はじめに
会社を売却し、10億円もの資産を手に入れた会社オーナー。それはまさに人生の大きな転機であり、新たな可能性が広がる「セカンドライフ」の始まりです。しかし、この素晴らしい成功の裏には、「この資産をどう運用すればいいのか」「どうすれば家族に最大限残せるのか」といった、富裕層ならではの新たな課題が潜んでいます。実は、10億円を手にしたことよりも、その後の選択こそが、富裕層の未来を大きく左右するのです。
資産が大きくなればなるほど、その管理には複雑なリスクが伴います。効果的な節税対策や資産保全、そして相続・承継の周到な計画がなければ、苦労して築き上げた資産が、あっという間に目減りしてしまう可能性もゼロではありません。
本記事では、会社売却後のセカンドライフを豊かにするための、賢い資産運用の考え方と税金対策の基本、新しい人生を謳歌するためのライフスタイルの再設計について解説します。
セカンドライフの現実-10億円でも安泰とは限らない理由
会社を売却し、10億円というまとまった資産を手にしたとしても、それが「一生安泰」を約束するとは限りません。実際、引退後の生活には思いのほか多くの出費が伴い、資産を減らさないためには、現役時代以上に戦略的な資産管理が求められます。
理由1:長寿リスク
まず見過ごせないのは、「長寿リスク」です。日本人の平均寿命は年々延びており、今後は90歳、100歳まで生きることが前提の人生設計が求められる時代になっています。仮に60歳で会社を売却しても、そこから30年以上の生活が待っている可能性があるのです。
理由2:インフレリスク
加えて、インフレリスクも見逃せません。現金や預金で資産を保有しているだけでは、貨幣価値の下落によって実質的な資産が目減りしていきます。長期的な視点で、物価上昇に対応した「資産の目減りを防ぐ運用」が不可欠です。
理由3:富裕層特有の支出構造
富裕層特有の支出構造にも注意が必要です。ライフスタイルの維持にかかる費用、家族や親族への支援、医療・介護費用、趣味や社会活動への投資など、退職後も意外と出費は膨らみがちです。特に、会社という「経費処理の場」がなくなることで、支出が全て“個人の負担”になる点は、現役時代との大きな違いといえるでしょう。
理由4:資産承継と税金対策
さらに、次世代への資産承継や税金対策といったテーマも、セカンドライフにおいては重要な課題となります。何も対策を講じないままでは、相続時に大きな税負担が発生し、家族のために遺した資産が、家族にとっては重荷となる可能性もあるのです。
このように、セカンドライフは「引退してのんびり過ごす時期」ではなく、「資産と人生をどう設計し直すか」が問われる新たなステージといえます。それゆえに、受け取った資産をどう配分し、どう運用し、どのように次世代へつないでいくのか。その全体像を早い段階から描いておくことが、豊かで安心なセカンドライフの第一歩となります。
資産配分の考え方
10億円という資産を得たとしても、それをどう守り、どう活かすかは、想像以上に難しい課題です。単に銀行に預けておくだけでは、インフレや税金によって価値は目減りし、長いセカンドライフを支えきれない可能性があります。そこで重要になるのが、目的に応じた資産配分、すなわち「戦略的ポートフォリオ」の構築です。
「運用の目的」を明確にする
まず押さえておきたいのは、「資産運用のゴールは人によって異なる」ということです。
「生活費として毎年一定額を取り崩す必要があるのか」
「次世代への承継を主眼に置くのか」
「どれほどのリスクを許容できるか」
「運用期間はどれくらいか」
それによって、資産配分と管理方法は大きく変わります。
3層構造で考える目的別の資産配分
具体的な手法として有効なのが、「3層構造」のアプローチです。
- 第1層:生活防衛資金
日々の生活費や急な支出に備える資金です。現預金や短期債券など、すぐに引き出せる流動性の高い資産が中心になります。 - 第2層:成長資産
中長期的に資産を育てるための運用部分です。株式、REIT、外貨建て資産などが該当し、インフレ対策としての役割も果たします。 - 第3層:承継・相続を見据えた資産
不動産や資産管理会社を通じて保有する資産など、長期保有・次世代への承継を前提としたストック資産です。節税や分散管理にも貢献します。
このように、目的に応じて資産を分けて考えることで、生活の安定と資産の成長、そして承継の備えをバランスよく整えることができます。
保有形態で変わる税のインパクト
富裕層にとって、資産をどこにどう置くかも重要な戦略の一部です。個人で保有するのか、法人(資産管理会社など)を通じて保有するのかによって、所得税や相続税への影響は大きく異なります。運用益の課税、相続時の評価額、保有コストなど、どのような資産をどこで管理するかを設計することで、税負担の最適化が図れます。
