目次
はじめに
本日のテーマは、「上場会社オーナーの大半が米ドル債券で資産運用する理由」です。上場会社オーナーという属性の方に関しては、私が新卒で日本の大手証券会社に勤めていた頃から、計19年間程ずっと資産運用のアドバイスをさせていただいています。上場会社オーナーの9割以上の方が、ほとんどの資産を米ドル債券で運用しています。いろいろなものに投資していますが、中心は米ドル債券になることが多いです。今回はその理由をご説明します。
当初の資産配分例
体像が一番大事ですので、上場会社オーナーの資産配分の一例を分かりやすく表にしました。こちらは資産配分シートです。左側が金融資産、右側が実物資産です。保有資産を入力すると全体のバランスが一番下に出ます。
この方の場合は、ご自身が経営に関わっている、又は創業メンバーである上場会社の自社株式(日本株式)の価値が10億円になっています。他の資産はほとんどありません。上場会社オーナーでない方は、このような人がいるのか疑問に思われるかもしれません。実際には現預金等もあると思いますが、おおまかに言うと、このような方が結構多い印象です。ほとんどの資産が日本株式(自社株)に集中している方が多いのが、上場会社オーナーの特徴であると言えます。
では、この方が日本株式しか持っていなくてどうするのでしょうか。もちろん売却する可能性もありますが、多くの方が現役で役員をされているので、なかなか売却はできません。そこで、日本株式(自社株)を担保に入れて、証券担保ローンで資金を調達し、それを元手に運用することが上場会社オーナーの場合は多いです。
証券担保ローン実行後の資産配分
こちらが証券担保ローン実行後の資産配分シートです。
10億円の日本株式を担保に入れて、3億円を借入すると、国内ローンが3億円増え、現預金も3億円増えます。この3億円を使って資産運用していくことになります。
再配分後の資産配分
こちらが再配分後の資産配分シートです。
右下に3億円の投資先が書いてあります。このような時に、今回のテーマである先進国債券(米ドル債券)を中心に投資する方が多く、この方の場合は、3億円のうち2.5億円を先進国債券に、その他は先進国株式、日本REIT、外国REIT、コモディティ(金)に分散投資しています。いろいろなものに投資しますが、中核となる(7~8割)運用は先進国債券(米ドル債券)である方が、上場会社オーナーの場合は多いのではないかと思います。ここからはその理由をご説明します。
基本的に資産の大半が日本株式で、円資産に集中していますので、外貨比率が少ないわけです。外貨の割合を高めるために米ドル建ての債券に投資することは、資産分散をする意味があります。もちろん、インカムゲイン(定期収入)を増やす目的で投資する方もいらっしゃいます。しかし今回は、普段はあまり聞かない「リスク・リターン」や、「他の資産との連動性」がどの程度あるのかという観点で、上場会社オーナーが米ドル債券に投資した方がよい理由を詳しくご説明しましょう。
各資産クラスの実績リスク・リターン
こちらが、2003~2021年までの過去18年間の実績ベースの資産クラス別のリスク・リターンです。
いろいろな資産があって、それぞれのリスク・リターンがあって、基本的には期待リターンが高くなればなるほどリスク(資産がどの程度大きく動くのか=変動率)も高くなります。左下の国内債券から右上に行けば行くほどリスクとリターンが高くなります。日本株式(上場会社オーナーが中心に持っている自社株)は、リターンが中ほど、リスクはやや右寄りのオレンジの点で示しているところです。この場合、期待リターンは7%、リスク(変動率)は17%と高くなっています。17%はかなり高い割合です。
ここにある国内株式は、日経平均に採用されているような大手の日本株式、例えば、ソニーやトヨタなどの株式のリターン・リスクです。実際には、上場当初は新興市場やプライム市場であったとしても、多くの上場会社オーナーの時価総額は1,000億円未満であることが多いので、株の変動率はもっと大きいわけです。ですから、肌感ではリスクが20%以上あるような状況の方が多いと思います。先ほどの例の方の場合、10億円の資産が、リスクが20%以上の資産だけを持っているという状態になるわけですから、かなり資産全体のリスク(変動率)が高くなっています。
一方で、今回のテーマである米ドル債券(先進国債券)はどうなのかと言うと、左下の黄色の点になります。リターンが4%、リスクが8%程度ですので、国内株式と比較するとリターンは下がりますが、リスクもかなり穏やかになります。ですから、国内株式に加えて、先進国債券にも投資することによって、ポートフォリオ全体のリスク(変動率)を下げることができますので、資産全体の安定性を高めてくれます。上場会社オーナーは資産が自社株(国内株式)に偏り、リスク過多になっているので、この米ドル債券に投資して全体のリスク値を下げる目的の方が多いため、米ドル債券に投資される方が多いわけです。
各資産クラスの相関係数
