CVCが買収提案
英国の投資ファンドであるCVCキャピタル・パートナーズが、東芝に買収提案をしていることが4月7日に報じられました。7月をメドにTOBを行い、TOB価格は約2兆3,000億円。TOBが成立したら東芝は非上場企業になるという内容でした。
CVCが東芝に対して買収を仕掛けたのは、東芝がアクティビスト(物言う株主)と対立しており、経営に深刻な影響を与えているからです。TOBが成立して非上場となれば、東芝とアクティビストの対立は解消されて経営スピードが高まり、企業価値も上がるとCVCは考えていたのです。
ただ、14日に東芝の社長が交代したことを受け、CVCは詳しい買収案を提示することはしばらく保留することになりました。今後は他のファンドが新たな買収案をだす可能性もあり、情勢は混沌としてきています。
アクティビストが東芝株の3割を保有
東芝の筆頭株主はエフィッシモ、2位は3Dインベストメント、3位はファラロンで、いずれもアクティビストです(2021年4月時点)。QUICK・ファクトセットの調べによると、東芝の上位10株主のうち6株主をアクティビストが占め、アクティビストの保有割合は3割強にも達します。
昨年の株主総会では、アクティビストは車谷社長の退任や自ら選んだ取締役の選任を求めました。これらの株主提案は否決されましたが、車谷社長の再任への賛成は57%とギリギリの勝利となりました。
さらに今年の3月には臨時株主総会が開催され、アクティビストの株主提案が可決されるなど、東芝経営陣とアクティビストの対立は続いていたのです。
東芝の増資を引き受けたアクティビスト
アクティビストの存在感がここまで高まったのはどうしてでしょうか。それは、東芝が2017年に増資を行ったからです。不正会計で自己資本が大きく減った東芝は、2017年12月に約6,000億円の第三者割当増資を行いました。そして、その多くを引き受けたのが海外のヘッジファンドやアクティビストだったのです。
東芝の外国人保有比率は、2017年3月末の38%から2019年3月末に70%に上昇。アクティビストの比率も3割まで高まりました。つまり、東芝はヘッジファンドやアクティビストなど外国人投資家の意見を尊重しなくてはならなくなったのです。
東芝の経営陣は、外国人投資家の意向を重視しなくてはいけません、国内機関投資家からは株主還元よりも本業に力を入れるべきだとの声が多いものの、東芝は増資後に自社株買いを行うなど株主還元策を強化しました。
車谷氏の辞任
CVCキャピタル・パートナーズは、4月14日に東芝の買収をいったん保留としました。車谷社長兼最高経営責任者(CEO)が辞任したからです。車谷氏は三井住友フィナンシャルグループの副社長を務めた後、CVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長兼共同経営者をしていました。
車谷氏は銀行出身なので東芝の本業の理解が不十分だとの意見もありましたが、PE(プライベート・エクイティ)ファンド出身者らしく、外国人投資家との意見交換も行っていました。しかし、アクティビストへの対応が難航していた上、社内からは経営改革への不満が高まっていたのです。
そして、CVCキャピタル・パートナーズと関係が深い車谷氏が今回の買収案を描いたのではないかとの観測も広がっており、突然の辞任という形になったのです。
3月の臨時株主総会
東芝はアクティビストとの対立が深まっていました。きっかけは、日本政府の介入観測です。外国人投資家の株主比率が70%を超えた東芝ですが、原発や防衛技術にも関わり、政府にとって安全保障上重要な企業となっています。
そして、2020年5月に外国人投資家の出資を監視する「改正外為法」が施行されました。アクティビストへの投資をけん制できるような仕組みとなっており、車谷氏など東芝関係者が政府に働きかけて実現したとの見方もあります。
そして、2020年の株主総会の直前に株主である米ハーバード大学の資産運用ファンドに対して、アクティビストの提案に賛成すれば「改正外為法の調査対象になり得る」との圧力がかかったとの報道がありました。
これに反発したアクティビストのエフィッシモ・キャピタル・マネジメントは、2020年の株主総会の議決権行使について調査を求めたのです。
エフィッシモ・キャピタル・マネジメントの提案は、今年3月18日の臨時株主総会において賛成多数で可決。6月の株主総会に向けて調査が進んでいました。
今回、CVCキャピタル・パートナーズは買収提案を中断しましたが、今後、他のアクティビストやPEファンドなどから買収提案がでてくる可能性があります。東芝の今後については、予断を許さない状況になっているといえるでしょう。