富裕層が海外のプライベートバンクで資産運用しなくなった理由

はじめに

皆さんこんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。

今回は、「富裕層が海外のプライベートバンクで資産運用しなくなった理由」という内容をお届けいたします。

今回は、たまにお伝えさせていただくプライベートバンクについて、つまり富裕層の方々の資産運用を専門にお手伝いしている金融機関のお話になります。

とりわけ、国内に拠点があるプライベートバンクというよりは海外、オフショアなどと言いますが、シンガポールや香港に拠点があって、そこで資産運用するという前提のプライベートバンク、こういったところをイメージした話になります。

昔は、海外のプライベートバンクで運用するというのが流行っておりました。2010年代などはかなりブームで流行っていて、日本の富裕層の方が海外のプライベートバンクに口座を作って資産運用していたということがあるのですが、2010年代後半に入ってからだと思いますが、このような事例はとても減ってきました。

日本の富裕層の方が海外で運用するのではなく、「運用は日本国内でよい」という傾向になってきております。

なぜ、富裕層の方が海外のプライベートバンクで資産運用をしなくなってきたのか。今回はその理由についてお伝えできればと思います。

富裕層が海外のプライベートバンクで資産運用しなくなった4つの理由

富裕層の方が海外のプライベートバンクで資産運用をしなくなってきた理由は4つあります。

口座維持に必要な預かり残高水準が上がり続ける

1つ目は、海外のプライベートバンクの口座を維持させるために必要な預かり残高というのがあるのですが、この水準が上がり続けているという点です。

昔は例えば、米ドルで1ミリオン、日本円で1.5億円くらい残高があったら口座を作れますし、維持できました。

しかし、現在ではどこのプライベートバンクもだいたい3ミリオン、日本円にすると4.5億円くらい必要になっています。

4.5億円というのは、なかなか高いと思います。そして、この水準がまた上がるのではないかと言われており、最低5ミリオン、つまり7.5億円というプライベートバンクが増えています

7.5億円ですから「資産の大半をそこで運用するのですか?」という富裕層の方もいるわけです

このように、どんどん必要な残高水準が上がっているのですが、これはあくまで口座を維持するための預かり残高の水準です。

口座を作ることができる、維持できる最低の水準であり、まともに海外のプライベートバンクのお客様として認識をしてもらって、きちんとした提案をしてもらうという水準はもっと高いわけです。

これがどのぐらいの水準かといえば、明確に公表されてはいないですし、あくまで肌感覚なのですが、だいたい米ドル建てで10ミリオン、円建てだと15億円以上くらいになります。

これくらいの金額を海外のプライベートバンクに預けて運用するということであれば、担当のプライベートバンカーとしても「きちんとしたお客様だ。しっかり提案しよう。」という気持ちになるくらいのイメージです。

この水準が、昔はもっと低かったのです。口座を維持するために必要な残高も、重要なお客様と認識していただく残高も、以前はもっと低かったのです。

私も前職では、クレディ・スイスというプライベートバンクにいましたが、そのプライベートバンクでも日本の円ベースで5億円未満の口座というのは「スモーククライアント」の口座と認識されて、基本的には「5億円未満の預かり残高の口座は閉じる」、つまり「閉鎖してしまいます」「出金してください」という感じでした。

5億円というのは、すごい金額だと思います。5億円を持っていれば、なかなかの富裕層ではないかと思うのですが、プライベートバンクの感覚は違うわけです。日本拠点のスイス系プライベートバンクでも「スモール(クライアントの口座)」と認識していて、口座を閉じなければいけないくらいのテンションでした。

では、なぜ口座の維持の残高水準が上がってきたのかといえば、プライベートバンクの経営を維持して行くためのコストが高くなってきたり、コンプライアンスにお金を回さなければいけなかったり、IT投資をどんどん進めなければいけなかったり、あとはインデックス運用が主流になってきていますので、そのようなところが富裕層に影響してきているわけです。

