2025
10/06
会社オーナー 会社売却 経営者

会社売却で本当に大きな差を生むのは、市場の動向でも交渉力でもありません。決定的に結果を左右するのは、売り手自身の「準備力」です。準備を怠れば、企業価値が正しく評価されずに安値で手放したり、想定外の税負担を抱えたりするなど、大きな損につながります。

一方、適切な準備を積み重ねておけば、売却価格の最大化と税負担の軽減、さらには売却後の資産運用まで見据えた「得をする出口戦略」が可能になります。準備の有無で、数億円単位の差が生まれることも珍しくありません。

この記事では以下の内容がわかります
✅会社売却前に知っておくべきポイント
✅会社売却で得をするための具体的な準備
✅売却後のライフプラン

会社売却に潜む「知らないと損をする」思わぬ盲点

会社売却は大きな取引であるにもかかわらず、準備が不十分な状態のまま売却に踏み切ろうとする会社オーナーは少なくありません。その結果、本来得られるはずの価値を逃し、売却後に大きな後悔を残すケースもあります。ここでは、売り手が見落としがちな典型的な盲点を整理し、なぜ早い段階での準備が不可欠なのかを確認していきましょう。ポイントは4つです。

①売却価格が下がるリスク

会社の魅力が十分に伝わらなければ、買い手は過小評価をしがちです。特に財務や事業の整理ができていない場合、提示価格が大きく下がる恐れがあります。

財務情報が不十分であったり、将来の成長性を説明できなかったりすると、買い手はリスクを過大に評価し、提示価格を引き下げます。会社オーナー側に交渉材料がなければ、納得できない水準でも受け入れざるを得ない状況に陥りかねません。

②想定外の税負担

会社売却に際して、税負担を十分に理解せずに進めてしまうと、思わぬ手取り減につながる危険があります。特に注意すべきは、「株式譲渡」と「事業譲渡」の税制上の違いです。

【株式譲渡の場合】
オーナー個人が保有する株式を譲渡する形となり、譲渡益に対しては約20%(所得税15%+住民税5%)の分離課税が適用されます。比較的シンプルで、二重課税を避けられる点が特徴です。

【事業譲渡の場合】
会社が事業用資産を売却する形となるため、まずは会社に法人税(実効税率30%程度)が課されます。その後、残余財産を配当や清算としてオーナーに分配する際に、さらに配当課税(最大20%程度)が課されることになり、実質的に二重課税となります。

このように、同じ「売却」でもスキームによって手取り額が大きく異なるため、事前にシミュレーションをしていないと、想定以上に手元資金が目減りする可能性があります。売却益を十分に活かすには、専門家と事前に比較検討し、早めの税務戦略を策定することや、最適な方法を選ぶことが重要です。

③情報不足による不利な交渉

第三者に会社を売却するM&Aは非公開で進むことが多く、プロセスや相場の情報は限られています。相場観を持たずに臨むと、買い手のペースで条件が決まり、不利な契約を受け入れてしまうリスクがあります。売り手にとって不利な契約を結ぶ典型的な要因です。

④売却後の資産管理の課題

売却により得られたまとまった資金は、適切に運用してこそ価値を維持できます。準備不足のままでは、資産の目減りや投資リスクの拡大を招きかねません。

数億円から数十億円規模の資金を手にすると、資産管理や運用が新たなテーマとなります。運用計画がなければ、リスクの高い投資や資産の目減りを招く恐れがあります。会社売却はゴールではなく、オーナーの資産戦略のスタートなのです。

このように会社売却には、「知らなかった」ことで損をする要素が随所に潜んでいます。それゆえに、早い段階から全体像を理解し、私たちのような資産運用のプロに相談しながら入念に準備を進めることが、売り手にとっての最大の防御策となります。

