目次
はじめに
2026年度税制改正により、会社売却を検討しているオーナーにとって見逃せない変更が行われました。2027年以降、3億円を超える譲渡益が出る場合、これまでよりも税負担が大きくなる可能性があります。
今回の改正では、高所得者層に適用される「個人ミニマム課税」が強化されました。控除額が引き下げられ、税率も引き上げられることで、売却益が数億円規模になるケースでは、手取り額に数千万円、場合によっては1億円単位の差が生じることも想定されます。
会社売却は、一生に何度も経験するものではありません。それゆえ、「いくらで売るか」だけでなく「いつ売るか」という視点が、最終的な資産形成に大きく影響します。
本記事では、2026年税制改正のポイントを整理したうえで、2027年以降に会社売却を行う場合に注意すべき重要事項を具体的に解説します。
2026年税制改正とは?会社売却への影響
2025年12月に公表された「2026年度税制改正大綱」では、高所得者層に対する課税の強化が明確に打ち出されました。その中でも、未上場株式の譲渡益を含む金融所得に影響を与えるのが、いわゆる「個人ミニマム課税」の見直しです。
個人ミニマム課税は、給与所得などの総合課税(最高税率45%)と、株式譲渡益などの分離課税(約20%)との税率差を是正する目的で導入された制度です。一定以上の所得がある場合、通常の税率計算とは別に、最低限負担すべき税額を再計算し、差額を上乗せ課税する仕組みとなっています。
これまでは、会社売却による譲渡益が相当高額でなければ、このミニマム課税の影響を受けるケースは限定的でした。しかし、今回の改正により、その適用範囲と負担水準が大きく拡大します。
具体的には、
- 控除額:3.3億円 → 1.65億円に半減
- 税率:22.5% → 30%に引き上げ
という2つの変更が行われます。
計算式で見ると、改正前は「(基準所得 − 3.3億円)× 22.5%」だったものが、
改正後は「(基準所得 − 1.65億円)× 30%」へと変更されます。
この変更により、従来は対象外だった売却益3億円台後半〜5億円規模のオーナーにも影響が及ぶ可能性が生じます。特に、会社売却益に加えて株式や不動産の譲渡益などを合算した結果、年間5億円以上の所得となるケースでは、実質的な税負担が大幅に増えることが想定されます。
制度の適用は2027年分の所得からです。つまり、「2026年中に成立した会社売却」と「2027年以降の売却」では、税計算の前提そのものが変わるということになります。
この「1年の差」が、手取り額に数千万円から場合によっては億単位の差を生む可能性がある点こそ、今回の改正が会社オーナーにとって極めて重要である理由といえるのです。
2027年以降、会社売却の税金はどれだけ増えるのか
今回の改正で最も気になるのは、「結局いくら税金が増えるのか」という点でしょう。
会社売却時の株式譲渡益は、原則として約20%(所得税15%+住民税5%)の分離課税が適用されてきました。しかし、一定以上の高所得となる場合、通常の税額とは別に「個人ミニマム課税」による追加課税が生じます。
2027年以降は、次のような変更が行われます。
- 控除額:3.3億円 → 1.65億円へ引き下げ
- 税率:22.5% → 30%へ引き上げ
具体的なシミュレーション
仮に、会社売却によって5億円の譲渡益が発生したケースを考えてみましょう。
【改正前】
(5億円 − 3.3億円)× 22.5% = 約3,825万円の追加課税
【改正後】
(5億円 − 1.65億円)× 30% = 約1億50万円の追加課税
単純比較でも、約6,000万円超の負担増となります。
もちろん、実際の税額は他の所得状況によって変動しますが、「数千万円単位で手取りが変わる可能性がある」という点は、多くのオーナーにとって無視できません。
さらに、売却益が8億円、10億円と拡大すれば、その差はより顕著になります。売却価格が大きいほど、改正の影響は直線的に拡大していく構造です。
【比較表】2026年までの売却 vs 2027年以降の売却(譲渡益5億円のケース)
| 項目 | 改正前(2026年内) | 改正後(2027年以降) | 差額(負担増) |
| 通常の分離課税(20%) | 1億円 | 1億円 | ±0 |