つまり、「たくさん手数料を払ってもらう」という時代でなくなってきているわけです。

したがって、基本的に経営が厳しくなってきているので、数少ない超富裕層の方に「どんどん手厚いサービスをしていこう」ということで、富裕層の方の中でもトップ5%くらいの方々から大半の利益を稼ぐというビジネスモデルに移行しつつあるというのが口座維持残高の水準などにも現れているわけです。

ただし、このような状況になると、日本の富裕層の方々もなかなかついていけないのです。

数億円で良いのであれば、「海外にプライベートバンクの口座を作って運用しよう」ということになるのですが、まともに相手をしてもらえる水準が5億円や10億円ということであればもうついていけないわけです。

したがって、このような事情が日本の富裕層の方が海外のプライベートバンクで資産運用しなくなった理由の1つだと思います。

口座開設だけで数ヶ月以上かかることが多い

2つ目です。これもかなり大きな理由なのですが、何かを運用するというわけではなく、口座を開設するだけですごく時間がかかるというのがプライベートバンクの最近の傾向です。

私が前職である日本のスイス系プライベートバンクにいたときは、あまり時間がかからなかったのですが、最近ではどんどん時間がかかるようになってきました。

これは、コンプライアンスのチェックなど、いろいろなチェックがあって時間がかかるようになったらしいのですが、口座開設の用紙を出してから3ヶ月間口座ができないとか、結構当たり前のような状況です。

すごく待たされた方だと、ようやく「半年後に開設できました」という方も結構いらっしゃいまして、「運用したい」という気持ちになっても、半年後に口座ができたら運用する気がなくなってしまうのが普通だと思います。

3ヶ月というのは結構長いものです。ましてや6ヶ月待たされた場合、年間の利回りが6%であれば6ヶ月で3%ですから、3%損をしているということです。

これは海外のプライベートバンクも同じで、数ヶ月以上かかるのが当たり前です。ものすごくスムーズに進んでだいたい3ヶ月ぐらいだと思います。

少し時間がかかって、エビデンスを出したり、ということがあると半年以上かかる場合もあるわけです。

「運用するぞ」という気持ちになって、3ヶ月や6ヶ月かかると、やはりトーンも下がると思います。

したがって、口座開設までの時間が圧倒的にかかるということで、これは日本の富裕層の方が萎えてしまいますので、海外のプライベートバンクで資産運用をしなくなった理由の一つだと思います。

特別な金融商品が存在しないことに気づいた

3つ目は、日本の富裕層の方が「特別な金融商品など、どこにも存在しない」ということに気づいたことが挙げられます。

海外のプライベートバンクというから、「何かすごいのだろう」と考えるのですが、実は全然普通だったということです。

基本的には、どこの金融機関もオープンリソースなわけです。したがって日本でも海外でも基本的にアクセスできる金融商品というのはそこまで変わることはありません。

確かに、海外のプライベートバンクの方がユニバースで投資できる資産の対象は広くなるのですが、同じくらいの経済合理性のものは、日本でも充分投資できるような状況になっているので、海外のプライベートバンクだから特別に有利な金融商品が存在していて、そこで資産運用すればうまくいくというわけではないことに、皆様が気付き始めたわけです。

したがって、口座開設に時間がかかるし、5億円や10億円預けてくれと言われるし、それであれば日本で運用しますという感じになってきているのです。

国内金融機関も証券担保ローンの機能充実が著しい

最後の4つ目です。よくお話しさせていただいている証券担保ローン、つまり株や債券を担保にしてお金を借りるという海外のプライベートバンクが得意としている機能があるのですが、「海外のプライベートバンクでしか利用できないのか」といえば、そんなことはありません。

国内の金融機関も、もともとはそのような機能を提供していなかったところが多いのですが、最近では著しく機能が充実してきている、というのが私の印象です。

国内の金融機関でも、充分に証券担保ローンの機能を使い投資効率を有効に上げるということができるようになってきましたので、それであれば「わざわざ海外のプライベートバンクに口座を作って運用しなくてもよいだろう」ということで、「日本で運用しても十分」という状況になってきているわけです。

本日は、「富裕層が海外のプライベートバンクで資産運用をしなくなった理由」というテーマをお届けしました。

今回の内容については「世古口俊介の資産運用アカデミー」でも視聴できます。

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