はじめに
2022年の税制改正で「暦年課税がなくなる」と話題になりました。
暦年課税がなくなると、生前贈与の際によく使われている贈与方法が封じられてしまいます。
暦年課税を利用した暦年贈与はよく使われる方法だったため、富裕層や専門家を中心に大きな話題を呼びました。
しかし、結果的に2022年税制改正では、暦年課税(暦年贈与)の撤廃は見送られるかたちになりました。
政府は相続税と贈与税の一体化を目指しているのに、なぜ撤廃にいたらなかったのでしょう。
相続税と贈与税の一体化の問題に関連する基礎知識と、撤廃にいたらなかった理由を解説します。
相続税と贈与税の一体化とは
相続税と贈与税の一体化とは、現状の相続税と贈与税のルール・制度を見直しすることです。
相続税と贈与税は密接な関係にあります。
被相続人(亡くなった人)の財産を受け取る場合、相続税の対象です。
しかし、この財産を被相続人の存命中に受け取ると贈与税の対象になります。
財産の持ち主の生死によって課税関係が変わるわけです。
生前の贈与については、死の3年前におこなわれたものについては相続税の計算に含めることになっています。
このように、相続税と贈与税は関係の深い税金です。
また、相続税対策としてよく生前贈与がおこなわれています。
生前贈与の際は暦年課税(暦年贈与)がよく使われています。
相続税と贈与税を一体として見直し、相続税逃れ・贈与税逃れを封じる狙いです。
暦年課税(暦年贈与)の撤廃とは
暦年課税(暦年贈与)とは、贈与税の非課税枠を使った贈与方法のことです。
贈与税には毎年110万円の非課税枠があります。この非課税枠の範囲内で贈与すれば原則的に贈与税はかかりません。
たとえば、相続税対策として息子に毎年100万円ずつ贈与するとします。
財産を贈与すると基本的に贈与税の課税があるのですが、100万円の場合は非課税枠の範囲内なので贈与税はかかりません。
1年に100万円ずつ息子に現金を贈与すれば10年で1,000万円です。
20年で2,000万円、30年で3,000万円になります。
本来は贈与税がかかる、あるいは遺産として相続すれば相続税がかかる可能性があるところ、非課税枠を利用して少しずつ贈与して、税金がかからないよう生前贈与するわけです。
相続税と贈与税の一体化では、現在よく使われている節税対策方法(暦年課税/暦年贈与)を封じると予想されていました。
そのため、2021年によくネット媒体やニュースで「生前贈与が難しくなる」「暦年贈与ができなくなる」と騒がれていたのです。
暦年課税(暦年贈与)の撤廃はなぜ見送りになったのか
結果的に2022年の税制改正では暦年課税(暦年贈与)の撤廃は見送りになりました。理由は3つ考えられます。
・富裕層をはじめとして国民の大きな反発が予想されるから
・いきなり大きな変更をすると社会が混乱してしまうから
・相続税と贈与税の一体化について今後さらに議論を重ねるべきだから
暦年課税(暦年贈与)は生前贈与の方法としてよく使われているばかりでなく、世間的にも浸透した税金知識です。
いきなりルール変更してしまうと反発が予想されます。「今まで110万円まで贈与に税金はかかりませんでしたが、今年から非課税枠はなしです」と言ってしまうと、多くの人が「増税だ」「横暴だ」と怒り出すのではないでしょうか。
社会的な混乱も招くかもしれません。
だからこそ、すぐに制度変更はできなかったという事情があると言われています。
また、贈与税と相続税を一体化するためには、税金についてもっと慎重に話し合うべきではないでしょうか。
さらに議論を重ねるために大幅なルール変更は見送りされたと言われています。
まとめ
贈与税の暦年課税(暦年贈与)が撤廃されると騒ぎになりましたが、2022年の税制改正では見送りとなりました。
理由は社会の混乱を防ぐためや、反発が予想されるなど、さまざま指摘されています。
今回の税制改正では撤廃は見送りとなりましたが、今後見直しが進むと撤廃される可能性があります。
生前贈与をおこなう場合はFPなどの専門家に相談し、早めに進めておいた方が安心です。