脱炭素とは
2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を示した「改正地球温暖化対策推進法」が2021年5月26日に成立しました。2020年10月には菅内閣総理大臣が、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言していました。
日本・米国・欧州と中国の4地域でも、2021年~50年に必要な投資額が8,500兆円になるという試算もあります。日本は現在、年間で12億トンを超える温室効果ガスを排出していますが、2050年までにこれを実質ゼロにする必要があるのです。
カーボンニュートラルへの取り組みが社会や産業構造の変革をもたらし、大きな成長に繋がるという考えで、日本全体で取り組んでいくことが必要なのです。
「改正地球温暖化対策推進法」は、2022年4月の施行を目指しています。2050年までに森林などによる吸収量と温暖化ガス排出量が均衡される「実質ゼロ」を実現するとの政府目標を基本理念とし、条文に明記しました。政権が代わっても、政策を将来にわたって継続させることを約束し、企業の中長期にわたる投資を促すことが狙いです。
機関投資家も環境重視へ
ESG投資などのサステナブル投資への関心の高まりから、環境を重視する機関投資家が増えています。サステナブル投資とは、長期的な持続可能性に着目した投資戦略です。投資プロセスにおいて、これまでのような定量的な財務分析だけでなく、非財務情報を踏まえた定性面での評価を行うことで、中長期での安定したパフォーマンスを目指します。
サステナブル投資は機関投資家の運用の主流になりつつあります。サステナブル投資は 「ESG投資」とも呼ばれ、株価や企業のパフォーマンスを見る上で欠かせない要素になっているのです。
たとえば、従業員の満足度が高い企業は長期的な競争力を持っているという調査結果もありますし、気候変動の影響を受けやすい拠点や地域に工場がある場合、異常気象などが発生すると業績が受けるインパクトは大きくなります。
米国の大手資産運用会社ブラックロックが、世界27カ国・地域の425の機関投資家を対象に調査をしたところ、企業の温暖化対策などを重視するサステナブル投資への資産配分比率は、2020年の約18%から2025年には約37%と倍増します。
とくに環境への意識が高い欧州の機関投資家は、資産の約半分をサステナブル投資に切り替える見通しです。そして、イギリスのシュローダーのように、すべての資産をESG投資に切り替える資産運用会社もでてきているのです。
日本企業の対応
日本でも2021年6月に改訂された企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)で、気候変動リスクの情報開示や、サステナビリティ(持続可能性)が強調されています。世界の潮流を考えれば、コーポレートガバナンス・コードの求めに違和感はありません。脱酸素の技術開発に資金を投じたり、環境の専門家を取締役に迎えたりといった動きもでてくるでしょう。
「脱炭素化」で日本企業が強みを持つのは、EV(電気自動車用)の電池開発です。車載向けのリチウムイオン電池は韓国の LG 化学と中国の寧徳時代新能源科技(CATL)の2強で、日本企業の存在感は薄くなっています。
しかし、一度の充電で走れる距離が伸びる「全固体電池」に関しては、日本企業が巻き返しを図れる可能性があります。特許出願数ではトヨタ自動車やパナソニックなどがリードしており、トヨタは2020年代前半に発売するモデルに全固体電池を搭載する方針です。
脱炭素で変わる株主総会
株主が企業に「脱炭素」を迫る動きが、世界中で強まっています。2021年の株主総会では、気候変動に関する株主提案が世界で63件と、3年前から1割増加しただけでなく、賛成率も上昇傾向にあるからです。
この動きは日本でも起きており、住友商事や三菱UFJフィナンシャル・グループに、気候変動対応強化を求める株主提案がでてきています。三菱UFJフィナンシャル・グループは、非政府組織(NGO)の「350.org」や、NPOの「気候ネットワーク」などから株主提案を受けています。
パリ協定の目標に沿った融資を行うための指針と、短期だけでなく長期の目標を含む経営戦略を記載した計画を策定し、年次報告書で開示するよう迫られているのです。
日本のメガバンクは、NGO などから「化石燃料関連での融資が多い」と批判されてきました。ただ、NGO などが化石燃料関連の融資が多い金融機関に、脱炭素の対応を迫るのは世界的な流れです。米国のシティグループやゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカなどは、2050年までに融資先の排出量を実質ゼロにすると発表しています。これは米国のNPO「アズ・ユー・ソウ」などが提出した株主提案に対応したものです。
脱炭素に関する提案に、企業が反対するには十分な説明が必要です。企業は株主にきちんと自社の戦略を話し、理解してもらえるように努める必要性が高まっているといえるでしょう。