【成功事例から学ぶ】会社売却をいかに成功させるか―会社オーナーが知るべきポイント

はじめに

長年、事業を築き上げてきた会社オーナーにとって、会社は単なる資産ではなく、人生の時間と情熱を注ぎ込んできた集大成といえるでしょう。会社オーナーであれば、「会社を売却する」ことに、寂しさや喪失感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、会社売却は「事業の終わり」ではなく「人生の新たなステージの始まり」と捉えることができるのではないでしょうか。

「会社売却」という決断は、単なる経営判断ではなく、「これからの人生をどう設計するか」という視点から、じっくりと考えていくべきものです。体力的・精神的な限界や後継者不在、家族の状況、時代の変化、それらを冷静に見つめたうえで、最適なタイミングで売却することは、極めて戦略的な判断でもあります。

中小企業のオーナーが抱える事業承継問題(=後継者不在問題)を解決する一手段として、M&Aによる会社売却が注目を集めています。また、セカンドライフ設計・売却益の資産運用を実現する手段として、会社売却を考える会社オーナーも多数いらっしゃいます。会社売却は、会社の存続と従業員の雇用維持を可能にするだけでなく、オーナーはM&Aを通して創業者利益(売却益)を得ることができるからです。

この記事では、会社規模別に会社売却を成功させた事例をご紹介します。各事例の背景や決断の理由、成功のポイント、そして売却後のライフプランを詳しく見ていくことで、富裕層の会社オーナーの皆さんがご自身の未来や資産戦略を具体的に考えるきっかけとなれば幸いです。

【会社規模別】会社売却の成功事例

早速、実際に会社売却を成功させた会社オーナーの事例をご紹介します。ここでは、小規模企業オーナー(建設業)、中小企業オーナー(食品製造業)、中堅企業オーナー(IT関連業)の3つの成功事例を見ていきましょう。

※なお本事例は、守秘義務およびプライバシー保護の観点から、一部情報を変更しています。また、資産配分シミュレーションに関しては、弊社作成のシミュレーションではありません。

【小規模企業】後継者不在を乗り越え、社員と顧客を守り抜いたM&A ―工務店オーナーの成功事例

A氏は、埼玉県で30年以上にわたり地域密着型の工務店を経営してきました。社員は約10名。オーナーの年齢は60代、職人気質で、地域の顔といわれるほどの名物オーナーです。その手腕と人柄で、多くの顧客から絶大な信頼を寄せられていました。

【売却に至った背景】

A氏が会社売却を決断した理由は、主に「健康上の不安」「後継者不在」、そして「顧客と社員に最後まで迷惑をかけたくない」という強い想いの3点に集約されます。ご長男様が会社を継がずにUターン就職されたことで後継者問題が現実となり、ご自身の健康状態への懸念も相まって、事業の継続が困難であると判断されました。そのうえで、長年支えてくれた顧客や社員に対して、今後の不安や負担をかけることなく、最善の形で事業を引き継ぎたいという責任感が、売却に至った大きな要因となっています。

【会社売却の状況】

地元で同業の中堅建設会社に譲渡することになりました。従業員は全員雇用継続され、社名も一定期間は維持される形になります。A氏自身も1年間は「技術顧問」として現場に関わりながら、スムーズな引き継ぎを実現しています。

【成功したポイント】

  • 財務の見える化とスリム化:売却に向けて2年前からBSを改善し、不要な投資や借入を削減。オーナー報酬も適正化し、買い手にとっての「引き継ぎやすさ」を意識した。
  • 専門家への早期相談:税理士・M&A仲介・FPなどを早期より巻き込み、売却後の資産形成や税金対策を勘案し、売却前から「セカンドライフ設計」にも備えていた。
  • オーナー依存の脱却:属人的な業務をマニュアル化し、「そのまま引き継げる組織」とした。

【売却後の資産配分】

売却益約1億円を得たA氏は、今後の生活を堅実かつ安定的に送るために、以下のような資産配分とライフプランを採用しました。

資産配分シミュレーション(1億円の売却益)

投資先など 金額 割合 目的
米国債券(利回り4%想定) 5,000万円 50% 年間約200万円の利息収入
インデックスファンド(積立) 2,000万円 20% 日本・先進国・新興国へ分散
不動産投資(自己資金) 1,000万円 10% 将来的な融資活用の準備
預貯金(生活予備費) 1,000万円 10% 無リスク資産として保持
その他(家族支援・趣味など) 1,000万円 10% 生活のゆとりと自由を確保

 

