事業を売却して資産を守る。なぜ“経営と資産の分離”が必要か?

はじめに

事業を売却し、多額の資産を手にした会社オーナーの方々にとって、得られた“虎の子の資産”をどのように守り、次世代へとつないでいくかは大きな課題です。特に、会社経営に専念されてきた会社オーナーの方は、「資産の大部分が会社に集中している」という状況が少なくありません。

事業を経営している間は、会社の成長がそのまま個人の資産形成に直結する一方で、事業と資産が一体化していることは、常に潜在的なリスクを抱えている状態ともいえます。例えば、予期せぬ経営トラブル、取引先との訴訟問題、あるいは後継者問題など、経営上のリスクが個人の財産や老後資金にまで及んでしまう可能性もゼロではありません。

そこで重要となるのが、「経営と資産の分離」という考え方です。事業売却によって現金化された資産は、その性質が大きく変化します。この変化に対応し、新たなリスクから資産を守り、さらなる発展を目指すためには、事業経営とは異なるロジックで資産と向き合う必要があるのです。

本記事では、会社オーナーにとって「なぜ経営と資産の分離が不可欠なのか」「どのようにすればそれが実現できるのか」、そしてM&Aや適切な資産管理を通じて、それがどのように皆さんの資産保全と成長に寄与し得るのかを詳しく解説します。

なぜ“経営と資産”は一体化しやすいのか

会社オーナーの多くは、「会社=自分の人生」と考えて事業を立ち上げ、成長させてきたことでしょう。特に中小・中堅企業では、創業者が自らの資金や信用をもとに会社を起業し、代表取締役として全責任を負いながら日々の経営を担ってきたというケースが大半です。

そのような経緯から、「個人保証付きの借入」「社長個人名義の不動産を会社が事業拠点として使用」というように、経営と資産が密接に結びついた構造が数多くみられます。つまり、会社の成長と共に築き上げた資産の多くが、オーナー個人ではなく“会社”という器の中に吸収されてしまっている状態です。

また、非上場企業の場合、株式の大半をオーナーが保有しているため、会社の評価額がそのままオーナーの資産とみなされがちです。しかし実際には、希望する価格・数量ですぐに株式を売買することは難しく、現金化には時間と手間がかかります。要するに、「見かけ上の資産は大きいものの、自由に使えるお金は少ない」という状況に陥ってしまっているのです。

さらに、オーナーが「経営の継続=資産の維持」と考える傾向も、一体化を助長する要因のひとつです。長年経営に携わってきたことで、「会社を離れること=資産を失うこと」と無意識に感じてしまい、結果的に資産の集中を自社にとどめてしまうという状況が生まれます。

しかしこのような構造は、経営上のトラブルや外的環境の変化によって、資産全体がリスクにさらされる危険性をはらんでいます。例えば、業績悪化により借入返済が困難になれば、オーナー個人の保証資産にまで影響を受ける可能性があります。また、業界の変化や技術革新によって事業モデルが時代遅れになると、会社そのものの価値が下がり、オーナーの“見かけ上の資産”も目減りする恐れがあります。

このように、経営と資産が無自覚に一体化している構造は、一見効率的に見えても、実はオーナーにとって大きなリスクを内包しています。まずは「なぜ一体化してしまっているのか」という背景を認識することが、“分離”への一歩を踏み出すための重要な出発点となるでしょう。

経営と資産が一体化している会社オーナーの特徴 [チェックリスト]

経営と資産が一体化している会社オーナーには、いくつかの共通する特徴があります。次にまとめましたので、ご自身が当てはまるかチェックしてみてください。

🔲 ①自社株の大半を保有し続けている

非上場企業では、オーナーが発行済株式のほとんどを保有していることが一般的です。会社の利益が増えれば、その分だけ株式の価値も上がるため、「株式=自分の資産」という意識が強くなります。しかし、その株式は市場で簡単に売却できるものではなく、流動性が低いため、資産としての安全性は決して高くありません。

