2020
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最終更新日:2020/11/12

はじめに

富裕層への課税強化の流れが続いています。
2018年の税制改正で決定した所得税の「基礎控除の引き上げ」と「給与所得控除の引き下げ」で2020年1月から実施され、高額所得者には増税となりました。

具体的には、所得税の控除のベースとなる所得や扶養者の有無に関わらず一律に適用されていた38万円の基礎控除が48万円に引き上げられる一方、合計所得金額が2400万円超の高額所得者には、段階的に引き下げられました。合計所得が2500万円を超えると基礎控除がゼロ円となります。

サラリーマンなどの給与所得者の経費をみなし控除する「給与所得控除」も引き下げられ
ました。これまでは給与などの収入金額が1000万円を超える場合の給与所得控除額の上限は、220万円だったところ、195万円に引き下げられたため、
年収850万円を超える給与所得者にとっては増税となってしまいました。

海外不動産の節税対策に制限

富裕層の節税策にも対策が講じられています。これまで富裕層に活用されていた海外での不動産を使った節税策が2021年から一部制限される見込みです。

不動産所得の赤字は、他の給与所得などと損益通算が出来ます。これを活用して海外の中古の不動産を購入し、経年劣化に伴う減価償却費を赤字として計上して他の所得の圧縮に使うというものです。

ポイントは海外の不動産は、減価償却の発生する建物部分の評価額の割合が日本に比べて高いこと、中古不動産の売買が活発なので資産価値の下落の割合が少ないことです。
また、取得から5年を経過した不動産を売却した利益(キャピタルゲイン)は、長期譲渡所得の区分になるため税率が20%に軽減されることもメリットの1つでしたが、2021年からは節税策に制限がかかるようです。

バイデン氏は課税を強化

このような富裕層への課税強化の流れは日本だけではなくむしろ海外でも強化されつつあります。米国の民主党のバイデン大統領候補は格差の是正を政策の柱として掲げています。

具体的に富裕層に対しての課税強化をスローガンとしており、税制改革案としては個人所得税の最高税率を37%から39.6%に引き上げ、キャピタルゲイン課税の最高税率を2倍にするプランなどを掲げています。

これは、近年の世界的な株高の中で米国の富裕層の株式保有額が全体の増加分の大部分を占めており、格差の拡大への風当たりが強くなっていることも背景となっています。

このような流れの中で資産価値の防衛のためにはどのように対応するのが有効でしょうか? ひとつには、既存の節税策の見直しによる有効活用も大切でしょう。
年間の医療費が10万円を超えた部分の金額を控除できる医療費控除、給与所得者の特定支出控除など控除出来る経費に見落としがないか、再度チェックしてみましょう。

既存の節税策の見直しをしてみる

(1)医療費控除

医療費控除は、年間の一定額※以上の医療費の支払いがあった場合に、一定額を差し引いた金額を所得から控除出来る制度です。※一定額は、所得200万円以上の場合は 10万円。所得200万円未満の場合は総所得金額の5%となります。

治療にかかった治療費や薬代のほか、電車やバスなどの交通費、差額ベッド代といった関連費用も控除の対象になります。また、本人の支払った医療費だけでなく、生計を一にする配偶者や親族の支払った医療費も対象とすることが出来ます。

社会保険料控除の区分となりますが、国民健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料も控除の対象ですので、家族の社会保険料の支払いを収入が多く、税率の高い方の控除に含めることにより節税効果を高めることが出来ます。

(2)ふるさと納税

ふるさと納税も高額所得者にとっては非常に有利な制度です。ふるさと納税は任意の自治体に寄付をすることにより寄附金控除として所得税や住民税が減額される制度です。そのため納税額が高い方ほど控除される金額の上限が高くなります。寄付した金額(上限内で)から2000円を引いた金額が翌年の所得税や住民税から控除されます。返礼品の還元率も以前よりは低めに抑えられる傾向にありますが、まだまだ各自治体がバラエティ豊かな返礼品を取り揃えています。

(3)資産運用で節税

資産運用で投資をされている方であれば、法人格の利用もおすすめとなります。以前に比べて個人で資産運用会社の設立がかんたんに出来るようになったこともあり、ハードルが低くなりました。

法人口座による投資のメリットは、株・FX・事業・不動産の所得などの損益通算が出来ることです。また、投資に関する書籍の購入やセミナー参加費用など経費として申告出来る幅が広がります。投資の損失が出てしまった場合の繰越も最大7年間までと個人より長い期間の繰越が出来るようになります。

最後に

いかがでしょうか? 富裕層と税金を取り巻く環境についてご案内しました。ご案内のとおり、富裕層に対する課税を基本的に強化しようとする流れは今後も継続しそうです。

そのような中、節税に関する解釈なども毎年少しずつ変わる傾向にありますので情報収集が大切になります。WEBサイトには多くの情報が掲載されていますが、玉石混交であることも多いので専門家からの助言なども活用して、資産防衛に備えたいところです。

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者14万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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