目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
今回のテーマは、「未上場会社オーナーが実践する高リターン型の資産配分戦略【米ドル債券ポートフォリオ事例解説】」です。
当社では、毎年多くの富裕層の方々からご相談をいただいております。毎年100名以上の方がご相談にいらっしゃり、実際に数十名の方が当社で資産運用を行っていただくというイメージが多いかと思います。当社は8年間にわたり、さまざまな富裕層の方々の資産運用をサポートしてきました。その中で、富裕層の方々の資産運用の配分や特徴、考え方、成功例なども多数見てきました。今回は、富裕層の属性別に、期待リターンやリスク許容度、そして特徴に応じた資産配分戦略を詳しくご説明します。
全5回シリーズの第1回目となる今回は、富裕層の中でも特に多いと考えられる『未上場会社のオーナー』の資産配分戦略についてです。株を保有している未上場会社のオーナー経営者の方々が多いと思いますが、そうした方々が実践している比較的高リターン型の資産配分戦略について、さらに米ドル債券ポートフォリオの適切な構成についてもお伝えしたいと思います。
▼今回の内容はYouTubeでご覧いただけます
富裕層5タイプの傾向分析
こちらが「富裕層5タイプの傾向分析」となります。まず、その属性の富裕層がどのような期待リターンを持ち、どれくらいのリスクを許容できるのか、またどのような特徴を持っているかをお伝えしたいと思います。
5回シリーズの第1回は「未上場会社オーナー」、次回以降は「医療法人オーナー」、「上場会社オーナー」、「会社売却富裕層」、「相続富裕層」という順でお話しする予定です。
ただし、これはあくまで私の経験に基づく平均的な傾向であり、属性によって数値や考え方は個々に大きく異なることもあります。そのため、その点をご留意の上でお聞きいただければと思います。
未上場会社オーナーの場合
では、まず今回のテーマである「未上場会社オーナー」の期待リターンやリスク許容度の特徴について見ていきましょう。期待リターンは人それぞれですが、一般的に未上場会社オーナーは比較的高いリターンを求める傾向があります。具体的には、毎年5%から7%の期待リターンを目標とする方が多いかと思います。理由として、未上場会社オーナーは事業投資において10%から20%の高いリターンを得ていることが多く、その分リスクも高いですが、本業で高い利益成長率を維持していることが背景にあります。そのため、資産運用においても他の富裕層に比べて、より高い期待リターンを求める傾向があると言えます。期待リターンを平均すると、プラス5~7%程度を目標にしている方が多いのではないでしょうか。
次に、リターンと表裏一体の関係にあるリスク許容度についてですが、未上場会社オーナーは比較的高いリスクを許容できる場合が多いです。その理由は、安定した利益を本業から得ているためです。基本的に毎年安定した利益が生み出されているため。仮に資産運用で損失がでたり失敗しても、本業の収益や会社の資産があるため、大きな問題にはならないという方が多いようです。そのため、リスクを多く取ることができる方が多い傾向にあると思います。また、リスクを取ってでも期待リターンの高い利益を求めたいという方が多い印象です。
未上場会社オーナーの資産運用の特徴
最後に、未上場会社オーナーの資産運用に関する特徴として、基本的に会社の余剰資金を運用される方が多いようです。未上場会社の場合、事業を行っている会社本体の余剰資金や、持株会社を資産管理会社として運用するケースが多く見られます。個人の役員報酬や配当で資金を受け取ると税務効率が悪いため、未上場会社オーナーは、個人に必要な資金を最低限の役員報酬で受け取り、残りの資金は事業会社や持株会社にストックすることが多いです。そのストックされた資産を運用するのが基本的なパターンです。会社の資産としてそのまま運用するというイメージですね。
以上が、富裕層5タイプの中での未上場会社オーナーの投資に関する傾向分析です。
当初の資産配分
未上場会社のオーナーの資産配分戦略について、今回実例の資産配分が最初の状態からどのように最適化されたかについて話します。表の右下に資産配分の当事者の本人情報や要望が書かれていて、資産配分シートとして確認していきます。
日本株式を2000万円増やし、先進国株式を1億3000万円、新興国株式を5000万円、先進国債券を3億円、国内不動産を5億円、国内ローンを4億円というバランスでご提案しました。この提案に基づき、ご本人様にご投資いただいた形です。
