はじめに
金融市場において最も関心の高い市場は株式市場ではないでしょうか。勿論、債券市場や為替市場も大切な金融市場ですが、企業業績、マクロ経済、政治や社会情勢の動きに対して日々敏感に反応するのは株式市場であるといって良いのかもしれません。ここでは、我が国の株式市場を中心に話を展開しています。
株式市場のいろは
株式市場は世界中で繋がっています。我が国の株式市場では委託注文のうち約7割が海外投資家によって占められています。すなわち、日々の株式取引のうち7割が海外投資家によるものであり、国内投資家(機関投資家、個人投資家)の占める割合は3割程度にとどまっているのです。したがって、株式市場は国内投資家ではなく、海外投資家(グローバル投資家)の視点で評価されているといえます。このことは、米国、欧州各国ともに同じような状況となっています。さすがに、米国株式市場における売買の主役は米国国内の投資家のようですが、アジアや欧州各国の資金も潤沢に流入しています。株式市場において、世界は繋がっているので一国だけが別の動きをするという状況はほとんどなくなってきています。
株価は何によって動いているのか
それでは、株式市場は何によって動いているのでしょうか。株価の基本は企業業績、株主還元、(当該企業、当該業界の)将来性の3点となります。ある会社の業績が順調に推移していても、株主還元(配当、自社株取得等)をほとんどやらずに、将来性に乏しいと評価されていたら株価は上がりません。将来性というのは、自社だけの努力で解決できないこともあります。例えば、幼児向け商品を展開している会社にいくら競争力があったとしても、国内の少子化が進んでいる状況で将来性をプラス評価することは難しくなってきます。そこで、この会社は、海外市場に進出したり、高齢者向け商品を開発したりして、「将来性があること」をアピールするわけです。業績が良くて、株主還元を積極的に行って、将来性のある企業こそが株価評価を上げるポイントとなるわけです。
マクロ環境にも注意が必要
とはいえ、株価は企業評価だけで決まるものではありません。マクロ要因、需給要因、政治要因なども株式市場に大きな影響を与えます。株式市場は、将来に対する現在価値という考え方が基本ですので、たとえ今が良くても、将来が悪くなると見られれば下落に向かうわけです。例えば、物価が上がれば、金利上昇→景気悪化→企業収益低迷→失業率の増大→不況突入、といったシナリオで株価は下がってしまいます。戦争が始まれば、当該国の勝敗は勿論ですが、戦争による世界経済全体への影響を予測して株価は動くことになります。選挙で与党が大敗すれば、政治の不安定化を嫌気して株価は下がるもしれません。こうした様々な要因が瞬時に織り込まれるのが株式市場ということになるわけです。
今後の株式市場の見方
さて、それでは、今後の我が国の株式市場はどのように動くのでしょうか。第一に、世界経済がどう動くかが重要です。IMFなどの予測によると、2023年の世界経済の回復はインフレ環境で足踏みするとの見方が多くなっています。第二に、企業業績の動向にも注視しなければなりません。企業業績は業種や企業によって異なりますが、基本的にはインフレ要因により売上高、利益回復にブレーキが掛かるとみられます。そして第三に、国際情勢の行方です。国際情勢で最大の関心事は、ロシアによるウクライナ侵攻の動向です。和平が成立すれば株式市場はポジティブに反応しますが、戦争が長期化したり、他国が参戦したりする事態となれば、株価はネガティブに反応するでしょう。また、株式需給という点では、我が国の1,100兆円に及ぶとされる個人が保有する現預金がどの程度株式投資に向かうかも大切な視点です。
上昇相場は終焉か再開か?
コロナ禍初期の2020年3月に始まった上昇相場も、2022年に入ると調整局面が続いています。一定水準にまで下落すると反発していますが、どちらかというと不安定な展開が続いている印象があります。果たして上昇相場は終焉したのでしょうか、或いは上昇相場が再開するのでしょうか。年内は厳しいかもしれませんが、年明けには上昇相場が再開するとみられます。その理由は、企業がインフレ環境に対応した経営体質へと変化し、コスト増大の販売価格への転嫁、賃上げの実現に向かうことが予想されるからです。もっとも、販売価格転嫁への転嫁や賃金引上げが難しい会社については、引き続き株価停滞が続く可能性が高いと思われます。何れにせよ、2023年は一段と個別企業に対する選別色の強い相場になるのではないでしょうか。
(2022年10月7日記)
2000年国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)入社。企業・産業調査に従事し、機関投資家アナリストランキングの日本株建設部門で、日経ヴェリタスで10回、米系金融専門誌で11回第1位となる。2019年よりコンサルタントとして、講演活動、執筆活動などに従事している。