香港デモの原因とは
今から30年前、中国の北京に銃器と戦車の音が響き、多くの民間人が中国人民軍によって殺されました。当時、中国政府もその事実を認め、同時に中国共産党は暴徒化した市民を鎮圧するため、強硬策も辞さないと明言し、武力による鎮圧を行いました。
天安門事件のきっかけは、胡耀邦総書記死去をきっかけに、中国の共産党一党独裁に反対し、中国の民主化を叫んだ学生を中心にした北京市民によるデモ活動の鎮圧を目的としていました。
当時の中国は、鄧小平を中心とした保守派の目指す改革開放による中国経済の拡大と、一方で民主化を推し進めようとしてきた胡耀邦総書記との対立によるものが大きく、当時の学生を中心とした若い世代は、胡耀邦総書記を支持していましたが、胡耀邦自身は1987年の党大会において、総書記の座を追われ、亡くなる2年後まで自宅軟禁を強要されました。
胡耀邦死去は、自由化を求める北京市民の共産党支配への反発に拡大し、北京市内でのデモ活動へと発展していきました。
ソ連の改革開放に向けて動いていたゴルバチョフ書記長との中ソ対立の終結を宣言し、中国自体も民主化に向けて動いていることを演出したかった、鄧小平を中心とした保守派でしたが、北京市内での学生たちの運動に理解を示した、趙紫陽総書記代行は、保守派との意見対立をみてしまい、北京市内の動乱を収束するために開催された鄧小平を中心とした党政治局常務委員会でも、学生らの主張を支持したため、事実上の解任に追い込まれ、鄧小平は常務委員会を通じて、北京市内に戒厳令を出すこととなりました。
これが、デモ隊の抗議行動に拍車を掛けることとなり、次第に外国人記者への報道統制が行われ、北京市内で何が起きているのか?が内外に報じられることがなくなってきました。当時、CNNが生中継の最中に中国当局者が来て、放送を止めるよう命令してきましたが、それがそのまま生中継で放送されるなどしたため、政界中に中国共産党のやり方がしられることとなります。
これらは、却って中国共産党の強行姿勢を招くこととなり、遂には1989年6月4日の武力鎮圧へと繋がっていきました。
当時、中国政府は約300名が武力行使の犠牲になったと発表しましたが、後に英国政府の機密文書公開等により、犠牲者は10,000人を超えているのではないかと言われていますが、当時、天安門事件その後を取材した矢吹晋氏は、実態は1,500人程度ではないか、との指摘もあり、真偽の程は定かではありません。その後、中国政府がこの数字を修正することはありませんでしたが、少なくとも中国政府が暴徒の鎮圧に銃火器を使用したことは間違いありません。
現在、香港の人々が中国政府との対立姿勢を鮮明にしているのは、実はこの天安門事件に端を発していると言っていいでしょう。香港と中国本土に於ける逃亡犯条例改正は、一国二制度という歴史的な変遷を経て今日に至る香港人にとって、これまでの体制を壊されることの恐怖が行動となって現れているのです。
中国政府の基本的考え方
中国政府にとっての香港の位置付けは、実は政治的背景によるものではありません。
中国政府にとって重要なのは、香港ドルです。中国製品の輸出入には当然ながら、基軸通貨である米ドルが使われることとなり、そのため、人民元の為替レート安定のため、米国債を買い続けています。つまり、中国製品の売り買いには人民元は使えないのです。
事実上、人民元は国際通貨とは言い難く、アメリカが中国政府を批判している点の主因はこれにあたります。通貨取引をオープンにしなければ自由主義経済の自由な資本移動が為されません。つまり、世界中の人々が人民元取引を開始するためには、中国政府の事実上の固定相場制を止める必要があります。
ところが、トランプ大統領の為替操作国であるとの指摘にも関わらず、中国政府はそれを認めようとしていません。経済の主軸を輸出に頼る中国は、自国通貨のレートを常に人民元安状態にしておく必要があります。
中国の経済市況は?
GDP総額が世界2位になったとはいえ、中国国内は世界で最も所得格差が大きいと言われています。膨大な輸出量で外貨を稼いでも、またそれが意図的に操作された対外的な人民元安であっても国内は所得格差が大きすぎるため獲得した富が国内に還流出来ないのです。
また、米ドルの裏付けを得ているのが、一国二制度を上手く利用した香港ドルです。
何故、香港が金融市場の重要な位置を占めているのかは、この点にあります。香港の金融市場を対外的に解放する意味はここにあり、香港ドルが米ドルの信任を得て発行できているので、中国本土の企業の大半が香港に拠点を持ち、外貨の獲得を行なっています。
当然ですが、中国政府が人民元安状態を維持するためにも、香港はその位置付けが重要となります。
外国企業が中国製品の売買を行う時、名目上は米ドルでの取引を行いますが、香港ドルと米ドルは金融市場での為替レートが実質的に固定されているため、米ドルでの収益の大半がそのまま、香港ドルを経由して中国本土に流れ込むことが出来ます。その為だけに香港は存在していると言ってもいいでしょう。
イギリス統治下の頃、実質的に中国本土をイギリスの植民地化とするために、香港が生まれたといってもいいのです。
当時は中国とイギリスとの間での貿易が主軸でしたが、中国国内が次第に改革開放に向かい、経済的に疲弊してきたイギリスが香港を維持できなくなったタイミングで、中国政府は香港を自国にとって利用価値のあるものにすげ替え、しかも発展する中国経済を利用しようと考えたアメリカと利害が一致したため、1980年代から急速に香港が世界の金融市場の主軸の地位を占めてきました。
同時にそれは、中国政府が上手く外貨を獲得できる意味をも持つわけです。
香港の意味は
その為、香港という場所には独自の自治権が与えられ、その位置付け上、中国本土に比べてより大きな自由が与えられてきたのです。
外国人の往来も自由ですし、中国本土のような監視体制もありません。香港人はその経済的な位置付け上の利点を活かし、より資本主義経済、自由主義経済の中で生きてきました。
言い換えるなら、香港人にとっての中国本土は共産党が支配する管理統制社会で、香港がそのような体制に移行することへの恐怖があるわけです。
中国本土で行われていると言われるウイグル人やチベット人への弾圧は、外国人記者が入れない為、報道されることはありませんが、香港市内の暴動やデモの様子は、外国メディアを通じて、あるいは香港人自身のSNSの発信によって、連日伝えられていますが、それが香港の実態です。
香港を自国の経済発展に利用したい中国共産党は、一方で国内での共産党支配体制を維持したいジレンマに陥っているとも言えます。むしろ、中国の経済支配を警戒するアメリカが、この点に切り込んでいくことも考えられ、米中貿易戦争の発火点の一つともなるでしょう。
参照元
※http://www25.big.or.jp/~yabuki/2011-15/2014.06.04.25anniversary.pdf
※http://hong-kong-economy-research.hktdc.com/business-news/article/HKTDC-Export-Index/HKTDC-Export-Index-3Q19-Hong-Kong-Exports-Struggle-as-China-US-Trade-Tensions-Escalate/etihk/en/1/1X000000/1X0AIIRR.htm
※https://www.jetro.go.jp/world/asia/hk/trade_04.html
※https://web.archive.org/web/20191003040131/https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-16/PT7AO56JIJUQ01
※https://web.archive.org/web/20190626085838/https://www.afpbb.com/articles/-/3230038
※https://www.globalnote.jp/post-2875.html
※https://nsarchive2.gwu.edu/NSAEBB/NSAEBB16/docs/doc14.pdf
※https://www.afpbb.com/articles/-/3016695