1.はじめに
新興市場国の通貨の多くが、日本円や米ドルなどに対して弱含む状況が長期化しています。その中でも8月に急落したトルコリラは、その後の持ち直しも相俟って新興国通貨のボラティリティの高さを改めて痛感させるものとなりました。
この急落の直接的な要因はトルコで拘束されたアメリカ人牧師の開放をアメリカが要求したこと、大手格付会社2社によるトルコの信用格付けの引下げですが、その2つに限定されないトルコに対する市場の疑心暗鬼が今回の急落を招いた要因のひとつと考えられます。
本コンテンツでは、現在のトルコがどのような状況なのか、そして今後のどのような動きになることが予想されるのか、この2点にフォーカスを当ててみたいと思います。
2.トルコが抱える主な問題点
ここではトルコリラ暴落の要因として考えられる、トルコが抱える問題点を二点ご説明します。
まず一点目は深刻な外貨準備(為替介入や外貨建債務の返済のために当局が保有する外貨)の不足です。
一般的には対外短期債務に対する外貨準備高の比率は最低でも100パーセント程度必要とされていますが、経済成長の鈍さも相俟ってトルコについては僅か70パーセントを超える程度に過ぎません。
エルドアン大統領が国民に手許の外貨や金をトルコリラに替えるように呼びかけたり資本流出規制を導入した事実が、その逼迫した状況を物語っています。
カタールが150億ドルの追加投資をコミットしていますが、国際通貨基金(IMF)の早い支援が必要な状況であることには変わりません。対外債務についてのトルコの高いデフォルトリスクは顕在化しており、トルコリラが弱含む要因のひとつとなっています。
もう一つの問題点は、インフレが止まらないことです。9月のトルコの消費者物価指数(CPI)は前年同月比で約24.5パーセントの上昇、生産者物価指数(PPI)に至っては前年同月比46.2%の上昇と、きわめて高い水準に達しています。
この持続的なインフレが実体経済に与える影響は大きいものと考えられ、かつトルコリラの購買力減少の回避する動きが継続的なトルコリラ安につながっていると考えられます。
3.トルコ当局の政策
トルコ当局は、自国通貨安とインフレについて政策金利の引き上げで対応しようとする姿勢が鮮明です。
トルコ中央銀行は、9月の金融政策決定会合において政策金利を年24パーセント(前回比+6.25パーセント)とし、金融機関向けの緊急貸出に適用する金利である後期流動性貸出金利を27パーセント(前回比+6.25パーセント)に引き上げました。
これを受け一時的にトルコリラは反発しましたが、当然ながら追加の利上げが必要と見られています。一方で、これ以上の利上げは経済状態を更に悪化させる可能性が高まること、エルドアン大統領は金融引き締め策に否定的なため、今後もトルコ中央銀行が利上げを続けるか注目されます。
4.今後のトルコリラの動きは?
10月12日、トルコの裁判所は拘留されていたアメリカ人牧師の解放を決定しました。8月に生じた急落要因の一つが解決したことになります。これを受け先進国通貨に対するトルコリラの値動きは回復基調を見せていますが、先述のようにトルコ経済はインフレ対応、外貨建対外債務の返済、経済成長率の鈍化懸念など問題が山積みです。
また、アメリカ人牧師の解放が直ちにアメリカとの関係改善につながるとは期待できず、トルコのハルク銀行が行ったとされるイラン制裁違反の捜査が中止になるとは限りません。
以上を考慮すると、何も好材料が無い中でトルコリラはボックス圏内の動きに移行すると考えられます。しかし、一度ネガティブな話が出た際のダウンサイドリスクは、8月時点と同じかそれ以上のものとなるでしょう。
5.まとめ
チャートやボラティリティの高さを見ると、トルコリラはビッドする妙味があるように見えます。しかしマクロ経済や政治面、外交面であまりにも不安材料が多いことから、当面は静観する方が賢明かもしれません。