目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
今回のテーマは、「米ドル債券「米国債」投資【目標利回り4%】」です。出版記念スペシャル第4回としてお届けしたいと思います。2024年8月9日に、私は『富裕層のための米ドル債券投資戦略』という新著を出版させていただきました。富裕層がどのように米ドル債券に投資していけばいいのかという、実践的な内容を踏まえてお話しさせていただいている書籍です。
ここまで、米ドル債券の魅力や仕組み、そして投資環境についてお話しさせていただきました。今回は、いよいよ具体的な内容に移り、実際に皆さんが投資を検討する米ドル債券の詳細についてご説明します。また、米ドル債券の中心的存在であり、まさに親玉とも言える米国債についても詳しくご紹介いたします。
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債券種類ごとの利回りとリスク
米国債についてお話しするにあたって、最も分かりやすい理解の方法は米ドル建ての債券の種類ごとの利回りとリスクを把握することです。
米10年国債利回りの推移(過去20年)
では、具体的に米国債の利回りの推移を見ていきましょう。
こちらは、アメリカの10年国債の利回りを過去20年間にわたって示したものです。債券の現在の金利水準を把握するために、この米国債の利回りがよく使用されますが、これが今回のテーマである米国債の収益そのものになります。
米国債に投資するということは、この10年国債の利回りを基準に投資することを意味します。前回もお話ししたかもしれませんが、改めて確認いただければと思います。
グラフの左側をご覧いただくと、アメリカの国債利回りは過去には非常に高く、4%から5%程度の水準がありました。しかし、リーマンショック後の2008年から2009年にかけて、アメリカ経済も低迷しました。このため、景気を刺激する目的で、アメリカの中央銀行は政策金利を大幅に引き下げました。それに伴い、この10年国債の利回りも低い水準で推移していました。
過去20年の平均利回りは、おそらく2%から3%程だったと思われます。そして、2020年から2021年にかけて、コロナ対策のためにアメリカはさらに金利を下げ、その結果、利回りが1%を下回る水準にまで低下した時期もありました。
しかし、その後、2022年からインフレが発生し、それを抑えるためにアメリカは金利を引き上げました。それに伴い、アメリカの10年国債の利回りも上昇し、現在の水準では4.1%となっています。右側に示されているのが現時点での状況です。
2024年には一時的に4.7%から4.6%台の水準がありましたが、その後、少し落ち着いて現在は4.1%となっています。大まかな見通しとしては、アメリカのインフレがかなり落ち着いてきたため、政策金利が今後下がる可能性があり、それに伴い、この10年国債の利回りも低下し、先ほど述べた平均値である2%から3%程度に徐々に収斂していく可能性が高いと専門家は見ています。
これが10年国債の利回りの現状です。現在は過去の平均水準を大きく上回っているため、多くの方々が今の米国債への投資は非常に有利だと考えています。高い利回りで長期間投資できることから、これを絶好の投資チャンスと捉え、多くの富裕層が米国債に投資している状況です。
2種類の米国債
米国債には2種類の債券があります。実は、米国債ならではの2つの選択肢があり、他の債券にはない特徴です。この選択肢について、簡単にご説明いたします。
1つ目は、このイラストの左側にある「利付債」です。利付債とは、その名の通り、利息が定期的に支払われる債券を指します。つまり、米国債の中でも利息が付くタイプの債券が「利付債」と呼ばれます。
一般的に、多くの投資家がイメージする債券は、この利付債に該当します。利付債は、利息を主な投資目的として投資されるものであり、主な目的は「インカムゲイン」です。