🔲 ②個人資産と会社の資産が混在している

経営と資産の一体化が進んでいる会社オーナーほど、個人の不動産を会社の事務所として使用したり、会社の借入に個人保証をつけたりするケースが多くみられます。このような構造は、万一経営トラブルが起きた際に、個人資産までもが差し押さえの対象になるリスクを高めてしまいます。

🔲 ③財務内容や資産構成を“経営の視点”でしかみていない

長年にわたり事業の収益性を重視してきた会社オーナーの多くは、個人の資産形成も「会社の業績が良ければそれでよい」と考えがちです。そのため、個人としてのポートフォリオやリスク分散といった視点が後回しになり、結果として資産の大半が自社に集中しているという状態に陥ります。

🔲 ④会社を「家業」として捉えている

特に中小企業では、会社を次世代に継がせる「家業」としての意識が強い傾向にあります。その結果、「会社を売る」「経営から退く」という発想が生まれにくく、自社に資産を留め続けるという判断が常態化します。これにより、個人の資産形成や老後設計の視点が欠けてしまうのです。

さて、当てはまる項目はありましたか?こうした特徴に自覚がないまま経営を続けていると、業績不振や外的変化によって、思わぬリスクが個人資産にまで波及する恐れがあります。それゆえに、「自社に資産が集中していないか」「資産と経営の分離はできているか」という視点を持つことが、これからの時代においてはますます重要になってくるのです。

経営と資産の分離が必要な理由

多くの会社オーナーは、会社と自らの資産を一体化させた経営を続けてきました。それは、会社を成長させることが自身の資産を増やすことにつながるという確信に基づく、極めて合理的な行動だったといえます。ではなぜ、「資産と経営の分離」が求められるのでしょうか。その理由は、大きく3つに整理できます。

①経営リスクがそのまま個人資産リスクになる

会社を経営している以上、将来の事業環境を100%予測することは不可能です。取引先の倒産、業績悪化、訴訟リスク、災害・パンデミックなど、あらゆるリスクは個人資産に直結します。

例えば、会社の借入に個人保証をつけている場合、業績の悪化によって返済が滞れば、自宅や個人所有の不動産が差し押さえられる可能性があります。また、従業員や取引先とのトラブルが法的な問題に発展した場合、オーナー自身が損害賠償を負うことになれば、築き上げた資産が一瞬で失われるかもしれません。

経営者としてリスクを引き受けるのは当然の責務です。しかし、同時に“個人の資産まで巻き込まない仕組み”をつくることも、経営者としての重要な責任といえるのではないでしょうか。

②老後資金の確保や相続設計が困難になる

資産が会社に偏っている状態では、老後に必要となる生活資金の確保が難しくなります。非上場株式は簡単に現金化できず、また市場価値も不透明であるため、資産評価が大きく変動するリスクを抱えています。

さらに、相続の観点からも懸念されるポイントがあります。事業承継を進めるうえで、自社株の評価が高いと相続税の負担が増え、後継者にとって大きなハードルになります。結果として「会社は残ったが、資産は残らなかった」という事態にもなりかねません。

あらかじめ資産を分離し、個人としての資産を適切に形成・管理しておくことで、引退後の生活設計や相続対策の自由度が格段に高まります。

③経営者の役割が変わる時代へ

かつては「経営者=現場で指揮を執る存在」でしたが、近年では「経営者=資産を守り、次代へ承継する存在」へと役割が変わりつつあります。自らがプレーヤーとしてすべてを担うのではなく、経営から一歩引き、資産を次世代にバトンタッチするという選択肢が注目され始めています。

このような時代の変化のなかで、経営と資産の分離は、単なる“リスク回避”にとどまらず、“新しい経営者像”を実現するための前提条件でもあります。経営の現場から徐々に退きながら、資産管理や投資を通じて企業や社会に貢献するという、新たなライフステージに進む準備が求められています。

資産と経営を切り離すということは、「会社に見切りをつける」ことではありません。むしろ、築き上げてきた価値を守り、次に活かすための前向きな判断です。経営と資産、それぞれの役割と責任を明確にすることが、会社オーナーにとって次のフェーズを豊かに生きる第一歩となるのです。

