目次
はじめに
皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
本日のテーマは、「会社オーナーが不動産投資の銀行融資を受けるためのポイント」です。会社オーナーでも、多くの方が不動産投資をされていると思います。そのときに必要不可欠になるのは不動産投資に対する銀行からの融資です。
不動産投資はレバレッジをかけるために銀行融資が前提になっているので、銀行融資をどのような形で受けられるかによって、不動産投資の成否が決まると言っても過言ではありません。今回は、会社オーナーの方がどのようにすればよい形で不動産投資の銀行融資を受けることができるのか、ポイントをご説明します。
未上場会社オーナー編
会社オーナーは大きく2つに分けられます。未上場会社オーナーと、上場会社の株をたくさん保有している上場会社オーナーの2タイプで、不動産融資のポイントが変わってくるので分けてご説明します。
まずは未上場会社オーナー編をご説明しましょう。未上場の事業会社を経営して役員報酬を受けたり、資産運用したり、未上場会社を経営している会社オーナーが不動産投資をする場合の銀行融資の受け方のポイントをお話しします。ポイントは4つです。
ポイント1)投資主体は事業会社ではなく、個人か資産管理会社
未上場会社オーナーの方には投資主体の選択肢がたくさんあります。個人で投資するのか、経営している事業会社で投資するのか、もしくは資産管理会社を保有していたり、持株会社を保有していたり、子会社がたくさんあったり、投資主体の選択肢は多いです。
一方で、多くの未上場会社オーナーが資産の蓄積に関しては、主に事業会社に貯まっていくケースが多いです。 事業会社に現預金と純資産が貯まり残存利益が残っていきます。発想として「この事業会社で不動産投資もした方がいいのではないか」という考えの方がいらっしゃいますが、実は、事業会社は銀行があまり不動産融資したくない主体であることをご存知でしょうか。
銀行は不動産投資に対して融資をするので、不動産賃貸事業としてお金を貸しています。しかし、事業会社は基本的に別の事業を行い、不動産以外の事業が中心になるため、銀行が事業会社にお金を貸すことは、不動産以外の事業のリスクも取っていることになるため、あまりやりたくないのです。ですから、未上場会社オーナーの場合は、投資主体に関しては、基本的に事業会社は外し、会社オーナーご本人もしくは資産管理会社や事業会社の持株会社などを主体にしていくのが資産運用の設計になると思います。
ポイント2)余剰純資産が豊富なタイミングで融資審査
事業会社・資産管理会社・持株会社、オーナーをされている会社や個人を含めたオーナー全体の主体の余剰純資産が豊富なタイミングで融資審査をした方がいいでしょう。銀行からすると、純資産(余剰資金)がたくさんある方がお金を貸しやすいわけです。
もし不動産の投資事業が失敗したときに「取り損ねたくない」のが、銀行が一番に考えている懸念事項です。ですから、不動産投資で失敗して担保価値がなくなったとしても、会社オーナーが個人または法人からきちんとお金を返すことができるという前提が非常に重要になってきます。それは何が根拠になるかというと、会社オーナーの純資産です。「現預金・資産―借入=純資産」ですので、純資産が厚ければ厚いほど安心感があり、銀行としてはお金を貸しやすくなります。
次にタイミングに関してですが、未上場会社オーナーの場合、その時々のタイミングによって会社の余剰の現預金にかなり変動があると思います。私も会社を経営しているので分かるのですが、基本的に、会社の決算期末前が一番キャッシュが豊富です。その後に余剰キャッシュの中から社員に賞与を出したり、納税したりする必要があるので、実は、決算期末前と数カ月後の納税後は、キャッシュの残高が相当変わってきます。
これは会社の事業形態によっても違うので、余剰の純資産やキャッシュが多いタイミングは、会社によって結構異なります。基本的に、余剰キャッシュや純資産が豊富なタイミングは会社によってあるはずです。ですから、余剰キャッシュから今の借入を引いた余剰純資産が多く見えるときに、融資審査を申し込んで審査をしてもらうのが、未上場会社オーナーの場合は借入をしやすい、銀行融資を受けやすいタイミングであるといえます。
ポイント3)個人にもある程度、役員報酬を出しておく
未上場会社オーナーの場合、個人に役員報酬を出しても税率が高いので、役員報酬をあまり出していない方が結構いらっしゃいます。例えば、会社に1億~2億円の営業利益が上がっていたとしても、個人の役員報酬は700万円~1,000万円程度に留めているケースもあります。しかし、不動産投資の銀行融資の観点からいうと、個人にも役員報酬を一定程度出していた方がよいといえます。
銀行は、個人の純資産も見ますし、当然、個人の額面の収入を過去3期分程度はチェックします。不動産投資を行うときには、オーナー個人の収入などが最終的な銀行融資の返済原資になりますので、そこもきちんとチェックされます。銀行によってチェック項目が違うので、どこまで重視するのかで変わってきますが、当然純資産もそうですし、個人の収入もどれぐらいあるのか結構見られます。ですから、事業会社に余裕がある場合は、個人にもある程度(2,000万円~3,000万円など)出しておいた方が、不動産投資の融資を基本的に受けやすいのではないかと思います。
ポイント4)事業会社で融資実績がある場合は特別条件の可能性