米国債券で安定した利息収入(年間約200万円)と外貨分散を図りつつ、インデックスファンドの積立投資で長期的な資産成長(つみたてNISA、iDeCo活用)を目指しています。将来的な不動産投資も視野に入れつつ、生活予備費と趣味のための自由な資金2,000万円を確保している、バランスの取れた資産運用戦略といえます。

【中小企業】ブランドと従業員の雇用を守った会社売却 ―食品製造業オーナーの成功事例

B氏は、創業から30年、静岡県で和菓子の製造・販売を行ってきました。年齢は50代半ば、30代で家業を継ぎ、地元百貨店や駅ナカにも店舗展開するなど、堅実な経営を続けてきました。

【売却に至った背景】

B氏が会社売却を決断した背景には、いくつかの複合的な理由がありました。まず、長年の課題であった「後継者問題」が挙げられます。当初は社内に後継者候補がいたものの、将来の事業成長に限界が感じられたため、社内承継は断念しました。また、ご長男がいらっしゃいますが、工学系の研究職を志望し、事業承継を断念されたことで、売却の選択肢が現実味を帯びました。

また、既存のビジネスモデルにおける「店舗展開の限界」も強く感じていたようです。これ以上の事業拡大には新たな戦略が必要であると考え、現状の体制での成長に限界があることを認識されていました。

そして、何よりもB氏の胸中にあったのは、「築き上げてきたブランドは守りつつ、次の成長を託したい」という強い想いです。大切にしてきた会社のブランドイメージや顧客からの信頼はそのままに、新たな担い手に事業のさらなる発展を委ねたいという、未来への希望が今回の決断を後押ししました。

【会社売却の状況】

地方の老舗食品メーカーから、大手食品グループにバイアウトする形で譲渡しました。自社ブランドは「地域限定ブランド」として継続され、製造ラインの一部はグループ内工場に統合されました。ブランド継承と従業員雇用の安定が実現した事例です。

※バイアウトとは、経営再建や事業継続、収益拡大を目的として、自社の株式を買収することで経営権を取得することをいいます。

【成功したポイント】

  • ブランド価値向上:SNSでの評判や地元メディアでの露出により、地域ブランド力を高めた。数値に出ない「認知と信用」が買い手の戦略と合致した。
  • 買収後の成長シナリオを描けた:自社単独では難しい販路拡大も、大手の流通網を活用すれば大きな伸びが期待できた。「シナジーの明確さ」が高評価につながった。
  • 第三者評価の活用:専門家による企業価値評価を取得し、価格交渉の土台を明確化し、相手企業も安心して判断できた。

【売却後の資産配分】

会社売却後、約7億円の売却益を得たB氏は資産運用について専門家に相談し、以下のようなポートフォリオを構築しました。

資産配分シミュレーション(7億円の売却益)

投資先など 金額 割合 目的
米国債(長期) 2.1億円 30% 外貨資産の保有+安定利回り
株式インデックス投資 2.1億円 30% 成長性を狙った長期運用
不動産投資(レバレッジ活用) 2.1億円(うち1億円を自己資金) 30% 所得控除&インカム+将来の資産形成
現預金・生活防衛資金 0.7億円 10% 流動性・リスク管理用資金

 

この方の資産運用は、安定収入、長期的な資産成長、不動産によるキャッシュフローと節税、そして潤沢な現預金によるリスク管理を組み合わせたものです。まず、2.1億円を米国債に投資し、年利4.0%で税引き後年間約670万円の安定した利息収入を見込んでいます。これにより、ドル建ての定期的なインカム収入と資産の為替分散を実現しています。

また、合計2.1億円を以下の比率で株式インデックスファンドに分散投資しています。長期的な資産成長を目指したポートフォリオです。

  • 日本株:4,200万円(想定年平均リターン3~4%)
  • 先進国株式:1億500万円(想定年平均リターン5~7%)
  • 新興国株式:6,300万円(想定年平均リターン6~9%)

自己資金1億円と借入1.1億円で、地方都市の一棟RCマンションと都内中古区分マンションの複数購入を想定しています。表面利回りは6.5%、実質利回りは4.5%前後(管理費・修繕費等込み)です。これにより、安定したキャッシュフローと節税効果を追求しています。