「減らさない運用」が大事
リスクを減らしすぎれば資産は増えませんが、攻めすぎれば元本毀損のリスクもあります。富裕層にとって大切なのは、必要以上のリスクを取らずに「減らさずに回す」こと。インフレや税負担を上回る利回りを、安定的に確保できるポートフォリオを目指すことが肝要です。
近年では、プライベートエクイティやオルタナティブ資産(未上場株、不動産、金など)への分散投資も注目されています。伝統的な資産だけでなく、こうした“機関投資家型”の視点も取り入れることで、収益源を多角化し、ポートフォリオ全体の強靭性を高めることが可能です。
継続的な管理と「見える化」が成功のカギ
どれほど緻密な資産配分をしても、それを放置していては意味がありません。年に1回程度は、資産の全体像を棚卸しし、配分や運用状況を「見える化」することが重要です。市場環境やライフスタイルの変化に応じてリバランスを行い、常に最適な状態を維持するための習慣を持つことが、資産を守るうえでの大きな武器となります。
また、税理士やFA、不動産の専門家などとチームを組み、信頼できる助言者を周囲に置くことも、長期的な成功に不可欠です。
私たちウェルス・パートナーでは、富裕層の皆さんの全ての資産に対応した最適なポートフォリオを提案させていただいております。株式・債券・ヘッジファンドはもちろんのこと、国内外の不動産などあらゆる資産クラスを取り扱っております。各分野に精通した経験豊富なアドバイザーがチームで課題を解決いたします。ぜひ一度ご相談ください。
売却益にかかる税金と対策
構築した資産配分を確かなものにするには、税金という“見えないコスト”を適切に管理することが不可欠です。ここでは、企業売却後の資産を守るために欠かせない、税金対策の基本と実践について解説していきます。
企業売却で得られる資金は、一般的に「株式譲渡益」として課税されます。税率は原則として20.315%です。10億円の売却益があった場合、およそ2億円を超える税負担が発生する計算です。
また、売却方法や保有形態によっては、法人税や住民税、消費税の課税対象となるケースもあり、売却スキームを間違えると数千万円単位で手取りが変わってしまうことも珍しくありません。ですから、売却後の手取り額を最大化するには、「売却前」からの対策が重要なのです。
税金対策は「連続する3ステージ」で考える
税金対策は、「売却前」→「売却後」→「承継・相続」という3ステージで連続的に設計することが大切です。それぞれのタイミングで独立して考えるのではなく、全体の“出口戦略”として一貫性を持たせることが、資産を守る鍵となります。
売却前に講じるべき節税スキーム
株式売却による税金を最小限に抑えるためには、事前の戦略設計が必要です。例えば、以下のような手法が検討されます。
- 退職金スキームの活用
売却に合わせて代表者が退職し、退職金を支給することで、一定の金額までは退職所得控除の対象となり、実質的な税率を大きく下げることが可能です。 - 資産管理会社への株式移転
売却前に自社株を資産管理会社に譲渡し、その会社を売却主体とすることで、法人の特性を活かした資産保全や分散管理が可能になります。特に家族での承継を視野に入れる場合には有効な選択肢です。 - M&Aスキームの最適化(株式譲渡 or 事業譲渡)
どのような形態で売却するかによって、税の扱いや手取り額が大きく変わります。最適なスキームの選定には、M&A専門家との事前相談が欠かせません。
売却後に考えるべき資産保全と相続対策
企業売却後に得た資金は、多くの場合「個人資産」として保有されることになります。この時点からは、相続・贈与税との闘いが始まります。例えば、現金で10億円を保有している場合、相続税評価額はそのままの10億円で、対策を講じなければ、相続時に最大で55%の税率が適用されることになります。
ここで効果的なのが、資産管理会社や不動産などの相続時評価額を圧縮できる資産への組み換えです。資産管理会社を活用することで、評価額の引き下げや分散承継が可能となり、相続税の軽減につながります。加えて、贈与税の非課税制度なども戦略的に組み合わせていく必要があります。
個人の税負担、家族への影響、将来の納税資金の備えなど、どれもが資産の維持と承継に大きな影響を及ぼします。そのため、富裕層のセカンドライフにおいては、「税」との付き合い方が資産運用と同じくらい重要となるのです。
資産管理会社という選択肢
このように税金対策や資産保全の戦略を実際に運用する「資産管理会社」を、なぜ富裕層は活用するのでしょうか。
資産管理会社とは何か
