目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
本日のテーマは、「『円高待ち』をあきらめて米ドルに投資する富裕層が急増している理由」です。今年は、年始から基本的には米ドル高円安の方向に動いています。やはり日本の富裕層の方は円をたくさんお持ちですので、資産のある程度の部分をドルに移したいという需要が高いです。ドル安円高になるタイミングがあったらドルを購入したいというご要望をお持ちの方が、私たちのお客様の富裕層の方にも非常に多くいらっしゃいます。
基本的にドル高円安の動きが止まらないということもあり、なかなか円高のタイミングがなく、ドルを購入できていない方がかなり多くいらっしゃるようです。3月~4月まではまだドル安円高を待っていた方が多かったのですが、円高になるタイミングがなかなかない状態で5月になり、あきらめてドルを購入される方が増えてきています。6月になり、待っていた方々の大半が、ドルを購入する投資行動になっている方が急増しています。
ですから今回は、このような富裕層の方々が円高待ちをあきらめて、米ドルに投資している理由について簡単にご説明できればと思います。
▼今回の内容はYouTubeでご覧いただけます
米ドル円と日銀政策の推移(2024年1月から6月中旬)
日銀の政策は、為替、ドル円に与える影響が非常に大きいので、米ドル円とそれに伴う日銀の政策の推移を表した、2024年1月から6月中旬までの約半年間分のチャート見ていただければと思います。こちらは日本経済新聞から抜粋したものです。
このチャートは、上にいくほど円高で、下にいくほど円安になっています。2024年1月は141円~142円でしたが、そこからブレはありますが、基本的にはドル高円安に進んでいるというのが大まかな流れです。
その過程で今年の3月に大きな動きがあり、日銀の政策としてマイナス金利を解除し、今までのマイナス金利をプラス0.1%程度にしました。アメリカとの金利差が原因でドル高円安だったので、これによって円高になりそうなものですが、逆にならずに、さらに円安にいくという動きがありました。
その後4月下旬にまた日銀会合があり、ここで利上げの見通しが立てられると思っていましたが、それがありませんでした。多くの方が円高にいくことを期待し、ドルを買おうとしていましたが、逆にドル高円安になりました。それによってまた円が急落し、160円くらいまでいきました。
その後5月の上旬、ここで政府日銀が円買い介入し、160円から一気に153円台までいきました。ドルを買いたい人たちにとっては、ここが多分最初で最後の2024年のタイミングだったかもしれません。一瞬153円までいきましたが、円買い介入は一時的なものですから、本当に円を売りたいドルを買いたいという市場の動きには抗えないわけです。
その後はドル高円安が少しずつ進み、6月の中旬に行われた日銀会合で、国債の買い入れ額を減らす、量的緩和を縮小するという発表がありました。ただ、利上げに対する言及はあまりありませんでした。それにより、また今は157円台が継続し、円安傾向が続いているという状況です。
このドル円の推移と日銀政策の推移を見ていただいてわかるように、日銀の政策や政府の政策に富裕層の方々が期待し、それによって円高にいったタイミングでドルを買うことを渇望していましたが、その期待になかなか応えられてはいません。期待を裏切られ続けてきました。
3月~4月頃までは、「政府・日銀は円買い介入してくれるでしょう」「150円台切るのではないか?!」と期待しながら、ドルを買おうと思っていましたが、4月5月と進んでいくものの、そのタイミングはなかなか来ません。6月に入り、国債の買い入れ減額で利上げをやるという発表があり、ドルを買おうとしていましたが、その期待も裏切られます。やはり、「日本は金利を上げられないのではないか」と思うようになります。
本来であれば、インフレを止めなければ、円安を止めなければならないけれども、金利を上げれば、国債をたくさん持っているので利払いが増えますし、景気が冷えるリスクもあります。このことから、簡単には金利を上げられないことがわかってしまったわけです。
そうなることにより、今後ドル安円高に簡単にいくのは難しそうだという予想のもとに、「円高待ちしていても無駄だ」ということであきらめ、富裕層の多くの方は、円をドルに替えるという行動をされているのかと思います。そのようなことが、この半年のドル円と日銀政策の推移を見るとよくわかるのではないでしょうか。
まとめ
今回のテーマである「『円高待ち』をあきらめて米ドルに投資する富裕層が急増している理由」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1 )半年以上は待てないと痺れを切らした
単純にかなり長い間、今年の年始から半年くらいは皆さん待っていました。ただ、やはり半年以上は円高待ちしていられないということで、痺れを切らして円をドルに替えている富裕層の方が多いのではないかと思います。
