2025
12/23
資産管理会社 資産運用 節税 相続対策

富裕層の資産管理において、いま最も注目されているのは「資産管理会社」の活用です。高額所得による税負担の増大、分散投資の難しさ、そして相続時の資産評価や分割をめぐる課題など、一定以上の資産規模になると、個人名義のままでは最適化しきれない問題が増えていきます。

こうした複雑化する課題に対し、資産管理会社は“節税・資産運用・相続対策”の三つを一体で設計できる「プライベートな統合プラットフォーム」として機能します。資産の名義を法人に集約し、キャッシュフロー・税率・承継までを総合的にコントロールできる点は、個人管理とは根本的に異なる強みといえるでしょう。

本記事では、富裕層が資産管理会社をどのように活用し、どのような効果を得ているのかを、節税・運用・相続の3視点から体系的に整理します。さらには実例を交えながら、設計時に押さえておくべき注意点についてもわかりやすく解説します。

資産管理会社とは

資産管理会社とは、不動産・株式・預金など、個人が保有するさまざまな資産を「法人名義」に移し、会社として一体的に運用・管理するための器です。富裕層の間では、いわゆる“プライベートカンパニー”としての位置づけが一般的で、海外ではスタンダードな資産管理の手法として広く浸透しています。

個人名義で資産を持つ場合、所得税や相続税などの課税がストレートに影響します。一方、資産管理会社を活用すれば、法人税ベースでの課税コントロールが可能になり、損益通算や経費計上など、個人では使えない選択肢が広がります。また、法人は永続性を備えているため、相続や事業承継の局面でも「株式を承継する」というシンプルな構造に整理できる点も大きなメリットです。

資産管理会社といっても形態はいくつかあり、保有資産を集約する「純粋持株会社型」、投資運用を主たる目的とする「資産保有会社型」、事業会社から派生した「セカンドカンパニー型」などが代表的です。いずれも目的は共通しており、個人ではコントロールしきれない資産・税務・承継を、法人という“器”によって統合管理することにあります。

節税効果:資産管理会社が生み出す税務メリット

資産管理会社を活用する最大のメリットの一つは、所得税よりも柔軟性の高い「法人税ベースでの課税コントロール」が可能になる点です。資産規模が一定以上になると、個人名義では税率・所得区分・損益の扱いなどに限界が生じ、負担が急激に大きくなります。そこで法人を活用することで、税金計算の土台そのものを再設計できるようになります。

1. 所得税55%から法人税30%台へ

個人が高所得を得た場合、最高税率は約55%に達します。一方で法人税の実効税率は30%台で推移しており、同じ収益でも税負担が大きく異なります。特に不動産収入や事業収入が大きい富裕層にとって、税率差は累積すると極めて大きなインパクトとなります。

また、法人では役員報酬や配当など、所得の受け取り方を選択できるため、課税タイミングを最適化する余地が生まれます。

2. 経費計上により課税所得を抑える

個人では認められにくい費用でも、法人として合理的であれば経費計上が可能になります。法人で認められる一般的な経費(光熱費・交通費・交際費等)以外にも、例えば、下記のような経費が認められます。

  • 不動産管理に関わる業務委託費
  • 専門家相談料
  • 投資に関する調査・情報収集費
  • 家族従業員への給与(実態が伴う場合)
  • 事務所兼社宅費用

これにより法人の課税所得を継続的にコントロールでき、結果として可処分資金を増やしやすくなります。

3. 損益通算で投資のブレを吸収

個人では金融所得と不動産所得などが通算できず、利益が出ればその都度課税され、損失が発生しても活かしづらい構造になります。一方、法人は 「損益を一体管理」 できるため、

  • 株式の評価損
  • 不動産の修繕費
  • 資産売却損

これらをトータルで調整し、実効税率を引き下げることが可能です。特に複数資産を保有する富裕層ほど、法人化のメリットは大きくなるでしょう。

4. 株価コントロールと承継設計

資産管理会社は「相続対策の基盤」としても機能します。法人の株価は、利益水準や配当政策により一定範囲でコントロールできるため、相続時の評価額を戦略的に抑えることができます。これは個人資産にはできない、法人固有の強みといえます。

【事例①】年収5,500万円・資産6.2億円のオーナーが実効税率を32%まで低下させたケース】

A氏は、給与所得と不動産収入が合算され、毎年55%近い税率が課題でした。特に不動産管理費や専門家費用が個人では十分に控除できず、税負担が年々増加していました。そこで資産管理会社(合同会社)を設立し、収入と支出の構造を“法人ベース”に組み替えることにしました。

・移行前後の比較(概要)

項目 個人名義 資産管理会社活用後
所得区分 給与+不動産所得 役員報酬+法人所得
税率(最高) 約55% 実効税率32%
不動産管理費 一部のみ控除 全額法人経費化
専門家費用 控除不可あり 全額法人経費
損益通算 不可 法人内で一体管理
承継 個別資産の相続 株式承継でシンプル

 

