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アクティビストとは
アクティビストとは、さまざまな手法を駆使して株価を上げたり、経営陣に「物言う株主」として事業提案をしたりして、最終的に売り抜ける投資家を指します。
企業の弱いところを突いてくるので、経営陣にとっては煙たい存在で、単なる「グリーンメーラー」との批判もあります。グリーンメーラーとは、経営に参加する意思がないのに経営陣に揺さぶりをかけ、割安な価格で取得した株式を高値で買い取らせ、「利ざや」を稼ぐ業者のことです。しかし、業界再編のきっかけをつくるなど、金融システムの正の機能も果たしています。
日本で有名なアクティビスト
サードポイント(米)
もっとも活動的なアクティビストファンドとして知られるのが、ダニエル・ローブ氏が率いるサードポイントです。2013年には米ヤフーCEOを辞任に追い込み案件を成約させ、約6億ドルの利益を得ました。
サードポイントは2011年ごろからヤフーの」株式を取得し、大株主になりました。2013年5月にヤフーのスコット・トンプソンCEOを辞任させると、ローブ氏ら3人を取締役として送り込み、経営に対する影響力を大きくしました。
ヤフーとしてはサードポイントの影響力を排除したいので、業績が回復した2013年7月にサードポイントから株式を買い戻したのです。サードポイントはヤフー株を割安な時に買い増しし、企業価値を高めたうえで株式を高値で売却。差額の約6億ドルが利益になったのです。
日本でも時価総額の大きなセブン&アイ・ホールディングスやIHIなどに投資しています。
旧村上ファンド(日本・シンガポール)
日本のアクティビストファンドの代表格は、旧村上ファンドです。「村上ファンド」の主催者・村上世彰氏は、通商産業省(現・経済産業省)の出身。通産省を退官して投資ファンドを設立しました。
村上ファンドが最初に注目されたのは、不動産事業の昭栄に対する敵対的TOBでした。また、ライブドア対フジテレビ、楽天対TBSなどの攻防戦でも大きな存在感を示しました。現在も村上世彰と絢親子が率いるC&Iホールディングス、レノなどの旧村上ファンドグループは、対象企業への執念深さで企業に恐れられています。
また、旧村上ファンド幹部の高坂卓志氏ら3人が2006年にシンガポールで立ち上げた「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」は、日本株の推定運用額が1兆円を超え、日本株を対象としたアクティビストファンドでは最大規模を誇ります。
取締役選任議案の判断基準に、TSR( 株主総利回り)を採用。川崎汽船に社外取締役を送り込むなどの活動をしています。
エリオットマネジメント(米)
エリオットマネジメントは、弁護士のポールシンガー氏が1977年にニューヨークで設立。日本株内の運用資産額は1,400億円に過ぎませんが、グローバルでは4兆円超を運用する世界最大のアクティビストファンドです。日本で株主提案を行ったことはなく、TOB提案に介入して高値で売り抜けるケースが多くなっています。
アクティビストは「利ざや」の獲得が目的
アクティビストファンドは企業の株式を取得しますが、経営権を握ることが目的ではありません。せいぜい数パーセントから20%程度の株式を取得し、株主の権利を活用して配当金を増額させたり、企業価値の向上を通じて株価上昇につなげたりするなど、あくまで「利ざや」の獲得を目的としているのです。
アクティビストファンドはヘッジファンドの一種なので、投資家の期待利回りは相当に高いものです。年20%の利回りを達成するために、グリーンメーラーめいた行動にでるアクティビストファンドも少なくありません。
株価低迷の責任追及や役員報酬への反対、株主総会の委任状の争奪戦(プロキシーファイト)など、さまざまな手口で株主やマスコミへ働きかけ、経営陣に圧力をかけることで株価の吊り上げを図っているのです。
アクティビストと機関投資家
以前は、機関投資家がアクティビストの意見に耳を貸すことはありませんでした。しかし最近は、アクティビストと機関投資家が共同戦線を張る「集団的エンゲージメント」と呼ばれる手法を取ることが増えています。
この背景には、日本版スチュワードシップ・コードである「責任ある機関投資家の諸原則」があります。スチュワードシップ・コードとは、「受託者責任を果たすための原則」。つまり、投資先企業の成長や向上を促すことにより、顧客(投資家)の中長期的なリターンの拡大を図る責任が、機関投資家にはあるという原則なのです。
機関投資家は、金融庁からスチュワードシップを強く求められているので、アクティビストを利用してでも企業にプレッシャーをかけるようになってきているのです。
まとめ
2019年の株主総会では、株主提案を受けた企業が過去最多の65社になりました。株主提案増加の背景にはアクティビストがあります。株主提案以外でもアクティビストは経営陣と水面下で接触し、取締役の受け入れなどの要求を実現させています。
今後は日本でも企業価値重視の潮流が強まり、企業はガバナンス(企業統治)や資本コストを意識した経営が求められているのです。