが多いため、これらとは連動性が低いヘッジファンドを組み入れることで、資産全体の分散効果を高めているのです。
この連動性の低さは、専門的には「相関係数が低い」と表現されます。相関係数が1であれば完全に連動し、-1であれば完全に逆の動きをします。多くのヘッジファンドは、世界株式などの一般的な資産に対して相関係数が-0.2から0.2の範囲内に収まるものが多く、ほとんど連動しないと言えます。このため、元々保有している株式や債券、不動産などとは異なる動きをするヘッジファンドを組み入れることで、資産の分散効果をさらに高めることが可能になります。
ポイント4)死に物狂いの天才に託せる
この理由は、数字やデータに基づくものというよりは、感覚的で感情的な側面が大きいかもしれません。海外の著名なヘッジファンドで資産運用を担うファンドマネージャーの多くは、超一流の大学を卒業し、博士号を持つ研究者や物理学や数学の分野で天才と呼ばれるような人々で構成されています。彼らは、日々の市場の変動を分析し、利益を最大化するために死に物狂いで運用を行っています。
ヘッジファンドの世界では、成果が上がらなければ即座に解雇される厳しい環境が待っており、ファンドマネージャーたちは自らの地位を守り、高い報酬を得るために全力を尽くします。こうした背景が、富裕層にとって非常に大きな魅力となっています。一方、日本国内のファンドでは状況が異なります。多くのファンドマネージャーはサラリーマン的な立場にあり、運用成績が良くても得られる報酬には限りがあります。一方で、成績が悪かった場合でも、法律や慣習によって解雇されることはほとんどありません。このような状況では、海外のヘッジファンドと比較して「死に物狂い」で成果を追求する環境や意識が根本的に異なります。
自分の命の次に大切なお金を預ける相手を選ぶ際、能力が高く、全力で資産運用に取り組むプロフェッショナルに託したいと思うのは当然のことです。
以上が富裕層がヘッジファンドに投資する4つの理由となりますが、これらはあくまでヘッジファンドに投資する際のメリットに過ぎません。ただし、メリットだけを見て投資を決めるのは危険であり、ヘッジファンドにも存在するデメリットについて理解した上で投資判断を行うべきです。
ヘッジファンドの4つのデメリット
次にヘッジファンドの主なデメリットについて簡単に説明します。ポイントは4つあります。
ポイント1)流動性が低い
一般的なファンドでは、1週間程度で換金が可能ですが、ヘッジファンドの場合、解約の手続き後、実際に現金化されるまでに1ヶ月から数ヶ月かかることが多いです。このため、必要な時にすぐに資金を引き出せないという点は、明確なデメリットと言えます。
ポイント2)運用コストが高い
ヘッジファンドの運用報酬は、通常、年間の信託報酬が2%、さらに実績報酬として利益の20%をファンド側が受け取る仕組みになっています。一方で、一般的なアクティブファンドでは信託報酬のみで2%程度、インデックスファンドでは0.数%程度と、コストが非常に低いことが多いです。このため、ヘッジファンドは他のファンドと比較して明らかにコストが高い金融商品
となっています。
ポイント3)開示情報が少ない
ヘッジファンドでは、どの株をどれくらい保有しているのか、または取っているリスクやポジションなどの詳細を一般的には開示しません。また、運用戦略についても細かく説明されることはありません。これは、運用戦略やポジションがファンドの根幹であり、それを明かしてしまうことでファンドの存在意義が損なわれたり、戦略を模倣されるリスクがあるためです。ただし、自分がどの資産をどれだけ保有し、どのようなリスクを取っているのかを明確に理解したいと考える方もいます。こうした方々にとっては、情報開示が不十分である点がヘッジファンドのデメリットと感じられる場合もあるでしょう。
ポイント4)投資ルートが少ない
日本においては、実績があり信頼できるヘッジファンドに投資できる証券会社が非常に限られており、そういったファンドにアクセスする機会自体が少ないのが現状です。このため、特に日本国内の投資家にとっては、適切なヘッジファンドに投資できる可能性が低いというのが大きな課題となっています。
以上がヘッジファンドの4つの主なデメリットです。多くの富裕層の方々は、これまでお伝えしたようなヘッジファンドのメリットがデメリットを上回ると考え、投資を決断されるケースが多いです。しかし、デメリットも十分に理解する必要があります。例えば、流動性を最も重視する方や、運用コストを重視する方にとっては、ヘッジファンドのデメリットが大きく感じられる場合もあります。そのような方にとっては、ヘッジファンドは適さない金融商品であり、投資を見送る方が良いでしょう。一方で、多くの富裕層にとってはデメリットを超えるメリットがあると感じられるため、ヘッジファンドに投資する方が多いのではないかと考えています。