【キャッシュフロー試算(年)】

  • 家賃収入:約1,370万円
  • 諸経費・借入返済後キャッシュフロー:約500万円前後
  • 減価償却:年間400万円〜600万円

また、生活費や教育費に加え、不測の事態に備えるリスク管理資金として7,000万円の現預金を確保しています。

【中堅企業】戦略的M&Aで描く事業成長と社員の未来 ―IT企業オーナーの成功事例

東京都内でITシステム開発を手がけていたC氏は、50代後半。起業から20年で年商30億円、従業員100名を超える企業へと成長させました。しかし、大手の圧倒的な資金力と人材流動性を前に、自社の成長戦略に限界を感じていました。

【売却に至った背景】

プロダクトが軌道に乗り、当初はIPOも検討していましたが、上場による制約やガバナンス負担を考慮し、最終的には戦略的なM&Aによる成長加速を選択しました。買い手には、自社の技術や事業モデルを深く理解し、シナジーが見込める大手IT企業を選択しました。

また、組織規模の拡大に伴い、マネジメント面での負担も増していたことから、「自分が経営を続けるよりも、より適した環境にバトンを渡すべきだ」という判断に至りました。「事業のさらなる発展」「社員の将来」を見据え、会社売却という選択に踏み切りました。

【会社売却の状況】

上場企業グループによる100%株式取得により、売却額は約20億円。幹部社員にはあらかじめストックオプションを発行し、売却時にキャッシュアウト(売却先に現金で買い取ってもらった)が実現できました。C氏は、一定期間アドバイザーとして関与し、1年後に退任の予定です。社名・ブランド・社員の待遇は継続されることになりました。

【成功したポイント】

  • 月次・KPI管理がしっかりしていた:経営数字の信頼性が高く、買い手のデューデリジェンスもスムーズに進んだ。
  • エンジニアの定着率が高かった:技術者がしっかり確保されていた点が安心材料になった。
  • 買い手の成長戦略に合致していた:IT分野への注力という買い手側の方向性と完全にマッチしていた。
  • オーナーが柔軟に交渉に応じた:引き継ぎ期間や幹部の残留など、譲れる部分と譲れない部分を明確にして交渉できた。

【売却後の資産配分】

売却対価は約20億円。C氏は自身の資産管理会社を設立し、専門家に相談のうえ、以下のような資産配分を行いました。

資産配分シミュレーション(約20億円の売却益)

投資先など 金額 割合 主な目的 想定利回り/収益
米国債(長期債・年利4%) 10億円 50% 外貨建ての安定収入・守りの資産運用 年間利息収入:約4,000万円(税引前)
株式インデックス投資(日本・先進国・新興国) 5億円 25% 長期的な資産成長・インフレ対応 年平均リターン:5〜7%(原則再投資)
不動産投資(都心・住宅系+借入活用) 3.5億円(自己資金2億円) 17.5% 安定した賃料収入・相続税評価対策 年間家賃収入:約1,800万円実質CF:約900万円(税引前)
現預金・生活防衛資金 5,000万円 2.5% 流動性確保・数年分の生活費
新規事業・再挑戦資金 1億円 5% セカンドキャリア・子どもとの共同起業等 ―(将来的なリターンは柔軟に想定)

 

年間キャッシュフローの目安(税引前)

内訳 年間収入(概算)
米国債の利息 約4,000万円
不動産のキャッシュフロー 約900万円
株式配当・評価益 原則再投資
合計 約4,900万円/年

 

米国債比率を高めることで、安定した収益が見込めます。多くの富裕層が実践する「ボラティリティを抑えつつ毎年の収入を得る設計」になっています。また、不動産投資のレバレッジは1.75倍(3.5億円中1.5億円が借入)程度に抑えており、無理のない範囲で相続対策・節税対策にも貢献します。新規・再挑戦枠の1億円は、起業・事業投資・ファンド出資・子どもとの共同プロジェクトなど、自由度が高い設計になっています。

まとめ

会社売却は単なる事業の終結ではありません。セカンドライフ設計、資産の再配分、家族の将来設計といった大きなテーマに関わる、戦略的な「出口戦略」です。他社の成功事例を参考にしながら、ご自身と会社にとって最適な選択を見つけることが重要です。会社売却に「正解」はありませんが、「最適な選択」は必ず存在します。売却後のライフプランまで含め、専門家と共に戦略を立てることが、真の成功への近道となるでしょう。

売却益の資産運用は、ご自身の目標やリスク許容度に合わせて、最適なポートフォリオを構築することが重要です。私たちウェルス・パートナーでは、富裕層の皆さんの資産戦略や資産の再配分、ポートフォリオ設計などをお手伝いしています。各資産クラス別の資産運用実例など、さまざまな記事やYouTubeも配信しておりますので、是非ともご参考になさってください。

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