| 個人ミニマム課税 | (5億-3.3億)×22.5% | (5億-1.65億)×30% | — |
| 追加課税額 | 3,825万円 | 1億50万円 | +6.225万円 |
| 実質的な手取り額 | 3億6,175万円 | 2億9,950万円 | ▲6,225万円 |
ではここで、実際に譲渡益の金額別に、改正前と改正後でどの程度の負担が生じるのかを確認してみましょう。こちらは税負担差を概算したシミュレーションです。
譲渡益規模別・改正前後の追加課税シミュレーション
| 譲渡益 | 改正前の追加課税 | 改正後の追加課税 | 差額 |
| 8億円 | 約1億575万円 | 約1億9,050万円 | 約8,475万円 |
| 10億円 | 約1億5,075万円 | 約2億5,050万円 | 約9,975万円 |
| 15億円 | 約2億6,325万円 | 約4億50万円 | 約1億3,725万円 |
※これはあくまで概算シミュレーションです。実際の税額は他の所得状況や控除の適用状況により異なります。
上記のとおり、譲渡益が大きくなるほど負担増は直線的に拡大していきます。特に10億円超の売却では、改正前後で1億円前後の差が生じる水準となり、15億円規模ではその差は1億円を超えます。
企業価値の数%の違いと同程度、あるいはそれ以上のインパクトが税制変更だけで生じる可能性がある点は、決して小さくありません。売却価格の交渉だけでなく、売却時期の検討が重要になる理由がここにあります。
なぜ“3億円超”のオーナーが影響を受けやすいのか
今回の改正が象徴的なのは、「影響を受ける層が広がった」という点です。従来は、極めて高額な売却案件でなければミニマム課税の影響は限定的でした。しかし、控除額が半減したことで、売却益が3億円台後半〜5億円規模でも影響が顕在化しやすくなります。
特に注意すべきなのは、“会社売却益だけ”で判断してはいけないという点です。
例えば、
- 同年に保有株式を売却している
- 不動産の譲渡益がある
- 配当やファンド分配金が多額にある
といった場合、それらが合算されることで基準所得が押し上げられ、想定外の追加課税が発生する可能性があります。つまり、今回の改正は単なる「売却税率の変更」ではなく、資産全体の出口戦略を再設計する必要がある局面ともいえます。
2026年中の売却を決断する前の注意点
税負担の増加が見込まれる以上、「それなら2026年中に売却した方がよい」と考えるのは自然な流れでしょう。実際、税制面だけを切り取れば、2026年中に売却を完了できれば、改正前の計算方式が適用されるため、手取り額が増える可能性は高いといえます。
しかし、会社売却は税金だけで決まるものではありません。注意すべきは、次の3点です。
① 企業価値の最大化とのバランス
税率差による数千万円の差額よりも、企業価値が数%上振れる方がインパクトは大きいケースもあります。例えば、10億円で売却が見込まれる会社の企業価値が5%上昇すれば、5,000万円の差になります。
拙速な売却により価格交渉が不利になれば、税制メリット以上の機会損失が生じる可能性も否定できません。
② 買い手市場の動向
M&A市場は、企業側のニーズ、資金状況、経済状況、金利環境、株式市場など外部要因に左右されます。税制改正を理由に売却案件が一時的に増加すれば、買い手優位の環境になる可能性もあります。「駆け込み売却」が増える局面では、条件交渉が難航することも想定されるでしょう。
③ クロージング時期
税制の適用はあくまで「所得発生年」によって決まります。M&A実務においては、最終契約書の締結日ではなく、対価の支払いや経営権の移転が完了する「クロージング日」が基準となります。
ここで盲点となるのは、最終契約締結からクロージングまでには、通常で1ヶ月~3ヶ月、長いケースでは半年から1年以上の期間を要する点です。さまざまな資産の引き継ぎ、許認可の再取得、従業員への説明といった複雑な手続きの過程で、不測の事態によるスケジュール遅延は珍しくありません。
たとえ2026年中の成立を前提に動いても、クロージングがわずか1日でも翌年にずれ込めば、想定していた税制メリットは失われます。「年末ギリギリ」の計画は、手遅れになる可能性が高いといえるでしょう。
失敗しないために今から準備すべき3つのポイント