例えば、購入時の価格が97ドルだとします。最終的に償還される際には100ドルで返ってくるので、投資時に少し増えて戻ってくるイメージです。具体的には、+3ドル増えて返ってきます。ただし、主な目的はインカムゲイン、つまり利息収入です。購入してから償還までの間、毎年+4ドルの利息が得られると仮定すると、3年間でトータル+12ドルの利息が得られます。この利息収入と、価格の値上がり分である+3ドルを合わせた、合計+15ドルが利付債の主な利益となります。このように、価格が値上がりして戻ってくることもありますが、主な目的は利息収入であるというのが、利付債の特徴です。これが1つ目の種類、利付債です。
もう1つの種類が「割引債」と呼ばれるものです。右側のイラストをご覧ください。割引債は、定期的なインカムゲインがなく、キャピタルゲインのみを目的に投資する債券です。
割引債の割引の仕組みについて説明します。利息がない分、購入価格が非常に安く設定されています。例えば、このイラストでは、購入時の価格が85ドルとなっています。先ほどの利付債が97ドルだったのに対し、割引債は利息がないため、かなりディスカウントされているのです。これが「割引債」と呼ばれる理由です。
85ドルで購入し、最終的に100ドルで償還されるため、15ドルの価格上昇が利益となります。割引債は、キャピタルゲインを目的に投資する債券です。
このイラストでは85ドルとなっていますが、これが80ドル、70ドル、50ドル、さらには30ドルといった割引率の高い債券もあります。ディスカウントされている債券も多く存在するため、利息収入が不要で、キャピタルゲインのみを目的とする投資家にとっては、投資価値がある債券となっています。
これが、2種類の米国債のイメージです。利付債と割引債ですね。どちらが良いかは、その方の投資目的によって決めると良いでしょう。利息収入を得て、それを何かに使いたいのであれば、利付債に投資するのが適しています。一方、利息収入が不要で、最終的な資産形成を目指している場合は、キャピタルゲインを狙って割引債するのも良い選択です。
ですので、投資目的やご自身の状況に応じて、どちらの債券に投資するかを選ぶことが大切です。
利付債と割引債の具体的なイメージ
では、この利付債と割引債の具体的なイメージについて、さらに詳しく説明します。どのような価格、利率、利回り、残存期間のイメージになるのかを確認していきましょう。
No.1からNo.6までの債券がありますが、No.1、No.4、No.6が利付債で、No.2、No.3、No.5が割引債です。これらは仮想のものでありながら、現在の米国債の相場水準に近い利回りを反映しているため、米国債の利付債や割引債のイメージを掴むのに役立つと思います。
まず、1つ目の利付債について説明します。残存期間は9.8年で、価格は104.29ドルです。9.8年後に償還される際には100ドルで戻ってくるため、値上がり益は期待できず、わずかな値下がり損が見込まれます。この利付債では、投資額に対して毎年4.375%の利息が支払われます。したがって、投資の主な利益は4.375%の利息収入となり、最終的な利回りは約3.8%となるイメージです。
次に、No.2の割引債についてです。残存期間は11.5年で、利率は0%です。利息収入はありませんが、その代わりに価格が大幅に割り引かれており、購入価格は64.94ドルです。最終的に11.5年後に100ドルで償還されるため、約35ドルの値上がり益が得られます。これを年間の利回りに換算すると、約3.7%となります。
No.3も割引債ですが、期間は18.5年です。長期間の割引債は、割引率が大きくなる傾向があります。例えば、18.5年後に100ドルで償還される割引債は、現在の価格が44.90ドルで、55ドルの値上がりが期待でき、購入価格の倍以上になって返ってくる特徴があります。この債券の利回りは約4.3%です。
No.4の債券は利付債で、主な投資目的は利息収入です。残存期間は19年、価格は101.42ドル、利率は4.375%、利回りは約4.2%です。
次に、No.5の債券は割引債で、残存期間は28.8年と非常に長く、価格は30.34ドルです。この債券は、28.8年後に100ドルで償還されるため、約70ドルの値上がりが期待でき、購入価格の3倍以上で返ってくることになります。利率は0%で利息はありませんが、利回りは4.2%です。