資産管理会社とは、個人の資産を法人化して管理・運用するための会社で、“ファミリーカンパニー”とも呼ばれています。富裕層にとっては、資産の一元管理や税金対策、承継対策の基盤として、極めて有効な手段となります。
法人化することで、個人で資産を保有・運用する場合と比べて税制上の選択肢が広がり、所得分散・経費計上・相続税対策など多くの利点が得られることが大きな理由です。そのため、富裕層の多くがこの「資産管理会社」を導入しているわけです。
資産管理会社を活用する4つのメリット
- 所得の分散・繰り延べが可能になる
配当や不動産収入などを法人で受け取ることで、法人税率の適用を受けつつ、役員報酬という形で家族に分散支給することができます。 - 経費化による課税所得のコントロール
資産運用にかかる費用や家族に関連する出費を、法人経費として処理できる可能性があります。 - 資産の承継がしやすくなる
法人株式という形で資産を保有することで、贈与や相続時に評価額を抑えてスムーズに移転できる可能性が高まります。 - 資産運用の「司令塔」機能を果たす
複数の資産を一元的に管理し、分散投資・保全・承継をバランスよく実行するための、いわば“資産戦略の司令塔”となります。
どのような資産を管理会社に入れるべきか
資産管理会社に入れる資産としては、次のようなものが代表的です。
- 不動産(賃貸用・事業用)
- 株式・債券・投資信託(売買管理・配当受領)
- 自社株式(売却前に組み入れ)
- 現預金・保険・貸付金
- PEファンド・オルタナティブ資産 など
ただし、「何でもかんでも法人で持てばよい」というわけではなく、税務上・法務上のリスクも考慮しながら、個人と法人のバランスを設計することが必要です。
資産管理会社には多くのメリットがありますが、その運営には一定の知識と管理負担が伴います。節税を意識しすぎた運用は「否認リスク(租税回避とみなされる)」を生む可能性があるため、税理士・会計士・FAなどの専門家との連携が不可欠です。
資産管理会社に関しては、下記をご覧ください。
[nlink url=”https://wealth-partner-re.com/wealthjournal/asset-management-company-15/”]
資産を活かすセカンドライフ設計
企業売却によって手にした10億円は、単なる“ゴールの報酬”ではなく、“人生の再設計”のための手段です。この資産がもたらすのは、「何をするか」を選べる自由であり、「どう生きるか」という問いへの答えでもあります。
しかし、長年会社経営に全身全霊を捧げてきた経営者ほど、売却後に突然目標を失い、心に空白が生まれるケースがあります。いわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」です。会社を手放した直後、急に日々の張り合いがなくなり、「自分は何のために生きているのか分からない」「何をしても心が満たされない」と感じる方が少なくありません。資産がどれだけあっても、目標や役割を失えば心は不安定になることを見過ごしてはなりません。
回避のカギは「目的」
燃え尽き症候群を防ぐカギは、“何のために使うか”という目的を持った資産活用にあります。例えば、次のような「人生の新しい軸」を持つことで、資産が生きた時間を支える道具に変わります。
- 学びや探求への投資:大学への編入、海外での語学留学、研究活動など、知的好奇心を刺激する挑戦
- 次世代育成や後進支援:スタートアップ支援、若手経営者のメンター、教育資金援助など
- 家族との時間を深める投資:子や孫と過ごす旅行、共同事業、資産管理会社での世代間プロジェクトなど
- 社会への還元・影響力の再構築:寄付、財団設立、社会起業家への出資など
セカンドライフの最大の贅沢は、「時間をどう使うかを自分で決められること」です。資産によって経済的自由を得たからこそ、「自分のために使う時間」「家族と過ごす時間」「社会に還元する時間」など、意図的に設計していく必要があります。
まとめ
セカンドライフは、資産の守りや承継だけでなく、人生の主導権を取り戻すステージでもあります。燃え尽きることなく、新たな情熱を持って日々を過ごすためには、「資産をどう生かすか」と同時に、「自分は何のために生きるのか」という問いに、あらためて向き合うことが大切なのかもしれません。
株式会社ウェルス・パートナー 早稲田大学国際教養学部卒業後、大和証券株式会社へ入社。富裕層と会社経営者を中心とした資産運用のコンサルティング業務に従事。顧客の資産全体の最適化や会社経営者への相続対策まで支援をしたいという思いがあり、株式会社ウェルスパートナーに入社。
ポートフォリオマネージャー