日本では長期間にわたり超低金利政策が続いてきました。一方で、米国など主要国ではインフレ対策として金利が大きく引き上げられています。その結果、外国債券への投資が注目を集めているのです。富裕層や経営者にとっては、資産を国内だけに偏らせるのはリスクがあると考えます。通貨の分散と、高い利回りを両立させる資産運用戦略への転換が急がれています。
このような状況においては、資産配分の見直しやリバランスが重要です。市場や経済情勢の変化に応じて、国内外の債券や株式など多様な資産を組み合わせ、リスク分散を図りましょう。
ただし、いくら魅力的とはいえ、外国債券を闇雲に組み入れることは危険です。為替変動リスク、金利変動リスク、カントリーリスクなど、国内債券とは異なる特性を理解してください。「資産全体の中でどれくらい外国債券を組み込むか」を戦略的に設計する必要があります。
今回の記事を通して、資産配分におけるより良い組み入れ比率や通貨・債券の選び方を把握しましょう。富裕層の方向けの実践的なポートフォリオ設計を、体系的に解説します。
目次
外国債券の基本と国内債券との違い
外国債券とは?
外国債券とは、日本以外の国や企業、または日本国外の市場で発行される債券、もしくは円以外の通貨で発行される債券です。例えば、アメリカの会社が米ドルで発行する債券や、ヨーロッパの国がユーロで発行する債券などが該当します。つまり「発行する人(国や会社)」「発行する場所」「使われる通貨」のどれかが外国であれば、その債券は外国債券になるのです。
このような債券は、米ドルやユーロなどの外貨建てで発行されます。日本の投資家が購入する場合、国内債券よりも高い金利収入が期待できます。一方で、為替の変動によるリスクや、発行体の信用リスクなど、国内債券にはない注意が必要でしょう。
外国債券の種類や主なリスク | ||||||
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債券種類 | 主な発行体・通貨例 | 利回り水準 | 信用力 | 流動性 | 主なリスク | 備考 |
米ドル建て債券 | 米国債・米国社債(米ドル) | 中~やや高め | より高め | より高め | 為替変動リスク、金利変動リスク | 世界最大市場、安定性・流動性大 |
ユーロ建て債券 | 欧州国債・金融機関債(ユーロ) | 中 | 高め | 高め | 為替変動リスク、欧州経済リスク | 分散投資先として有効 |
新興国通貨建て債券 | トルコリラ建て、南アフリカランド建て等 | 高い | 低い | 低い | 為替変動リスク、カントリーリスク | 高金利だがリスクも非常に高い |
トランプ関税が債券市場に与える影響
2024年末以降、トランプ大統領が関税の引き上げを打ち出しました。それにより、米中の貿易摩擦が再燃するのではないかという懸念が高まりました。この政策転換は、債券市場にも大きな影響を及ぼしています。投資家においても、今後の動向には注意を払わなければなりません。
関税の引き上げは、米国内の輸入コストを押し上げます。物価の上昇は、インフレ圧力を強める要因となるのです。インフレが意識されると、米連邦準備制度理事会(FRB)は金利を高い水準で維持せざるを得なくなります。つまり、米国の金利は当面高止まりしやすい状況が続くと考えられます。
このような状況下では、長期債の価格に下落圧力がかかりやすくなるのです。金利が上昇すると、既に発行されている長期債の価値は相対的に低下します。満期までの期間が長い債券ほど、価格変動の影響を受けやすくなるのです。
一方で、米ドル建て債券の注目度は上がるかもしれません。米国の金利が高い状態が続き、さらに円安が進行すると、為替差益も期待できる有利な投資先となります。
しかし、新興国債券については、慎重な姿勢が求められるでしょう。米中貿易摩擦の激化や米国の保護主義的な政策は、世界の貿易環境に悪影響を及ぼしています。新興国の現地通貨建て債券は、通貨安や資本流出のリスクが高まるため、投資判断には慎重さが必要です。
このような状況では、単に「外国債券をどれだけ保有するか」ではありません。「どの通貨で、どの期間の債券を、どの地域に分散して持つか」といった観点が重要です。米ドルやユーロ、アジア通貨など複数の通貨や、様々な満期・地域の債券を組み合わせることで、ある程度リスクを抑えた運用が期待できます。
トランプ大統領の関税強化政策表明によって、債券市場は新たな不透明感に包まれています。インフレや金利、為替の動向を注視しながら、幅広い分散投資を意識したポートフォリオ構築が欠かせないでしょう。
資産配分における外国債券の役割とは?
