目次
はじめに
世界中の富裕層は、資産運用において常に最先端を追い求めてきました。2025年の投資環境は、AIの普及、地政学リスクの高まり、金利の転換、規制や税制の変化などが複合的に交差し、従来の常識だけでは舵取りが難しい局面が続いています。それは日本の富裕層においても例外ではなく、グローバルな潮流を的確に捉え、自分の資産配分や意思決定の文脈に落とし込む視点が不可欠です。本稿では「富裕層 資産運用 2025」の観点から、世界の動きを踏まえた最新トレンドを10のテーマで整理し、それぞれの狙いと活かし方、考慮しておきたいポイントを、解説します。また、ファミリーオフィスやプライベートバンク、IFAといった専門家の活用方法も併せて紹介します。
テクノロジーと資産運用の融合
世界的な潮流であるAIは、既に富裕層の投資プロセスに深く入り込んでいます。マーケットデータ、ニュース、決算、金利や為替の動向、さらにはオルタナティブデータまでを横断的に解析し、シナリオ別の収益・下振れ余地を想定することが可能になっています。また、生成AIの会話インターフェースは、専門家が頭の中で行ってきた仮説検証を短時間で可視化し、ポートフォリオの弱点や想定外の相関を発見するまでに発達しております。
一方で、AIの出力はあくまで材料であり、意思決定は人間が行うべきだという前提は揺らいでいません。過去データに依存する手法は、制度変更や地政学ショックの質的な転換点では稼働力の低下を招く為、多くの富裕層は、AIで思考を効率化した上で、最終判断は経験則と直感を持つ人間アドバイザーが行う「ハイブリッド・アドバイザリーモデル」を採用し始めています。このモデルは、スピードと説明責任を両立しやすいという理由で実務上の価値が高く、富裕層投資の現場で標準化が進むと見られます。
実装面では、データの品質管理やモデルの検証体制が重要です。説明可能性の確保、過学習の監視、外れ値への感度チェックといった点の改善が課題の為、AIの結論はそのまま採用せず、「なぜそうなったか」を人間の言葉に補完しておくことが大切です。
オルタナティブ資産への視野拡大
株式や公社債に加えて、プライベート・エクイティやプライベート・クレジット、インフラ、不動産の一部、ヘッジファンド、セカンダリー、ベンチャー債、訴訟ファイナンスなど、多様なオルタナティブ投資が検討メニューに並びます。未公開市場は上場市場と価格形成のメカニズムが異なるため、景気サイクルの局面次第では分散効果が働きます。他方で、コミット期間が長く、途中解約が事実上難しい案件もあるため、資金繰り設計と目標利回りの整合を確かめておく必要があります。
環境・社会・ガバナンスへの配慮を組み込むESGテーマや、AI・クリーンエネルギーの成長領域は、社会性と経済性を両立させやすい分野として依然注目を集めています。未公開市場では、キャピタルコールに備えた現金計画や、Jカーブを意識した複数年での投資計画が鍵です。成功確率を高めるには、ファンドの一貫性、運用チームの安定、共同投資の条件、手数料の総額を総合比較する姿勢が求められます。
ファミリーオフィスの活用
「最新ファミリーオフィス 」という観点で近年特徴的なのは、投資と統治(ガバナンス)と次世代教育の三位一体化です。単に資産を運用するのではなく、家族の価値観や歴史、地域社会との関わり方まで含めた長期ビジョンを文章化し、投資方針、慈善活動、リスク許容度、情報共有ルールを家族憲章として明文化する潮流が強まっています。この枠組みは、世代が交代しても意思決定の一貫性を保ち、外部専門家との協働においても共通認識として機能します。運用面では、コア・サテライトの発想で、低コストの広範インデックスを土台に、サテライトとしてプライベート市場やテーマ投資を積み上げる設計が広がっています。さらに最新のダッシュボードを用いて、証券・不動産・オルタナティブ・保険・借入の各データを日次で集約し、実質的な資産配分を確認しながら、税制や通貨の観点も加味して意思決定する体制が整いつつあります。
日本では、コストや人材確保の難しさから、複数の富裕層家族が共同で利用する資産管理サービスの、「マルチファミリーオフィス」の採用が加速しています。複数の家族でインフラや専門家を共有しながら、専属に近い支援を受ける形です。
相続・事業承継という文脈では、議決権と経済的権利の分離、持株会社の設計、信託の活用、国内外の財団設立、家族会議の定例化など、法律・税務・人の感情が絡む難題が並びます。プロセスを急がず、定量データと対話の両輪で合意形成を積み上げることが、結果的に家族内の信頼を強化し、運用面のブレを小さくします。