今のアメリカの金利の利回りは2%~3%です。これが1年なら5%、2年なら10%になるので、それだけ待ったとしても、円高がくるかどうかは正直わからないわけですから、さすがにそれほど待てないということで、円をドルに替えている富裕層の方が多いのではないでしょうか。単純に待たせすぎたということかもしれません。
ポイント2)日銀政策・円買い介入への期待喪失
先ほどのチャートでもお話ししたように、日銀の政策金利を上げるという政策で円高になること、円買い介入によって円高になること、これを、ドルを買う一つのタイミングとして待っていた富裕層の方がたくさんいらっしゃいます。
しかし、この度重なる日銀決定会合の発表や円買い介入などを見ていても、全然円高にいかず、円高になる効果はありません。円安になるのを抑える効果は多少ありますが、なかなか円買い介入、円高にいくレベルの円高にはならないのです。
ですから、そのような日銀政策や円買い介入に対する期待の喪失、これも円をドルに替えている富裕層の方が増えている一つの理由になっているのではないかと思います。期待喪失によってあきらめて、ドルに替えてしまうという動きにつながっているわけです。
ポイント3)さらなる米ドル高、円安への恐怖
円高になったらドルを買うと、皆さん待っていました。しかし、一本調子でドル高円安にいき、さらに「このままドル高円安にいってしまうのではないか」「ドルに置いていかれているのではないか」という恐怖を抱き、それが円をドルに替える行動を後押しすることにつながっているのではないかと思います。
基本的にここ数年は、日本とアメリカの金利差で為替は動いていました。アメリカの金利は高く、日本の金利は低いので、低い金利の国の通貨から高い金利の国の通貨に為替が動きますので、円を売ってドルを買うという動きになっていたわけです。
しかし、今年2024年に入り、アメリカの金利は下がる傾向にあります。一方で、日本の金利は上がる傾向にあります。ですから、金利差は本当は縮小しています。経済原理だけでいうと、ドル安円高に動くはずです。ただ、そうは動いていないということは、金利差だけではないと、皆さん感じているはずです。
では、なぜ円安なのでしょう。日本の国、日本の円の信用が落ちていることにより、ドル高円安が進んでいると考えている方が多いのではないでしょうか。しかし、それは中長期的な話だと皆さん理解されています。
日本は借金も多いし、経済が成長していないので、最終的にはドル高円安になると思っていましたが、それが「今、来ている」と思っている方も結構いらっしゃいます。10年後、20年後の話だと思っていたら、「今、そのステージに入ってしまったのか」と思っている方もいるわけです。
そのような状況になったとすると、今は150円台ですが、それが160、170、200、250、300台にいってしまう可能性もあるのではないかと恐ろしくなります。資産の大半を円で持っているような方は、300円、400円になる世界は地獄です。そうなると、「150円台の今のうちに資産の半分ぐらいはドルにしておきたい」ということで、円売りドル買いの行動につながっているのではないかと思います。そのような方も結構いらっしゃいます。
ポイント4)米ドル債券の利回りが下がる前に投資
アメリカの金利が、今年一番高いところで4.7%までいき、そこから下がってきて今4.数%ぐらいになっています。今年の9月、アメリカのFRBの中央銀行会議で政策金利が0.25%下がるというのが大体の予想です。その予想通り下がったとして、この後はいつ下がるのかが気になるところです。
アメリカの金利が全体的に下がるトレンドが見えてくると、皆さんが投資しているような米ドル建ての債券の利回りも、やはり上がるよりは下がる可能性の方が高いと、皆さん思うでしょう。そう考えると、債券の利回りが下がる前に、金利が高い状態で投資しておきたいと思うのは必然ではないかと思います。
ドルに替えた後、ドルのまま預金で持っている方は少ないので、ドルに替えて米ドル債券に投資したい方が一番多いと思います。しかし、円高を待っているうちに、アメリカの債券の利回りが少しずつ落ちてくるのを見ていて、やはり気をもむわけです。せめて、アメリカの国債利回りが4%台で投資しておきたいと思っている方が結構多いです。
今は4.2%~4.3%ですので、「もうそろそろ潮時ではないか」「そろそろ投資しておかないと4%切ってしまう」と思うわけです。そのような米ドル債券利回りが下がるという見通しが、「早く円をドルに替えてドル債に投資しなければ」という、円をドルに替える行動の後押しに間違いなくなっていると思います。
本日は「『円高待ち』をあきらめて米ドルに投資する富裕層が急増している理由」という内容でお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中