再配分した配分シートの表を見ていきます。総資産合計が大きくなっています。元々は9億6000万円でしたが、借入を4億円増やした結果、現在は13億6000万円になりました。レバレッジ比率はもともと112%と低めでしたが、借入を行ったことで現在は160%と高めに設定されています。ただし、高すぎる水準ではないため、許容範囲内で投資効率を高めていると言えるでしょう。
金融資産と実物資産のバランスについては、元々は金融資産が70%、実物資産が30%でしたが、実物資産を増やした結果、金融資産が42%、実物資産が57%となり、バランスは金融4:実物6になりました。他の動画でもお伝えしている通り、資産配分においては金融4、実物6のバランスがちょうど良い黄金比率とされています。流動性を確保しながら借入を利用して国内不動産に投資することで、このくらいのバランスが理想的だと考えられます。
次に、外貨比率についてですが、現在58%となっており、およそ6割が外貨、4割が円となっています。通常、外貨比率は50%を基準に考えますが、この方はリスクを取りつつリターンを追及する姿勢が強く、円安を見込んで外貨比率を58%に設定しています。このバランスに問題はないと判断されています。
株式の比率は44%、債券は51%で、株式の割合がやや少なくなっています。ご要望の通りコア資産にのみ投資している点が特徴です。投資対象は主に株式、債券、国内不動産の3つの資産クラスに限定し、資産運用をシンプルにしています。国内不動産についても、複数の物件に分散するのではなく、都内の1棟RCマンションや住宅、レジデンスに集中投資することで、投資の手間や管理を簡素化しています。
これらが、高リターンを求める未上場会社オーナーに適した資産配分戦略です。一般的な富裕層の場合、期待リターンは低めでリスク許容度も低いため、株式の割合を減らし、債券の割合を増やす傾向があります。しかし、この未上場会社オーナーは目標リターンが6~7%と高いため、株式の割合を高め、借入を多くして投資を行わないと目標リターンに届きません。したがって、この目標を達成するためには、今回のようなポートフォリオが必要となります。このポートフォリオで、期待リターンはおおよそプラス6~7%に設定されています。
米ドル債券ポートフォリオ設計例(普通社債+劣後債全種)
次に、先ほどの資産配分の中で、先進国債券として3億円を米ドル債券に分散投資したポートフォリオを設計しました。このポートフォリオの設計例やイメージについてお伝えします。
今回のポートフォリオは、未上場会社オーナーが高リターンを追及するために設計されたもので、通常の富裕層や一般的なリスク許容度の方よりも、より大きなリスクを取って高い利回りを狙う米ドル債券ポートフォリオとなっています。それでは、ご覧ください。
このポートフォリオでは、10種類の債券に分散投資しています。発行体や業種、国はさまざまですが、銀行や投資会社、IT企業が多くを占めています。国別ではアメリカが最も多いものの、ヨーロッパ(フランスやイギリス)や日本企業の発行体も含まれています。
債券の種類も特徴的で、10債券のうち5債券が普通社債、2債券が期限付きの通常の劣後債、1債券が永久劣後債、さらに2債券がCoCo債です。劣後債の中でも、3種類に分散して投資しています。比較的リスクの高いCoCo債も含め、劣後債やその他の債券をポートフォリオに加えることで利回りを高めています。
すべて米ドル建ての債券であり、各債券に3000万円ずつ投資して合計3億円のポートフォリオとなっています。債券の格付けも設定されており、低格付け債も含まれています。No,1の債券はB+と低格付け、No,2はBBで同じく低格付けです。それ以降は基本的に投資適格債ですが、No,9の債券(通信会社)はBB+で投資非適格ギリギリとなっています。このポートフォリオの平均格付けはBBB-であり、通常の債券ポートフォリオよりもリスクを取りつつ高い利回りを目指していることが分かります。
次に、残存期間についてです。各債券が償還されるまでの期間は、最初の債券が2.8年、次の債券が3.7年、その後は5年、6年、13年、18年、19年、26年、27年と続きます。平均残存期間は14.8年となっています。比較的リスクの高い低格付けの債券については、利回りが高い一方でリスクも高いため、残存期間を短めに設定しています。例えば、No,1とNo,2の債券(B+やBBの格付け)は、残存期間を特に短く設定しており、それぞれ2.8年と3.7年です。この期間であれば発行会社のリスクと利益との見合いから許容範囲と考えています。
