はじめに
株式投資における醍醐味の一つは「お宝銘柄の発掘」です。お宝銘柄とは、会社が良くなっている或いはこれから大きく変化するにもかかわらず、安値に放置されている銘柄を購入して、大きなリターン(投資収益)を上げることです。なかでも、テンバガー銘柄の発掘は株式投資家にとってまさに投資の醍醐味といえるでしょう。
テンバガー銘柄とは
テンバガー銘柄とは、株価が10倍に値上がりした銘柄のことを言います。そもそも、バガーとは野球用語で塁打を意味しており、一試合で10塁打(テンバガー)を記録するほどの勢いで株価が急騰し、10倍まで跳ね上がるというイメージからきています。
野球の場合、本塁打(四塁打)、三塁打、二塁打、シングルヒット(一塁打)を合計すると10塁打となりますが、これを一試合で全て達成することを「サイクルヒット」と言います。サイクルヒットは、ピッチャーのノーヒットノーランと同じくらい難しく、日本のプロ野球100年余の歴史のなかで76回しか達成されていません。
ここでは、サイクルヒット並みに難しいといわれる、テンバガー銘柄について考えてみましょう。
株式時価総額の推移
東京証券取引所の資料によると、継続的に上場している企業を対象に2012年6月から2022年6月末までの時価総額(株価に発行済株式数を乗じたもの)の動きをみると、時価総額が増えた企業は全体の86%に当たる2,474社、減った企業は14%に当たる402社となりました。確率的には、100社のうち86社が10年間保有していれば時価総額が増えた、すなわち投資収益がプラスになったことを示しています。
時価総額が増えた企業の増加率をみると、10倍以上が118社(対象会社の4%)、5倍以上10倍未満が253社(同9%)、3倍以上5倍未満が468社(同16%)、2倍以上3倍未満が616社(同21%)、1倍以上2倍未満が1,019社(同35%)となりました。7%の利回りで複利運用すれば、10年で元本が倍になると言われていますので、上場企業の51%に当たる1,455社の時価総額が10年で倍以上となったことは注目に値すると思われます。
株式投資は儲からないもの、危険なものといった見方が少しは変わるかもしれません。
上昇率トップはレーザーテック
個別銘柄の動きをみると、現在の時価総額が1,000億円以上で、過去10年間で時価総額が10倍以上となった企業は44社あります(2022年6月末時点)。
トップは、レーザーテックの88倍であり、2012年の時価総額174億円に対して、2022年には1兆5,053億円となっています。同社は半導体関連装置などの開発・製造・販売・サービスを手掛ける会社であり、営業利益は2012/6期の31億円から2022/6期には324億円と10倍強に成長しました。営業利益の伸びよりも株式時価総額が大きく増加したのは、同社の技術開発力、国際競争力といった点が大きく評価されたからにほかなりません。
レーザーテックの時価総額は、過去10年間でおよそ88倍に増加しましたので、仮に2012年6月に100万円投資したとすると、2022年6月には8,800万円に膨れ上がった計算となります(税金、手数料等は考慮せず)。
意外な銘柄もテンバガー銘柄
テンバガー銘柄といえば、半導体関連、IT関連、情報通信、サービス業といった業界に属する企業が多いことが特徴となっていますが、意外な業界からも名を連ねています。卸売業に属する「神戸物産」は10年間で時価総額が50倍に膨れ上がりました。
また、不動産会社のヒューリックも同期間で時価総額が44倍に膨れ上がりました。神戸物産の主力は業務用スーパー事業ですが、自社工場を活用した豊富な品揃えと低価格戦略が消費者に支持されて大きく業績を伸ばしてきました。
また、ヒューリックは他の大手不動産会社のような大型再開発に関与するのではなく、好立地な都心中規模物件を中心に展開し、業界屈指の高成長を遂げてきました。何れも他社との差別化戦略が奏功した結果が、時価総額増大に結び付いた格好です。
テンバガー銘柄発掘のために
それでは、どうしたらテンバガー銘柄を発掘することが出来るのでしょうか。テンバガー銘柄に概ね共通しているのは、「時価総額が小さい」、「テーマ性がある」、「中期的に業績が大きく伸びそうなこと」といった3点となります。
テーマを見つけるには、日頃からいろいろなことにアンテナを張っておくことが大切です。そして何よりも大切なことは、世の中の常識、コンセンサスを疑ってかかることです。前述の神戸物産にしても業務用スーパーは、飲食店向けという常識にとらわれていたら銘柄発掘はできなかったでしょう。業務用食材は美味しい、自宅で調理して食べられる、外食よりはるかに安くて家計が助かるという特徴があります。このことに人々は余り気付いていないという発想が銘柄発掘のポイントとなります。
(2022年10月18日記)
2000年国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)入社。企業・産業調査に従事し、機関投資家アナリストランキングの日本株建設部門で、日経ヴェリタスで10回、米系金融専門誌で11回第1位となる。2019年よりコンサルタントとして、講演活動、執筆活動などに従事している。