これは実際にあると思いますが、経営されている事業会社で融資実績がある場合、不動産融資においても、特別な条件が出ることがあります。今までのトラックレコードがあり、人間付き合いと同じで、今までお付き合いがある方であれば信用できるので、当然、お金も貸しやすくなります。仕事であれば、仕事も任せやすくなります。これは、不動産融資と銀行との関係においても同じといえるでしょう。
事業会社で過去5年~10年ほど借入して返済している実績がある場合、オーナー個人の「不動産投資したいのでお金を貸してくれませんか?」というオーダーも受けてくれる可能性が高いです。これは、今まで築き上げた信頼という財産と言っても間違いないと思います。
私たちがお手伝いさせていただいている方の中にもいらっしゃいますが、事業会社で融資実績がある銀行があるのであれば、不動産投資の際はその銀行から条件を出してもらい、特別条件が出ることもあります。そのような銀行へは、必ず不動産融資の打診をするのがよいと思います。
上場会社オーナー編
上場会社オーナーとは、創業社長の方、創業メンバーの方で上場した後に上場株式をたくさん保有している方、保有している上場株式の時価が数億円~数十億円になっている方、そのような方をイメージしています。未上場会社オーナーとの違いとしては、未上場会社オーナーは、保有している会社一つ一つの財務状況を個人と同一と捉え、金融機関が融資審査をします。一方で、上場会社オーナーの場合は、上場して一般の株主もいるので会社は同一とは見なされません。見られるのは、上場会社オーナーが保有している上場株式の価値、それが3億円なのか10億円なのか20億円なのかによって全然違いますので、その会社の財務状況というより株価が重要になってきます。それに伴い、銀行融資のポイントも変わってくるのでご説明しましょう。ポイントは4つです。
ポイント1)自社上場株式の株価上昇タイミングで融資審査
自社の上場株式が、上場会社オーナーの資産に占める大半の資産になると思いますので、自社株が上昇しているタイミングが融資を一番受けやすいタイミングといえます。株式を上場して、自分の資産の価値が3億円のときと10億円のときとでは資産額が3倍程度違うので、資産額が10億円のときの方が当然銀行もお金を貸しやすいわけです。
銀行は当然株の動きも見ますので、株価が上昇していて、できればその株価が安定しているときがよいでしょう。1ヵ月前に株価が1/2であった場合、「また下がるのではないか」と思いますので、時価が10億円になったら、10億円の状況が少なくとも半年~1年ぐらい続いているなど、株価が安定していて、それなりに高いタイミングで融資を検討してもらうのがよいタイミングではないかと思います。
ポイント2)自社株式売却直後の現金豊富な状態がベスト
これはベスト中のベストのポイントです。上場会社オーナーの場合、資産のポートフォリオを大きく変えるのは、自社株を売却したときだと思います。30億円あるうちの10億円を売却したときが、ポートフォリオが一番変動するときです。自社株売却直後は、30億円のうち10億円がキャッシュになっているので、この状態が、不動産融資を受けるベスト中のベストのタイミングといえるでしょう。
銀行からすると、自社株はどうなるか分からない資産と捉えられています。現金が豊富なときは、「お金を貸してもちゃんと返済してくれる」「取り損ねない」という状態が見せられているわけです。ですから、自社株売却直後に不動産投資に取り組むのは非常に大事ではないかと思います。
ポイント3)金融資産は流動性&安全性が高い資産中心に保有
自社株売却直後の現金が豊富な状態、現金が多いときが一番融資を受けやすいです。現金だけをずっと持っているのはもったいないので、その現金を何かしらの金融資産に投資し、その上で不動産融資を検討する方が多いと思います。ただし、この金融資産に関しては、流動性が低い資産や安全性が低い資産に投資していると、銀行として、審査上、「値下がりしそうな資産を持っている」「融資の評価(資産評価)に入れづらい」と判断されることがあります。
例えば、暗号資産は安全性が低いですし、プライベートエクイティのような資産は流動性が低いので、いざというときに返済の原資にできません。ですから、金融資産は流動性が高く、尚且つ、安全性が高い資産を中心に保有している方が、不動産融資を受けやすいと思います。普通の株、債券、投資信託などを保有していれば、基本的には問題ないでしょう。
ポイント4)借入金融機関に残高、実績ある場合は優遇の可能性
未上場会社オーナーと同様のことですが、借入を行う金融機関に残高がある、資産をある程度預けているなど取引実績がある場合や、ご自身が経営している上場会社で借入の実績がある、今まで取引実績がある場合は、優遇を受けられる可能性があります。上場会社の場合、かなり幅広く事業を行っていると、借入をしている金融機関も多い場合があります。上場会社オーナーの場合も、実績に関しては個人の不動産の取引を活かすことができるので、大いに利用していくのがよいと思います。
たとえ実績がなくても、今後、不動産融資を行う金融機関で新規取引をしてもよいと思っているのであれば、金融機関はそれを材料に融資審査を行うので、交渉の材料にするというのも一つのやり方ではないかと思います。
本日は「会社オーナーが不動産投資の銀行融資を受けるためのポイント」という内容でお届けさせて頂きました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中