目次
はじめに
相続で多額の資産を手にすることは、ほとんどの人にとって一生に一度の出来事です。
「6億円を相続した」と聞けば、一生分の生活資金を手に入れたと思えるかもしれませんが、インフレ・運用の失敗・税金・さまざまな支出によって、資産額が大きく減ってしまうことも珍しくありません。
特に相続直後は、冷静な判断が難しい時期です。焦って投資を始めるよりも、まずは守る戦略から入り、その上で安定的に増やす仕組みを構築することが重要です。
本記事では、相続直後にやるべきことから、具体的な資産配分の方法、そして6億円を運用した場合のシミュレーションまで、実践的に解説します。
相続直後にやるべきこと(運用前の準備)
相続により資産を得ると、さまざまな金融機関から資産運用の提案を受ける機会が増えるでしょう。
しかし、相続直後は冷静に「運用前の準備」を行うことが大切です。
資産の棚卸し
相続で得た資産は、現金や預金だけではなく、有価証券、不動産、貴金属、美術品など多岐にわたります。これらをすべて一覧化し、「何をどれだけ持っているのか」を明確にします。
資産の棚卸しは運用の第一歩であり、これを怠るとリスク管理ができません。
また、資産の棚卸しは相続手続きで必要な遺産分割協議でも役立ちます。
相続が発生した段階で、すぐに取り組むべきでしょう。
名義変更と相続税納税の準備
金融資産や不動産は名義変更の手続きが必要です。相続税は相続発生から10か月以内に納税する必要があるため、納税資金を確保しておくことが不可欠です。
なお、相続税の算出にあたっては、小規模宅地等の課税価格の特例、配偶者の税額軽減の特例などを利用できるケースもあります。
これらの特例の適用を受けるには、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまっており、期限内に相続税の申告を行う必要があります。
生活資金と投資資金の分離
相続手続きが完了したら、運用に回す資金と日常生活に必要な資金を明確に分けます。生活費は値動きの少ない預金などの資産で確保し、残りを投資に回します。
同時に、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)など、資産運用のプロへ相談し、今後の運用方針を決めるとともに、資産運用に関する知識を身につける必要があります。
資産防衛期間を設ける
相続直後の1〜2年間は「守りの期間」とし、大きなリスクを取らずに安全運用を心がけます。
また、自身のリスク許容度を図りながら、最適なポートフォリオを構築していくべきでしょう。
6億円資産の課題とリスク
6億円という高額な資産は、保有するだけでさまざまなリスクを抱えています。
ここでは、6億円の資産が持つ課題とリスクについて解説します。
インフレによる価値の目減り
例えば年率2%のインフレが10年続けば、6億円の実質価値は約4.9億円にまで減少します。
このため、現在の資産価値を維持するには年利回り2%を超える運用が必要です。
過度な安全思考のリスク
「資産を預金だけで保有する」「運用は考えていない」など、過度な安全思考は逆にリスクとなりかねません。インフレをはじめ、さまざまなリスクに備えるため、安全と成長のバランスを考えた資産運用が重要です。
投資先の偏り
資産が株式や不動産に集中すると、景気変動の影響を大きく受けます。
株式・不動産と値動きや特性の異なる債券やオルタナティブ資産など、幅広く資産を分散することが大切です。
また、国内資産だけでなく外貨資産にも分散することで、通貨を分散することも大切です。
高額資産特有のリスク
保有資産額が大きいと、詐欺や不適切な商品提案のターゲットになりやすく、提案内容の裏取りが欠かせません。
また、金融機関によっては、自社の営業実績を重視した商品提案を受ける可能性もあります。
中立的な立場から資産運用の提案を受けられるIFAなど、プロに相談するのがよいでしょう。
4. 運用方針の決め方(資産配分の考え方)
資産運用は「何に投資するか」よりも「どの比率で配分するか」が結果を大きく左右します。
ここでは、基本的な「資産配分の考え方」について解説します。
資産クラスの役割
おもな資産クラスには、それぞれ特性に合った役割があります。
- 現金・預金:流動性と安全性の確保
- 債券:安定的な利息収入
- 株式:長期成長と資産拡大
- 不動産:安定したインカムゲイン+インフレ対策
