はじめに
どんな相場環境でも利益を目指す「ヘッジファンド」は、近年マーケットでの存在感を高めています。
しかし、必ずしも利益を上げ続けているファンドばかりではありませんし、S&P500などインデックスにパフォーマンスが劣るファンドもあります。
この記事ではヘッジファンドの仕組みと最近のパフォーマンスについて解説します。
ヘッジファンドとは
ヘッジファンドとは、さまざまな投資手法を駆使して、マーケットが上がっても下がっても利益を狙うファンドです。ヘッジ(hedge)というのは「避ける」という意味で、リスクをコントロールして投資家の資金を守るという意味です。ただ、最近はリスクを取って収益を狙うヘッジファンドも増えています。
日興リサーチセンターの調べによると、2020年10月末時点の運用残高は2兆1,362億ドル(約224兆円)。
規模の小さいファンドでは500万ドル程度ですが、大きいモノでは5億ドルを超えるファンドもあります。
ヘッジファンドは大きな資金を運用しているので、マーケットでの存在感も大きくなっているのです。
ヘッジファンドと投資信託の違い
ヘッジファンドと通常の投資信託(公募投信)の違いについて解説します。
投資家の対象が違う
普通の投資信託は、広く一般の投資家から資金を募集します。しかし、ヘッジファンドは私募投信なので、機関投資家や富裕層など一部の人のみが出資して運用するファンドがほとんどです。
そして、普通の投資信託はネット証券を利用すれば100円から購入できますが、ヘッジファンドの最低投資金額は1億円など高額であるファンドが多くなっています。
収益目標の違い
投資信託は「ベンチマーク」を上回ることを目標として運用します。ベンチマークとは、投資信託が運用の目標として用いる基準で、日本株ならTOPIX(東証株価指数)や日経平均株価などがベンチマークになります。
投資信託ではベンチマークを上回れば、運用成績がマイナスでも評価されるのです。このような運用手法を「相対収益」の手法といいます。
一方のヘッジファンドは、相場がどのような環境になってもプラスの収益を目指します。これを「絶対収益」といいます。
ヘッジファンドでもっとも多い投資手法は、株式の「買い(ロング)」と「売り(ショート)」を組み合わせる「株式ロング・ショート」です。株式市場が下落局面になっても、売り(ショート)で利益を狙えるので、どんな相場環境になっても利益を狙える戦略なのです。
また、最近ではCTA(商品投資顧問)と呼ばれるヘッジファンドも、マーケットでの存在感を高めています。CTAとは、世界中の先物市場を投資対象としたヘッジファンド。株式や通貨、債券といった金融先物だけでなく、原油や金、小麦などの商品先物まで幅広く分散投資します。
先物は買いだけでなく売りからも取引できるので、CTAもどんなマーケット環境でも利益を狙いにいくヘッジファンドです。
株高に乗れないヘッジファンド
「絶対収益」を狙うヘッジファンドですが、必ずしも利益を上げ続けているファンドばかりではありません。パフォーマンスは運用担当者の能力によるので、ベンチマークに負けていたり、マイナスの収益をだしたりしているヘッジファンドもあるのです。
また、株式市場が一本調子で上昇している場合などは、多くのファンドが株価指数などのインデックスよりも運用成績が劣ります。2020年3月は、新型コロナウイルスの感染拡大で株式市場は大きく下がりましたが、その後は反発し、NYダウやナスダック総合株価指数など米国の株価指数は11月に過去最高値を更新。日経平均株価も29年ぶりの高値を更新しました。
年初から11月24日までの上昇率は、日経平均株価で10.6%のプラス。ハイテク株比率の高い米国のナスダック総合株価指数は34.2%も上昇しています。
一方の、ヘッジファンドの主力戦略である「株式ロング・ショート」はプラス0.6%、CTAはプラス1.3%にすぎません。プラスの収益をだしてはいるものの、指数に大きく負けている状況なのです。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、各国が大規模な財政支出をおこない、また中央銀行も過去にない規模の金融緩和をしています。あふれたマネーが株式などのリスク資産に向かい、ヘッジを果たす役割の「売り」が足を引っ張っています。つまり、買いと売りを組み合わせるヘッジ戦略が、裏目にでている状況なのです。
新しい投資家の誕生も原因か
米国では、ロビンフッターと呼ばれる新しい投資家が誕生しています。ロビンフッターとは、米国のロビンフッド証券が提供するアプリで売買をおこなう個人投資家のこと。新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅にいる若者を中心に急速に取引が増加しており、2020年第1四半期(1~3月期)だけで、ロビンフッド証券には約300万の口座開設があったといわれています。
ロビンフットは手数料が無料で、若い世代の個人投資家は高頻度の短期売買を繰り返しており、それがファンダメンタルを無視した相場の異常値を生む要因となっています。CTAなどのヘッジファンドはコンピューターで過去の企業業績と景気と株価の相関を分析していますが、これまでのデータを無視して株価が上昇するため、過去のようなリターンを積み上げられなくなってしまったのです。
まとめ
ヘッジファンドは、売りと買いを組み合わせる「株式ロング・ショート戦略」など、どんな相場環境でも利益を狙うファンドです。しかし、現在のように一本調子で株価が上昇する局面では、ヘッジの売りが運用成績の悪化を招き、主要株価指数よりパフォーマンスが劣るファンドが多くなっています。
そこで、ヘッジファンドは運用成績を上げるため、リスクの高い資産の持ち高を増やしています。今後の相場の波乱要因にならないかどうか、注意が必要です。