目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
本日のテーマは、「上場オーナー経営者が自社株を売却できない理由」です。とりわけ、上場会社オーナーや創業メンバーや創業社長の方で、上場して自社株式をたくさん保有し、なおかつ、上場会社の現役の経営者(社長や取締役)の方は、「お持ちの自社株式(資産の大半を占めているような自社の上場している株式)を簡単には売却できない」という特徴があるのではないでしょうか。
上場会社オーナーの資産の大半は、やはり自社株式であるため、それを売却できないのは資産形成上、由々しき事態です。そのような状況になることが非常に多いので、今回は、自社株式を簡単に売却できない理由についてお話しさせていただきます。現役の上場会社オーナー経営者や、今後、上場を検討されている未上場会社オーナーの方は、是非ともご参考にしていただければと思います。
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ポイント4つ
今回のテーマである「上場オーナー経営者が自社株を売却できない理由」のまとめからお伝えします。ポイントは4つです。
ポイント1)インサイダーがあるとどんな状況でも売れない
上場会社オーナーの方の場合に多いと思うのですが、インサイダー(その会社にまつわる未公表の重要な情報=株価に影響を与えてしまうかもしれない情報)があると、どのような状況であったとしても、自社株式は売却できないわけです。
会社には日々、M&Aや業績などに関する重要な情報が数多くあるため、その扱いには細心の注意を払わなければなりません。その中に公表されていないインサイダーに該当しそうな情報が多くあると、やはり自社株式売却はできないです。上場会社の経営者の場合は、どのような状況であっても、売却しづらい・売却できないことが多いと思います。
ポイント2)決算発表後の窓空き期間以外は売却できない
仮にインサイダーがなかったとしても、売却できるタイミングは限られています。四半期(三ヶ月)ごとの決算発表が終わった後の❝窓空き期間❞、大体、決算発表後の2週間以内の間に売却しなければいけません。逆にいうと、それ以外の期間は売却できないという、タイミングの制限があります。ですから、インサイダーがなければ、好き勝手にどんなタイミングでも売却してよいということではありません。
ポイント3)一般株主や社員の目が気になり心理的に売りづらい
インサイダーもなく、決算発表後の❝窓空き期間❞だとしても、売却できない理由がこちらです。やはり、一般の株主(会社と関係のない、創業メンバーでも社員でもない方)、上場のときに証券会社からその会社の株式を買っている一般の株主、オーナー経営者が株式をたくさん保有しているのを知っているような社員の方々、このような方々の目が気になり、心理的に売りづらいというのはあると思います。
一般の株主からすると、株価が上がると思ってその株式を買っているわけです。その方たちが買っているにも関わらず、「経営者が株式を売却するのはどういうことだ!」と思われるのではないか、と考えてしまうようです。そう思っているかどうかはわかりませんが、想像してしまうと売却しづらいのかもしれません。
社員の方からすると、「会社を成長させていこう!」と一緒に頑張っているわけですが、一方で、社長や取締役が自社株式を売却してキャッシュを得ているのは、心理的に気になるところなのでしょう。売れないわけではありませんが、売りづらいということはあると思います。どうしても心理的に売りづらくさせている理由になるのではないでしょうか。
ポイント4)売り圧力になるので市場で普通に売却できない
上場会社オーナー経営者の場合、持っている自社株式の比率がかなり膨大になります。発行株式の数%~10%を市場で普通に売却してしまうと、売り圧力になってしまい、株価を下げてしまうリスクがあるため、市場では普通に売却できないわけです。株式なので、市場で売却するのが一般的ではあるので、このような上場会社オーナー経営者の場合、普通に市場では売却できません。こちらも自社株式を簡単に売却できない理由の1つではないかと思います。
以上が、上場オーナー経営者が自社株式を簡単に売却できない理由でした。
それでもある程度は売却した方がいい理由
簡単には売却できないのですが、それでも、上場会社オーナー経営者の方も、ある程度は自社株式を売却した方がいいと思う理由があるので、合わせてお話しできればと思います。理由は4つあります。