- オルタナティブ:分散効果の強化・超過リターン獲得
富裕層の一般的ポートフォリオ例
参考までに、富裕層の一般的なポートフォリオ例をみてみましょう。
- 現金・預金:10%
- 国内債券:10%
- 外国債券 : 30%
- 株式(国内外):20%
- 不動産:20%
- オルタナティブ資産:10%
ただし、最適なポートフォリオは運用目標やリスク許容度など、さまざまな要因によって異なります。
ポートフォリオ設計については、次の動画で解説していますので、あわせてご覧ください。
最短何日で5億円のバランスいい資産ポートフォリオを作れるか
架空の6億円資産運用シミュレーション
ここでは、60歳・独身男性が両親から6億円を相続したケースを想定します。
目標は「年1,000万円の生活費を確保しつつ、資産価値を維持または増加させること」です。
初期配分案
こちらは、年1,000万円の生活費を確保すべく提案した初期の資産配分案です。
資産クラス | 割合 | 金額 | 期待利回り(税引前) |
現金・預金 | 25% | 1億5,000万円 | 0.3% |
米ドル建て債券(格付けA格以上) | 30% | 1億8,000万円 | 4.5% |
世界株式インデックス | 20% | 1億2,000万円 | 5.5% |
J-REIT・海外REIT | 10% | 6,000万円 | 4.0% |
プライベートエクイティ・ヘッジファンド | 10% | 6,000万円 | 6.0% |
国内賃貸不動産 | 5% | 3,000万円 | 3.5% |
年間キャッシュフロー予想
初期配分案から予想した年間キャッシュフローは次のとおりです。
- 債券利息:約810万円
- 株式配当:約240万円
- REIT分配金:約240万円
- 不動産賃料:約105万円
- 合計インカムゲイン:約1,395万円
上記のとおり、必要な生活費1,000万円を超えるインカムゲインが得られる計算になります。
10年間の運用シミュレーション(想定)
- 年平均のインカムゲイン:1,395万円
- 年間引き出し額:1,000万円
- 10年後の残高:約6億4,000万円(元本維持+4,000万円の増加)
あくまで予想ベースですが、必要な生活費を確保しつつ、資産の増加を狙えるポートフォリオといえるでしょう。
税金・相続対策と運用の両立
相続した資産を家族へ引き継ぐためには、資産運用と適切な税金・相続対策を両立させていく必要があります。
- 二次相続に備えた資産承継設計
一次相続と二次相続では、配偶者控除が利用できないなどの理由で、相続税負担額が大きく変化する可能性があります。
一次相続時の相続分を調整するなど、二次相続に備えた資産承継設計が必要です。
- 生前贈与や教育資金贈与の活用
相続時精算課税制度や教育資金贈与の特例などを活用し、生前に贈与をすすめることで、将来の相続税負担を軽減できます。
- 資産管理会社による節税・相続対策
資産管理会社を設立し、所得を分散したり、親族へ資産を報酬の形で渡したりすることで、節税や相続対策が可能となります。
7. 信頼できる運用パートナーの選び方
6億円の高額な資産を長期にわたり安定運用するには、信頼できるパートナー選びが重要です。
- 複数の金融機関の商品比較ができるIFAやプライベートバンク
信頼できる運用パートナーの候補として、複数の金融機関の商品比較ができるIFAやプライベートバンクが挙げられます。
- 成果報酬やフィー型で透明性のある契約形態
信頼できるパートナー選びでは、透明性のある契約形も重要な要素です。成果報酬型であるか、預り資産残高に応じたフィー型なのか、契約時に確認することが大切です。
8. まとめ
相続で得た6億円という資産は、運用戦略次第で一生涯安心した生活を送る基盤になります。
大切なのは、焦らず、守りを固め、インカムゲインを確保し、成長資産で将来の価値を維持・向上させることです。
そして信頼できる専門家を見つけ、冷静な判断を続けることが、次世代へ確実に資産を残す最良の方法です。

株式会社ウェルス・パートナー
ポートフォリオマネージャー
早稲田大学国際教養学部卒業後、大和証券株式会社へ入社。富裕層と会社経営者を中心とした資産運用のコンサルティング業務に従事。顧客の資産全体の最適化や会社経営者への相続対策まで支援をしたいという思いがあり、株式会社ウェルスパートナーに入社。