はじめに
少子高齢化が社会問題になり、相続は誰にとっても身近な存在になっています。
民法882条には、「相続は死亡によって開始する」と定められています。
厚生労働省の「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」によると、令和元年の死亡者数は約137万人です。
令和元年だけで、日本国内では約137万件の相続が発生したことになります。
相続対策の必要性が盛んに説かれていますが、必要なのは自分の相続の対策だけではありません。
多くの人が「相続人になる可能性」を秘めています。
自分が相続人になったときの知識も必要ではないでしょうか。
相続のときに知っておきたい知識として、「相続放棄」についてご紹介します。
相続放棄は、相続手続きの際によく勘違いされる手続きです。
相続放棄についての勘違いと、勘違いによってもたらされる深刻な相続トラブルがあります。
相続放棄とは?
相続放棄とは「相続権を放棄すること」です。
相続放棄は裁判所でのみ許される手続きになります。
相続放棄をすると、相続権自体を放棄することになるのです。
相続の対象になるのは預金や不動産、有価証券などのプラス財産だけでなく、借金などのマイナスも対象になります。
相続放棄では相続権自体を放棄するため、預金などのプラスの財産も、借金などのマイナスも、どちらも相続する必要がなくなるのです。
裁判所で相続放棄の手続きをすることによって、「最初から相続人ではなかったこと」になります。
相続放棄は富裕層でもよく使われる手続きです。
たとえば、父親が多くの資産を持っているが、負債も多い。
このようなケースで、相続放棄がよく使われます。
また、父親の相続人が多く、相続人間の仲が悪い。
相続財産をあてにしなくても、資産はある。
相続トラブルに巻き込まれたくない。
このような事情があるケースにおいても、富裕層が相続放棄を選択することがあるのです。
相続放棄の勘違いとは?
相続放棄ではよく勘違いがおきます。
相続放棄の勘違いとは「相続人の話し合いで遺産はいらないと言った。相続放棄したのだ」という勘違いです。
相続が起きると、遺産分割のために相続人の話し合いの場を設けることがあります。
遺産分割の話し合いの場で、相続トラブル回避や遺産を相続人の一人(被相続人の事業を継ぐ長男など)に集中させるために「遺産はいらない」と発言した場合、その一言で相続放棄ができると勘違いしがちです。
「遺産はいらない」と発言したのだから相続放棄である。
このような勘違いをしているケースが少なくないのです。
「遺産はいらない」の一言で相続放棄はできない
相続人同士の遺産分割の話し合いで「遺産はいらない」と主張したからといって相続放棄はできません。
相続人同士の話し合いで「遺産はいらない」と主張することは、相続人同士の話し合いで遺産分割を決める遺産分割協議の一環です。
すでにお話ししたように、相続放棄は裁判所でしかできません。
遺産分割協議は相続人同士の話し合いでできるため、裁判所は関与しないのです。
遺産分割協議で「遺産はいらない」と遺産を放棄すること自体は可能ですが、相続権自体を棄てて最初から相続人ではなかったことにする相続放棄の手続きではありません。
よく相続人の話し合いで「遺産はいらないといった。だから相続放棄だ」と勘違いする相続人がいます。
借金などのマイナスを相続しない。
相続権自体を棄てて、相続トラブルに巻き込まれないようにする。
そのためには、裁判所での手続きを踏む必要があるのです。
他の相続人に「遺産はいらない」「相続は放棄する」などの主張をしただけでは、できません。
まとめ
相続放棄は相続トラブル回避や、負債の相続回避などによく使われています。
相続放棄は相続権を棄てる手続きで、裁判所でしかできません。
相続人間の話し合い(遺産分割協議)で「遺産はいらない」と主張することで相続放棄できる。
相続放棄とは、話し合いのときに「遺産はいらない」と主張することだと勘違いされますが、これらは相続放棄ではありません。
あくまで遺産分割協議です。
相続放棄を勘違いしていると、負債が多いなどの理由で相続放棄したいときに手続きミスする可能性が高くなります。
勘違いせず、適切な手続きを行うことが重要です。