ガバナンス面では、投資・慈善・教育の三委員会を設けて年次計画を回す方式が実務的です。その他、承継ではシャドー期間を経て段階移管とし、限定額から意思決定を任せると学習と責任が両立します。また、必要に応じてプライベートバンクやIFAを招き、第三者視点の意見を取り入れることで内向きのバイアスを緩和することも可能です。
資産配分の再設計と流動性の扱い
2025年は、資産配分の再点検が有効に機能しやすい年になると思います。金利水準の見直しはディスカウントレートに直結し、株式の期待収益率や不動産の利回り、プライベート資産のバリュエーションに波及します。このため、伝統資産とオルタナティブを横断した「一体型の資産配分表」を用意し、ベースケースとストレスケースでの推移を定期的に点検する方法が可能です。
また、流動性は単なる現金比率ではなく、信用枠、証券担保ローン、コール可能な資本コミットメント、保険の解約返戻金といった多層構造として把握するのが実務的です。運用機会を逃さないための余力と、想定外の出費に備える余力は性質が異なるため、用途別の財布を分けて管理する必要があります。実務では、生活・教育・医療など確度の高い支出を「安全資金」として年限に合わせて確保し、余力は市場が不安定な局面に温存する方法が機能します。為替エクスポージャーの管理、デリバティブによるリスクヘッジ、タックスロスハーベスティング(含み損のある株式や投資信託などを意図的に売却し、その損失を同年内の売却益と相殺することで、課税される譲渡所得を抑える節税手法)といった微修正も、長期的な設計においては大きな差を生みます。過度に短期化せず、年次の見直しを軸に落ち着いた運用を心がけると、結果としてリターンは安定しやすくなります。
富の移動と次世代戦略
世界的に見ても、相続・贈与を通じた資産の世代間移転は加速しています。日本では税制上の配慮が必要で、国内だけでなく国際的な居住や投資の構造が絡むと、二国間条約や居住性の判定など専門的な知識が必要です。事前に戦略を描き、移転の順序やタイミングを議論しておくことが、結果的に家族関係の円滑化にもつながります。教育資金、起業支援資金、社会貢献活動といった目的別の基金を用意し、若い世代が責任を持って意思決定を学ぶ場を設けることも有用です。
移住や多拠点生活を検討する場合は、居住性の判定、源泉地課税、出国時課税、贈与のタイミングなど、国ごとに異なるルールを丁寧に並べて比較する必要があります。寄付、ボランティア、環境保護活動についても、ドナーアドバイズドファンド(慈善団体への寄付を目的とした口座)や財団の設計、遺贈の方法など選択肢は多岐にわたります。早い段階から家族で目的を共有することで、資産移転は単なる節税ではなく、家族の絆を強めるきっかけとなるでしょう。
サステナブル投資の深化
サステナビリティは、単なるラベルではなくリスク管理の枠組みとして機能します。トランジションのコスト、規制の変化、サプライチェーンの再編など、財務に影響する事象を丁寧に織り込むための言語がESGです。富裕層投資の現場では、財務リターンと同時に非財務的目標を設定し、四半期ごとに進捗をモニターする運用も一般化しつつあります。サステナブル投資を通して、脱炭素社会への移行を支援するための資金調達手法である、「移行期金融」の議論を深めたり、既存産業のクリーン化に資金を供給する意義も生まれます。また、投資家としては、排出量の算定範囲、取締役会の監督機能など、企業の取り組みの検証する能力も養うことができます。
他方で、名称だけが先行する商品が混在している現実もあることから、運用方針、データの取得方法、エンゲージメントの実効性を読み解く姿勢を保ち、過度な誤解を避ける必要があります。
デジタル資産とトークン化の実務
ブロックチェーンの応用領域は、暗号資産の価格変動だけにとどまりません。不動産や未公開株、インフラのキャッシュフローをトークン化し、部分的に保有・譲渡する仕組みは、小口化と透明性の向上や、事務コストの削減という利点があります。とはいえ、依然法制度や会計、保管の枠組みは国や商品によって差がある為、導入の際は信頼できるプラットフォームと専門家の意見を参考にする手順が大切になります。また、税務の取り扱い、損失の通算、評価方法、相続時の扱いなど、デジタル資産特有の論点にも目を向けることも重要です。ファンド持分のトークン化や収益分配のスマートコントラクト化など、業界の実験は続いている為、少額からプロセスを体験し、法務・会計の確認を並走させることをおすすめします。
プライベートバンクの進化と資産配分の統合設計
プライベートバンクの役割はここ数年で明確に変化しています。単に預り資産を運用する枠を超え、グローバル口座の一元モニタリング、法人・個人・信託・財団を横断したキャッシュフロー管理、慈善活動の設計支援まで幅広くカバーしています。