外国債券の4つのメリット
外国債券の最大の魅力は、一般的に国内債券よりも高い利回りが期待できる点です。米国や欧州、新興国など、多くの国で日本より政策金利が高く設定されています。つまり、同じ金額を投資した場合でも、受け取れる利子が多くなる傾向があるのです。
外国債券は外貨建てで購入するため、為替変動による利益(為替差益)が得られる可能性もあります。例えば、購入時よりも円安が進行した場合、利子や償還金を円に換算した際に受け取る金額が増えます。つまり、為替差益を享受できるのです。
また、外国債券をポートフォリオに組み入れることで、国内資産とは異なる値動きを活用した分散投資が実現できます。さらに、債券は満期まで保有することで、定期的な利子と元本償還が受け取れます。信用力の高い国や企業が発行する債券は、収益の見通しが立ちやすく、資産運用計画の安定につながるでしょう。
外国債券の4つのメリット | ||
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メリット | 内容 | 具体例・ポイント |
高い利回り | 日本の債券よりも金利が高い国が多く、利子収入が多くなる傾向がある | 米国債は日本国債より高い金利で運用できる |
為替差益の可能性 | 円安になれば、利子や償還金を円に換算したときに利益が出る | 1ドル=100円で購入→1ドル=110円で償還なら差益発生 |
分散投資によるリスク軽減 | 日本の資産と異なる値動きをするため、複数の通貨や地域に投資することでリスク分散ができる | 国内資産だけでなく海外にも投資して安定性向上 |
安定した収益・見通しやすさ | 満期まで保有すれば、定期的な利子と元本償還が受け取れる。信用力が高めの国・企業なら安心感もある | 収益計画が立てやすい |
外国債券の3つのデメリット
外国債券には様々なデメリットもあります。まずは「為替変動リスク」です。円高になると、利子や償還金を円に換算したときに受け取る金額が減ります。つまり、損失(為替差損)が発生する可能性があるのです。
2つ目は「信用リスク」です。債券を発行している国や企業が、経済的に困難な状況に陥ると、「デフォルト(債務不履行)」が起こるリスクがあります。利子や元本が支払われず、特に新興国や信用力の低い企業の債券では、このリスクが高まるのです。
3つ目は「価格変動リスク」になります。市場金利の変動や経済状況の変化によって、債券の価格は日々上下します。満期前に債券を売却する場合、購入時より価格が下がっていれば、元本割れの可能性も増えるでしょう。
外国債券には「為替変動リスク」「信用リスク」「価格変動リスク」という3つの懸念が存在します。そのため、外国債券に投資する場合でも、慎重な検討を繰り返す必要があります。
外国債券の3つのデメリット | |
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リスク | 内容 |
為替変動リスク | 円高になると、利子や償還金を円に換算した際に損失(為替差損)が発生する可能性がある |
信用リスク | 発行体(国や企業)が利子や元本を支払えなくなる「デフォルト(債務不履行)」のリスクがある |
価格変動リスク | 市場金利や経済状況の変化により、途中売却時に債券価格が下がり、元本割れとなることがある |
外国債券の適正な組み入れ比率はどれくらい?