少し難しい話が多くなってきましたが、次は、各資産クラスの相関係数を示したものです。
相関係数とは、「連動性」を指していると思っていただければよいと思います。例えば、日本株式と米国株式の2つの資産があり、相関係数が1だとすると100%連動しています。相関係数が-1は全く逆の動きをするということです。1と-1の間の0は完全に連動性がない相関係数です。ですから、1寄りであれば連動性が非常に高く、0寄りであれば連動性があまりなく、-1寄りであれば逆の動きをするというのが相関係数です。
相関係数が高いものばかり持っていると、資産の動きが一方向に行ってしまいますので、リスクが高まる可能性が高いです。ですから、資産分散の観点からは、たくさん持っている資産に対して、できれば0寄りから-1、相関係数があまりないところから逆の動きをするような資産の割合を高めた方がよいという資産分散の理論がありますので、その観点でお話しします。
今回は上場会社オーナーということで、日本株式が資産の大半になりますので、日本株式に対して相関係数がどの程度なのかを見ることが大事になります。一番左側の列が日本株式です。左下の三角形が直近3年間の相関係数で、右上の三角形が直近10年間の相関係数です。どちらも見ていきましょう。
直近3年の日本株式の相関係数は、米国株式や世界株式は0.6、米国REITも0.5、J-REITも0.6なので、それなりに連動しています。では、今回のテーマである米ドル債券はどれに該当するのかと言うと、下から2番目の米国10年国債になるので、相関係数は0.14です。いろいろな資産がある中で、米ドル債券は、日本株式と相関係数が低い方になっています。0.14ですから、ほぼ0に近いので、連動性がほとんどないと言えるわけです。日本株式が上がったからといって米ドル債券も上がるとは限らず、逆の動きをする可能性もあります。ですから、上場会社オーナーは、相関係数が高い資産を持つより米ドル債券に投資した方が連動性的にもよいと言えるわけです。
では、右上の三角形の直近10年を見ていきましょう。米国10年国債の相関係数は-0.26ですので、日本株式とは逆の動きをしています。日本株式が上がると米ドル債券は下がる、逆に日本株式が下がると米ドル債券は上がるという連動性になっています。ですから、いろいろな資産がある中で、一番相関係数が低いのが米ドル債券(米国10年国債)になっていますので、相関係数の観点から、上場会社オーナーは米ドル債券を保有した方がよいと言えるのです。
ポイント
今回の「上場会社オーナーの大半が米ドル債券で資産運用する理由」についてまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)安定的なインカムゲイン(定期収入)の増加が期待できるため
安定的なインカムゲイン(定期収入)の増加が期待できるためというのが、間違いなく一番大きな理由である方が多いと思います。上場会社オーナーは、上場した自社株を沢山持っているので、億万長者であることは間違いないのですが、株式を売却していないと、個人にキャッシュがない方が多いです。最初にお伝えしたように、証券担保ローンで資金調達して、このように米ドル債券に投資をしてインカムゲインを増強するというニーズの方が多いと言えます。
ポイント2)自社株式の価値で通貨が日本円に集中しているため
資産の大半が自社株(日本株式)に偏っているので、ほとんどの通貨が日本円になっています。通貨的に日本円のリスクを取り過ぎているので、資産の一部を外貨に分散した方がよいため、米ドル債券(外貨の中心が米ドル建て)に投資するニーズが高いわけです。証券担保ローンを使った例では、最初に10億円の日本株式しか保有していないので外貨比率は0%ですが、証券担保ローンで資金調達して、米ドル債券を中心に外貨資産に投資することによって外貨比率が29%まで高まっているので、実はかなり通貨分散になっています。
ポイント3)資産ポートフォリオ全体のリスクを下げるため
日本株式だけではかなりリスク(変動率)が高い状態になっていますので、日本株式次第で資産の価値が大きく上下してしまう状態になります。ここに米ドル債券を加えることによって、全体のリスク値(振れ幅)を穏やかにする効果が望めますので、これも米ドル債券に投資する理由ではないかと思います。
ポイント4)米ドル債券は日本株式との相関係数が非常に低い
米ドル債券は日本株式との相関係数が非常に低いです。過去の実績を見ると、日本株式が上がったら一緒に上がるのではなく、関係のない動きや、逆に日本株式が上がると米ドル債券は下がるような動き、日本株式が下がると米ドル債券は上がるような動き、そのような連動性になっていますので、連動する資産を持つより資産分散になると言えます。これも上場会社オーナーが米ドル債券で資産運用する理由の一つではないかと思います。
本日は「上場会社オーナーの大半が米ドル債券で資産運用する理由」という内容でお届けさせて頂きました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中