中核は「資産配分の統合設計」で、複数の金融機関にまたがる口座、通貨、オルタナティブのコミットメント、保険や借入を含めた全体像を一括で捉え、期間別・通貨別のギャップを可視化します。そのうえで、コアは低コストのグローバル分散、サテライトはテーマ型・プライベート市場・ヘッジ戦略といった役割分担を明確化し、想定リスクに応じてリバランスのルールを事前に定めるなど厳格な運用が行われています。AIを活用したアラートやストレステストの自動実行、税引後リターンの最適化、次世代口座の段階的移管など、運用・税務・承継の接点をシステムでつなぐ設計は、2025年の「最新プライベートバンク」像と言えるでしょう。
日本の富裕層にとっては、国内専業と国際系のいずれを選ぶかが論点になります。海外資産や通貨分散を重視するなら国際ネットワークに強みを持つ機関が有利で、国内での相続や不動産、事業承継のハンドリングを重視するなら国内系のきめ細やかさが特徴です。いずれの場合も、IFAと併用し、第三者の視点で手数料や商品選定を点検するガバナンスを組み込むと、意思決定が中立に近づきます。
資産配分の議論を家族会議の定例議題に据えるご家庭も増えています。現在はサービス階層も多様化しており、専任チームが月次でパフォーマンスを提示したりもします。また、運用哲学と継続性、リスク許容度を重視してマネジャーを選ぶことで、共同投資やセカンダリーの機会も活用することが可能です。その他、家族が意思決定から離れないよう、年数回の対面や四半期オンラインのレビューを組み合わせる設計なども実施されています。
ヘルスケア投資とライフプランの統合
「富裕層資産運用」 の目的は、数字の拡大だけではありません。働き方の柔軟性、家族の時間、健康寿命の延伸といった非財務の幸福指標は、資産の使い方の指針となります。ヘルスケアやライフサイエンスへの投資は、財務的な期待値だけでなく、社会的意義や家族の価値観と整合しやすい分野です。実務的には、医療・介護・教育といった将来支出を見積もり、そのキャッシュフローをカバーする安全資産を先に確保するのが、心の余裕をもたらします。ヘルスケア分野は、長寿化や個別化医療の進展に伴い、投資対象としても利用サービスとしても広がっています。プライベートクリニックのメンバーシップ、遺伝子検査や早期がん検診、睡眠や栄養のコーチングといった日常の改善は、資産の使い方として満足度が高い領域です。
一方でこうしたヘルスケアへの投資は規制や治験結果で価格変動が大きくなる局面もあるため、テーマへの思い入れが投資額を押し上げすぎないよう注意も必要です。
IFAの役割拡大と富裕層の伴走体制
「IFA 富裕層 」という検索ワードが示す通り、富裕層の間で独立系アドバイザーの需要は高まり続けています。背景には、商品販売のインセンティブに縛られない助言へのニーズ、家計・事業・不動産・保険を横断する全体最適、そして家族の価値観を戦略に織り込む背景があります。IFAの強みは、利害関係の少なさだけではありません。プライベートバンクや運用会社、税理士・弁護士といった外部の専門家を「チーム化」し、家族側の意思決定を支えるプロジェクトマネージャーとして機能できる点に真価があります。
最新の現場では、AIによる資産配分の提案書作成、クラウドベースのモニタリング、家族会議のファシリテーションテンプレート、承継に向けた段階的な贈与・信託スキームの設計など、助言の範囲が広がっています。IFA選びでは、経験年数や資格だけでなく、過去のクライアントケースの再現性、手数料の透明性、そして「聞く力」を重点的に確認することが重要です。初期設計で相性を探るために、有料トライアルを設ける事務所も見られます。報酬は残高連動や定額リテイナー、成果連動の組み合わせなど多様化しており、透明性の高いモデルを選択できます。
投資に加えて保険・不動産・事業・教育・慈善を横断する助言を求めるのであれば、定例ミーティングの頻度やレポートの頻度、緊急時の連絡系統をあらかじめ文書化すると、関係が長続きします。そうすることで、富裕層の側も丸投げではなく、価値観や優先順位、時間軸を言葉にして共有し、アウトプットが的確になっていきます。
まとめ
本稿で取り上げた10の潮流は、互いに独立しているようで、実務では密接につながっています。重要なのは、流行語を並べることではなく、目的から逆算して、必要な機能を選び、過不足なく組み合わせることです。資産運用や投資の判断は、自分だけで最新トレンドを追い続けるのは難しいものです。だからこそ、IFAやプライベートバンクといった信頼できる専門家に相談することで、世の中の動きを踏まえながら「あなたに合った最適な戦略」へ落とし込むことができます。いま一歩踏み出すことで、資産を守りながら育てる未来が開けます。まずは気軽に専門家へご相談ください。

株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中