富裕層の方や資産に余裕がある場合は、大きく増やすよりも「減らさないこと」を重視しなければなりません。例えば、国内債券だけでなく、金利が高い外国債券の活用です。実際、富裕層の投資ポートフォリオでは、外国債券と国内不動産だけで全体の8割を占めるという例もあります。外国債券の組み入れ比率としては、全体の10%〜30%程度が一つの目安でしょう。この範囲であれば、リスクを分散しつつ、安定した利子収入を得ることができると考えます。
一般的な目安(富裕層のケース) | ||
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タイプ | 外国債券の目安比率 | 備考 |
攻めの投資家(積極型) | 10%〜20% | 株式中心のポートフォリオを補完する形で25%まで |
中庸型(バランス型) | 20%〜40% | 通貨分散と安定収入の両立34%ぐらいまで |
守り重視(保守型) | 40%〜60% | 外貨による退職後生活費の確保や資産保全を重視 |
国内債券は金利が低いため、米ドル建てなどの外国債券が選ばれることが多いのです。発行体の信用力や米ドル、ユーロなどの通貨選択も欠かせません。償還期間を分散させることで、より安全な運用が目指せます。ただし、外国債券には為替変動リスクがあります。必要に応じて、為替ヘッジを利用したり、資産全体のバランスを見ながら組み入れ比率を調整しましょう。
外国債券投資における通貨別配分方針(目安) | ||
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通貨 | 比率目安 | 備考 |
米ドル | 50〜80% | 世界の基軸通貨。債券市場も最大規模で選択肢が豊富 |
ユーロ | 10〜20% | 欧州分散の主軸。国債や金融債中心で安定感あり |
その他(豪ドル、カナダドル等) | 5〜15% | 通貨分散に有効。金利水準やタイミングに注意 |
新興国通貨 | 0〜5% | ハイリスク・ハイリターン。ごく一部でリターン狙いに活用 |
外国債券を組み込んだポートフォリオ実例
この資産配分は、資産5億円を持つ引退された経営者(保守型)の例です。配分の内訳は、株式(ETFや投資信託)が20%、日本債券(円建て)が20%、外国債券(米ドル建て中心)が40%、そして現金・短期預金が20%です。まず、株式(ETF/投信)を20%組み入れることで、資産全体の成長やインフレヘッジを期待しつつも、価格変動リスクは抑えられています。
日本債券(円建て)も20%を配分しており、安定した利子収入と元本保全を重視した設計です。外国債券(米ドル建て中心)は40%と高めの比率になります。米国などの高利回り債券による収益性向上や、通貨分散の効果が期待できます。一方で、為替変動リスクや信用リスクへの注意が必要です。
また、現金・短期預金を20%確保しています。これは、突発的な支出や市場の急変動にも柔軟に対応できるためです。結果として、毎年2,000万円以上の利子収入を確保しています。ただし、インフレによる実質価値の目減りリスクも意識しなければなりません。全体として、リスク分散と安定収入の両立を図った配分であり、保守型の資産運用方針として妥当でしょう。実際に引退後の生活資金の安定確保を重視する方にとって、安心感のある設計になります。
資産5億円で引退された経営者のケース | |||
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資産クラス | 配分比率 | 主な役割・特徴 | 主なリスク |
株式(ETF/投信) | 20% | 成長期待・インフレヘッジ | 価格変動リスク |
日本債券(円建て) | 20% | 安定収入・元本保全 | 低金利リスク |
外国債券(米ドル建て) | 40% | 高利回り・通貨分散 | 為替変動リスク・信用リスク |
現金・短期預金 | 20% | 流動性確保・安全資産 | インフレリスク |
このポートフォリオは、40代経営者・現役資産形成中の方が、バランス型で運用している例です。資産の50%を国内外の株式に配分することで、長期的な成長とリターンが期待できます。株式は価格変動リスクが大きいものの、資産増加の役目を果たせるのです。
15%を不動産ファンドやREITに投資することで、安定した分配金収入とインフレヘッジ効果が期待できます。不動産は株式とは異なる値動きをするため、全体のリスク分散にも利点があります。ただし、不動産市況や金利変動の影響を受けやすい点には注意が必要です。
さらに、25%を米ドルや豪ドル建ての外国債券に振り分けることで、安定した利子収入と為替分散を図っています。米ドルは比較的安定しています。一方で、豪ドルは資源国通貨のため、値動きが大きく、金利や為替変動リスクも考慮しなければなりません。
最後の10%はキャッシュとして確保しています。これにより、急な支出や新たな投資機会にも柔軟に対応できます。つまり、資産全体の安全性を高める役割を担っているのです。この配分は、リスクとリターンのバランスを意識しつつ、将来の資産形成と安定を両立したい40代経営者にとって、非常に合理的な構成でしょう。
40代経営者で現在も資産形成中のケース | ||