最後のNo.6は利付債で、残存期間は29.6年と、No.5の割引債とほぼ同じ期間です。価格は100.71ドルで、利率は4.25%、利回りは4.2%です。
このように、利付債も割引債も、同じ期間の米国債であれば利回りの水準は大体同じになります。年間の利益で換算すると、収益性はほぼ同じです。ただし、保有期間中に定期的に利息が支払われるか、あるいは償還時にまとめて値上がり益が得られるかという違いがあります。そのため、投資目的に応じて、どちらの債券に投資するかを慎重に検討する必要があります。
ここで、割引債について誤解されがちな点をお伝えします。たとえば、No.5の割引債の場合、30ドルで購入し、28.8年後の満期に100ドルで償還されると、その時点で約3倍のリターンが得られます。しかし、このリターンを得るためには、満期まで保有しなければなりません。購入後、期間が短くなるにつれて価格は上昇する傾向にありますが、28年間ずっと30ドルや40ドルのままでいるわけではなく、満期が近づくにつれて価格は100ドルに向かって上昇します。
仮に、満期を待たずに、例えば20年後に売却する場合でも、価格は100ドルに向かって上昇している過程にあるため、売却時にも値上がり益を得られる可能性が高いです。したがって、割引債では満期まで保有しないとキャピタルゲインが得られないというわけではなく、途中で売却しても利益を得られる可能性が高いことをご理解いただければと思います。
まとめ
では、今回のテーマ「米ドル債券『米国債』投資【目標利回り4%】」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)何よりも安全性を重視する富裕層と相思相愛
この米国債が最適なのは、何よりも安全性を重視する富裕層の方々であり、まさに相思相愛と言える理想的な米ドル債券です。例えば、社債や劣後債に投資すれば、もっと高い利回り、例えば6%の利回りを得ることもできますが、それよりも安全性を優先し、世界最大の国が発行する債券に投資したいという方には、米国債が最も適していると言えます。
ポイント2)利回り4%以上は二度と来ないチャンスの可能性
先ほどお伝えしたように、現在の利回りは4%から4.1%の水準ですが、この利回り4%以上という状況は、二度と来ないチャンスかもしれません。過去20年のチャートを見ても、今の利回りの高さは15年ぶり、16年ぶりの高水準です。私も2005年にこの業界に入って以来、長い間アメリカの低金利を経験してきましたが、10年以上もの間、米国債に投資しても2%や3%の利回りが続いていました。4%以上の利回りは非常に貴重なタイミングだと思います。次に同じような利回りが来るのは、10年後や20年後かもしれません。ですので、今の高い利回りを素直に受け入れ、投資のチャンスと捉えるのが良いと思います。米国債の利回りが4%というのは非常に貴重な状況であるとご理解いただいて良いかと思います。
ポイント3)利付債で安定的な利息収入を得る富裕層が多い
米国債には2種類あり、その中でも定期的に利息が支払われる「利付債」が多くの富裕層の方々に支持されています。安定的な利息収入を目的として、利付債に投資する富裕層が多いのです。割引債も投資効果はほぼ同じですが、年に2回利息が受け取れる安心感や、その利息を特定の目的に活用したいという理由から、利付債が選ばれることが多いようです。実際、8割から9割の方が利付債に投資する傾向があります。
ポイント4)期間20年以上の割引債で値上がり益を狙うのも一興
割引債に投資する方についてですが、割引債に投資する方は、主にキャピタルゲインを目的としています。特に、期間が20年以上の非常に長い割引債に投資する方が多いです。期間20年以上の割引債に投資し、20年後や30年後まで持ち続ける考えの方もいますが、持っている間に市場の金利が下がり、割引債の価格が上昇した際に売却し、値上がり益を得ることを目的とする投資家もいます。現在の金利水準が非常に高く、債券の価格が低い状況を考えると、このような投資方法も一つの選択肢として考えられるのではないかと思います。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中