目次
はじめに
経営者が不動産投資を行う事例は多く、資産形成や税務対策の観点からも有利な選択肢となります。不動産は安定した収益を生み出すだけでなく、相続対策や節税にも活用できるため、経営者にとって非常に魅力的な投資手段といえるでしょう。
しかし、個人として行う場合と企業として行う場合では、それぞれ異なるメリットや注意点があります。本記事では、経営者の視点から不動産投資のポイントとリスク管理について詳しく解説します。
経営者が不動産投資に取り組む2つの戦略
企業経営者が不動産投資に取り組む方法には、「個人で取り組む方法」と「企業で取り組む方法」の2つがあります。それぞれの方法には、税務・資金調達・運用の観点から異なるメリットと注意点があるため、自身の事業状況や投資目的に応じた最適な選択をするようにします。
個人で取り組む方法
経営者自身が個人名義で収益物件を取得し、賃料収入を得る形です。個人での不動産投資は、資産形成や節税対策として有力な手段となります。
企業で取り組む方法
経営している法人名義で不動産を取得し、企業の資産として管理・運用する方法です。法人での不動産投資は、税制面での優遇や企業の財務戦略の一環としての活用が可能となります。
次の章では、経営者が個人として不動産投資を行うメリットについて解説します。
経営者が個人として不動産投資を行うメリット
経営者が個人として不動産投資を行うことで、多くのメリットを享受できます。不動産は長期的な資産形成に適しており、安定した収益を得ながら税務上のメリットも活用できます。ここでは、主なメリットについて解説します。
安定した副収入を確保できる
企業経営は景気の影響を受けやすく、業績が安定しない時期も存在します。経営者にとって役員報酬以外の安定した収入源は大きなメリットといえます。
不動産投資による賃料収入は、企業の業績に左右されず、定期的なキャッシュフローを確保できます。不動産収入の源泉は、「家賃」という生活に根ざしたものなので、景気動向にもあまり影響を受けません。特に賃貸需要の高いエリアの物件を選べば、空室リスクを抑えつつ、安定した収益を見込めます。
長期にわたって安定したインカムを得るには、一棟RCマンション投資がおすすめです。RC(鉄筋コンクリート)構造の建物は、耐震性・耐火性に優れ、長期的に資産価値を維持しやすいという特徴があります。区分マンション投資などと比べても利回りが高く、空室リスクも抑えられる傾向があるため、経営者の安定した副収入確保に向いているでしょう。
退職後の収益源として活用できる
経営者としての現役を退いた後も、生活費を確保する手段として不動産投資は有効です。収益不動産の運用によって、公的年金にプラスして安定した老後資金を得られます。
所得税・住民税を節税できる
不動産投資は、節税対策として大きなインパクトを得られます。特に、所得が高額な経営者にとっては、大きな節税効果になるため、メリットが大きくなります。
不動産投資が所得税・住民税の節税につながるのは、減価償却という会計上の仕組みによるものです。減価償却とは、固定資産の購入費用を使用可能期間にわたって分割して費用計上する会計処理です。不動産では土地には適用されず、建物にのみ適用されます。
不動産投資では、物件取得時に一括で支払った物件購入費用(建物部分)を法定耐用年数にもとづいて減価償却費として計上します。減価償却費の経費計上は、実際には現金の流出がないため、収益を手元に残しつつ不動産所得を赤字にできます。
不動産所得は給与所得・事業所得などと合算される総合課税となるため、帳簿上の赤字を他の所得と相殺可能です。これにより、課税所得が圧縮され、所得税・住民税の負担を軽減できます。
経営者の場合、給与所得として源泉徴収されていた所得税の一部が、不動産所得の確定申告によって還付されます。
金融機関から融資を受けやすい
不動産投資を行う際には、金融機関からの融資が重要な資金調達手段となります。経営者が融資を受ける際は、本人の所得や保有資産だけでなく、経営する企業の業績も評価されます。
事業の決算内容が良好であれば、金融機関の信用評価が高まり、融資を受けやすくなるでしょう。企業経営の一環として金融機関との取引の実績がある場合、より有利な条件で融資を受けられるケースもあります。
