はじめに
政府は2月14日、日本銀行(日銀)の次期総裁に元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を指名しました。
植田氏は戦後初の学者起用になります。現総裁の黒田東彦氏は4月8日、雨宮正佳、若田部昌澄の両副総裁は3月19日に任期が満了します。
「異次元の金融緩和」はどうなる?(2023年2月現在)
植田氏は「異次元の金融緩和」を支持しており、市場では金融政策の大きな変化はないと見られています。
ただ、黒田総裁が就任直後の2013年に始めた異次元の金融緩和は、円高是正に効果があったとされますが、市場機能の低下や財政規律の緩みといった副作用も生じています。植田新総裁には、政府と緊密に連携し、日本経済や金融市場にショックを与えないようにしながら、金融政策を正常化に向けて導くという使命が課せられているのです。
金利上昇圧力が高まる中、日本銀行は2022年12月に長期金利の許容幅を0.25%から0.5%に拡大しました。
日本銀行が国債のほぼ唯一の買い手となった今、再び変動幅を拡大するのか、それともこの政策を廃止するのか、植田新日銀総裁の手腕に注目です。
また、日本銀行は、短期金利と長期金利を操作対象とする「イールドカーブ・コントロール」という世界でも例のない金融政策を行っています。
短期金利は、市場も国民も金利上昇にある程度備えることができますが、長期金利は、市場で突然金利が上昇するとコントロールできないという問題をはらんでいるので注意が必要です。
植田新総裁は、長期金利の決定の難しさ、問題点を認識しています。ですから、任期中の比較的早い時期にイールドカーブ・コントロールを撤廃、あるいは大きく変更する可能性が高いと考えています。
ただ、経済状況に応じて、半年や1年といった時間をかけてゆっくりと行う可能性は十分あるでしょう。
植田日銀新総裁の経歴
植田氏は、日本の金融政策研究の第一人者であり、1998年4月に東京大学教授から日本銀行審議委員に転じました。その後、再任され、2005年4月まで在任。1990年代後半から日本がデフレに陥る中、日銀のゼロ金利政策の導入などを理論的な見地から支持しました。そして、20年以上続いた金融緩和に最も精通した専門家の一人であったといえるでしょう。
また、2000年のゼロ金利政策解除に反対票を投じたことでも知られています。日銀が異次元金融緩和の出口を模索する中、性急に出口を急がないという安心感から日銀総裁に抜擢されたと考えられます。
日銀の新しい副総裁
政府は日銀の副総裁に氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事を起用する人事を固めました。現副総裁の雨宮正佳氏、若田部昌澄氏の任期は3月19日までとなっています。
前金融庁長官の氷見野良三氏
氷見野良三氏は大蔵省(現財務省)に入省し、その後、省庁再編により金融庁に所属することになりました。彼が注目されたのは、2004年に改正された主要国の銀行に対する監督規制「バーゼル2」の交渉の場でした。
当時、日本では大手銀行の経営破綻など金融危機の真っ只中にありました。規制強化は避けられない状況でしたが、粘り強く海外当局を説得し、邦銀が納得する条件を引き寄せたのです。
内田真一日銀理事
副総裁候補の内田真一氏は、金融政策の企画・立案を行う企画部でのキャリアが長く、現在の雨宮正佳副総裁とともに、量的・質的金融緩和政策の導入・強化に携わった「政策参謀」です。
マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロールの実施も担当しました。内田真一氏のこれからの役割は、自らが組み立てた大規模な緩和策をコントロールすることです。政策運営の実務に精通した副総裁として、理論派の植田総裁を補佐することが期待されています。
まとめ
金融政策の基本は継続性なので、植田新総裁は、まず経済情勢を見極めることから始めるでしょう。そして、現在の金融緩和の枠組みの問題点を、国民に不安を与えない形で時間をかけて修正していくことが求められます。
ただ、マーケットは総裁が替わることに過度な期待を持ちがちなので、きちんと市場と対話することも必要です。
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。