・資産管理会社導入のポイント

    • 不動産管理・修繕費を法人経費化し、課税所得を圧縮。
    • 個人へは必要最低限の役員報酬にとどめ、累進課税の負担を軽減。
    • 株式や債券の損失と不動産の利益を法人内で通算し、税額のブレを小さく。
    • 将来の相続に備え、法人株価を適正水準に維持。

・結果:税負担・キャッシュフローの変化

指標 導入前 導入後
年間の税負担総額 約2,850万円 約1,760万円
実効税率 約55% 約32%
手残り資金 約2,350万円 約3,740万円
相続評価 個別資産で高額化 株価ベースでコントロール可

 

このように、年間約1,000万円以上のキャッシュフロー改善を実現できました。節税と損益通算の“一体管理”が、富裕層の資産管理会社活用の核心といえます。

資産運用の最適化:法人化で広がる投資の選択肢

資産管理会社を活用するメリットは、節税だけにとどまりません。むしろ長期的に大きな差となるのは、「法人名義で資産運用を行えることによって、戦略の幅が圧倒的に広がる」点です。投資判断・キャッシュフロー管理・リスクコントロールを法人で一体化できるため、個人では実現しにくい高度なポートフォリオ設計が可能になります。

1. 法人名義の金融運用は“損益を平準化”できる

個人投資では、株式・投資信託・債券などの損益は所得区分ごとに扱われ、損失が十分に活かせない制度になっています。

一方、資産管理会社では 「金融資産全体の損益を一括で管理」 できるため、「一部銘柄の値下がり」「市場調整局面の評価損」「不動産の修繕費や管理費」などをまとめて調整し、年間の税負担を平準化できます。つまり法人化は、投資による“ブレ”を吸収し、長期運用を安定させることができるのです。

2. 法人内に“再投資原資”を蓄積できる

個人では、利益が出るたびに高い税率で課税され、再投資のスピードが制限されます。しかし法人であれば、「実効税率が低い」「利益を内部留保できる」など、投資原資の成長スピードが個人よりも早くなります。

特に富裕層に適している資産は以下の通りです。

  • 上場株式(国内・海外)
  • 米ドル債券を中心とした外貨建て債券
  • オルタナティブ資産(コモディティ・プライベートエクイティ・暗号資産など)
  • 不動産投資(区分・小規模一棟マンション)

法人に利益を溜めながら、余剰資金を計画的に次の運用へ振り向けていくことで、資産総額が複利的に積み上がっていきます。

3. リスク管理とキャッシュフローが“法人単位”で設計できる

個人管理の運用は、どうしても感情に左右されやすく、また市場の変動がそのまま個人の可処分所得に跳ね返ります。一方、法人化すれば、「投資のタイミング」「配当政策」「内部留保の厚み」「承継後の運用体制」 までを、全て法人単位で統合できます。

これにより、「個人の生活と資産運用を切り離し、長期の視点で運用を継続する」ことが容易になり、結果として資産の増加ペースが安定します。

【事例②】税負担を抑え再投資を加速させた、B氏の資産管理会社活用術

総資産20億円超のB氏(50代)は、海外成長株・PEファンドで年間5億円の利益を得る一方、保有する一棟RCマンションや商業ビルの減価償却・修繕費などで毎年3億円の赤字が出ていました。個人管理ではこの損失を株式の利益と通算できず、年間約1億円の税流出が発生。再投資のスピードが明確に限界に達していました。

そこで主要な投資資産を資産管理会社へ集約し、法人として一体管理する体制へ移行しました。すると、海外株・PEの利益5億円と不動産の損失3億円を同一法人で通算できるようになります。課税所得は実質2億円に圧縮でき、法人税率も個人より低いため、キャッシュアウトは大幅に減少しました。

さらに、税引き後の利益は法人内にほぼ丸ごと内部留保されるため、次のオルタナティブ投資などへの投入が可能となりました。個人時代は毎年4億円前後しか回せなかった再投資原資が、法人化後は5億円に近い水準で継続的に確保できるようになったのです。これにより、資産成長の速度が一段と加速しました。

 

・対策前後の比較(個人管理 vs 法人管理)

項目 対策前(個人管理) 対策後(法人管理)
利益が発生する資産 海外株・PE(5億円) 海外株・PE(5億円)
損失が発生する資産 国内不動産(▲3億円) 国内不動産(▲3億円)
課税対象所得 5億円(損益通算不可) 2億円(利益 − 損失)
税負担 約1億円 法人税で軽減
再投資に回せる資金 約4億円 約5億円に近い水準
資産成長スピード 税流出で頭打ち 内部留保で加速

 

相続対策:次世代への円滑な承継

資産管理会社を活用する大きな目的の一つは、「相続をスムーズにし、不要な争いを防ぐこと」です。特に数億〜数十億円規模の資産を保有する富裕層の場合、遺産分割の手続きが複雑化しやすく、相続税の負担も大きくなります。そこで、資産を「資産管理会社」にまとめることで、次世代への承継が格段にシンプルになります。

1.資産を“会社単位”で承継するメリット

個人名義で複数の資産や預金が分散している場合、相続のたびに評価・分割・名義変更が必要となり、膨大な事務処理が発生します。また不動産の分け方を巡り、兄弟間で意見が対立することも少なくありません。