なお、融資審査の際には、取得する物件の担保価値も評価されます。この点でも、法定耐用年数が長い一棟RCマンションは有利といえるでしょう。
相続税対策として活用できる
資産の種類 | 評価率 | 理由 |
現金、預貯金、株式、債券など金融資産 | 100% | 時価がそのまま評価される |
居住用不動産 | 約60~70% | 相続税路線価、固定資産税評価額により評価される |
賃貸不動産 | さらに低い | 賃貸借契約による利用制限があるため、評価額がさらに低くなる |
経営者がある程度の年齢になると、相続(=資産承継)を意識するようになります。不動産投資はその点でも有力な選択肢になります。
不動産投資が相続税対策として有効な一番の理由は、相続税評価額の圧縮にあります。相続財産の計算時、現金や預貯金、株式、債券などの金融資産は時価100%で評価されますが、不動産は「相続税路線価」や「固定資産税評価額」にもとづき評価されます。その結果、時価の6~7割程度に圧縮可能です。
さらに、賃貸不動産は居住用不動産よりも評価額が低くなります。これは、賃貸借契約により所有者の自由な利用が制限されるためです。「借地権割合」や「借家権割合」が考慮されるため、相続税評価額はさらに低く設定されます。
また、融資を利用して不動産を購入すると、ローン残債が「債務控除」の対象となります。相続財産の計算時、遺産総額から債務は差し引かれるため、課税価格が下がり、相続税額を減らせます。
経営者が不動産投資を行う際に気をつけるべきポイント
不動産投資は多くのメリットがある一方で、注意すべきリスクや課題も存在します。特に経営者の場合、本業とのバランスを考えながら慎重に投資を進めなければいけません。
ここでは、経営者が不動産投資を行う際に気をつけるべき主なポイントについて解説します。
事業内容が悪いと融資を受けにくい
経営者が個人として不動産投資を行う場合でも、本業の業績が金融機関の評価に大きく影響します。金融機関は、融資の審査において、経営者個人の信用情報だけでなく、経営している企業の業績や財務状況も考慮します。そのため、業績が不安定な場合は、融資を受けにくくなる可能性があります。
以下のような業種・企業は、金融機関から慎重に判断される可能性があります。
財務体質が不健全
自己資本比率、負債比率、純資産の状態など、バランスシート上の数値が健全であるかがチェックされます。自己資本が確保されておらず、借入金が大きい場合、融資が難しいケースがあります。
赤字決算になっている
営業利益・経常利益が黒字で、安定しているかどうかも重要な評価ポイントです。過去数期にわたって、赤字決算だと融資の審査が通りにくくなります。法人税の節税のために赤字決算にしている企業もありますが、経営者が融資を受ける際には不利に働きます。
空室リスクなどの賃貸経営リスクに注意する
不動産投資には、空室リスクをはじめとする特有のリスクが存在します。空室リスクは入居者が入らず賃料収入が途絶えるリスクです。その他、家賃滞納リスク、価格変動リスク、災害リスク、修繕・老朽化リスク、金利変動リスクなどがあります。
ただし、不動産投資のリスクは事前に予測できるものがほとんどで、その性格を把握しておけばリスクコントロールは可能です。例えば、空室リスク対策としては以下のようなポイントが重要です。
①交通アクセスや生活利便性が高く、安定した賃貸需要が見込める物件を選ぶ
②時代のニーズに合った間取り・仕様を用意する
③客付けに強く、入居者満足度を高める管理ができる管理会社に委託する
また、家賃滞納リスクへの備えとしては、入居者審査を厳格にする、家賃保証会社への加入を条件とするなどの方策があります。
本業の資金調達に影響を与える可能性がある
不動産投資が順調であっても、物件を次々と買い進めてしまうと金融機関の融資枠を使い切ってしまう、または希望する金額を借りられないといった可能性があります。そうすると、本業で資金調達が必要になったときに融資を活用できず、事業投資の機会損失につながってしまいます。
金融機関は、企業や経営者個人の借入総額や返済能力を総合的に判断し、「これ以上の融資を出しても安全かどうか」を評価します。その際、既存の借入額や返済比率、本業のキャッシュフロー、さらには不動産の担保評価などが重要なポイントとなります。