理由1)何のために頑張っているのかわからなくなる
多少は自社株式を売却しないと、「何のために頑張っているのかわからなくなる」という、モチベーションの問題です。上場会社オーナーで、上場するタイミングなどで自社株式を売却していないとすると、意外とその後に自社株式を売却できるタイミングは少ないです。上場会社を経営していて大変お忙しい状況も多いですし、売却できそうなときにしておかないと、その後は、いつ売却できるか本当にわからないので、キャッシュを作ることが厳しくなります。
また、上場したばかりの会社や新興企業の場合、会社自体がすごく利益を出しているわけではないことが多いので、先行投資型などの場合は、役員報酬をたくさん取るなど、そのようなことができないことが多いです。そうなると、自社株式を売却するという方法でキャッシュを得ていくことが一般的になります。ですから、売却できるときにしておかないと、「何のために頑張っているのか」と、モチベーションが下がってしまうリスクがあるのです。ある程度は売却してキャッシュを得て、ご自身のために使う方がよいでしょう。
理由2)生活が安定し中長期的な経営課題に取り組める
上場会社オーナーの方は、会社経営者で多忙ですし、一般のお勤めの方よりはるかに大変なお仕事をされていると思います。そのような中で、ある程度まとまった資金があると、買えるものはたくさんあります。
お子様がいらっしゃるなら、お子様の面倒を見てもらうベビーシッターなどを雇ったり、ご自宅も非常によい家に住んで生活環境をよくしたり、お子様をよい学校に入れたり、奥様のために住環境を整えてあげたりするなど、自社株式を売却すれば、生活を安定させることができるわけです。
私生活を安定させることによって、仕事では中長期的な経営課題に取り組むことができると思います。やはりご自身個人のキャッシュも安定していないと、目線の長い仕事に取り組むことが難しいでしょう。そういった意味でも、ある程度、自社株式を売却して、それをご自身の生活のためや、ご家族のために充てれば、それが将来的には会社のためになるのではないでしょうか。ですから、ある程度自社株式を売却してもよいと思います。
理由3)もっとも効率的にキャッシュを作れる方法
これは効率の問題です。お伝えしたように、上場会社で仮に結構利益が上がっていて、役員報酬などを出して個人に還元したとしても、それでは税務効率が悪くなってしまいます。どれだけ役員報酬を出したとしても、個人の住民税と所得税を合わせた最高税率は55%になります。なおかつ、社会保険などいろいろとありますから、手元にはほとんど残りません。
そう考えると、役員報酬を取らずに、全部会社の利益として残し、株価を少しでも上げた方がよいでしょう。株価は、業績がよくなると簡単に2倍・3倍になることもありますし、そのときに売却した方が税率も20%ですからよいと思います。このように低い税金で手残りを大きくした方が圧倒的に効率がよいので、そのようなタイミングで自社株式を売却する方が税務効率がよいわけです。自社株式を売却するのが、上場会社オーナー経営者がもっとも効率的にキャッシュを作る方法といえます。
理由4)市場外取引や処分信託など様々な売却手法がある
売却できない理由で最後にお伝えした、市場で売却すると❝売り圧力になる❞ということの対策になります。市場で売却するだけではなく、まとまった株数であれば、市場外で機関投資家に買ってもらったり、ファンドに買ってもらったりするなど、市場外の取引ができます。
また、それ以外にも❝処分信託❞という手法があります。信託銀行に「この株数をこれぐらいの期間で売却してください」という依頼を出し、これを信託するときにインサイダーがなければ、その後は、信託銀行の判断で売却していくため、途中でインサイダーが発生しても問題なく売却できます。これであれば、タイミングをかなりずらして売却してくれるため、窓空き期間の枠を外れたとしても問題ないですしインサイダーにかかりません。
昨今は、このような便利な売却方法が考案されています。市場に影響を与えずに、この形で売却していく方法を取れば、一般の株主に指摘されることもないでしょう。このような手法を考えていくのがよいと思います。
本日は「上場オーナー経営者が自社株を売却できない理由」という内容でお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中