2020
04/08
経済・マーケット

はじめに

今年に入り、為替相場はドル高に推移しています。

その背景には、中国発の新型コロナウイルスの感染拡大があり、1月下旬にWHO(世界保健機関)から緊急事態宣言が発表されたと同時に、米国の経済成長が好調であるという発表からドルがリスク回避資産として好まれる傾向が出始めました。

2月上旬にはリスク回避資産としてドルが好まれる状況続き、中旬には日本円が買われましたが、下旬に入り新型肺炎の感染者がアジアで急増し、やはり米ドルが買われる傾向が出ています。

従来の為替市場では、世界的な経済情勢の悪化が起きたときに日本円が買われていたのですが、今年はその傾向が一変して、リスク回避資産として米ドルが好まれるようになり、また金融・経済メディアでも「安全資産である円の終焉」として報じられています。

しかし、リスク回避資産が円から米ドルに移り変わったと考えるには時期尚早とも考えられます。

そこで今回は、米ドルが安全資産として好まれる必然性を理解するために「ユーロ圏経済」や「日本経済」、「中国経済」、「米国経済」の最新状況を説明し、「有事のドル買い」傾向は一時的であると指摘してみます。

ユーロ圏経済の最新状況

2月のユーロ圏経済として、最も注目を集めた経済指標が鉱工業生産指数でしょう。

鉱工業生産指数とはマクロ経済指標として知られており、GDPと似たような意味合いを持つ有名な経済指標です。

2月12日に発表されたユーロ圏の鉱工業生産指数(前年比)は予想-2.5%を大きく下回る-4.1%となっていました。前回の鉱工業生産指数は-1.5%とそもそもマイナス圏での推移となっていましたが、今回の発表はかなり予想を下回り、また経済の悪化を示唆する結果となっていました。

鉱工業生産指数の発表後、市場はユーロ圏経済の悪化を受け取りユーロ安に推移していきました。

また、民間消費を見ることができる小売売上高についても、2月5日の発表では前月比-1.&%(予想-1.1%)と前回の同1%から大幅に需要が減退していることが示唆されます。

消費者物価指数についても、小売売上高から分かる通り、2月21日の発表では前月比-1%となっており、物価が低下していることが伺えます。

このように、2月のユーロ圏経済指標は市場がマイナスに受け取るものが多く、ユーロ安が進行している原因になっています。

日本経済の最新状況

2月の日本経済指標で最も注目されたものは、GDPでしょう。

2月17日に発表されたGDP(前期比年率)は-6.3%と2014年の消費増税時以来の景気減退を記録しました。

また、多くの識者がこのGDPを見て、日本の景気後退を指摘しており、今後も新型肺炎の影響からさらに景気が悪化していくと見られています。

また、先日発表された賃金指数や物価指数からも、実質賃金がマイナス圏になる指数も存在し、今後の物価上昇圧力は見込めないことがうかがえます。

このような日本の経済状況から今後の景気後退感は否めず、市場の反応は当然円売りとなっています。

中国経済の最新状況

2月の中国経済については、やはり新型肺炎の影響から大幅な減速が見込まれると考えるのが通常でしょう。

IMFの専務理事は、中国経済の早期回復を示唆していますが、中国国内では新型肺炎の影響から消費の減退や、企業活動の停止、物流の停滞、物価急騰など経済活動が急激に停滞しています。

中国政府も2月上旬より金融緩和や財政出動を行っており、2月下旬にも中国人民銀行の副総裁は追加緩和を示唆する発言をしました。

中国政府は新型肺炎の影響に対抗するように金融緩和を大規模に行っていますが、市場は恐らく中国経済の抱える信用不安に身構える動きをとっていると考えられます。

現在、中国は大量の流動性を市場に供給していますが、以前から国内民間企業の間で不良債権比率の高まりやゾンビ企業の続出が構造的な問題として表面化しています。今の追加緩和は中国の信用バブル崩壊時の衝撃を強くする可能性があり、市場はそのようなリスクを許容しないとみられます。

米国経済の最新状況

1月下旬に米国ではFRBが政策金利を発表し現状維持との方針が示されました。

その背景には米国経済の好調さが示され、市場はFRBの経済に対する見解について好感を持っています。

さらに、2月7日に発表された非農業部門雇用者数は予想165千人を大きく上回る225千人となり、前回の145千人をはるかに上回る結果になりました。

また、消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は前年比2.3%とインフレ・ターゲティングを達成しており、非常に好調な経済環境を維持しています。

「有事のドル買い」は一時的

このように、主要経済圏の経済状況を見ると米国に資金が流れるのは当然です。

ユーロ圏でも日本でも、中国でもマクロ経済が鈍化し、その一方で米国経済は好調で、かつ大統領選までにトランプ政権が財政政策を行う可能性が高く、そこに対する期待も織り込まれやすい状況です。

現在の米ドル買い傾向は「有事のドル買い」というよりは、単に「買うものが米ドルしかない」という消去法的な理屈にも基づいているように思われます。

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者3万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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