売却で得をする準備ステップ1-経営の見える化

会社を売却する際、最初に着手すべきは「経営の見える化」です。買い手は数字や資料を基に企業価値を判断するため、情報が整理されていないと不信感を抱かれ、評価が下がる原因となります。逆に、経営の透明性が高い企業は、安心感を与え、交渉を有利に進めることができます。

①財務状況の整理

決算書や月次試算表、資金繰り表といった基本資料を整備することが第一歩です。経費の私的利用や曖昧な取引は、必ず指摘されます。余計な疑念を避けるため、早い段階から正しい会計処理を徹底しておくことが重要です。

②契約関係・権利関係の明確化

取引先との契約書、知的財産権、不動産や設備の登記など、法的な権利関係を整理することも欠かせません。曖昧な契約や未整備の権利関係は、買い手にリスクとみなされ、価格交渉で不利に働きます。

③業務プロセスと人材の把握

組織図や役割分担、主要人材のスキルセットを明確にしておくことも「見える化」の一部です。属人的な経営に依存していると、買い手は「経営者が抜けた後に事業が回らないのではないか」と懸念します。日常業務を標準化し、マニュアルや仕組みで再現性を高めておくことが信頼につながります。

あなたの会社はこれらの資料が整備されていますか?十分に整備されていないケースは少なくありません。もし自社のみで行うことが困難な場合は、専門家の力を借りながら、確実に揃えておくことが肝要です。

売却で得をする準備ステップ2―買い手に選ばれる会社にする

「経営の見える化」によって透明性を確保したら、次に取り組むべきは「買い手から選ばれる会社」に整えることです。売却の場面では、複数の候補企業が比較されるのが一般的です。同じ利益水準の会社でも、組織や事業の安定性が感じられる企業の方が高く評価されます。ここでは、買い手に安心と魅力を伝えるための準備ポイントを解説します。

①安定した収益構造の確立

売上が特定の取引先や一時的な案件に過度に依存している場合、買い手は将来の収益に不安を抱きます。このような不安を解消するためには、「取引先の分散」「継続的な契約の締結」「ストック型収益モデル※の導入」などが有効です。これにより、買い手に成長性とリスクの低さをアピールし、企業価値を押し上げることができます。
※ストック型収益モデルとは
一度構築したサービスなどから継続的に収益が積み上がっていくビジネスモデルを指します。不動産の賃貸収入や商品のレンタル・リースサービス、サブスクリプション、コンテンツ販売などが一例です。

②組織力と人材の強化

買い手が最も重視するのは「経営者が抜けても事業が継続できるか」という点です。経営者依存から脱却し、幹部や従業員に権限を分散することで、事業の継続性をアピールできます。教育体制や評価制度の整備も、組織の安定性を示す材料になります。

③将来性のある事業領域の提示

現状の利益だけでなく、今後の成長余地も買い手は注目します。新規事業のシーズ(企業独自の技術やノウハウなど)、業界動向に即したサービス開発の取り組みなどを資料化しておくことで、単なる「現状維持の会社」ではなく「成長の可能性を持つ会社」として評価されやすくなります。

④企業価値評価を意識した準備

売却価格を決める際には、「企業価値評価(バリュエーション)※」というプロセスが必須です。実際には専門家に依頼することが一般的ですが、その評価基準を理解しておくことはオーナーにとって有益です。未上場会社の場合、将来生み出すキャッシュフローの大きさと安定性が重視されます。特に近年は、過去の業績よりも「今後どれだけ稼げる会社か」に着目する傾向が強まっています。

さらに、評価には数字に表れにくい価値も反映されます。例えば、ブランド力や取引先からの信頼、人材の質や技術力といった「のれん」と呼ばれる要素です。こうした無形資産は帳簿上には現れませんが、買い手にとっては将来の利益を生む重要な資産とみなされ、高値での評価につながることがあります。