まとめ
今回のテーマ、「富裕層がヘッジファンドに投資する本当の理由を超わかりやすく説明します」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)富裕層にとってHFはメリット>デメリット
安定した実績リターンや価格推移、資産分散効果を求める方が非常に多い一方で、流動性の低さや運用コストの高さといったデメリットについては、それほど気にされていない方が多い印象です。流動性の低さに関しては、基本的に富裕層の方々は十分な資産を持っており、余裕資金で運用しているケースが多いため、万が一の際にすぐに使う必要がある資金には向いていないものの、本当に余裕のある資産であれば問題ないと考えられています。また、運用コストについても、それを上回る実績リターンを安定的に出しているヘッジファンドであれば合理的な判断として投資される方が多いのです。このように、デメリットを十分に理解しつつも、それを超えるメリットを感じて投資する富裕層の方が多いのではないかと思います。
ポイント2)大事なのは安定した実績リターンと資産分散効果
特に富裕層の方々が重視しているのは、「安定した実績リターン」と「資産分散効果」の2つではないかと思います。安定した実績リターンとは、ファンドの値動きの激しさ(変動率)に対する実績リターンの高さを指します。ヘッジファンドの変動率に対する実績リターンは、通常の株式投資などと比較して優れている場合が多く、指数を超える利益や、より安定した運用を求めて投資する富裕層の方が多いと考えられます。また、資産分散効果についても重要視されています。富裕層の方々は既に株式や債券などの多様な資産を保有していることが多いため、これらに連動しない資産を持つことで資産分散効果を高めることを目的に、ヘッジファンドに投資する方が多いのではないかと考えられます。
ポイント3)HFも平均指数だと普通なのでファンド選定が重要
ヘッジファンドについて良い面を多くお話ししましたが、実はヘッジファンド全体の平均指数のようなものも存在し、日経平均やS&P500のように複数のヘッジファンドを組み合わせた平均値が計算されています。ただ、この平均指数自体はそれほど際立って高いわけではありません。つまり、ヘッジファンド全体が非常に優れているわけではなく、単にヘッジファンドに投資すればよいというものではないのです。したがって、ファンドの選定が極めて重要になります。
選ぶ際には、特に安定した実績リターンと資産分散効果の2つの尺度を重視することが大切です。安定した実績リターンについては、変動率に対する実績リターンの数値が参考になります。この数値が、基準としているベンチマークの指数に対してどれだけ利益を上回っているのか、またそれがどれだけ長い期間にわたって継続しているのかを確認する必要があります。一方、資産分散効果については、自分が現在保有している資産に対して、そのヘッジファンドがどれほど連動性が低いのかを重視することが求められます。この2つの尺度をしっかりと基準にして、自分に合ったヘッジファンドを探すことが重要だと考えます。
ポイント4)日本にも少しずつ投資ルートが増えている
日本におけるヘッジファンドへの投資ルートについては、以前と比べて少しずつ増えてきています。デメリットとして、日本では投資ルートが少ないとお伝えしましたが、私がこの業界に入った20年前は、ほとんど選択肢がありませんでした。それが、10年ほど前から徐々にヘッジファンドを取り扱う証券会社が現れ始め、2025年現在ではまだ数社程度ではあるものの、海外の著名で実績のあるヘッジファンドを扱う証券会社も出てきています。このように、亀の歩みのようではありますが、日本でも投資ルートが確実に増えています。そのため、日本にいらっしゃる富裕層の方々でも、適切な選択をすれば十分に著名で実績のあるヘッジファンドへの投資が可能であり、その効果を十分に享受できる環境が整いつつあると考えています。
本日は、「富裕層がヘッジファンドに投資する本当の理由を超わかりやすく説明します」という内容でお届けさせていただきました。

株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中