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資産クラス | 配分比率 | 主な役割・特徴 |
株式(国内+海外) | 50% | 成長性・リターンの源泉。長期的な資産増加を期待できるが、価格変動リスクも大きい。 |
不動産ファンド・REIT | 15% | 安定した分配金とインフレヘッジ。株式と異なる値動きで分散効果があるが、不動産市況や金利の影響を受ける。 |
外国債券(米ドル・豪ドル) | 25% | 安定収入と為替分散。米ドルは安定性、豪ドルは資源国通貨で変動が大きい。金利や為替変動リスクに注意。 |
キャッシュ | 10% | 流動性確保と急な支出・投資機会への対応。リスク回避のクッションとして機能。 |
外国債券投資の実践ポイント
外国債券への投資は、高い利回りや分散投資の効果が期待できます。為替や金利の変動など、国内債券にはないリスクも伴います。実際に投資を行う際は、様々なポイントを押さえておくことが重要です。
為替変動リスクの対処法としては、「為替ヘッジ付き」の債券ファンドや外債ETFです。為替ヘッジを利用することで、為替相場の変動による損失を抑えることができます。ただし、ヘッジコストが発生し、最終的な利回りが低くなる点には注意が必要です。また、日本と投資先国との金利差が大きい場合は、ヘッジコストが高くなる傾向もあります。為替ヘッジ付きの商品を選ぶと、円安時の為替差益を得ることができません。そのため、為替の動向を考慮して選択してください。
債券の満期を分散させる「ラダー戦略」も有効です。これは、2年、5年、10年といった異なる満期の債券を組み合わせて保有します。これにより、金利変動の影響を和らげることが可能になると考えます。満期を分散すれば、金利が上昇した際に、短期債の償還資金で高金利の新しい債券に投資できます。逆に金利が低下した場合でも、長期債で高い利回りを維持することができるのです。このように、ラダー戦略はリスク分散と安定した収益確保に役立ちます。
しかし、外国債券の選定は、通貨や国の信用格付け、カントリーリスクなど、検討すべき項目が多いのです。この複雑な要因によって、個人で判断するのが非常に難しくなります。そのため、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)に相談するのも一つの方法になります。IFAは、特定の金融機関に属さない中立的な立場です。資産状況やリスク許容度に合わせた最適なアドバイスをしてくれます。専門家の知見を活用することで、より安定感のある投資判断ができるでしょう。
まとめ:外国債券は「量より質と目的」で選ぶ
富裕層の方が外国債券を選ぶ際には、「量より質と目的」が重要です。その理由は、多くの債券を持ったとしても、資産運用の成功につながらないためです。投資目的やリスク許容度に合った債券を選ぶことで、リスクを抑えつつ安定性も重視できます。
また、外国債券は発行体によって信用力が異なります。信用度の低い債券ほど利回りが高い傾向があるのです。しかし、利回りが高いと、元本割れや利金停止などのリスクも生じやすくなります。利回りの高さや数量で選ぶのではなく、発行体の信用力や債券の条件(利率、残存期間、通貨、償還条件など)をしっかり確認しましょう。自分の資産運用の目的に合った債券を選ぶことが大切です。
外国債券には為替変動リスクが伴うため、為替変動によっては元本が目減りします。このようなリスクを考慮し、通貨の分散や為替ヘッジの有無などの検討も重要でしょう。外国債券は「量」よりも「質」と「目的」を重視して選んでください。リスクを抑えつつ、安定した資産運用が期待できます。投資家の資産運用の目標に合った債券を選びましょう。それが長期的な資産形成のためには欠かせない要素なのです。
ウェルス・パートナーが提供する外国債券ポートフォリオ支援
弊社「ウェルス・パートナー」では、外国債券を活用したインカム確保・通貨分散・相続対策などを支援しています。例えば、米ドル建て社債や劣後債を活用した高利回りポートフォリオです。安定性と収益性のバランスを重視した支援を行います。IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)による定期的な提案も可能です。相続税対策を組み合わせることで、長期的な資産形成ができるようにもなります。
- 米ドル建て社債やサブ債、劣後債を活用した高利回り型の設計
- IFAによる定期的なレビューとポートフォリオのリバランス提案
- 相続・贈与を見据えたタックスプランとの連携提案
ウェルス・パートナーでは、外国債券の無料相談も随時受付中です。是非ご相談ください。

株式会社ウェルス・パートナー
ポートフォリオマネージャー
成蹊大学法学部卒業後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券へ入社。富裕層と会社経営者を中心とした資産運用のコンサルティング業務に従事。 証券会社では金融資産に対しての提案しかできないことに違和感を感じ、金融資産だけでなく実物資産や相続対策を含めた資産全体の最適化提案がしたいと思い株式会社ウェルスパートナーに入社。富裕層、会社経営者の資産配分最適化。 具体的な金融資産の投資実行サポート。 資産管理会社設立から相続対策など税務最適化。 超富裕層のインターネット企業創業メンバーに特化した新規顧客開拓。