4. 富裕層が実践すべき“経営と資産の分離”戦略

では、具体的にどのように「経営と資産の分離」を進めればよいのでしょうか。主な戦略をいくつかご紹介します。

①会社を売却する

最も直接的な方法が「会社を売却する」ことです。第三者へのM&Aによって会社の株式を売却すれば、会社というリスクの塊を現金という流動性の高い資産に変換できます。これは、単に“引退する”という意味ではありません。売却後も顧問として関わるなど、徐々に経営から離れながら、個人としての資産管理や次世代への承継に集中するという選択肢が可能になります。

近年では、中小企業のM&A市場も成熟しつつあり、後継者不在や成長戦略の一環として会社を売却する経営者が増えています。売却益は老後資金や相続対策、新たな投資の原資として活用することができ、まさに“経営と資産の分離”を象徴する一手といえるでしょう。

②資産管理会社の設立

会社を手放さずに分離を進める場合は、個人の資産(不動産、有価証券など)を、新たに設立した法人「資産管理会社」に移転し、その会社で資産を管理・運用するというアプローチが有効です。例えば、不動産などの資産を資産管理会社に移転したり、利益の一部を役員退職金や配当として個人に移したりするなど、会社に集中していた資産をシフトします。これにより、所得の分散による節税効果や、運用上の損益通算・繰越控除といった税務上のメリットを享受できます。

また、資産が法人という器にまとまることで、将来の相続対策も円滑に進めやすくなります。ただし、設立・維持コストや資産移転時の税金には注意が必要ですので、専門家への事前相談が不可欠です。

③ポートフォリオの再構築とリスク分散

経営から分離した資産を守り増やしていくためには、リスクを分散したポートフォリオの再構築が不可欠です。預金、株式、債券、不動産、投資信託など、異なるリスクとリターンの特性を持つ資産に分散投資を行いましょう。また、国や通貨の分散も重要です。ご自身のライフプランやリスク許容度に基づき、私たちウェルス・パートナーのようなIFAなど、信頼できる専門家と共に最適なポートフォリオを構築することをオススメします。

④プライベートバンクやIFAの活用

前述したポートフォリオの再構築や分散投資を行う際は、プライベートバンクやIFAなどの専門家に相談するとよいでしょう。プライベートバンク(PB)は、富裕層を対象に、資産運用・管理から事業承継、相続など、多岐にわたる金融サービスを提供する専門機関です。専任のプライベートバンカーがつき、幅広い金融商品を活用したポートフォリオ提案や、富裕層特有の多様な課題に対する専門的なアドバイスを提供します。しかし多くは、自社の商品に偏る傾向があるため、事前に確認が必要です。

一方でIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)は、特定の金融機関に属することなく、富裕層の資産運用やライフプランに関するアドバイスを行う金融のプロフェッショナルです。中立的な立場から、富裕層一人ひとりの状況に合わせたオーダーメイドの最適な金融商品を提案し、生涯にわたる長期的なサポートが受けられます。最大の特徴は、特定の金融機関や商品に縛られず、複数の選択肢から柔軟に商品を選び、ポートフォリオを提供できる点です。

富裕層にとって、プライベートバンクは複雑なニーズにワンストップで応える魅力がありますが、IFAは真に顧客本位で、しがらみのない中立的なアドバイスを求める場合に特に強みを発揮します。そのため、より個別最適化された、長期的な視点で中立的な資産形成を望む富裕層には、IFAが向いているといえるでしょう。

まとめ

“経営と資産の分離”は、決して「逃げ」ではなく「守り」のための戦略的な判断です。会社オーナーとして一時代を築いたからこそ、その成果を資産という形で保全し、次なるステージを豊かに生きる。資産をどう守りどう活かしていくかが人生の集大成であり、ご自身とご家族の未来を守る最善の選択といえるのではないでしょうか。

私たちウェルス・パートナーは、富裕層の方の資産運用をお手伝いしています。弊社には、長期的な視点に立ち、資産運用から資産保全、事業承継に至るまで幅広く対応できる、経験豊富なアドバイザーが在籍しております。無料の個別相談を承っておりますので、ぜひ一度お問い合わせください。

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