今回の改正で最も重要なのは、単に「売却を急ぐこと」ではありません。増税というタイムリミットを意識しつつも、経営判断として最適解を選べるだけの「選択肢を早期に持つこと」です。不測の事態に翻弄されることなく、納得感のある出口(イグジット)を迎えるために、今から検討すべき3つのポイントを解説します。
1.早期の税額シミュレーション
まず必要なのは、自身の資産全体を踏まえた税額試算です。会社売却益だけを見ていては、本当の納税額は見えてきません。
- 会社売却益はいくらを想定しているか
- 他に同年発生予定の譲渡益(不動産売却益、高額な配当、分配金)はあるか
- 所得控除と適用税率を確認
これらを合算した場合、改正前後でどの程度の差が生じるのかを可視化することが第一歩です。数字が明確になれば、冷静な判断が可能になります。
2.売却スケジュールの前倒し可否の検討
「2026年中に間に合うのか」という視点を、実務レベルで早期に検証する必要があります。売却を前倒しできるのか、あるいは増税分を補って余りあるほど企業価値向上を優先すべきか。この判断は業種や成長ステージによって異なります。
すでに買い手候補が存在する場合と、これからプロセスを開始する場合では、実務上のスケジュール感も大きく変わります。
特に「2026年末の駆け込み」は、買い手から「期限があるから足元を見てもいい」という交渉材料にされかねません。余裕を持ったスケジュール設計こそが、交渉力を維持する唯一の手立てといえるでしょう。
3.資産全体の出口戦略の再設計
会社売却はゴールではなく、資産運用のスタートでもあります。改正後の税制環境では、売却したときの税金だけでなく、「売却後にどのように資産を残し、運用するか」という出口戦略の設計がこれまで以上に重要になります。
- 所得の分散とタイミング調整:単年度に利益を集中させず、数年に分けて売却対価を受け取るスキーム(アーンアウト等)の検討。
- 資産保有形態の見直し:個人での直接保有だけでなく、資産管理会社を活用した税金や相続対策の検討。
- 他資産との損益通算:赤字資産の処理タイミングを合わせるなどの微調整。
単年度の税額だけを見るのではなく、「売却後の資産運用まで含めた設計」が、会社オーナー個人としての最終的な手取り資産を左右します。
参考記事:【最新税制対応】会社オーナーは「2026年まで」に会社売却した方がいい理由
URLが指定されていません。まとめ
本記事では、2026年度税制改正を踏まえ、会社売却における税負担が2027年以降どのように変わるのかを見てきました。とりわけ、個人ミニマム課税の強化によって、3億円超の会社売却益が新たに増税の射程に入る点は、これまでM&Aを検討してきた多くの会社オーナーにとって無視できない変化といえます。
シミュレーションで確認したとおり、譲渡益が8億円、10億円、15億円と大きくなるにつれ、改正前後の税負担差は数千万円から1億円超へと拡大していきます。これは、経営努力や価格交渉によって積み上げた利益の多くが、税金として消えてしまうことを意味します。この手取りの激変を直視し、適切な対策を講じることが、今まさに求められているのです。
重要なのは、税率の差を前提とした新たな出口戦略へのアップデートです。2026年までであれば、比較的シンプルな株式譲渡で手残りを最大化できますが、一方で2027年以降は、スキームの工夫や資産全体の再配分といった、より高度な設計の重要性が一段と高まると考えられます。
会社売却は、単なる出口ではなく、その後の資産運用・相続・事業承継までを左右する大きな転換点です。それゆえ、表面的な税金だけを切り取って判断するのではなく、「いつ・どの形で売るのか」「売却後の資産をどう守り、どう増やすのか」までを含めて考える必要があります。
会社売却によってまとまった資金を手にした後、「どのように運用すべきか」「どこまでリスクを取るべきか」「次世代へどう残すか」、こうした悩みを持たれる会社オーナーの方は少なくありません。
ウェルス・パートナーは、会社売却そのものを目的とするのではなく、売却後の資産をいかに守り、活かすかという視点から、富裕層・超富裕層の資産戦略をサポートしています。
売却のタイミングに悩んでいる方、2027年以降の売却を見据えて対策を検討したい方、売却後の資産運用まで含めて整理したい方は、できるだけ早い段階でご相談ください。
判断を先送りにする前に、一度ご自身の状況を整理してみてはいかがでしょうか。