しかし資産管理会社で一元管理すれば、承継対象は資産そのものではなく会社の株式になります。

  • 不動産の分割で揉めない
  • 名義変更手続きが最小限
  • 評価額の予測がしやすい
  • 後継者(代表者)を明確に決められる

といったメリットが生まれ、争族の発生率は大幅に下がります。

2.会社として資産を管理することで、資産運用が継続しやすい

資産管理会社は、次世代が資産を引き継いだあとも「会社」として運用が続くため、資産の管理が途切れません。

  • 定期的な決算・会計管理が継続
  • 専門家(税理士・アドバイザー)とのやり取りも継続
  • 投資方針が会社として引き継がれる
  • 必要に応じて役員構成を調整し、家族全体で運営できる

個人が突然資産運用を引き継ぐより、会社の枠組みで引き継ぐ方が、次世代の心理的ハードルも圧倒的に低いという特徴があります。

3.生前に“承継の設計図”を描ける「1子1社承継」という選択肢

資産管理会社を持つ最大の強みの一つは、オーナー自身が“承継の設計図”を生前に描けることです。特に富裕層では、“公平性”と“資産運用の継続性”の両立が課題となりやすく、資産管理会社はその解決策になります。

一般的には、一つの資産管理会社の株式を子どもたちで分け合う形が知られていますが、よりしっかりと分離管理を行いたい家庭では、「1子1社承継(子どもごとに独立した資産管理会社を設計する方式)」という選択肢が現実的かつ有効です。

1子1社承継を選ぶメリット

  • 兄弟間で資産管理方針が違っても問題にならない
    → 各人が自分の会社で判断できるため、運用方針やリスク許容度の違いで揉めにくい。
  • 資産を“完全に分離”して承継できる
    → 特定資産をA社、別の資産をB社に分け、子ごとに専属で承継させられる。
  • 家族が複数事業を持つのと同じように運用できる
    → 次世代がそれぞれ自立して資産管理を行える構造になる。
  • 意思決定がシンプルになり、承継後の混乱が少ない
    → 役員構成や議決権調整を細かくデザインする必要がなくなる。

資産管理会社という仕組みを活用することで、オーナーは生前に「誰に何をどう承継させるか」を自由にデザインできるようになります。

【事例③】10億円の売却資金を“1子1社承継”で分離し、次世代の負担を最小化したケース

会社売却により10億円の現金資産を得たD氏(63歳)には2人の子ども(長女・長男)がいますが、「性格」「金融リテラシー」「投資スタイル」「将来のライフプラン」が大きく異なり、「同じ会社を共同で承継させると、将来の運用方針で対立するのではないか」という懸念を抱いていました。

そこでD氏は、資産管理会社を2社設立し、いわゆる「1子1社承継」を採用しました。

・承継スキームの流れ

  1. 売却資金10億円のうち、5億円ずつを2つの資産管理会社へ貸し付け
  2. A社(長女用)・B社(長男用)として、それぞれ投資方針に合わせて資産を運用
  3. D氏の生前に各社の株式を贈与し、承継を完了

この結果、兄妹間での運用方針の違いによる摩擦をゼロにしつつ、承継後の管理負担も最小化できました。

・1子1社承継の具体像(簡易表)

項目 A社(長女用) B社(長男用)
初期資金 5億円 5億円
投資スタイル 安定運用中心(米ドル債券・

国内REIT・優良不動産)

成長型(米国株・上場株式・PE)
役員構成 長女を代表取締役に 長男を代表取締役に
運用方針 インカム重視・長期保有 成長期待重視・売買も許容
承継後の意思決定 長女が単独で行える 長男が単独で行える
将来のリスク 兄妹で運用方針が衝突する

リスクなし

同上

・D氏が感じたメリット

  • 兄妹間で“共同運用”による軋轢を避けられた
    → 性格の違いによる将来の相続争いの火種を生前に解消。
  • 承継後の管理が極めてスムーズ
    → 株式を渡すだけで、各社がそのまま運用を継続。
  • 家族全体の資産を長期安定的に維持できる構造を確保
    → 一族の資産が複数の会社に分散され、リスク分散にも寄与。
  • 子どもが“自分の会社”として高い主体性を持てる
    → 資産管理への取り組みが積極的になった。

まとめ

資産管理会社は、富裕層が節税・資産運用・相続対策を効率化するための中核スキームです。所得分散による節税、法人を使った投資の高度化、事業と個人資産の分離によるリスク管理、さらに将来の承継設計まで、一つの仕組みで包括的に実現できます。

資産規模が大きいほどメリットが積み上がりやすいため、早期設立が長期的な税負担の圧縮と資産形成に直結します。当社では、富裕層の実例に基づき、節税・資産運用・相続対策をワンストップで最適化する資産管理会社スキームをご提案しています。

「自分の資産規模で、どれだけ効果が出るのか知りたい」

「資産管理会社を作るタイミングや設計をプロに相談したい」

という方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者14万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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