最後に、利回りについてですが、CoCo債や永久劣後債は6%前後の利回りが得られています。また、新興国のリスクを取ったNo,4の債券では、8%という高い利回りを達成しています。一方、低い利回りの債券も4%程度のものがありますが、全体的には5%以上の利回りを持つ債券が多めです。ポートフォリオ全体の平均年利回りは5.7%となっており、現在の米国10年国債利回りが3.7%であることを考慮すると、国債利回りに対して2%の上乗せが実現されています。この2%の上乗せは大きなリターンです。ただし、この分リスクを取っており、格付けがBBB-のリスクの高い債券も含まれたポートフォリオになっています。
このようにリスクを取ることで、高い利回りを追及する富裕層も実際に存在します。この方の場合、期待リターン6~7%を達成するために、債券においてもリスクを取り、利回りを追求する必要があります。その目標に合わせた米ドル債券ポートフォリオとなっています。
まとめ
では、今回のテーマ「未上場会社オーナーが実践する高リターン型の資産配分戦略【米ドル債券ポートフォリオ事例解説】」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)期待リターンとリスク許容度が高くなる傾向
未上場会社オーナーは、一般的な富裕層よりも期待リターンやリスクの許容度が高い傾向があります。多くの方が、5〜7%のリターンを目指し、リスクを取ってでも高いリターンを追及しています。今回の資産配分も、リスクを取りながらリターンを追及する形が多く見られます。
ポイント2)株式・債券・不動産(頭金)の割合等分が目安
今回の実例に基づく期待リターンが6%〜7%と比較的高めの場合、資産配分は株式、債券、不動産(不動産から借入を差し引いた純資産)の割合が均等であることが、分かりやすい目安となります。提案された配分では、株式が約2.6億円、債券が3億円、不動産(借入を差し引いた純資産)が2.7億円で、これにより株式、債券、不動産がほぼ等分の割合となっています。このバランスに基づくと、純資産ベースでの資産成長には、債券でややリスクを取り、利回りが高いポートフォリオを組む必要があるという前提が考えられます。結果として、期待リターン6〜7%のポートフォリオが構築される可能性が高いでしょう。等分のバランスが、分かりやすい指標となります。
ポイント3)劣後債・低格付け債は発行体・銘柄選定がキモ
債券ポートフォリオで利回りを高めるには、劣後債やCoCo債、さらに低格付け債券(BBB+以下)を組み入れる必要があります。ただし、これらの債券にはリスクが伴うため、発行体や銘柄の選定が非常にキモとなります。この部分は慎重な検討が求められ、金融アドバイザーと十分に相談しながら決定することが重要です。
ポイント4)アドバイザーにブレーキ役を担わせる必要あり
未上場会社オーナーはリスク許容度が高いため、投資においてリスクを取りすぎる傾向があります。本業で利益を得ていることから、投資でもリスクを取って高いリターンを目指すケースが多いのです。目標リターンが高いため、ある程度のリスクを取ることは必要ですが、無制限にリスクを取るわけにはいきません。投資判断を慎重に行わないと、過度なリスクを抱えてしまう可能性があります。そのため、未上場会社オーナーこそ、資産運用においてアドバイザーや金融機関がブレーキ役を果たすことが非常に重要です。金融機関や不動産会社からの提案は一見魅力的に見えることが多いですが、その裏に潜むリスクを見極め、適切にリスクを管理する必要があります。アドバイザーとしっかり相談し、利益とリスクのバランスを取りながら資産運用を進めることが大切です。
最終的に、未上場会社オーナーが積極的にアクセルを踏む一方で、アドバイザーが適切なタイミングでブレーキを踏んでリスクを調整し、両者が協力してうまく伴奏しながら資産運用を進めることで、成功の可能性が高まるでしょう。
本日は「未上場会社オーナーが実践する高リターン型の資産配分戦略【米ドル債券ポートフォリオ事例解説】」という内容でお届けさせていただきました。次回は、医療オーナーという富裕層の方々のタイプについて、資産配分戦略をお話ししたいと思います。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中