そのため、売却準備段階から、企業文化や人材育成の取り組み、取引先との信頼関係を積極的に整理・可視化しておくことが望ましいのです。
※企業価値評価とは
企業価値評価とは、会社の価値を数値化し、売却価格を決定する際の基準とするものです。これを基に交渉が進められ、実際の取引価格が決定します。未上場会社では、主に「時価純資産法」「収益還元法」「DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)」「類似会社比較法」といった算定方法が状況に応じて使い分けられます。さらに、ブランド力や人材、取引先との信頼といった無形資産(のれん)も評価対象となり、これらが企業の魅力を大きく左右します。

会社売却後の資産運用を見据えた準備

会社売却はゴールではなく、新たな資産運用のスタートでもあります。事業からの収入がなくなる一方で、多額の売却資金をどう管理・運用するかは、経営者にとって次の重要課題です。ここでは、売却後を見据えた準備のポイントを整理します。

1. 税制を踏まえた資産設計

売却資金の大部分を現金のまま保有していると、相続税や贈与税の負担が重くのしかかります。例えば、資産管理会社の設立や信託の活用といった方法を用いることで、節税と承継対策を同時に進めることが可能です。売却前からこれらの仕組みを組み込み、資金の受け皿を整えておくことで、手取りを最大化できます。

2. 長期的な資産戦略の策定

売却で得た資金をどのように運用していくかは、オーナーのライフステージやリスク許容度によって大きく異なります。短期的な利回りだけを追求するのではなく、生活費・次の事業投資・相続に至るまでの長期的な視点で運用方針を定めることが求められます。

例えば、引退後の生活資金を重視するなら安定的なインカム収入を生む資産を、次世代への承継を優先するなら成長性のある投資対象を選択するとよいでしょう。金融資産・不動産・プライベートアセットなどへの分散投資を検討することで、リスクを抑えつつ安定したリターンを目指せます。また、経済情勢や金利動向によって資産の組み合わせを柔軟に見直せる体制を整えておくことも大切です。

3. 専門家の活用

資産運用は税務、法務、投資など幅広い知識を必要とするため、経営者が単独で判断するのは現実的ではありません。IFA、税理士、弁護士、ファイナンシャルアドバイザーなどに相談し、総合的に資産設計を行うことで、最適な解を導きやすくなります。特に富裕層においては、ファミリーオフィスのように資産全体を包括的に管理する仕組みの活用も選択肢となるでしょう。

会社売却は事業から資産家への転換点であり、この局面での資産運用準備が今後の人生の安定と豊かさを大きく左右します。

まとめ

会社売却は一生に一度経験するかどうかの大きな意思決定であり、その準備次第で得られる成果は大きく変わります。想定外の税負担を避けるための知識、買い手から選ばれるための経営改善、企業価値評価の理解といったポイントは、売却額やその後の資産形成に直結します。

特に、未上場企業では評価方法が複数存在し、財務諸表に表れにくいブランド力や人材といった「見えない価値」も適切に評価されることから、専門家と連携して準備を進めることが不可欠です。

また、売却はゴールではなく新たなスタートでもあります。事業収入が途絶える代わりにまとまった資金を手にすることで、今後はその資産運用こそが人生の基盤となります。

売却後の資金は、単に銀行に預けておくだけではインフレリスクにさらされ、資産価値を減じかねません。そのため、税制を踏まえた資産管理会社の活用、株式や債券・不動産への分散投資、プライベートアセットの組み入れなど、複数の選択肢を組み合わせて戦略的に運用することが重要です。

さらに、キャッシュフロー設計を通じて生活費・投資原資・相続対策をあらかじめ「見える化」しておくことで、売却益を「守りながら増やす」仕組みが構築できます。

こうした準備を怠らなければ、会社売却は単なる資金化ではなく、次の人生を切り拓く大きな資産形成の機会となります。信頼できる専門家と共に戦略的に進めることで、売り手は安心して会社を手放し、得をする未来を描くことができるでしょう。

私たちウェルス・パートナーは、富裕層の方の資産運用をお手伝いしております。会社売却を検討されている方や、会社売却後の資産運用についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者3万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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