はじめに
2020年になり、新型コロナウイルスの感染拡大は世界各国の市場を揺るがしました。世界各地で人々の流れが制限され、商品やサービスなどの経済活動が停止したからです。
世界経済の損失額は100兆円を超えるとの予想も出ており、世界各国が景気後退に陥るリスクが高まっています。堅調な個人消費を背景に、2020年2月に過去最高値を更新した米国株式市場も、3月にかけてリーマンショックに匹敵するほどの下落となりました。
歴史的な下落となった米国株式市場
米国の代表的な株価指数であるNYダウは、2月12日の高値29,568.57ドルから3月23日の安値18,213.65ドルまで38.5%も下落となったのです。多くの機関投資家が参考にするS&P500指数も、2月19日の高値3,393.52から3月23日の安値2,191.86まで35.5%下落しました。
S&P500指数の過去12回の景気後退局面における下落率の中央値は32%。今回のコロナショックによる下落率とおおむね一致しています。
歴史的恐慌でも米国の株価は上昇
4月になっても、欧米で新型コロナウイルスの感染拡大が広がり、死者も増え続けました。しかし、NYダウは月間で11.08%上昇し、33年ぶりの月間上昇率となりました。
4月の1カ月間の値上がり幅は2,428ドルに達し、1987年以来の急騰率となったのです。米国経済は、新型コロナウイルスの感染拡大で世界恐慌以来ともいわれる不況に陥っています。カジュアル服の「Jクルー」、レンタカーの「ハーツ」、そして「JC ペニー」といった有名企業が、債務返済に行き詰まり連邦破産の申請をしているのです。
5月8日の金曜日にアメリカの雇用統計が発表され、失業率は14.7%に達しました。これは、2009年10月のリーマンショック後の10.0%や、1982年12月の10.8%を超え、第二次世界対戦後最高の水準となったのです。
1930年代の大恐慌時は、現在と統計の定義が異なるので単純に比較はできませんが、失業率はピークで25%程度だったとされています。今回の失業率はそれには及びませんが、かなりの高水準だといえるでしょう。
また、米議会予算局は、4~6月期の米国経済成長率が、マイナス40%(年率)まで落ち込むと予想しています。
それなのに、なぜ株価は大きくリバウンドしているのでしょうか。
ナスダック総合指数の戻りが顕著
米国株式市場が戻した要因は、主に次の4つがあります。
米国政府による3兆ドル(約320兆円)規模の経済対策
FRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和策
経済再開の動き
ワクチン開発
とくに経済再開の動きに注目が集まっています。4月は、米南部のジョージアやテキサスなど一部の州で小売業を含めて営業再開に動き出しました。百貨店大手のメイシーズも、4月30日に6週間以内に全店を順次再開させると明らかにし、製造業でも航空機ボーイングが工場を再稼働させています。
5月になると、全米50州で新型コロナウイルスの感染抑制のために導入した行動制限を一部緩和し、経済活動を部分的に再開しました。
米国株は5月になっても堅調で、主要3指数(NYダウ・S&P500指数・ナスダック総合指数)は、コロナショックによる下落の61.8%戻しを達成しています。
とくに戻りが顕著なのが、ナスダック総合指数です。2020年2月につけた史上最高値9,838.37ポイントに迫る勢いです。
ナスダック総合指数の戻りをけん引しているのが、GAFAM(ガーファム)と呼ばれる巨大IT企業で、アルファベット(グーグル)・アップル・フェイスブック・アマゾン・ドット・コム・マイクロソフトの5社です。
フェイスブックやアマゾン・ドット・コムは史上最高値を更新し、アップルやマイクロソフトも史上最高値圏にあります。5社の5月19日時点の時価総額は約5.5兆ドル(約590兆円)で、日本の東証一部(約2,200銘柄)の約570兆円を上回っています。
これらの企業もコロナショックにより下落しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークやインターネット通販の普及により、収益機会が増すとの見方が支援材料になっているのです。
米国株式市場は今後も上昇が続くのか
NYダウは2月の高値から3月の安値まで1万ドルも急落しており、その時点でコロナショックによる恐慌リスクを織り込んでいたとも考えられます。また、航空やクルーズなど大きく売り込まれた銘柄などを買い戻す動きが強まっています。
米国では財政当局とFRB(米連邦準備制度理事会)が一体となり、過去にない規模の経済対策と市場への資金供給を行っています。国を挙げて経済を下支えする動きが株価を下支えしているのです。
しかし、米国での新型コロナウイルスの感染者数は増え続けています。経済再開を急いだ結果、コロナ感染の第2波、第3波が押し寄せ、ふたたび厳しい経済活動停止を強いられるリスクは残っています。
米中関係の悪化懸念などもあり、利益確定の動きで軟調な展開になることも想定されるので、下落リスクにも注意が必要です。