不動産投資に多額のローンを組んでいると、経営している企業への新たな融資が難しくなり、本業の事業拡大に支障をきたすリスクが高まります。
こうしたリスクへの対策としては、融資枠を正確に把握し、不動産投資と本業の資金調達が競合しないよう管理する必要があります。不動産投資が軌道に乗ったと判断できるときは、不動産投資のための法人を設立することも検討しましょう。
経営者が企業として行う不動産投資とは
経営者が不動産投資を行う方法として、個人で投資する以外に、企業として不動産を活用する方法もあります。企業として不動産を所有することで、資産管理や節税の面で有利に働くケースもあります。
ここでは、企業が行う不動産投資の主なポイントについて解説します。
注目される企業不動産戦略(CRE戦略)
企業が不動産を活用する戦略は「CRE(Corporate Real Estate)戦略」と呼ばれます。CRE戦略とは、企業が保有する不動産を単なる資産として保有するのではなく、経営戦略の一環として積極的に活用し、収益の向上や経営の安定化を図る手法です。不動産を適切に運用することで企業の競争力を高め、長期的な成長を支えることができます。
企業にとっての大きなメリットの一つは「資産の有効活用」です。企業が所有する不動産を投資用物件として活用することで、収益化が可能となります。例えば、企業が自社ビルの一部をテナント向けに賃貸すると、賃料収入を得られます。
「コスト削減」の観点からも、CRE戦略は重要な役割を果たします。オフィス賃料は月々の支出の中でも大きなもので、純粋にキャッシュアウトしてしまう経費ですが、自社ビルの所有によってその支出が避けられます。自社ビルの中で使用されていなかったスペースを外部に賃貸すれば、無駄な維持費が節約されるとともに収益が発生し、全体のコスト負担が軽減されます。
資産の多様化とポートフォリオ戦略
CRE戦略によって資産ポートフォリオを多様化すれば、経済変動のリスクを分散できます。不動産は株式や債券と異なり、比較的安定した収益を生む資産であるため、企業の財務戦略の一環として有効です。
本業の収益にプラスして、不動産投資による収益が得られるため、企業価値の向上に寄与するでしょう。また、本業の成績が不調の際には、不動産投資による収益が企業活動を下支えします。
いざというときは、所有する不動産を売却してまとまった資金を調達できるため、資金繰り対策にも極めて有効な手法となります。不動産を組み入れた資産ポートフォリオによって、企業の財務基盤をより強固なものにできるのです。
福利厚生としての社宅活用
企業による不動産投資の一環として社宅があります。企業の社宅所有によって、従業員の福利厚生を充実させ、従業員満足度の向上へとつなげられます。人材確保が重要視される時代において、快適な住環境の提供は企業の競争力を高める要素の一つです。
従業員対策として家賃補助(住宅手当)を出している企業は多いのですが、従業員にとっては給与なので所得税・住民税の課税対象となります。企業が家賃補助をやめ、社宅の提供へと切り替えれば、従業員は同等の待遇を得ながら、節税メリットも享受できます。
企業にとっては、家賃補助をなくして人件費を削減しながら、賃貸不動産を効率的に運用できるのです。
まとめ
経営者にとって不動産投資は、単なる資産形成ではなく、企業経営の安定化や節税対策にもつながる重要な戦略です。個人による不動産投資と企業による不動産投資、それぞれのメリットと注意点を理解し、自身に最適な方法を選択しましょう。
特に、企業による不動産投資は金額も大きなものになるため、企業会計に強い税理士や資産コンサルタントなど専門家と連携し、長期的な視点で投資を進めるようにします。信頼できるチームの編成が、経営者による不動産投資成功の鍵といえるでしょう。

株式会社ウェルス・パートナー
リアルアセットマネージャー
早稲田大学商学部卒業後、大和ハウス工業株式会社へ入社。
富裕層・地主に賃貸住宅での土地活用ソリューション提案に従事。東急リバブル株式会社にて投資用不動産の売買仲介を経験後、株式会社ウェルスパートナーに入社。マネー現代など大手メディアでの記事執筆も行う。